知らなかったんだ。
彼女がいなくなる事が、
こんなに怖くて不安だなんて…






9〜不安が呼んだ不安〜






 ハルカがフライゴンと共に飛び出してすぐに、メンバーはハルカ捜索へと向かった。
 時間は一刻を争うのだ。そんなに時間をかけている暇はない。
 簡単な話し合いの後、シュウとルリカが共に行動し、サトシとタケシがコンビを組んだ。
 マサトは留守番役を任せられ、メンバーはすぐにエスパーの森へと向かう。



 病院から支給された白い服を脱ぎ捨て、久々に腕を通した黒のハイネックの長袖と紫のジャケット。その姿でシュウはハルカを探していた。
 この格好ならすぐに向こうも気付くと思って。
「まさかこんな事になるなんて……」
 早歩きで森へと足を踏み入れたシュウとルリカ。シュウは独り言のようにポツリと呟いた。
「もう少し僕が早く決断していればすんだ筈なんですけど…僕が弱かった所為で……」
「シュウさん……」
 自分が……自分の事しか考えなかった発言をしてしまったから……彼女は飛び出した。
 それは悔いてもしょうがない。
 悔いて今の現状が変わるわけでもない。
 彼女がいなくなったのは事実。
 そして……それを引き起こしてしまったのは誰でもない自分。
 今更ながら本当にさっきの発言を取り消してしまいたいと強く願う。
「そう落ち込まないで下さい。ハルカさんのことです。きっと大丈夫ですよ」
「それは思ってはいます……でも……」
 シュウの不安も無理はない。
 ハルカが向かったのはエスパーの森。危険で道が変わってしまうエスパーの森。
 その中にハルカは今一人でいる。
「彼女の身に何かあったら僕はどうすればいいんでしょう……」
「大丈夫ですよ……だって、シュウさんのポケモンが付いているんですよ?」
 不意に彼女はそう言った。自分のポケモンが彼女と一緒にいると言うことを。
「僕のポケモンがいるから……大丈夫……?」
「はい」
「どうして?」
 それを聞くとルリカは笑ってこう答えた。
「だって……シュウさんのパートナーたちですから」
「……?」
 自分のパートナーと一緒にいる事が、どうしてハルカの無事を示す証拠になるのか。
「シュウさんがハルカさんを大切に思っていることを、一番知っているのはあのポケモンたちじゃないかと思うんです。だから……『大切な人パートナー』の『大切な人』だから守ってくれますよ」
 彼女は自信に満ちてそう言った。
「でも、そんな理由が無くてもあのポケモンたちはきっと守っていると思います。自分たちをハルカさんが大切に思っていることを知っていますから。だから…早く探しましょう?ハルカさんきっと一人で不安がってる筈です」
 そうだ。こんな所で考え込んでいる暇はない。早く彼女を探さなくては。
「……ですね。考える事や悩む事は後でもできますから。とりあえず今は、ハルカの捜索ですね」
「ええ」
 後ろ向きに考えるのはやめよう。前向きに考えなくては。
 ハルカのようにピンチの状態でも屈せず立ち上がろう。



 考えを前向きにして暫く…探し回っては見るが、ハルカの姿はいまだ見えない。
「でも……何処にいるんでしょう?ルリカさん分りますか?」
 考えてみれば、ルリカはこの森にすんでいるのだ。地理には詳しい筈。
「声に反応して出て来ないとすると……奥かもしれませんね」
「ルリカさんの家より奥ですか?」
「はい。……あ、もしかしたら広場かもしれません。あそこならフライゴンで着陸しやすいですから」
 フライゴンでの着陸は意外に場所を取る。そのことを考えるとある程度の空間がなければならない。
 ルリカの言うとおり、広場に降り立った可能性は十分に考えられる。
「どうやったらいけますか?」
「えーと……確かこの辺りに抜け道があった筈です」
 どう見てもなんら他の風景と変わりない草原をルリカは進む。
 その行動はルリカがこの辺りの地理に詳しいことを物語っていた。
 そしてルリカに続いて道無き道を進むと次第に視界が開けてくる。
 緑から茶色い地面が広がった。そしてそれと同時に、ルリカが躓く。
「あ!」
「あぶない!」
 とっさにシュウの左手はルリカの右腕を掴む。幸い転びはしなかった。
「すいません……躓きました」
「いいえ、怪我が無かったなら何よりです」
 腰を低くして何度も謝るルリカの姿に少々シュウは焦る。別に大したことはしていないのに。
 しかしどうもこの情景見覚えがあるような…
「そう言えば……僕とルリカさんが出会ってすぐの頃、こんな事がありましたよね」
「え?」
 思い出した。ルリカが自分を見つけてくれたときも、こうやって彼女の手を掴んだ覚えがある。
「あ、ありましたね」
「ですよね。確か崖から落ちそうになりかけて慌てて手を掴んだ覚えがありますから」
「……覚えてるんですか?」
 ルリカは顔に両手をやり驚く。
「ええ。あまりに強い驚きだったもので。でも、本当に大丈夫ですか?」
「はい。さぁ、とりあえずその事は置いて置いて、この道を真っ直ぐにいけば広場が……?」
「どうかしましたか?」
 ルリカが広場の方を指差して動きが止まる。
 その先には何か動くものが見えた。
「あれって……ハルカさんじゃないですか?!」
「え?」
 よく目をこすって遠方を見てみる。
 赤いバンダナが歩くたびに動いていた。確かにあれはハルカだ。それは近づいてくるたびに確信へと変わる。
「やっぱり、広場の方にいらしたんですよ!……でも、あの方は何方なんでしょう?」
 ルリカの言葉どおり、ハルカの脇にもう一人……人の姿が見える。
 それはサトシや、タケシではない。ましてやマサトでもない。
 シュウには見覚えが無い人物。
「誰……なんでしょう?」
 少しずつ歩いてくる彼女とその人物。
 その距離はどんどんと縮まり、会話が出来るほどの距離になった。
「ハルカ……」
「シュウ……」
 お互いで名前を呼び合う。
 シュウの方は安堵の表情だが…何故かハルカの顔は浮かない。
 そして、そのもう一人の人物がシュウの名前を呼んだ。
「お久しぶりね。シュウ君……」
「どちら……様ですか?」
「あらやだ。本当に忘れちゃったのね。私のことも……じゃぁ、改めて自己紹介するわ」
 その人物が喋るたび、ハルカの表情はどんどんと曇っていく。どうしてだろう?
 それを知ってか知らずか……名も知らぬその人間は不適に笑って名前を名乗った。
「私はハーリー……ポケモンコーディネーターよ」





どうしてだろう?
ハルカが見つかってホッとした筈なのに…
彼と一緒にいると分った途端、また不安が襲った。
彼は一体……僕にとってのなんなのですか?











作者より
いよいよ来たよ。噂で期待の星兼クールビューティー登場です(笑)
2006.9 竹中歩


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