ハルカと一緒に歩いていた人物は、二人にとって縁のある人。
 ノクタス使いのハーリー。
 本来ならシュウも彼の事を知っているはずだが、今のシュウには記憶がない。
 だから誰だかわからなくて当然だった。
「……えっと……もしかして、僕のことをご存知なんですか? さっき久しぶりと言っていましたけど……」
 何故かハーリーに対して嫌な感じを覚えつつもシュウはことを冷静に判断する。
「ご存知も何も…コンテストで何回も一緒になっているからね。ハルカちゃんと共に」
「そうなんですか……だったらすいません。僕は今…過去の事が思い出せなくて……あなたの事も……」
「それはハルカちゃんから聞いたわ。此処までくる道中にね。でも、何故シュウ君が此処に? ハルカの話だとポケモンセンターにいるはずじゃ……! そっか。飛び出したハルカが心配になって探しに来たのね! 偉いわ! そうと決まれば早く戻らなくちゃ! きっと他のメンバーも心配してる筈だから!」
 そう言うと、ハーリーは強引にシュウとハルカの手を掴み、さくさくと進んでいく。そしてそれを慌てて追いかけていく、ルリカ。
 天使の顔をして、小悪魔の様な性格は隠して何かを考えているようなハーリーの後姿を見ながら……






10〜彼の知らない記憶の対価〜







「あんたさ、人が話してるのにどんどん暗くなるのやめてくれない? あたしが泣かしたと思われるでしょ」
「だって、なんか余計な事シュウに吹き込むんじゃないかと思って」
「ああ…そんなことも今は出来るのね。でも、しないわよ。記憶取り戻した時に恨まれちゃ意味が無いもの。それにあんな状態じゃ言えないし。本当に、忘れてるのね」
「嘘だと思ってたんですか?!」
「そこまで言ってないでしょ! ただ半信半疑だっただけよ」
「結局は疑ってたんじゃない……」
 ポケモンセンター備え付けのレストランで対面同士に座るハーリーとハルカ。
 ハルカとシュウが合流して歩くことまもなく、四人はポケモンセンターへと戻ってきた。
 ハルカはマサトからお説教を貰う予定だったが、ハーリーという思わぬ人物の合流により、それもお流れに。
 そして、ハーリーがお腹がすいたと言い出し、何故か連行されたハルカ。それが今の状態にいたる。
「全部忘れてるんでしょ? ……て聞くまでもないか。あたしのこと本当にわからない顔してたもんね。何時からだっけ? ここにいるの?」
「約二週間以上は経ってます」
「二週間? 運がよければコンテスト二回出れてるわよ? シュウ君はともかくとしてなんであんたまで…」
「今はコンテストより、シュウの方が大事ですから……」
「ふーん……」
 面白くなさそうにコップに入った水を口元へと運ぶハーリー。
「それで? あの子の記憶を取り戻す術が、あたしが今日ゲットしたケーシィちゃんにかかっていると?」
「そうなんです! 道の途中で説明しましたけど……ハーリーさんのゲットしたケーシィが持っている思い出小玉。あれがシュウの記憶の物だったら……戻るんです! だから……お願い!」
 泣きそうな目でハーリーを見つめるハルカ。
 幾度となく、ハルカを叩きのめそうとしたハーリーなら好みそうな顔。苦痛と悲しさで満ちた泣き面。
 でも……ハーリーはこれっぽっちも嬉しそうではなかった。
 だって、その表情を与えているのはハーリーではなくシュウ。
 ハルカを泣かしていいのは自分だけと言うハーリーの掟に反している。だから嬉しい筈なんてない。
「どうしても欲しい?」
「もちろんです! シュウの物だったらやっぱり取り戻したい! シュウの記憶を……」
「でも、それをあのこが望んでなくて、それにあんたが切れて飛び出したんでしょ? 本人嫌がってるのに……」
「わかってます! でも……このままだとロゼリアたちが……あの子達の思い出までもなくなってしまうから」
 ハルカはまだ知らない。シュウが記憶を取り戻す事を胸に決めた事を。
「だから…お願いです! 何でもしますから……」
 どうしてこの子は自分のことでなくて泣けるのだろう?
 理由は簡単。ハルカが純粋で熱血だから。だからむかつくんだ。
 ハーリーは後味の悪さを感じながらも話を前に進める。
「なんでも……ね」
 その言葉にハーリーは不適に笑う。



「じゃぁ……今後一切コンテストに関わらないで」



 その言葉にハルカは言葉を失い、一瞬にして涙さえも止まってしまう。
「……え?」
 ハーリーは笑いながらどんどんハルカを陥れる単語を生み出していく。
「聞こえなかったの? コンテストに関わらないでって言ってるの。参加も駄目、会場に行くのも駄目。コンテストと言う言葉が関わる物すべてにおいて触れないで。それがシュウ君に思い出小玉を差し出す条件。どう? 飲める?」
 ハルカの表情は曇る一方。
「さぁ、どうするの?」
「………す」
「は?」
「それで……戻るんだったら……やります」
 その言葉にハーリーは叫んだ。
「ばっかじゃない?!」
「……え?」
 どうして怒られるのか……叫ばれているのかわからなかった。
「あんた、コンテストが好きで、此処まで来たんでしょう? やりたいから、私に罵られてもやってこられたんでしょ! それを全部否定するわけ?」
「だって、ハーリーさんが……」
「おだまり!!」
 ぴしゃっと一言で黙らせる。もうこうなっては誰も止められない。
「第一、コンテストに出ないってことは、あんたのポケモンたちにも出るなってことなのよ? そのポケモンたちの嬉しさまで奪う気? それこそ、あんたがシュウ君にして欲しくない事となんら変わりないわよ?」
 それは衝撃の一言。
 自分の事しか考えなかったシュウを責めた自分。ロゼリアたちの記憶まで奪おうとした彼が許せなかった。
 でも、自分だってそう。ポケモンコンテストと言う楽しみをポケモンたちから奪おうとしている。
 確かになんら変わりない。
「今、思ったでしょ? なんて酷い事をしようとしたんだって」
「うん……」
「コンテストはあんた一人の問題じゃない。それを今のすぐで、簡単にするとか言いきちゃって……あたしでなくても怒るわよ! ポケモンたちに何の相談もせずに決めちゃうばかがどこにいるの!」
「でも……だとしたらシュウの記憶は……」
 そうだ。此処の条件を飲まなければハーリーは思い出小玉を渡してはくれない。シュウの記憶は戻らない。一体どうすれば…
「安心しなさい。さっきのは冗談よ。あんたがどこまで本気でシュウ君のこと心配してるか知りたかっただけよ」
「な! それって酷いかも!」
 机をたたいて立ち上がるハルカ。
「あら? でも無償で協力してあげるっていってんのよ? これくらいからかわせなさいっての」
「無償で協力って言っても……え? 無償?」
「そうよ。私はケーシィちゃんさえ手に入ればいいんだもの。要らない物は要らないわ。それに人の思い出なんて思ってる状態でコンテストにでも出て見なさい。人の記憶を返さないだなんて何たる事だとか言われて、マイナスになっちゃうわよ」
「じゃぁ……シュウに渡してくれるんですか?」
「もう! しつこいわね! なんならのしつけてでもやるわよ!」
「ハーリーさん……」
「な、なによ?」
 無言で俯いたハルカに君の悪さを覚えるハーリー。何かされるのか?そう思った瞬間、
「ありがとーかも!」
 キラキラさせた瞳でハーリーの手を掴むハルカ。
 こう言うところが騙されやすいとなんで毎回復習しないのだろうか?
「や、やめてよ! 気持ち悪いじゃない!」
「よかった…これでシュウの記憶が戻るかもしれない……」
「あいつの記憶だったらの話だけどね」
「それは試してみなくちゃわからないかも! 私、もう一度シュウを説得してみます!」
 やる気を取り戻したハルカは小さくガッツポーズを作った後、物凄い速さでハーリーの前から姿を消した。
「全く、あのシュウって子はどれだけ思われてるんだか。……本当はコンテストン方を取った事をあいつが記憶を取り戻して言ってやろうと思ったのに……まぁ、一応無償とは言ったけど、シュウ君には無償じゃないわよ。あとで取り戻させてもらうんだから。でも……それよりも」
 ハーリーはふと思い出す。ルリカその存在を。
 シュウを発見した人物と聞く。そしてその家はハルカと再会したちょっと手前のログハウス。
 それ自体はなんら不思議はない。ただ気になるのは…彼女の顔。
 ハルカには聞いていたが、本当に似ていると思った。
 ハーリーにはハルカそっくりの幼馴染がいる。でも、それにも引けを取らないくらい、彼女はそっくり。
 そんなに良くある顔なのだろうか?
 そして、何故だかわからないが異様に避けられている…そんな感じ。彼女に対しては何にも悪い事はしていない上に、本性だって出してない。
 なのに何故?気になる事ばかりだ。
「まさかドッペルゲンガーってやつ? ハーリーたら実はピンチ?! いヤーン!」
 それは冗談として、シュウの記憶が取り戻される日は確実に迫っている。
 しかしそれと同時に、もう一つの影も迫っていた……。











作者より
今回は彼は悪い人ではなさそうです。でも、彼だから何が起きるのか分りません(笑)
2006.10 竹中歩


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