気が付くと空にいた自分。
思い出小玉を探すなんてマサトに言い切ったけど…
実際は違うかもしれない。
私は現実から逃避したかっただけかもしれない。
どっちにしろ…私一人の勝手な行動だった。





8〜打ち明けられなかった寂しさ〜





「やっちゃった…」
 エスパーの森のどの辺りかはわからない。でも一応森が開けた場所へとフライゴンとともに不時着する。
 やってはいけないと思っていたのにやってしまった。ポケモンを連れてエスパーの森にくるという危険行為を。ハルカはそれを悔やみ、フライゴンからおりて頭を抱える。
「もう…何が起きるかわからないから、シュウを探すときだってポケモンたち置いていったのに…連れてきてどうするのよ、私…」
 後悔先に立たずとはまさしくこのこと。
「本当ごめんね…フライゴン」
 フライゴンの首を優しく撫でてやる。気持ち良いのか、目を細めて笑っている様な気がした。本当…申し訳がない。此処まで付き合ってくれたこの子に。
「行き成り飛び乗って…飛んでくれなんて…迷惑極まりないかも。それに…」
 ふと腰元へと目をやる。腰には自分のポケモンが入ったモンスターボールと…ポーチの中にはシュウのポケモンの入ったモンスターボール。ハルカはフライゴンだけではなく、全てを連れてきた。
「私の…我侭だよね。皆を連れてきたのって…。でもさ…」
 どうしてもシュウが許せなかった。ポケモンの思い出をも忘れようとしたシュウを。昔のことは思い出さなくていいと言い切った彼を。それで…彼のポケモンを持ち去ってしまった。それがポケモンたちと為だと思ったから。しかし、今思ってみるとそれは自分一人の見解に過ぎない。当のポケモンたちはやはり彼の元のほうが良いのだろうか?過去の事をなかったとする彼のほうが…
「ねぇ…フライゴンたちはやっぱり忘れられてもシュウの元のほうが良い?それとも…私と一緒に旅をしたい?」
 分りきった質問を問い掛けてみる。フライゴンだけてなく、ポーチから取り出したボールに入ったポケモンたちにも。きっとシュウの元のほうが良いはず。だが、その表情は…困惑に満ちていた。
「…複雑…なんだね」
 一番ポケモンたちが望んでいるのは、記憶の戻った彼の姿。しかし、今ハルカが聞いている選択は少なくとも今のシュウより自分たちのことを思ってくれているハルカと、自分たちをまだ受け入れられず、更には記憶を無くしたシュウ。ポケモンたちにとっては究極の選択だろう。
「あのね…私がロゼリアたちを持ち出したのは…シュウが過去の記憶より、今の記憶を優先させたから。それって、貴方たちとの思い出を忘れるってことになるから…それで腹が立って私は貴方たちを引き取るって言ったの。でもね…少しだけ私の我侭も入ってた」
 小さなボールからポケモンたちはハルカに目線を送る。それが真剣な話だとわかっていたから。
「私の事も忘れられるのかと思ったら…悲しかったんだ…」
 彼女からほろりと出た本音。きっとそれはシュウが記憶を失ってからずっと…ハルカの中にあった不安。でも、ハルカはそれを一度も零すことなく、シュウに尽していた。きっと記憶が元に戻ると信じて。でも…記憶を元に戻すことを拒絶したシュウ発言に…ハルカの不安は恐怖へと…悲しみへと変化した。それはポケモンたちにも痛いほど伝わる。
「酷いよね。貴方たちの事を建前に使うなんて。でも…最初にやっぱり思い出して欲しいのは…貴方達の事なの。シュウが…シュウである為に必要なのはどんな時でも貴方たち。私のことは二の次で良いから…だから…貴方たちのことは絶対に思い出して欲しいの!…コレを思っているのって私だけなのかな?」
 飛び出してしまって思った。自分が飛び出したあと、あの場はどんな風になったのだろうと。
 もしかしたら…シュウが記憶を取り戻さなくても良いと言う結論に至ってしまったかもしれない。よく聞かなかったけどシュウが記憶を元に戻したくないのには理由があって…その理由に皆は賛同してしまったかもしれない。自分は勝手にシュウが記憶を元に戻したがらないのは、ポケモン触れたくないからと思ってしまったけど…実際はどうなのか?
 不安と謎と困惑が重なり、ハルカは自分を見失いかけていた。
 すると、ポンという独特の音が数回。そしてそれと同時にシュウのポケモンたちが全てハルカの前に姿をあらわす。
「え…ロゼリアたちって自由に出られるの…?」
 その問いにロゼリアは頷く。
 驚く光景だった。ハルカのエネコも時々外に出るクセはあるものの…まさかそれと似たようなことをロゼリア達が出来るなんて。
「ごめんね…本当にごめんね…こんな危ないところまで連れて来ちゃって。その上飛び出したのは私の我侭も入ってて…本当に…ごめん」
 ハルカの目から涙が一つずつこぼれて行く。それを見ていたポケモンたち全員がハルカに寄り添い『大丈夫』と言うように頬ずりや、頭に止まったり、思い思い慰めてくれた。
 その心遣いが嬉しくて…涙は止まらなかった。彼のポケモンは此処まで自分を心配してくれている。だとしたら…
「逃げちゃいけないよね」
 止まらない涙を乱暴に引き取り、顔をあげる。そこには決意を決めたハルカの顔があった。
「思い出小玉を探すつもりで来たけど…本当は…信じたくなくて…嘘だと信じたくて飛び出した。でも…きっとシュウにも理由があったんだと思う。だけど私は怖くてそれを聞かずに飛び出した。逃げてきちゃった事には変わりない。だから思うの…ちゃんと話を聞きたいって。自分勝手な思い込みで動きたくないから」
 今冷静になって漸く分った。逃げても何の解決にはならない事を。飛び出しても彼の心を分らない事を。だったら戻って話し合うしかない。それが最善の方法だと今気が付いた。
「だからね…その話し合いのとき…モンスターボールの中でも良いから私と一緒にいてくれる?…また怖くなって逃げちゃうといけないから…一緒にシュウの意見聞いてくれるかな?」
 不安そうな彼女の表情を見つめたポケモンたちは…ゆっくりと頷いた。彼の真意を聞きたいのはハルカだけでなく、ポケモンたちも一緒。彼の…今の気持ちを知りたい。
「じゃ…もどろっか」
 話しこんで忘れていたが、此処は危険なエスパーの森。退散するに越した事はない。
 そう思い、ハルカがロゼリアをモンスタボールに戻そうとした時、一瞬で顔を強張らせた。そして一点の方向を示し、大声で叫ぶ。驚いたハルカはその方向に目をやる。そこに居たのは…
「…ケーシィ?」
 普通のケーシィよりは少し小さいようなケーシィ。まだ子どもなのだろうか?林から飛び出してきた。そしてその小脇には…
「思い出小玉?!」
 虹色に輝くガラスの球体状のものを所持している。間違いない、あれこそ思い出小玉を持ったケーシィだ!
「えっと…ゲットするの?それとも説明してついてきてもらうの?どうすれば良いの?!」
 ちゃんと何をするか決めていたなかったハルカはパニックに陥る。それを落ち着かせるロゼリア。そして近づいてくるケーシィ。
「あーもう!こうなったら説明しながら捕まえ…」
 わからなくなったら両方を!そう決断した時、林の中から剛速球で飛んできたボール。それはケーシィにぶつかると、赤い光を出してケーシィをボールの中へと飲み込んだ。少し左右にゆれて…動きが止まるとブンと言う音を立てて確実に動かなくなった。それはゲット完了と言う事を示した赤と白のモンスターボール。ケーシィは今目の前で…ゲットされた。
「ゲットされちゃった……」
 目の前にいたケーシィが持っていた思い出小玉がシュウのもと言う確信はない。だけど…シュウのである可能性は極めて高い。だとしたらどうしても…確認したい。
「ゲット完了!」




声だけ聞こえた。ゲットをした嬉しそうな声を。
一体…誰がゲットしたんだろう?










作者より
やっぱり忘れられたら寂しいよね。心の中はいつも複雑。そして新キャラの予感。
2006.8 竹中歩

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