6〜記憶隠し〜 「ケーシィってあのケーシィですか?サイコキネシスとかの…」 「そう。あのケーシィだよ。」 サトシはもう一度問い掛けた。だが、どうあっても結果は一緒。 シュウの記憶を元に戻す方法はケーシィにかかっていると言う。 「どうして…なんでまたケーシィ?」 ハルカも困惑している。無理もない。こんな事を言われた人間の略百パーセントは同じように悩むだろう。 「とりあえず、シュウ君の記憶がどうしてなくなったか…これが記憶を元に戻す鍵なんだ。シュウ君は記憶を無くす直前、なにがあったのかも覚えてないと言ったね。」 「はい…気付いたらルリカさんのところに居ましたから…」 シュウの記憶があるのはルリカの家から。それまでの記憶は皆無に等しい。 「多分…彼はエスパーの森でポケモンの一種の技『記憶隠し』にあったようだ。」 「記憶隠し…?ですか?」 そこの言葉には、ポケモンのことに今は詳しくないシュウはおろか、ハルカやマサト、サトシにタケシそしてルリカまでもが眉を八の字にさせる。そんなもの聞いたことがない。 「それなに?」 皆が言いたかった言葉を喋ったのはマサト。やはり全員気になるのは当然だ。 「エスパー系のポケモンがサイコキネシスなんかをかけて、相手を混乱にさせると言うのはみんな知っているね?」 「はい。私達はわかるけど…シュウはわかる?」 「何となく…。」 「そうか。それであの森には混乱に導くと言う技を持っているポケモンが数多く居る。もちろんケーシィもだ。そして多分その何匹も居るケーシィの中にこの技を使えた奴がいたんだと思う。人間の記憶を取り除くと言う技を。世界でも本当に極小数しか確認されていないケーシィの技。ポケモンで言う混乱を人間にかけたようなものだね。混乱はパートナーなんかの聞こえなかったり、攻撃する技や相手を忘れる物に近いから。」 医師は淡々と説明していくがそれだけでその場に居る人間には十分だった。 シュウは頭を打って記憶を無くしたわけじゃない。まして、病気でもない。 彼は…記憶をケーシィに持っていかれたんだ。 「じゃぁ…僕の記憶は…」 「そのケーシィが『思い出小玉』と言う球体にして持っているはずだよ。つまりシュウ君の記憶を元に戻すには…」 「そのケーシィを見つければ良いわけですね!」 ハルカが握りこぶし片手に意気揚揚と立ち上がる。先ほど泣き崩れていたのがまるで嘘のようだ。 そう、今突破口が開けた。 「早く言えばそういう事だね。サッカーボールよりひとまわりかふたまわりほど小さい虹色に輝くガラスの球体を持っているのがそのケーシィだよ。見れば一目瞭然だね。」 「必ず持ってるんですか?」 そうだ。タケシの言うようにいつも持っているのだろうか? 「必ず持ってるよ。思い出小玉は小玉にした瞬間からケーシィの体の一部になる。フーディンのスプーンのようなものさ。」 「じゃぁ…見つけ出してここに連れて来られたらシュウさんの記憶は…」 「彼の記憶は百パーセントもとに戻る。」 医師は自信満々に言った。これであのシュウに戻る。あの嫌みったらしいけど本当優しいシュウに。 「それじゃぁ…明日からはその思い出小玉を持ったケーシィ探しかも!」 「だな。やるぞタケシ、マサト!」 「ああ!」 「しょうがないけど、シュウの記憶がないってことでお姉ちゃんに被害が及んでるから手伝うよ。」 「マサトは素直じゃないな。」 「タケシみたいにジュンサーさんやジョーイさんに素直すぎるのもどうかと思うよ?」 やることが決まった。解決の糸口が見つかった。そうすればほらいつものテンションが戻ってくる。おかげで病室は笑顔に包まれた。 「くれぐれもテレポートされないようにね?次何処に出るか解らないから。それと思い出小玉は落としても割れないけれど、扱いは十分に注意してほしい。」 「解りました!…と、今回シュウは病院で留守番だね。ポケモンに会わなくちゃいけないし…」 「残念ながら君たちに頼るざる終えない…本当にごめん。」 結局何も出来ない自分が悔しかった。何処まで迷惑を掛ければ気がすむのか…やるせなさが込み上げる。 「いいのよ。今かりを作っておけば後々何かの役に立つかもれないから。だから気にしなくていいかも!」 お得意の笑顔でシュウを安心させる。やはりライバルはライバルでも最強の戦友。困っている時に助けるのが当然。そう言う関係が二人からは見て取れた。 「そうだね。今回は彼女たちに任せよう。君は…ポケモンになれる事をすればいいさ。少しずつね。」 「シュウさん、皆さんの言うとおりです。私もお手伝いしますから。それにこういう時は…ごめんじゃなくて…」 「ありがとう…ですね。確か前にも同じこと言われた気がします。」 「はい。…その通りですよ。」 「絶対に見つけて見せるかも!」 このあと一致団結の大声が病院に響き渡ったと言う。 そして次の日… 「それじゃ…行ってきます!」 久々に旅同様の準備でハルカ達はエスパーの森へと足を進める。と、その時、見送りに来ていたが朝から顔色の悪かったシュウの声。 「あの…」 「何?もしかして心配?大丈夫!絶対に捕まえて帰ってくるから!」 「そうじゃなくて…」 「じゃぁ何?」 「…記憶が元に戻らなくて良いって言ったら…怒りますか…?」 生まれるはずがないと思い切っていた言葉。 それが今此の世に生まれた。 どうして…彼はこんな事を言ったのですか? 作者より 一つの謎が解けたら今度は問題発生。なんじゃこりゃ。 2006.6 竹中歩 ←BACK NEXT→ |