「今日も収穫なしかぁ……」 疲れた声をあげながらマサトは机に突っ伏した。 シュウが記憶を無くしてからサトシ、マサト、タケシのジャリガキボーイズは記憶を元に戻す手がかりを探していた。 まず、手始めにシュウが如何して記憶を無くしたのかを調べ始めたのだが、シュウが発見されたのは普段人が入らないエスパーの森深く。ルリカ以外にシュウを見た人はいなかった。見たといわれてもそれはシュウが記憶を無くす前の姿。そんな状況でシュウが記憶を無くした瞬間を見たことある人間なんているはずもなく、捜査は序盤から行き詰まっていた。 「記憶を無くした状況が分らなくちゃ戻しようがないもんな…」 「どこかに頭でもぶつけたと思ってたんだが…ジョーイさんの話だと外傷は無かったらしいし。」 マサトだけでなくサトシまでもが机に項垂れ、タケシは腕を組んでしかめっ面。打開策は無い物だろうか? そんな三人が集うロビーのテーブルにハルカが訪れる。 「ねぇ、なんかねお医者さんが皆に話があるって呼んでるんだけど…」 医者が呼んでる?シュウの事には間違いないだろう。でも今更なにがあって? メンバーは謎を抱えつつ診断室へと足を運んだ。 5〜原因追求〜 「失礼します。」 「ああ来たね。」 ハルカが扉を開けると既にルリカとシュウは部屋の中にいた。その脇に20代後半と思しきシュウの担当医が座っている。 「そこの椅子に腰掛けるといい。」 「はい。」 パイプ椅子が丁度人数分置かれていたので、それに適当に腰をかける。 「それで…話と言うのは?僕だけじゃなくてハルカたちも呼ばれたってことはそれなりの意味があるんでしょう?」 「そうだね。記憶を取り戻そうと協力しくれている彼らにも関係があることだよ。」 その言葉に全員が息を飲んだ。そしてそれを確認したあと医師はわざと間をあける。恰もこれから話す言葉が重要だと言い聞かせるように… 「率直に言おう。彼…シュウ君の記憶はこのままだと戻らない可能性のほうが高い。」 記憶ハコノママダト戻ラナイ可能性ノホウガ高イ シュウだけではなく皆の頭に繰り返し読み込まれた言葉。 戻らない?そう言った? 「どういう事ですか?」 一番信じられないような表情をしているシュウが喋る。 「残念ながら僕たちの力ではどうにも出来ないんだ。だからこのままだと無常にも時間だけが過ぎていく。」 「つまり…戻る見込みが無い…そういう事をおっしゃってるんですね。」 「ああ。」 残酷な宣告だった。本人を目の前にしての告白。これが空気を重くさせないわけが無い。 シュウの記憶がなくなったことを知ったときのような暗い雰囲気に包まれる。 「それじゃ…それじゃ、もうあの時のシュウには戻らないの?私に嫌味ばっかり言ってたり、ポケモンが大好きだった頃のシュウには…戻らないの?!」 涙目でハルカが訴える。もしかしたら記憶が戻らないと聞いて一番酷な状況にいるのはハルカかもしれない。 彼を一番知っている人物だからこそ…その宣告が…辛かった。あの時の事が思い出としても、過去としてもシュウの中には存在しない。完全なる消去なのだ。 「嫌だよ…そんなの。」 「ハルカさん…」 椅子に座った状態で肩を震わせるハルカの背中にそっと手をやり宥めようとするルリカ。しかし、そのルリカですら少しながらも肩が震えていた。それだけ…皆、シュウの記憶が戻らない事にショックを受けている。出会って間もないルリカでさえも悲痛な気持ちにさせているくらいなのだから。 「どうにか…出来なんですか?本当にオレたちには何も出来ないんですか?」 サトシの願いがシュウの胸に突き刺さる。ここまで真剣に自分の為につくしてくれているのに…自分ではどうにも出来ない。そのもどかしさが自分を苦しめる。 「僕も…お願いします。どんな事でも耐えますから…お願いです。」 椅子から立ち上がりシュウが頭を下げる。周りが動いてくれているのに真ん中が動かなくてどうする。 その行動に医師も驚いたのか慌てた様子。そして、 「そんなに風に考えないでくれ。参ったな…」 申し訳なさそうに頭をかく。 「皆何か勘違いしているよ。」 「はい?」 頭を上げたシュウが間の抜けた返事を返す。勘違い?どういう事? 「僕は言ったはずだよ。『たちの力ではどうにも出来ないんだ』つまり僕たちの力だけじゃな無理なんだ。」 「あの意味が…」 「あー…ごめんね。僕は人に話すがよく下手だといわれるんだ。簡単に言うと、他の協力があればもとに戻る可能性がある。」 その言葉に全員が食らいつく。 「戻る可能性があるんですか?!」 椅子が大きな音を立てて後方に倒れた。そこまで勢いよく立ち上がったのはハルカ。 「お、落ち着いて。可能性はあるよ。しかもその協力をえれば90%の可能性で元にもどる。」 その場にいた少年少女に笑顔がもどる。その光景を見た医師はまるで花が一斉に開花したようだと後に語っていた。 「それで…協力と言うのは?」 「あー…それじゃまずシュウ君がどうして記憶を無くしたかを説明しよう。」 「え?!それ分ったんですか?オレたちずっと探してたけど手がかりなんて…。」 「サトシ君の言う通りこれは探しても見つからないんだ。目には見えないからね。」 「目に見えない…手がかり?」 マサトが首をかしげる。 「シュウ君の脳波…脳が出す波。脳の検査とかに使う折れ線グラフのあれね。それに少し不思議な脳波が出ていたんだ。」 無言で医師の説明に聞き入るメンバー。 「それでその脳波を調べてみたらある結果に行き着いた。…過去にも同じ結果を持った患者が世の中に数人存在した事が。」 「僕と同じ脳波が…」 「それでその人たちって言うのは…やっぱり記憶が無かったのですか?」 胸の前で手を組んだルリカが問うように医師の顔を見つめる。 「ルリカちゃんの言うとおり。その人たちは皆記憶喪失の患者さんたち。そして、その協力を得られた人たちは皆記憶が戻ってる。」 「つまりシュウもその協力が得られたら元には戻る。だけど得られなかった場合は…戻らない。だから90%の確立なんですね。」 「そう。タケシ君が言ったようにさっきの確立はその人たちが協力を得られた統計からとった物なんだ。そしてまた面白い事に…皆同じ原因で記憶を無くしている。」 「え?皆が同じ原因なんですか?」 「サトシ君が驚くのもしょうがないね。さっき言ったシュウ君の不思議な脳波は皆原因が同じだから現れるんだよ。」 「それで…僕の…その過去のデータから出た記憶を無くした原因て言うのは…」 シュウの言葉のあと皆が固唾を飲んで見守った。そして軽く咳払いした医師から告げられた言葉は、 「…ケーシィ。」 「………」 その間の抜けた回答に全員が固まったのは言うまでもない。 シュウの記憶喪失。 そしてケーシィ。 この二つの関係は? 作者より 何処で間違えた。最後の方お笑いテイスト。でもこのまま続行します(笑) 2006.5 竹中歩 ←BACK NEXT→ |