「ちょっと…シュウ?」 「シュウさん?」 「いやだぁぁぁぁぁぁ!」 見た事のないような行動をするシュウにハルカは呆然と立ち尽くす。 これがあのシュウなのでしょうか? 3〜自分の為、皆の為〜 「落ち着いてシュウ君!」 「お願い…です…その子達を…」 荒い呼吸、額には冷や汗、大げさすぎる動き。それはどう見ても演技なんかじゃない。シュウは本当に怖がっているのだ。目の前の…自分のポケモンたちに。 ジョーイが宥めようと駆け寄るが、その腕を掴んで力いっぱいに悲痛な悲鳴をあげる。視界にポケモンたちが居る限りは治まりそうにもない。やむなくハルカはロゼリアたちを廊下へと出す。 「私、ロゼリアたちを散歩に連れて行ってくるから…皆お願いね。」 「ああ。」 サトシが任せろと腕を上げる。 そして姿が消えたかと思うとシュウの呼吸は正常へと戻り、額の汗もひいていく。 「はぁ…はぁ……」 よほど苦しかったのだろう。惜しむかのように空気を吸い込む。こんな風に取り乱すなんてやはりシュウじゃない。それ以前に、 「自分のポケモンで脅えるなんて…」 そっちの方がサトシ達には驚きだった。いつも自分の事よりポケモンたちを大切にしていたシュウが、ポケモンたちをあそこまで毛嫌いするなんて…驚く意外に如何することとも出来ない。 「…落ちついたかしら?」 「何とか……まだちょっと苦しいですけど。」 「そう…じゃぁ、着替えを持ってくるわね。汗びっしょりだから。」 そう言うとジョーイは席をはずす。そして取り残される4人。 「………あのさ、」 暫く無言になったあと、サトシが言いにくそうに口を動かすと、 「『ポケモンたちが怖いのか?』でしょう?」 苦笑をしてベットからサトシを見る。 「…ああ。お前…ポケモンあんなに大事にしてたのに…」 「前のことは分りません。だけど今…凄く恐怖に満たされました。」 俯いて左の腕を右の手で握り締める。よほど怖かったのだろう。 「でも、此処に来るまでもポケモンに会ったよ?」 そう。此処に来るまでずっとポケモンを見なかったわけではない。視界にはちらほら映っていたはずなのに。 「至近距離が駄目みたいです。…あの子達が近づいて来たらそれと比例してどんどん恐怖心が増したので…多分。」 そう言えばロゼリアがシュウの袂に近づくのと同時に悲鳴を出した気がする。 「考えてみれば此処に来るまで至近距離にポケモンは居なかった気がするな…。」 タケシの言うとおりだった。シュウを探す時もエスパー系のポケモンに注意してポケモンはボールから出していなかったし、いつも外に居るピカチュウも大事をとってジュンサーさんに預けていたくらいだ。 「こりゃ、思った以上に厄介かもな。この記憶喪失。」 「すいません…こんなことに体がなっていたなんて思わなくて。記憶だけじゃなくてこんな恐怖症まで出るなんて。」 「あっと…悪い。今のは聞かなかった事にしてくれ。」 サトシが謝るがやはりその表情は暗かった。 「でも…如何するの?ロゼリア達。落ち込んでたよ?」 「………」 皆に蘇るアメモースたちの表情。シュウの混乱を見て不安になっていた。その上自分たちがパートナーであるシュウに近づけないと知ったらどれだけ悲しむだろう?それはポケモン好きなサトシやマサトタケシにとって見るに耐えない事似は違いなかった。 「……うーん…如何するかな……」 「本当如何しよう。」 タケシが必死に悩む。マサトも悩む。そしてサトシも…と言いたかったのだが、 「決まってるだろう?」 「何が?」 「記憶を取り戻す。それに限る!」 皆が悲しまずに楽しくいられる状況。確かにサトシの言う方法が一番かもしれない。だけどそれは簡単にしてとても難しい問題。 「それは分るけど…取り戻すまでを如何するかだよ。」 そんな当たり前のことで皆悩んでるんじゃないよとマサトの突っ込みが入る。 「私は…真実を言った方が良いと思います。」 「ルリカさん…。」 シュウが顔をふっとあげる。 「だって、大切な人に真実を言ってもらえないって凄く悲しい事だと思うんです。だから……」 胸の辺りで両手を握り締めるルリカ。 そうだ…パートナーは信じあってこその物。真実を伝えられなくて何がパートナーなのだろう? 「そうだな…。それが良いかもしれない。」 「僕も賛成!」 「それじゃ、決まりだな。」 「皆さんがそうおっしゃるのなら。」 そう口走ったシュウの肩をサトシがたたく。 「今のはオレたちの言葉じゃない。きっと記憶をなくす前のお前だって同じこといってたと思う。だから、これはお前の意見なんだぞシュウ?」 「そうだね。前のシュウならポケモンのことを第一に考えてたはずだもん。」 「僕って…そんなにポケモンが好きだったんですか?」 やっぱり気になるには気になる。記憶を無くす前の自分。 「好きって言うか…本当に大切にしてたぞ。お前ポケモンコーディネーターだったから。でもコーディネーターとしてじゃなくても多分…大切にしてたと思う。」 「そうですか…」 サトシが話す自分のこと。今の自分じゃとてもなれないような自分。 「僕は戻れるでしょうか?」 「戻すんだよ!だから頑張ろう…な?」 何事も猪突猛進のサトシに乗せられてシュウもやる気がわいてきたようだ。 「そうですね。自分の為にも…皆さんのためにも。」 「それじゃ僕お姉ちゃん呼んで来る!」 漸く始まった小さな一歩。 一体この先どんな物語が待っているのだろう? 作者より かなりシュウが純粋で前向きなキャラ…記憶喪失だからありえます 2006.3 竹中歩 ←BACK NEXT→ |