全てを受け入れられるだけの勇気。
それが自分にはあるのだろうか?





1〜再会と言う名の真実〜





「もう少しでポケモンセンターだぞ!」
「珍しく迷わずに目的地まで来れたね。」
「マサト…もう少し優しく言えないのか…」
「ご、ごめん。」
 マップ片手に沈むタケシにマサトは慌ててフォローを入れた。素直すぎると言うのは時に残酷な物である。
「とりあえずついたら飯だよな。」
「賛成かもー!もうお腹ペコペコよ。」
 何よりご飯を目的としているサトシとハルカの眼中にはこの二人のやり取りは入っていないようだ。
「そろそろ昼ご飯の時間だからな。…と、ほら見えてきた。」
 タケシの指差す方向にはポケモンセンターのトレードマークとも言うべき大きなモンスターボールの看板に大きく『P』と入った建物が鎮座していた。
 今回一行が腰を下ろす場所となった町のポケモンセンターは街のはずれにある山の天辺にある。ポケモンたちに最適な環境を考えて作られた為、このような場所にあるらしい。
「ご飯!!」
「飯!」
 ポケモンセンターを見つけるや否や、ハルカとサトシは丸で争うかのように走り出した。
「もう!お姉ちゃん!」
「皆少し落ち着け!」
 二人を追かけるマサトとタケシ。しかし、その四人の足はポケモンセンター少し手前で止まった。
「なんだ…?あの人だかり…。」
 その光景は何故か良くないように感じられた。その場所にはパトカーが数台。そしてジュンサーさんや他の警察関係者だと思われる服装の人々。ざっと30人はいるだろう。しかもその人々全てが緊迫した表情をしていた。
「何かあったんですか?」
 すかさずサトシはその場を取り仕切っていたジュンサーに話し掛けた。
「あ…君たちは旅の人?」
「はい。俺はマサラタウンのサトシです。」
「私はハルカ。」
「僕はマサト。」
「自分はタケシといいます。」
 いつものタケシなら此処でナンパでも始めただろう。しかしそんな状況で無い事は一目瞭然だ。
「そう…旅の人ならこの森には気をつけて。」
「この森?」
「ええ…」
 サトシが聞き返すとジュンサーは『KEEP OUT』とテープが張られ封鎖された入り口を指差した。
 このポケモンセンターのある山の入り口から10分程度の場所。ポケモンセンターは目と鼻のぐらいの距離。少し見ればハイキングコースのようにも見えるなんら変わりない分かれ道。
「森…なんですか?山じゃなくて。」
「本当は山なのだけれど…この街に住む人たちは『エスパーの森』と呼ぶわ。」
「エスパー…?あのエスパーポケモンが多いという森の事ですか?」
 サトシのジュンサーの会話にタケシが入っていく。
 エスパーの森とはその名の通りエスパーポケモンが多く群生する森に事。此処だけにあらず、様々な地域ごとに同じ条件の森はそう呼ばれる。ピカチュウが群生すればピカチュウの森、アチャモが群生すればアチャモの森と呼ばれるような物と一緒だ。
「この森も各地にあるエスパーの森と殆どが一緒。ただ、数日に前に変わってしまったわ。」
「数日前?」
 ハルカが大きく首をかしげるとジュンサーは視線を軽く下におとした。
「この森で行方不明者が出たの。今までこんな事は無かったわ。それにこの森は迷おうにもとても小さいの。」
 確かにこの山の面積から考えてそんなに広範囲に及ぶ物とは思えない。しかしそれでも行方不明者が出たのは事実。
「それでこうやって捜索しているのだけれど…見つからなくて…それに…」
「それに?」
 今度はマサトが首をかしげた。
「森が変わっていく…」
「?」
 ジュンサーの言葉に四人とも不可思議な表情を浮かべる。森が変わる?
「あの森が変わるって…」
 眉間にしわを寄せたサトシの言葉にジュンサーはさらに視線を落とした。
「エスパーポケモンの力で幻影や道を塞がれたりして…捜索が難航しているの。」
「なるほど…だからこんなこんな大騒ぎなのね。」
「その、行方不明の人って言うのはこの中に入ったことは確かなんですか?」
 タケシの言葉に頷くジュンサー。
「その子はね、ポケモンセンターにポケモンを預けて出かけたの。『そこの森を少し見てくる』と言って。目撃者もいたのよ。だから間違いない。もう…あれから数日たっているか…急がないと。」
「あの…俺たちも手伝いましょうか?いいよな皆?」
「私も手伝いたいかも。」
「僕も賛成。」
「自分もジュンサーさんの手伝いが出来るなら!」
「けれど…誰が入ってもこの場所に戻されてしまうの…残念ながら手の打ちようが…」
「そうか…でも、オレたち一般の人が入れば違うかもしれません。」
「え?」
「ポケモンたちは大勢の警察の人が来たからびっくりしてるのかも。だから。」
「そうね…考えてみればそうかもしれない。でも一般の人だけと言うのは…」
「大丈夫です。いざとなればポケモンたちがいますから。」
 サトシの顔は真剣そのもの。もう何を言っても聞かない事は初対面のジュンサーでも分った。
「そう…ならお願いするわ。それじゃ、探している子の特徴はね…」
「あ、自分がメモをとります。」
 タケシはすかさずポケットからメモ帳を取り出した。
「サトシ君とたいして年が変わらないくらいだと思うわ。男の子で緑の髪、紫の半袖ジャケット、黒の長袖ハイネック。少し淡い青緑系のズボンで名前が…」
 ジュンサーの言葉に四人は動きが止まった。いや、凍ったと言った方が正しいくらいだ。顔まで青ざめている。その中でもハルカの青ざめ方は半端ではなかった。








「シュウ…?」








 漸く喉から生み出したような言葉は何とかジュンサーの耳にも届く。
「え?…知り合い?あ、それとも有名人だからかしら…知っているの?」
「いや、ハルカとシュウはライバルだから…」
 凍りついたハルカの代わりにサトシが代弁する。
「なら話が早いわ。居なくなったのはポケモンコンテストでは有名なシュウ君よ。マスコミにばれると大げさになるからまだ公にはなっていないわ。もし明日までに見つからなかったら発表するつもりだけど…」
「何で?!あのしっかりものシュウが?!」
「落ち着いてお姉ちゃん!」
「こんなに震えて…無理しないで。やっぱり警察で…」
 小刻みに方が震えるハルカ。信じたくない。行方不明だなんて。もしかしたらもう…考えが悪いほうばかりに行ってしまうが…ふと、ロゼリアたち、シュウのポケモンたちの顔が浮かんだ。





そうだ…きっとロゼリアたちのほうが私より不安で仕方ないはず。
なんだかんだ言いながらシュウやシュウのポケモンたちは私たちをポケモンを助けてくれた。
それに何より私は…シュウが…生きてるって信じたい。この目で確認したい。 





「…行きます。」
「お姉ちゃん…?」
 肩に添えられたマサトの手を握りハルカはジュンサーを見上げる。
「いつも私が助けられてばかりだから…今度は私が助けたいんです。だから…行かせて下さい。」
「そうだ…シュウとオレだってまだバトルがしたい。ジュンサーさんオレたち行きます。」
「…本当は危ないから行かせたくないけれど…君たちにお願いするわ。でも、無茶だけはしないで。」
 ジュンサーはその場の警察官たちに直ちに状況を説明し万全の体制を整えた。流石上に上に立つもの。行動が迅速で的確だ。そして…『KEEP OUT』の黄色いテープが剥がされる。
「それじゃお願いするわ。」
「はい。」
 四人声をそろえて森の中へと足を踏み込ませた。










「シュウー!」
「シュウー何処に居るのー!」
「やーい!シュウ!」
「ロゼリアたちも待ってるぞー!」
 四人其々が思い思いに叫ぶ。何時の間にか叫ぶ順番は決まっており、サトシ、ハルカ、マサト、タケシの順番。
 飛行ポケモンを飛ばして捜索と言う手もあったのだが、相手がエスパーなだけに変な動きが取れないため、人間のみでの捜索となった。
「居ないね…まだ、入り口には戻されてないみたいだけど。」
「そうだな。やっぱり警察を嫌っていたのかもしれない。」
「サトシにしては上出来な考えだったな。」
「オレにしてはは余計だよ、タケシ。」
 何とかその場を和ませようとするが、ハルカには意味のないことだった。出発の時には何とか歯を食いしばり不安の押しのけていたが、やはりどこかに不安は残っているようで先ほどから胸元のところで両手を握り締めたまま、眉間にしわがよっている。
「とりあえず…叫べるだけ叫ぼう。おーいシュウ!」





………か…い………こ…が……の……カ…ん……な…か…





「ん?」
 かすかにその声はハルカの耳に届いた。
「どうかしたか?ハルカ?」
「静かにして!」
 サトシに静寂を求めたハルカは手を右と左の耳に其々添えてさらに耳をすます。





や…………のよう…。…を…こう。





「『のようだ?』」
「?」
 静かにしてといわれた男子たちはジェスチャーで首をかしげる。





……道……け!……けた…!あ………大………!





「道…?」
 わけのわからない言葉が耳に届く。
「ねぇ?聞こえる?」
「さっぱり。オレには聞こえないぞ。」
「僕も。」
「俺もだ。」
 ハルカにだけ聞こえるその声。もう一度耳をすましてみるが………
「聞こえなくなった……」
「何か聞こえたのか?」
「うん…だけど途切れ途切れな上にかすれた様な声だったから…」
 一体何の声なんだろう。ハルカは駄目元でもう一度耳を澄ましてみた。そして










「そうなんですか?」
「ええ。この街にはそんな場所もあるんですよ。」










 封鎖中の森の中から聞こえてくる男女の楽しそうな会話。そしてその会話の根源は目の前から迫ってきた。





「シュウ!」





 ハルカの悲痛にも似た声が森を木霊した。
 行方不明になったと聞いてからどれだけの時間がたっただろう。ほんの少ししか経っていなかったのにその時間は目がくらみそうなほど長かった気がする。しかし、その相手は無事に今目の前からやってくる。
 シュウはハルカの声に反応したのか目線をこちらへとやった。それを合図に四人はシュウの下へと駆け寄る。
「如何してもっと早く反応してくれなかったの?!ずっとこの辺探してたのに!」
「…どうやら…」
「ええ。みたいですね。」
 息切れを起こし四人全員が目線を下に落とした状態での会話。だが、返ってくる返事がどうも変だ。
「シュウ!人の話………」
「もしかして…僕を知っている人ですか?」
「はぁ?!何変な事…」
「あの…もしもそうなら教えてください……僕は誰ですか?」
「もう!変な事…え……」
 その言葉に無理やりに顔をあげるハルカ。そしてシュウとその女性の方に目をやる。
「すいません…実は記憶が…覚えてないんです。」
 その言葉はハルカだけでなく皆を愕かせた。そしてもう一つ目を奪われる真実。
「嘘…だろ?」
「一体…え?」
「ええ?」
「………」
 上手く言葉に出来ないサトシにタケシにマサトと言葉が出てこないハルカ。
 四人が目にしたのは記憶を無くしたシュウ。
 そしてシュウに寄り添う女性の存在。
 その女性は…










 ハルカと余りにも似すぎていた。










 琥珀色の髪のに露草色の瞳がハルカだとすれば、
 その女性はハルカより淡い髪の色…胡桃色でハルカより濃い瞳瑠璃色の瞳を持つ。
 表情など克明に似ているかといわれるとそこまでではないが、
 他人にしては気持ち悪いほど擬似していた。
 多少違うといえばその女性の方が明らかに大人には見えた事。
 困惑するサトシ。いや、サトシだけではない。
 タケシも…マサトも…シュウも…そしてハルカも…。
 ハルカと余りにも似すぎている女性。皆その時ばかりは本当に言葉を失っていた。










一体…シュウに何が起きたと言うのですか?
神様もし居るのなら教えてください。
彼に起きた真実を…










作者より
再会は思いのほか早くなりましたが、此処からが大変です。
2006.1 竹中歩

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