雨の日に遊ぼう!! 中等部一年二組の段



 昼休み昼食タイム終了時刻。
 お昼ご飯を食べてしまえば、あとは自由時間。
 一年一組の後輩たちと昼食を共にしたは、後輩達に見送られ再び身を隠すことにした。
 本当はまだ話したい事も、笑顔を見ていたっかったのだけれど、あの立花が許す筈ないと半泣きになりながら身を潜める場所を探す。
 きっとすでにあの人もご飯を食べて動き出している筈だ。早々にどこか遠くへ逃げなければ。
 そう思って中等部の校舎内をうろうろ。
 自分と同じ制服を着た女生徒がちらほらいるので身を隠すのにはうってつけだが、やはりどこか浮いた存在になるらしい。
 すれ違う生徒があいつは誰だと言う会話をしている。
 身の丈も然程変わらないのに何がどう違うのか。
 自身さっぱりわからないでいたが、それはきっと立花も一緒だろう。
 後輩に首を傾げられても先輩にばれなければ良いのだ。
 そんな風に楽観的に考えて、はさくさくと廊下を進む。
 そして、暫くして自分が異様な場所へたどりついていた事に気付いた。
「……はて? ここはどこだろうか?」
 お昼を過ぎた時間だと言うのにその場所は只管に暗く、物々しい雰囲気を醸し出している。
 突き当たりは行き止まり。その手前にある教室は、
「おお……理科室だったのか」
 どうやら中等部の理科室へとたどり着いてしまったらしい。そりゃおどろおどろしい雰囲気もするだろう。
 しかも、誰も居ない様子で、雨が光を遮断している。その何とも言えない空気はいつもより異質さを増している事だろう。
「行き止まり……と言う事は、こっちから来たわけであって、そっちに行けば戻れ、」
「そっちは家庭課室ですから違いますよー」
「!!」
 ふーっと背後から声をかけられ思わず前のめりには飛んだ。
 人の気配なんて丸でしなかった自分の周囲。いつ自分の背後に回ったのだろう?
 は恐る恐る振り返った。
せんぱーい。大丈夫ですか〜……」
「……うん。なんとか、ね」
 本当は大丈夫なんかではなかった。
 でも、出そうな悲鳴は持てる限りの力を持って飲み込む。だって、それじゃあまりにもこの子に失礼だから。
「もう少し明るく声をかけて欲しかったな、怪士丸君」
 多分、普通の女子なら悲鳴をあげていただろう。
 人気のない暗がりの理科室前に現れた怪士丸。ちょっとと言うか、かなりホラーだった。
「すみません……もともとこう言う感じで……。先輩があらぬ方向へ行きそうだったのでお止したんですが……」
「あらぬ方向?」
「ええ。先輩が行こうとしていた廊下も進んでいくと行き止まりなんです。だから、どこへ行くのにもこちらへと行かないと無理なんですよ」
「ほう。そうだったのか。ありがとう、怪士丸君」
 どういたしましてと怪士丸ははにかんだような顔で微笑んだ。そこにいたのはお化けと間違えるような子ではなく、普通に可愛い後輩。
 やはりさっき死ぬ気で悲鳴を止めておいてよかった思う。
 自分の後輩に対する愛、ブラボーとは小さく自分を称えた。
「そう言えば、怪士丸君はどうしてこっちに? 自習中だから理科室なんかに用はないよね?」
「僕は先輩を追いかけてきたんですよー」
「私を?」
「はい。昼休み、よろしければご一緒していただきたいなと皆で話していたので」
「皆……と言うと二組の子たちとかね?」
「はいー。実は僕らのクラスにも三組の授業が聞こえていたんですー。そしてもちろん一組の昼食の会話もです。二つの教室に挟まれていますからねー。だから僕達も先輩と何かでご一緒できたらなと思いましてー」
「そうなのか。そう聞くと嬉しいものだね。なんか、親しまれてる感じがして」
 そっかとは怪士丸と歩きながら嬉しそうに笑う。
 こんな遠いところまで探してくれるほど誘いたかったと言われるとやはり嬉しい。
 気付けば、他の子にも早く会いたいと言う気持ちで足が速くなっていた。
「先輩、ここが僕らの教室ですー」
 歩いてみると、結構遠い場所にまで歩いていたことが分かった。
 今もう一度あの理科室へ向かえと言われてもきっとわからないだろう。
 それ位中等部の校舎は入り組んでいて、教室数が多かった。
「今さらだが、見つけてくれてありがとう。私一人だったら危うかったよ」
「それは良かったです。僕らでも迷うくらいですから。この学校、高等部にしろ中等部にしろ広いですからねー」
「あー、そうだね。私も時々高等部の校舎や施設、分からないものがあるよ」
 他愛もない会話をしながら、漸く二組の教室の扉を開けた。
「…………気が早いね。すでに納涼肝試しの準備か」
「いえー。これが基本の雰囲気なんですよー」
 にこにことする怪士丸だが、これが基本と言われてもはいそうですかと信じるのは無理がある。
 雨の日とは言え、異様に暗すぎる教室に、異様に暗すぎる生徒達。
 まるで覇気がない。もう、クラスメイト全員がお化け屋敷のお化けに徹しているような感じだ。きっと今お化け屋敷のバイトを面接すれば一発合格だろうと言うくらいに。
「あー、先輩だー。怪士丸、見つけられたんだね」
「うんー。声をかけようかけようと思っても先輩足が早くて先に進んじゃうから、止まるまで時間掛ったけど」
 そうか、良かったと笑うのは用具委員の平太君。
 多分、笑っているのだと思いたい。相変わらず元気はなさそうだが。
先輩ー、こんにちわー」
「お、こんにちわ。孫次郎君。君も元気かい?」
「はいー。毎日動物さん達の世話とかして元気ですー」
「そっかそっか。あ、伏木蔵君も元気……かい?」
「もちろんですー。この前は体育で両膝擦りむいて、ちょっとばかり出血が多かったですけど、元気ですよー」
 ともて元気と言う状態を表すには不似合いな言葉を並べる伏木蔵には若干苦笑いをした。
 恐るべし、不運委員……もとい、保健委員会。
「平太君も元気そうで何よりだ。それで? 昼休みは何をする?」
 折角誘ってくれたのだ。早く事を起こさねば遊べる時間が少なくなってしまう。
 は頭の中で室内で遊べる物をいくつか思い浮かべていたのだが、四人は薄らと不気味な笑みをして同じ言葉を口にする。
「「「「中等部七不思議探検です」」」」
 ……なんとも彼ららしい遊びだと思った。



「それで、中等部の七不思議って何があるのだい?」
「それがですね、実はそれがとっても曖昧なんです」
「曖昧?」
 横を歩く平太がこくりと頷く。
「実は不思議が多すぎて七不思議どころじゃないらしいのです。ですから、皆は自分の知っているものを七個あげて自分達の七不思議を作っちゃってるんですよ」
「もうそれは七不思議とは言わなくないかね?」
「得があって良いと思いますよ? 好きなの選べるって素敵じゃないですか」
 いやいや、それは違うだろうと思わずは平太に突っ込みを入れる。
「だけど、有名なものは有名なんですよ。たとえば理科室の骨格標本とか」
 定番と言うべき物が伏木蔵の口から出たのではああと頷いた。
「夜になると動き出すとかそういうやつかね?」
「いえー。良い出汁が出ると言う噂です」
「出汁!?」
「ええ、出汁です」
 屈託ない笑顔で伏木蔵が微笑むがそれは何か違う。まかり通っても世間一般で言う七不思議では絶対にない。
「だから、調理が好きな生徒達が夜な夜な骨を取りに来るらしいですよー。夜の学校に入るなんて凄いスリルですよねー」
「すでに骨格標本の骨を使って食物を作ると言うこと自体スリルだと思うよ」
「おやー? 先輩はしないのですか? 食べる事がお好きと聞いていましたがー」
「…………伏木蔵君。人間疾しい事をやる時は目を欺くために興味を示さないようにするものだよ」
 その時のの目は明らかに理科室の方へと向けられていた。
「そうだ、先輩。音楽室にも噂はあるんですよー?」
 今度は孫次郎が嬉しそうに話し始めた。
「音楽室と言うとやはり『ピアノが勝手に鳴る』とか『音楽家の肖像画の目が光る』とか?」
「それはしょっちゅうですよー。七不思議との一つと言われているのは、どうやっても消火器が爆発するんです。ですから、音楽室は定期的に真っ白になるんですよー」
「……私はどこを突っ込むべきなのかな」
 不可思議な動きをするピアノや肖像画が当たり前なところか。
 それとも消火器が定期的に爆発することか。
 それに慣れているこの後輩達か。
 突っ込み要素が多すぎて、は孫次郎の噂に只管に笑うしかなかった。
「先輩も真っ白になってみますかー? 色白になって良いと思いますよー? 笑い者にはなると思いますけど……」
「さぁ、つぎに行こうかー!!」
 マイペースに笑う孫次郎の笑顔になにか言い知れぬ寒気の様なものを感じ、は無理やり話題を変える。このままでは音楽室に連れて行かれそうだ。
「僕は怖いのは好きじゃないからあんまり皆ほど詳しくないんですけど、楽しい噂の七不思議なら知ってますよー」
「ほう。楽しい七不思議もあるのか。それはどんなものなんだい、平太君」
 が興味を見示してくれた事が嬉しかったようで、彼は笑顔を浮かべ噂を教えてくれた。
「生徒会長の潮江先輩の背中を三回叩いて『テストの点がありますように』って言うと点数が一点上がるそうです」
「よし、わかったっ! 今すぐ潮江先輩の背中を九十回叩いて来よう! そうすれば次のテストの赤点を免れられる!」
 高等部へ体を方向転化する。それを慌てて怪士丸が制止。この人ならやりかねないと彼はわかっているのだろう。
「せ、先輩! 危ないです!」
「止めてくれるな怪士丸君! 人間やらねばならぬときがあるのだよ!」
「九十回って言うと三十点……安全ラインを確保するんですねー」
「人間と言うものは安心を求めたいものなんだよ。平太君。しかし、流石に百回近くも叩いたら潮江先輩に殺され兼ねないな。十回程度にしておこう」
「そうですね。三組の団蔵も十二回叩いたら、案の定拳骨を貰ったそうなので」
「む。やはりそうか。でも、良い噂をありがとう平太君」
「どういたしまして」
 その会話にほっとしたのか、怪士丸は掴んでいたの服を離す。
「良かった……先輩、本当に行っちゃうのかと思いました」
「はは。流石にそこまで無茶はしないさ。よほどヤバイ時以外はね。それで? 怪士丸君はどんな七不思議を知っているんだい?」
「僕の七不思議……それは、ここなんです」
 にっと笑った彼は足を止める。
 は目的地を知らされず、ずっとここまで歩いてきた。漸くここが終着点。
 皆の目の前にある教室の名前はなんと理科室。
「……私に出汁になる骨格標本を取って来いと?」
「い、いえ! そう言うわけではないです! でも、理科室は色んな不思議をたくさん持っていて、僕の知っているのもその中の一つなんです」
 ぎーと引き戸の扉を開けて、五人は教室へ入る。
 少し痛んでいるのか、引き戸は動かすたびに奇怪な音をあげた。なんとも良い雰囲気を生み出している。
「この理科室はかなり古くて、校舎を建て替えた後でもこの場所に必ずあるんです。そう、必ず一階に」
「な、なんで?」
「それは、理科室の準備室の床に地下室へと通じる道があるからですよ」
 いひひひひひと奇天烈な笑い声をあげる怪士丸にクラスメイトも流石に恐怖を感じ、に纏わりつく。
 そんな光景を見れたからか、彼は笑う事を止めず準備室へと通じる扉も開く。
 中には薬品や上皿天ビン、メスシリンダーに丸底フラスコ。アルコールランプに乳鉢など。
 本当に理科の授業で使われる器具がピッチリと揃えられていた。もちろん、噂になっている骨格標本もだ。
「ね、ねぇ。か、勝手に入って大丈夫なの……?」
 怖いのが駄目と言っていた平太は他の二人によりかなり力強くの腕を掴んでいた。
「大丈夫だよ。管理の先生が基本いるから……」
 怪士丸は一向に笑う事をやめず、ひたひたと歩き続ける。
「あ……今思い出した。地下室ってホルマリン漬けとか置いてある部屋だってこと」
「そうか、孫次郎は飼育委員だからそう言う話が流れて行くんだね」
「う、うん。竹谷先輩が教えてくれた。ホルマリン漬けの動物達は自分達の為に頑張ってくれたんだって。だから、それを忘れてはいけないって」
「竹谷君がそんな事を言っていたのか……。良い事を言う」
 やはり飼育委員だけあって動物への気持ちは人一倍強いようだ。いや、飼育委員でなくても彼と言う人が動物に対してそういう愛情を持っているのだろう。
 見習わなくてはとは心の中で頷いた。
「……孫次郎の言うとおり、地下室にはいろいろなものが管理されてるんだ……。で、これがその入り口」
 ずっと歩いていた怪士丸の足がふと止まる。
 見ると、止まった先の床にあるのは正方形の扉。観音開きのようだ。少し目をこらさないと分からないほど床になじんでいる。
「凄いスリルー……」
 いつもは状況を見て笑っているだけの伏木蔵だが、彼もちょっぴり怖いのかのシャツを少しだけ掴んでいた。
 傍から見たら同級生の女の子に助けを請う中学生男子と言う、なんとも奇怪な塊に見える。
「あ、開けるのかい?」
「もちろんですよ、先輩……。それがこの地下室の噂なんです……。床から這い出す幽霊と言うのが……ね」
 ふふふと笑って、取っ手にとをかけ、怪士丸は地下室への扉を……開けた。
 ギイギイと蝶つがいが年代が経っていることを知らせるように不気味に音を立てる。
 そして、それは現れた……。

「……いっらしゃい……ませ……」

 ひゅーと、床から湧き出るように現れた姿に達は絶句する。
 黒い、顔色の悪い幽霊がこちらをじーっと見ているのだ。
 色が気持ち悪いくらいに白く、目も虚ろ。男性と言う事はわかるが、全くを持って生きる意志がなさそうな表情。
 まさしく、理科室にぴったりな幽霊。
 しかし、どうも纏わりついていた後輩達の様子がおかしい。
 最初は驚いていたのに、今は平然とそれを見ていた。
 そして、後輩達は一斉にその幽霊に駆け寄る。
「斜堂せんせだー!」
 叫んだのは平太だった。一番怖がっていた彼が半泣きの状態でその幽霊にひっつく。
 もしや……
「……人、なんですか?」
 訝しげにが呟くと、その人物はか細い声で喋った。。
「はいー……一年二組の担任『斜堂影麿』と申しますー……」
「せ、先生なんですか。やはり……」
「……ええ……こんなのですから、よく幽霊とかに間違われますが、れっきとした生命体ですよー」
 暗い影をまといながらも斜堂先生は笑ってくれる。
 それを見ては確信した。ああ本当に二組の担任なんだなと。
 生徒たちと似たような暗く重い空気を纏わせてはいるが、その威力と与える恐怖は雰囲気は半端ない。
 怪士丸達はまだ何となく人間と言う事はわかるが、この先生は説明がなければ本当に幽霊だと思いこんでしまうだろう。本当にそれ位、大抵の人が思い描く『幽霊』に近いのだ。
 言っては何だが物凄く心臓に悪い幽霊のような先生。
 この先生が担任ならクラス全体が孫次郎たちのように暗くなるのも仕方ないかもしれない。
「準備室の噂。地下室から這い上がる幽霊は、ここを管理している先生を見間違える生徒が言い出したものなんですー」
 怪士丸が漸くにっこりと笑った。
 なんだ、ちゃんと根拠のあった噂なのか。それを聞いてほっとする。
「私は本気で何か出たのかと思ったよ。全く、怪士丸君も人が悪い」
「すみませんー。こうした方が雰囲気が出るかと思いまして」
「君がやるとなんでも怖いよ……」
「えー……怪士丸と仲がよさそうな貴女はお名前をお伺いしてよろしいですか?」
 三人の生徒達に纏わり疲れている先生がへと目線を向ける。
 それを見て、も慌てて先生の方へと向き直り自己紹介をした。
「私は二年C組のと申します。この子たちには日ごろ相手をしていただいております」
「……C組? では貴方は高等部なのですか?」
 の制服を見ながら斜堂先生は首を傾げた。
 そうだ、今は中等部の制服だった。
「お恥ずかしい話ですが、ちょっと風紀委員の策略にはまりまして今はこんな姿に……」
「おや……風紀委員が理由だったのですか……」
「ええ。制服とジャージが濡れまして、代えの制服を借りたのは良いのですが、委員長様が貸して下さった制服が中等部の物で。まぁ、サイズは合うんですが」
「そうですー。先輩似合ってますよー」
「僕もそう思いますー」
 怪士丸と先生から離れた平太は嬉しそうにの姿を褒める。
「ありがとう、二人とも」
「中等部の制服が似合う高等部の人って貴重ですよー。ジュンコ並みに」
「それは天然記念物と言いたいのかな? 孫次郎君よ」
「それは先輩にお任せしますー」
 にっこりと笑う孫次郎の言葉になぜか心の底からは喜べなかった。
「どうやら大変な状況の様ですね……。すみません……私の管理不届きで……」
「? どうして斜堂先生が謝られるのですか? 私は彼らに何もされていませんよ?」
「いえ……二組の事ではなく、風紀の事ですよー……」
 伏木蔵たちに開放された斜堂先生がに向かって頭を下げる。
 これに今度はが首を傾けた。
 なぜ、風紀委員によって齎された出来事を斜堂先生が謝るのか理解できない。
「私……こう見えても……風紀委員の顧問でして……たった今立花君から制服を一着貸し出したと聞きまして……」
 その言葉の後、それは姿を現す。
「飛んで火にいる、夏の、」
「おーとっ!! こりゃ危ない!!」
 バタンっ!
 は物凄い声と勢いで観音開きの扉を閉めた。
 飛び出していた斜堂先生と、顔を出したばかりの風紀委員長様を地下室へ閉じ込めるように。
「≪……ど、どうされたのですか? 行き成り扉が……≫」
「あ、斜堂先生すみません。ちょっと蜂が出ましたので危ないと思い締めさせていただきました! しばらくお待ちください!」
「≪そうなのですか……大丈夫ですか?≫」
「あ、大丈夫です!! !! 何があっても先生の安全は確保します!!」
「≪私の安全は確保しないのか?≫」
 扉越しに聞きたくない声が耳に届く。
 顔は見えないが絶対にうすら笑いを浮かべているであろうその人物の声が。
「大変申し訳ありません。お綺麗でパーフェクトな風紀委員長の幽霊様は自分で身を守れると判断させていただきました。ええ、貴方様なら蜂ごとき大丈夫でしょう!!」
「≪今は蜂より飛んで火に入る夏の虫の相手をしたのだがな……≫」
 の周りだけ、その瞬間氷河期へと突入した。
「……凄いスリルとサスペンスー」
「大変的を得た表現だ。伏木蔵君」
先輩。突っ込んでいる場合じゃないです。逃げてください」
「僕らで押さえておきますから」
「き、君達って子は!!」
 小声でアシストを申し出てくれた平太と怪士丸には鼻水と涙が出そうになった。
「……僕も協力しますよー……。と言うわけで本当の蜂を放そうかと」
「ま、孫次郎君よ。それは気持ちだけで十分だ!!」
「そうですかー? まぁ、とりあえず逃げてください。昼休みももう終わりますし」
「ありがとう!!」
先輩、次も素敵なスリルを分けてくださいねー」
「そんな状態に出来れば陥りたくないよ。とりあえず、みんなありがとう!!」
 は扉の上に座る四人に手を振り、大急ぎでその場を後にした。
 彼らの雄姿はきっと六日位は忘れないだろう。
 とりあえず、今は遠くへ!!
 彼女は自由を求めて羽ばたいて行った。



「……蜂は大丈夫でしたか?」
「大丈夫ですよー。先輩が退治してくれましたー」
 作り笑いをしつつ平太はの嘘に話し合わせて、その場を取り繕う。
「そうでしたか……。今度お礼をしましょう……。皆さんとも遊んでくれたようですからねー……」
 怪士丸や孫次郎の頭を撫でながら斜堂先生は笑う。
 滅多に笑わない自分のクラスの生徒達。
 その生徒達と遊んでくれた上に、笑顔にしくれた女生徒。
 お礼をしなわいわけにはいかないだろう。
「……ですが、立花君。あれはやりすぎですよ……」
「私は助けただけですよ。制服がない哀れな生徒をね。それに似合っていたでしょう?」
 くくくと笑う立花に斜堂先生ははあと曖昧な相槌を打った。
「さて、私は奴を追いかけますゆえ失礼します」
「……立花先輩はクモの巣だらけで人前に出るんですかー? 完璧な立花先輩がそんな不格好な姿を人目にさらすなんて、ある意味人生の分岐点。凄いスリルですー」
「なっ!! 私とした事が!!」



 立花の足が追いつく前にはどこへと身を隠したのだろうか?






作者より
一年生三部作終了です。そしてものすごくこの四人組はかきやすかったです。
脳内で孫次郎の扱いがものすごいことになっておりました。ちょっぴり黒い気が(笑)
次から午後の授業へと様変わり。立花さんは執拗に追いかける様子です。
2010.7 竹中歩

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