雨の日に遊ぼう!! 中等部一年一組の段 昼食開始時刻。 必死に作法委員の上級生二人組から逃げ回っていたにようやく訪れる筈だった安住の時。 しかし、それを迎えたのは教室でもなければ食堂でもない。 はたまた念の為に立花に見つからないような場所でもない。 一年一組。 なぜかその教室で椅子を与えられ、四つの机を組み合わせたテーブルを囲むように、共通委員会に所属する彼らとその時を迎えている。 「……とりあえず、どうしたんだい?」 無言でずっと周りに座る少年達には不安な表情で心中を問う。 それでも彼は黙ったまま。顔見知りとは言え、その顔見知り全員に黙りこくられると言うのは居心地が悪くてしょうがない。 共通委員会に顔を出すようになって知り合った彼らに自分は何をしてしまったのだろうかと、不安げな顔をする。 「……ずるいと思ったんです……」 「え?」 「三組ばかりずるいと思ったんです!!」 そう叫んだのは風紀委員会の最年少の一人伝七だった。 一体なにがどう三組ばかりずると言うのだろうか? 「えーと、順を追って説明してくれるとありがたいんですが……」 「僕ら四人。先輩と三組のやり取りを聞いていたんです」 「やりとり?」 「ええ。外付け廊下での会話です。三組とはそんなに教室が離れていませんでしたから会話が筒抜けだったんです」 目をつぶった状態で話すのは生徒会所属の左吉。 やはり他の教室にも聞こえていたのかと、はその場で謝罪するがそれでも彼らの表情は一向に崩れない。 「別にその事に関しては怒ってません。三組がうるさいのはいつもの事ですから。僕達が言いたいのは三組ばかり贔屓していると言う事です」 「贔屓? 誰が三組を贔屓したと?」 「貴方ですよ、先輩」 やれやれと言う表情で彼はを指さす。 クラスのリーダー的存在、学級委員会の彦四郎。その人がだ。 「わ、私がですか!?」 「そうです! 今日はどこも自習だったので、土井先生の声は特に響いてました。その中にばっちりと先輩のもあったんです」 少し泣きそうな表情で言うものだから、は必死に彼を宥めた。 飼育委員で毎日動物と追いかけっこと言う名の脱走を阻止する一平を。 「あ……まぁ、そうなるかな」 確かに少しだけだが三組の後輩達に勉強を教えていた。 多少なりとも全員に聞こえる様大きな声は出していたと思う。一平達に聞こえても無理はない。 「元々自習に先生が付くのも少しはずるいと思いました。でも、それ位しないといけない三組だからしょうがないとも思いました。だけど、先輩まで教えるのはやっぱりずるいです」 「左吉君よ。そうは言うが、私はたいして役に立っていない。うん、これだけは自信あるよ」 「そんなところに自信持たないでくださいよ。別に教える人が増えたからと言う理由でずるいと言っているではありません」 本当にわからないんですか? そんな顔をして左吉はを少し睨む。 お陰では心の中で、 やっぱり自分あほなんだなー、後輩にまで怒られるなんてよっぽどだ。いっちょここは山籠りでもして鍛えなおしえてくるか。 と修行のプランまで立てていた。 しかし、それはそれはどうも違ったらしく、 「僕らも先輩と勉強したかったんです……」 ぐっと制服のシャツを掴んで一平が必死になって訴える。 「わ、私とかい!? 言っちゃなんだが、私の成績は思いっきり真ん中でその上庄左ヱ門君がやろうとしていた問題すら危うかった。教えを請うなら……そうだな、管理委員の久々知君辺りが妥当かと」 「そう言う意味で勉強したいんじゃないですよ……」 また呆れた目線をこちらに送ってくる彦四郎。 は一組のしたい事がわからず、さっきからあわあわとするばかりだ。 「僕らは先輩と勉強したかったんです! 年上の人に教えてもらいたいとかそういう意味じゃなくて、先輩と言う人と!!」 しびれを切らして伝七が机に手をつき力説する。 しかし、その瞬間からなぜかの動きが止まってしまった。 「…………」 やばい、怒らせた? やっぱりこれはわがままなのだろうか? 確かにを無理やり彼女の教室から引きずって来たのは自分達。 でも、許せなかった。 尊敬もして、親しんでいるが三組ばかり贔屓するのは。 元々自分達と三組は仲が悪い。だから余計に許せなかった。 三組にとっても先輩だけど、自分達にとっても先輩。 しかも数少ない女性の先輩。 可愛がってくれる珍しい先輩。 その先輩と一緒に居たいと思うのはわがまま? 頭が良いからこそ、色んな推測が生まれ、それはどうしてか悪い方向へと向けられる。 今度は四人の方があわあわとしていた。 何度か先輩と呼んだが、は下を向いたままわなわなと肩を震わせるだけ。 流石に行けないと思った四人は席を立ち、の側へ駆け寄る。 謝ろう。そう思ったから。 しかし、 「君たちはーっ!!」 悲鳴? 喜鳴? 何とも取れないの叫び声とともに、は嬉しそうな笑顔を浮かべる。 「せ、先輩?」 悩みすぎて頭がおかしくなったのではないかと左吉が心配して呼びかけるが、彼女は嬉しそうな表情のまま各自の頭を撫で始めた。 「どうして中等部ってこんなに可愛いんだか! ああ、もう!」 「い、痛いです。先輩」 「おぉ、スマン伝七君。いつもより力が入ってしまった。だけど、理由が嬉しくてつい」 謝罪をしつつも、やはりその顔は笑顔。 「私と一緒に居たいって言ってくれて凄く嬉しいです。だから、こうなるのもしょうがないと思うんだ」 「え? 怒ってるんじゃないんですか?」 「……なんで? 今怒る要因どこかあったっけ?」 恐る恐る尋ねる一平にはキョトンとして首をかしげる。 「貴重な先輩の昼休みを奪ってしまったことには変わりありませんから……普通は怒ると思います」 「そうなのか? 私は誘ってくれて嬉しかったよ? 嫌な人に誘われたら嫌かもしれないけど、君たちは違うじゃないか」 彦四郎は遠回しに嫌っていない問う事実を知り、少し安堵の表情を浮かべた。 「それに、一緒に過ごしたいって思ってくれたのが嬉しかったよ。実はどこでお弁当食べようかと迷っててね」 「あー……やっぱり立花先輩や綾部先輩から逃げる為ですか?」 「今のところは立花先輩からだね。あの人今日の二限目から見てないから、動きがなくて怖くて。嵐の前の静けさじゃなければいいんだけど」 伝七は風紀委員と言う事で今日の事件を知っている。 だからこそ、このメンバーで一番の事を心配していた。 「それもあってお誘いしたんですよ、先輩」 「それはどういうことかね? 左吉君」 「伝七から先輩が風紀の先輩方から逃げてると聞きまして。だから僕らもお手伝いできないかと。ここなら中等部に交じってるから見つかりにくいですし」 「はっ! そう言う気づかいもあったのか!? 伝七君……相談してくれるほど悩ませてすまない」 「そ、そんなことないです!! ……だって僕がもう少し早めの事態に気づいて制服とジャージを保管してれば良かったんですから……」 伝七も伝七なりに気にしてくれていた様子。 それを見て、は再び笑う。 三組に対していつも見下した態度をとる彼らだって、良い子たちなんだ。 こうやって自分達に出来る事を必死で考えてくれた。 その気持ちを貰って喜ばない先輩がいたら見てみたいものだ。 だってその一人。嬉しくない筈がない。 「みんなありがとう……。その一生懸命さが伝わっておばちゃん涙出そうだわ」 「お、おばちゃんって……先輩高校生でしょう?」 「中等部と高等部の壁は厚いのだよ、彦四郎君」 「だけど、先輩。中等部の制服にあってますから十分若いと思いますよ?」 こら、ばか! 思わず一平以外の三人が彼の口を塞ぐ。 この姿を撮られたくない一心で逃げている先輩になんて事を。 しかし、は打って変わってその会話を耳にして笑う。 「お、怒らないんですか? 確か立花先輩とか綾部先輩が似たような事を言っておられた時は凄く不機嫌な顔をされてましたけど……」 「ん? あ、あれね。あの二人は本心かどうかわからないからだよ。でも、君達のは本心って分かるから。中等部の台詞は基本的に無垢だと信じているからね。ま、同級生が同じ様な事言ってた時は少し不機嫌になったやもしれん」 朝のやり取りを知っている伝七は一番怯えていた。 しかし、自分達に向けられた言葉は高等部の物と違い驚く。 「だから、ありがとうね。一平君」 うりゃうりゃと一平を抱え込んで頭を撫でる光景はとても微笑ましいものだった。 「さて、ごはん食べようか。時間無くなっちゃうし、折角立花先輩から匿ってくれたんだ。気付かれるうちに食べてしまおう」 「「「「はい!!」」」」 こうしては一年一組でご飯を食べると言う貴重な体験をする。 言わずもがな、初めてのお弁当を目にした四人は目を輝かせ、おかずを分けて貰った。 残っていたクラスメイトは、少しそれを羨ましいと思いながらもそれぞれの時間を過ごし、一組の昼食タイムは終了する。 この後に残された休み時間。 この時を彼らは狙っていたのかもしれない。 作者より 三組を基本的に馬鹿にしているクラスなので、それに劣るのは嫌なのではないかと。 でも、三組みたいに素直に離れなくて、半強制的に連れてきてしまって自己嫌悪。 ツンデレではなく、三組に見られない可能性のところでは多分良い子だと思っています(笑) 2010.6 竹中歩 ←戻 進→ |