雨の日に遊ぼう!! 高等部一年生の段 三時限目開始時刻。 その二人は教室に戻らず、ずっと廊下でいがみ合っていた。 「だ・か・ら! ぶつかって来たのはお前のほうだろ!」 「何故私がそんな不注意をしなければならない? お前の方こそぶつかって来たのだ!」 一人は栗毛の髪の男子。 一人は焦茶の髪の男子。 この学年、いやこの学校で知らない者の方が少ないだろう。 田村三木ヱ門と平滝夜叉丸。 この学校に入ってからずっと犬猿の仲と噂され、それは現在ももちろん持続中。 今はどちらが先ぶつかったかで揉めている。 はたから見れば高校一年生がどうでも良い事で揉めていると呆れられても仕方がない状況。 「二人とも〜。落ち着いてよ〜。怒っても良い事ないよ? さっきは二年生も何か言い争いしてたみたいだし〜。皆で怒るのやめようよ〜」 「「タカ丸さんは黙っててください!!」」 ズビシッ! そんな効果音が聞こえてきそうなくらいの剣幕で二人に怒られたひときわ目立つ金髪の男子はおろおろと慌てるばかり。 二人を鎮めたいと言う気持ちがヒシヒシと伝わってくる。 「滝夜叉丸! 今日と言う今日は決着をつけてやる!!」 「望むところだ!! 何で勝負をつける? 私は何をやらせても完璧だからな。お前に負ける事はないだろう。だから貴様に選ばせてやろう、三木ヱ門」 「その上から目線、どうにかしろ!!」 お互いに胸ぐらをつかむ。まさに一触即発と言ったところ。 彼らを必死に止めようとする同級生斎藤タカ丸は彼らより二つ年上でありながらも、今は止めるだけの力がないらしい。 今回ばかりは本当にヤバイようだ。 「どうしよう〜!! え、あれ?」 不意に何かが目の前を通り過ぎ、それは声をかける暇もなくいつの間にか三木ヱ門と滝夜叉丸へぶつかっていた。 「なっ!?」 「つっ!!」 二人はそれの下敷きになるように倒れこみ、小さな悲鳴を上げる。 同時に悲鳴を出したためどっちがどっちの悲鳴かは分からない。 「痛ー……行き成りなんだ?」 「この滝夜叉丸にぶつかってくるとはどこの不届き……は?」 ぶつかって来た何かに二人は目をやり驚く。 自分達にタックルを食らわせたのはなんと中等部の女子。 ずっと突っ伏したままで動かないが、制服から見ればそれが女子であることも、中等部である事も歴然だった。 「だ、大丈夫か?」 「女子だったのか……気付かなくてすまない」 男二人を倒れさせるほどの勢いだったのでてっきり男子だと思い、少し口調が乱暴になった事を謝罪する。 例えぶつかって来たとしても相手は女子。二人は優しい声をかける。 それに気づいたのか、その少女は顔をあげた。 「いや、こちらこそすまない。三木君、滝君」 「「先輩!?」」 「あーちゃんだ〜!」 思わぬ人物だった為、悲鳴に似た大きな声を張り上げる。 タカ丸は知り合いだった事が嬉しかったようで、優しい声で彼女の名前を呼んだ。 「いやー、まさか二人が曲がったところにいるとは思わず、本当に申し訳ない」 よっこらしょと少しおばさんくさい台詞を言って、は彼らの上から退いてスカートに付いたほこりを払う。 立って見るまで目の錯覚かとも思ったのだが、やはりの着ている服は中等部の物だ。去年まで自分たちと同じクラスの女子が着ていた制服。編入生のタカ丸が間違えたとしても三木ヱ門と滝夜叉丸は間違えないだろう。 「何故先輩は中等部の服を着てらっしゃるんですか?」 「えーと……どこから話せばよいやら」 タカ丸に手を借りて、立ち上がった三木ヱ門も服のほこりを軽く払うと、ストレートに疑問をぶつけてくる。 「しかし、先輩は中等部の服もお似合いになるのですね。あ、中等部と言えば私も中等部で一番制服が似合っておりまして、大変凛々しいと……ごふぁっ!!」 「ちょっと黙ろう。滝君」 話を無理やり終了させるべく、自分に酔っていた滝夜叉丸の膝裏に蹴りを入れた。 「えーとだね、掻い摘んで言うと風紀委員の策略。そして今は、」 「私から逃げている最中です」 「……ははは。そう言うことだ」 声は笑っているものの、の顔と行動は怯えと困惑を足したような感じである。 「見つかったか」 「ええ。見つけました。一度は見失いましたけど、そこの犬猿コンビの声がしたので。思い切り先輩の名前付きで」 抜かったか、と言って小さく舌打ちをする。 これを見るに、彼女は綾部から逃げる為に走って自分達にぶつかったのだろうと三木ヱ門と滝夜叉丸は推測した。 「先輩。いい加減写真撮らせて下さい」 「謹んでお断りします!」 すっと、タカ丸の後ろに隠れて彼のシャツを掴む。 こう言っては何だが、小さな子が何かと必死に戦っているでその光景は少し微笑ましかった。 「ちゃん可愛い〜!! うちの店に来る小学生の女の子みたい〜!!」 「すり寄ってこないでください、タカ丸さん」 タカ丸の実家は有名な美容室。 故に客層は広く、ほどの小学生を相手にすることもざらではないだろう。 しかし、としてはその少女にする様な行動を自分にしないでほしい。 「うむ。タカ丸さんは駄目か。滝君、背後借してくれ」 「え!? 私ですか!?」 張り付いているタカ丸を払って、今度は滝夜叉丸の背後へとひっつく。本当に鬼ごっこ等で逃げ場をなくした小学生のようだ。 滝夜叉丸も当人になって初めてその微笑ましさに気付いたのか、の頭を撫でる。 「……そうか。もう一度滝君は膝裏をけられたいのか」 「はっ!! いえ、そんな事は決してめっそうもない!!」 「頭を良い笑顔で撫でながら否定した所で、何の説得力もない。しかし学年で一番の秀才だと聞いていた君でもやはり綾部君を宥めるのは無理だったか。同じクラスらしいのでもしやとは思ったのだが」 「そ、それは聞き捨てなりません!! この滝夜叉丸に不可能な事なんてある筈がありませんから!! 綾部、先輩が嫌がっているではないか!! 止めてやれ」 「速攻でお断りしまーす」 「はがっ!!」 説得する間もなく、綾部のチョップに頭を抱えて座り込む滝夜叉丸。 まぁ、なんとも 「「「「情けない」」」」 「こら、四人で同じ事言わなくても良いだろうが!! 綾部、クラスメイトになんちゅーことをするんだ!!」 「ちょうど良いんじゃない? それで少し位馬鹿になれば五月蠅くなくて」 「何だと!?」 こうなってはに逃げる場所はあとのひとつしかない。 なので迷うことなく、は彼の側に寄った。 「後は君だけが頼りだ、三木君」 「は、はぁ……流石の私でも何かに執着する綾部を説得するのは難しいんですが……」 綾部と言う人間は本当に不可思議な存在だ。 学校のいたるところで穴を掘り、はたまた学校でないところでも穴を掘る。 そんな時は誰が何を言ってもやめない。黙々と掘り続けるのだ。だから、何かに夢中になった時の彼は聞く耳を持たない。 「前回はプリンのでかいやつを十個程買ってきて、食べあげるまで人の話聞きませんでしたからね……」 「あー、確か無表情で食べてたよね? あれは俺も怖かったよー」 二人でうんうんと頷く三木ヱ門と滝夜叉丸。 それを聞く限り、やはり彼を止める方法はないのだろうか? 「……腹をくくるしかないのかね、三木君」 「……それが一番安全だと思います」 「いや、まだ諦めるのは早いぞ!! 君なら出来る!!」 「私でも出来ない事はあるんですよ、先輩」 「君は先輩を見捨てる気かね?」 「先輩の安全を一番に考えての意見です」 「……潮江先輩にチクッてしんぜよう。君の後輩は忍耐が足りないと」 「えっ!? それは反則ですよ!!」 委員会の委員長の名を出されて、三木ヱ門がひるんだ。 その瞬間、はその彼を綾部に押し付けて逃走を図る。 「じゃ、少しばかり犠牲になってくれ、三木君。アディオ……」 「ぎゃー!! ちゃん、行っちゃだめー!!」 「ぬおっ!!」 断末魔にも似た悲鳴をあげて、に抱きつきタカ丸がの動きを制止。 お陰では前倒しになり、思い切り顔面を強打した。 「た、タカ丸さん! 止めるって言ってももうちょっと止め方と言うものがあったでしょ!? 相手は女性ですよ!!」 の側に駆け寄り、三木ヱ門がの安否を心配する。 「いたた……ごめんね、ちゃん。でも、そのままは行かせたくなかったから」 の上から立ち上がり、彼も鼻をぶつけたらしくさする。 「タカ丸さん……せめて声をかけてください」 三木ヱ門の手を借りて立ち上がったは少し涙目だった。 顔面から廊下に突っ込んだのだ。無理もない。 「だって、だって! そんな髪の毛ぐしゃぐしゃな状態で行くなんて僕が許せなかったんだもん!!」 「あー、確かに四方八方に飛んでますね」 まじまじと滝夜叉丸はの顔を見る。きっと逃走している間に風や雨の湿気で絡まったのだろう。 「いや、これくらいなんてことはな……」 「駄目。絶対に、駄目!!」 「タカ丸さん、顔が怖いです」 の真正面にいるのはいつもの可愛らしいの笑顔を振りまくタカ丸ではなく、目の座っている危ない人だった。 「ちゃんが気になさすぎなんだよ!! 良いからこっち来て」 ぐいっと引っ張られ、は階段まで連れ、髪をいじられることとなった。 「わっ! ちゃん、髪の毛染めた事ないでしょ?」 「はぁ。確かにないですね。めんどくさいんで染めてないです。それに高級プリンにはなりたくないので」 「高級ぷりん?」 会話の流れから不似合いな言葉に、タカ丸は一瞬手を止める。 「染めて暫く立つと生え際から黒くなるじゃないですか。で、毛先だけ黄色とか茶色とかだと、カラメルの多いプリンみたいで。高級なプリンってカラメルが多く垂れますからね。そんな感じです」 「あー、そう言うことね。可愛い例えだねー。だけどね、大抵はそうなる前に染め直すよ? ちゃんも染めてみる?」 「めんどくさいんで良いです」 「ちゃんの前ではカラーリングも形無しかー。でも染めてないお陰で髪質がそのままだ。小学生の髪みたいで無垢な髪だよ」 「また小学生ですか」 「え? 誉めてるんだよ? 染めちゃったらこう言う髪質は保持できなもん」 「とても誉めているようには聞こえませんでした」 「そっかー。ごめんね。次からはちゃんと褒めるよー」 タカ丸は自分の持っていた鏡とクシを取り出しての髪を整えて行く。 それを傍で見ていた滝夜叉丸はほーとその手先に見入る。 「流石タカ丸さんですね。女子生徒が髪を触って欲しいと騒ぐ気持ちがわかった気がします。流れるような指先はまさに神の手ですね」 「誉めても何も出ないよー。滝夜叉丸君」 少し照れた様子をするタカ丸だが、その手は決して止まることなくまるで何かのメロディーを奏でるピアニストのようだ。 「いえ、本当にそう思っただけです。先輩が先輩らしくなって行くのが良い証拠です」 「滝君。今日の放課後体育館裏で待っているよ。……釘付きバッド持参で行くから」 「そ、それはご勘弁ください!! 私の顔に傷が付きます!!」 「顔だけで済むよう努力しよう」 「先輩、お願いですからこちらを見て話して下さい!! 怖いです!!」 すいませんでしたと土下座する滝夜叉丸には少し呆れたような笑みを零した。 「まぁ、それは半分冗談として」 「半分は本気なんですか」 「言葉のあやだよ。相変わらず滝君は良い反応をするね。少しビビりと言うか」 「その意見私も賛成です、先輩。こいつはウザイほど色んな物に臆病ですから」 「おや、三木君。綾部君と話をしていたのではないのかい?」 綾部を説得してくると言っていた三木ヱ門が三人の側へと寄ってくる。 「一応説得は試みたのですが、やはり綾部ですから言う事を聞かなくて」 「そうか。でも、だとしたら彼はなぜあんなに遠くでこちらを見ているんだい? 今写真を撮れば良い物を」 「『どうせ写真撮るなら見栄え良くなってからの方が先輩も良いでしょ?』と言うことらしいです。その程度の説得しか出来なくて、申し訳ありません」 ぺこりを頭を下げる三木ヱ門に、思わずの可愛がり熱が発動。 言わずもがな、彼の頭を撫でていた。その行動に三木ヱ門は戸惑う。 「あのー先輩。私は中等部ではないですが……」 「そうだね。君は高等部だ。でも、私の後輩には間違いない。それに今私に出来るお礼の気持ちと言ったらこれ位だ」 一通り撫でた後、ごめんねと言っては手を離した。 考えてみれば高校生にもなって女子に頭を撫でられるのは罰ゲームに等しいような気がするが、もう撫でてしまったものはしょうがない。 「君達には迷惑をかけたね。ごめん」 「んー? ちゃんは何も悪くないと思うよ? だって、どちらかと言うと被害者じゃない」 「しかし、巻き込んでしまったのは事実ですよタカ丸さん」 「それなら心配ありません、先輩。綾部と知り合いになった時から慣れているんです。あいつはこういう事件を引き起こしやすいので」 「そうです。綾部のみならず、この滝夜叉丸だって今回以上の事件を引き起こすのですから! だから、こんな事どうってことありません!!」 「三木ヱ門、それはどういうことだ!?」 「聞いて分からないなら、今すぐAクラスをやめる事進めてやる」 また始まる二人の喧嘩にとタカ丸はやれやれと呆れる。 そして、その状態をじーっと見る綾部。 なんとも不思議な光景だ。 「今思ったのだが、君ら四人は仲が良いのかい? 基本いつもいるようだが、接点がまるで見えない」 「えっとね、基本は滝夜叉丸君じゃないかなー」 「と、言いますと?」 の髪をひと房手に取り、クシを使ってすいていくタカ丸が彼女の問いに答える。 「滝夜叉丸君はね、三木君とも綾部君とも知り合いでしょ? その彼が編入したばかりの僕に話しかけてくれたのが切っ掛け」 「ほう。そうなのですか。じゃ、彼はああ見えて面倒見が良いんですね」 「そうだねー。頭が良いから勉強も教えてくれるし、同じクラスの綾部君の事も面倒見てるみたいだよー」 「新しい発見です」 結構自分中心主義の彼だがタカ丸には信頼されている様子。自重を知らないような性格だが、面倒見は良いらしい。 人は見かけによらずと言ったところだろう。 「田村君もね、僕を気にかけてくれてるんだ。彼も優しいよー」 「でしょうね。私の心配をしてくれました」 「綾部君は何考えてるかよくわからないって人に言われるけど、ちゃんと友達には気を使ってるみたいー」 「……そう見える様、努力します」 「あはは。今のちゃんはまだそう見えないか。もしかして苦手?」 「苦手と言いますか、ちゃんと面と向かって話をした事がないのでどうして良いものやらと。本当はちゃんと話をして見たいんです。こんな追いかけられる形とかではなく」 「そっかー。じゃ、今度僕らとお茶でも飲み行こう? 学校じゃなくて普通に会ってみたら皆また違う発見があるかもしれないよ?」 「それは良い提案ですね。機会があれば是非行きましょう」 「うん!! さ、出来たよー」 髪からタカ丸の手が離れたのを確認して、は立ち上がる。 「今、こんな感じ。ちょっとワックスで流れつけてみましたー」 「……これは私ですか?」 タカ丸に借りた鏡に映った自分に只管驚く。 こんな髪型の自分、今までに見た事がない。 「また走るのかと思ったから、崩れても直しやすいようにしてみたんだ。……イヤ、だったかな?」 ちょっと不安そうにの顔を覗き込むタカ丸だったが、それは取り越し苦労だったらしい。 そこには嬉しそうに笑っているがいた。 「あああ!! 女の子って何でこんなに可愛いかなー!!」 「だから抱きつかないでくださいって、タカ丸さん」 その表情は一瞬にしてげんなりとしたものへ変わった。 雨季と言う事でただでさえじっとりとしているのに、にはそれが増したような感じである。 「タカ丸さん、先輩嫌がってますよ」 三木ヱ門がタカ丸を剥がそうとするが、彼は離れない。 「だって可愛いもーん!!」 「そりゃどうも。私から見たら、タカ丸さんの方が可愛いですよ」 「え? そう? ありがとうー!!」 「……はぁ。えーと、滝君。君も剥がすのを手伝ってくれはしないだろうか?」 「え? あ、はい!! タカ丸さん、離れましょう!!」 傍から見たら、の取り合いをしているように見える可能性が高い。 しかし、の嫌そうでしょうがない表情の所為で不思議とそうは見えないのだ。 異性に頓着がないと言うのは本当に恐ろしい限りである。 「……暑い。男三人は暑い」 「先輩、そろそろ写真を撮っても良いですか?」 「綾部君よ。この状況で言うか?」 「動けないなら好都合です」 携帯電話を片手にの真正面で今か今かとその時を待つ綾部。 もう、にしたらめんどくさいことこの上ないだろう。 「……しょうがない。綾部君よ、携帯を貸したまえ」 「嫌です。そのまま没収されそうなので」 「そんな事はしない。そうだな、じゃせめて液晶に撮る側の姿が見えるようにしてくれ。私が自分で撮る」 「おや。やはり先輩も自分の姿は気になりますか」 「気にしない人がいたら見てみたいですね」 しょうがないですね、と言って綾部は自分の携帯をいじり、内部カメラへと切り替えてに渡す。 「これで撮れます。本当は私が撮りたかったんですけどね」 「叶う日が来ると良いね。私もどこかに祈っておくよ」 「させてはくれないんですね」 「気が変わったらあるかもしれない」 こんなやり取りの最中でもの周りではタカ丸を剥がす事に必死な二人がいる。 もう四人団子だ。 「よし。それじゃ、撮るか。綾部君おいで」 「?」 不意には綾部の手を引いて自分の顔の側へと寄せる。 そして、 「はい、チーズ」 が叫んだ瞬間、タカ丸と三木ヱ門、滝夜叉丸は良い笑顔を浮かべ、もそれなりの笑顔を作った。綾部に至ってはそのままの表情。 その瞬間をまさに携帯のカメラは捕らえた。 携帯の液晶にはまるでゲームセンターにあるプリントシールの様な姿の五人が写っている。 これで煌びやかなフレームがあれば完ぺきだろう。 「はい。後は保存でも何でもすると良い」 唖然とする綾部にはニヤッと笑って携帯を返した。 そして、纏わりついて全員を払って立ち上がる。 「先輩……貴方って人は」 綾部は何かを言いかけたようだが、滝夜叉丸によってそれは寸断された。 「先輩! 写真に撮るなら一言言っていただかないと! この滝夜叉丸の美しさが伝わらなかったらどうするんですか!?」 「それなら大丈夫。君はいつでも美しいよ、滝君」 「え? あぁ……それはありがとうございます」 優しい笑みからさらりと出た誉め言葉に滝夜叉丸は反論するのを忘れ大人しくなる。 「三木君も元が良いようだから問題ない。アイドルだって豪語するのは分かる。写真写りが良い筈だ」 「どう、も……」 三木ヱ門も似たようなもので、こちらも立ち尽くすだけ。 「タカ丸さんは見られるのがお仕事ですから流石です。あと臨機応変にすぐ対応が出来ていた。学ぶべき場所です。付き合っていただいてありがとうございました」 「いいよー。僕も皆と写真撮れたの初めてだから嬉しかったもんー」 気にしないでと言って、彼も立ち上がる。 「さて、綾部君。写真は撮れたけど満足かい?」 「……肝心の制服が写ってません」 「ははは。私としては嬉しい誤算だね。ま、それで勘弁して欲しい。私は今から立花先輩から逃げるよ」 タカ丸の言った通り、髪は撫でるだけですぐに元の形に戻る。 それに感謝をして、タカ丸に頭を下げた。 「ありがとうございます、タカ丸さん。それじゃ! 元気でな、後輩達よ!!」 彼女は振り返ることなく、側にあった階段を下りて行った。 次にどこへ行くかは誰も知らない。 「ちゃんてさ、色んな表情するよね。年下だったり、年上だったり、優しかったり、カッコ良かったり。見てて飽きない人だよ」 「……不本意ですがその意見には私も同意します。……女性なのに少しカッコいいと思ってしまいました。何故だか分りませんが……」 「私は優しい顔だと思った。綾部は? ……綾部?」 三人が感想を述べる中、綾部は携帯画面をジーとみているだけ動かない。 まるでそこだけ時計の針が停止しているかのように。 「私が裏をかかれた。……今度はこうは行きませんよ、先輩」 珍しく笑った綾部が携帯を閉じる。 まるで面白くなってきたと言わんばかりの表情だった。 その後、あの写真は他の三人の頼みもあって綾部からメールで送られた。 因みにこの時初めて四人はアドレス交換。 タカ丸はこの機会を与えてくれたにかなり感謝していたと言う話。 こんな出来事があったなんて、別の校舎にいる彼らは全く知らなかっただろう。 作者より 四年生がごちゃごちゃとしてました。タカ丸さんは主人公を小学生のように扱います。 三木ヱ門と滝夜叉丸は女の子である部分以外で主人公を気にかければ良いと思っています(笑) 綾部に関しては何か変化があればいいなという感じで。何気に扱いやすい学年でした。 2010.6 竹中歩 ←戻 進→ |