お前こそ…解れよ、バカ。 彼のグランドフェスティバルは…準々決勝手前で幕を下ろす。 「………」 会場は引き続き行われている予選で盛り上がるが終わってしまった彼には全く関係のないこと。 楽しそうに…必死にバトルする参加者達が今は…妬ましく…むかついてしょうがない。 「…ッ!」 小さく舌打ちをすると彼は会場を後にする。 そして知らず知らずに辿り着いたのはポケモンセンターのロビー。参加者や観覧者は略コンテスト会場に行ってしまったのだろう。人がいないように感じられる。 いつもは人やポケモン達でごった返している筈なのに…今日は酷く寂しい。まるで自分の心のようだと思う。 「どうして…いつもこうなるのよ…」 勝ちたいのに勝てない。優勝杯にすら手がとどかない。こんな思いをどれだけした?こんな悔しさをどれだけかみ締めた?それが嫌でいつも何とか勝とうとしていたのに…どうして今日は正々堂々と戦ったの? 「嫌い…みんな嫌い…」 自分の実力を褒めてくれない人も。 自分のやり方を否定する人も。 自分の前に立ちはだかる人間も。 自分の気持ちに気付かない人間も…全部嫌い。 何時の間にか彼の心は嫌いと言う感情で満たされていく。どうしてこんな事になってしまったんだろう? そんな彼の耳に一つのアナウンス。どうやらジョーイが自分を呼んでいるようだった。 …電話?しかも誰から…? 彼は徐にジョーイから受話器を託されると耳元に当てる。この電話には液晶がついているから誰だかすぐにわかる。負けたばかりの自分に連絡してくる相手なんて… 「≪やっほー!≫」 「んぎゃぁぁぁぁぁぁ!」 液晶に人物が写った瞬間、彼は大きな声で悲鳴をあげる。ジョーイも何事かと自分方を見ていたが何でもないと言って気にさせないようにした。 「何であんたが電話を!」 「≪酷いなー。久々の幼馴染に。≫」 「誰が幼馴染よ。だ・れ・が。」 液晶に写っているのは…準々決勝進出者であるハルカ…によく似た女性。ちゃんと見てみれば別人である事は確か。明らかにこの人物の方が大人である。 「≪幼稚園一緒だったじゃない。小学校も。≫」 「そうね…殆どこどもの頃はあんたと一緒だったわよ」 「≪だねー。だからよく助けてあげたじゃない。嫌いなおかず食べたあげたりとか。≫」 「あれはあんたが勝手にやったんでしょ!」 今思い出しただけでもむかついてしょうがない過去。 あんたさえ居なかったら…もしかしたらハルカに嫌がらせをせずに済んだのかもしれない。 いや、多分した。その顔がむかつくから。 ふと昔の嫌なことを思い出しながらも彼は冷静に電話を続ける。 「で?なんで連絡よこしたのよ?」 「≪あ、うん。グランドフェスティバル…惜しかったね。≫」 「なぁんだ。見てたの?」 「≪うん…まさか幼馴染が映ってるとは思わなくて驚いちゃった。≫」 「それで?嫌がらせでもする為にかけてきたの?」 本当は違う。彼女はそんなことはしない。ハルカに劣らず純粋だから。でも、口からそんな言葉が出てしまう。 「≪んなわけないっての!ただ…凄いと思ったの。あとおめでとうを言いたかった。そこまで上り詰めたんだもん。それだけで立派じゃない!おめでとう!≫」 その言葉は酷く彼の心を傷つける。 「あんたに…何がわかるってのよ…」 「≪え…?≫」 「あんたみたいに人の気持ちがわからない奴が何ナマいってんのよ!」 彼は大きく叫んだ。 彼女は何も知らない。 自分がどう言う姑息な手段を使っているか。 いつも人を陥れようとしていること。 純粋すぎるあんたにはわからない。 「昔から人の気持ちを汲む事の出来ない人間がどうしてこんな時に…おめでとうなんて…」 「≪昔のあんたを知ってるからこそ…でしょ?≫」 彼女は液晶の向こうで…微笑む。 「≪どれだけ性格が酷かったか…私が知らないとでも思ってた?あれだけ酷かった人間が…最後には正々堂々とバトルしてたじゃない。進歩したんだから喜びなさいよ。≫」 硬直する彼。 知ってた?自分の酷い一面も?…でもそんなこと一度も口には… もしかして成長してなかったのって… 「私の方…」 「≪へ?≫」 「いいえ。何でもないわ。」 「≪そう?…あ!いい?グランドフェスティバル終わったら帰ってきなさいよ?迎えてあげるからさ。≫」 いくら成長したといってもあどけない表情はあの頃のまま。全く、そういう所は本当に変わってないわね。 「わかったわよ。じゃぁね。」 「≪うん、じゃぁね!≫」 ブンと言う音を立てて液晶が元の黒い状態に戻る。帰る…か… 「一度里帰りしてみようかしら?」 ここまで悪口も成長したんだもの…もしかしたらあの子に敵うかもしれないから。 「そのときは手加減しないわよ。」 負けたからって…悪いってことないのね。 たまにはこんな事もわるくないかも。 さぁ、グランドフェスティバル見てこなくちゃ! ------------------------------------------------------------END--- おまけです。 彼の幼馴染がハルカそっくりだと言う事で生まれたネタ。 多分…その幼馴染の事彼は好きなんだと思うんですが… 乙女フィルターかかりまくりです。 2006.7 竹中歩 |