「まだ皆お弁当食べてるわね…」 少女はそう言葉を漏らしながら窓に寄りかかる。 こげ茶色の髪に青系の瞳。それが彼女の持つ色。少女の名はハルカ。鳳炎学園中等部に所属する少女。元気で明るく何事にも前向きなのが彼女の取柄。しかし、その取柄は今存在していない。 「ハルカ…まだ続いてたの?」 「うん…進歩無し。」 友人の少女がハルカの横に座る。 『まだ続いてる』それが何を意味するか… 『体育祭〜君が強い当日〜』 「しばらく距離をおいた方が良いと思う。」 「…は?」 それは唐突な一言。ハルカを驚かせるには十分すぎるほどだった。 その言葉を言った主はシュウと言うハルカの親友。学園で言う典型的な王子様体質の人間で、何でもできるパーフェクト人間。但し、性格に少々難ありと言う緑の髪と同系色の瞳を持つ男子。それがシュウだ。 「何言ってるの?いきなり。」 「だから…距離をおこうといってるんだ。君と僕は…距離が近すぎる。」 「そう?」 「そうだよ…僕らは友人であって恋人じゃない。」 「ま…確かに。」 シュウとハルカの関係は簡潔に述べると友情である。しかし第三者の目から見えればとてもそんな低い間柄には見えない。 登下校はもちろんの事、クラスでは隣の席、部活は同じ弓道部、そして同じ街に住んでいる。そのような条件のためか一緒に居る時間はかなり多い。そう…丸で恋人のような時間の過ごし方。 「だから距離をおこうと思うんだ。」 「でも…何で今更?ずっとこうしてきたじゃない。」 ハルカの言うことは最もだ。1ヶ月程度そんな風に過ごして苦痛に感じているのなら言っても無理はない。しかし、二人がそんな関係を持ち出したのは昨日今日の話ではなくもっと前。なのに今更? 「今更だとかそんなことは関係ない。ただ距離をおきたいんだ。」 「そんなの理由なってないわよ。もっと詳しく説明してくれなくちゃわかんないかも!」 机を大きく叩いて立ち上がるハルカ。納得のいかない理由で一方的に距離を置きたいと言われて飲み込めるわけが無い。 「ごめん…」 唯その一言を残してシュウはその場を離れた。 次の日からシュウの行動はあからさまで…距離をおくと言う意味をハルカは痛感することとなる。 登下校いつも一緒だった電車や時間をシュウはずらして先に行くようになり、隣の席で痴話げんかをしていた頃が懐かしくさえ感じるほどシュウは無口になった。部活に出ても話し掛ける隙さえ与えられず、同じ街に住んでいても会うことさえなくなり…事実上本当に距離を置かれてしまうこととなった。 それが数日前の出来事。 「まさか体育祭まで引きずるとはね。」 「本当だよ。係一緒だったから会える時間多いと思ったのに…私の居ない時に限って仕事こなしてるみたい。卑怯だよね。」 「まぁ、頭の良いシュウが考えそうなことだわ。」 心地よい風が吹き抜ける廊下で話し込む2人。 昼休みと言うこともあってか2人の居る校舎には誰も侵入してこない。 「どうして…距離を置くなんて言い出したんだろうね。」 「それが分ったら苦労しないかも。」 「そうだよね…クラスの人間も違和感感じてるみたいだよ。いつも一緒の二人がバラバラに行動してるから。」 「そんなに私シュウと一緒だった?」 「一緒だったよ。本当恋人同士じゃないのが不思議なくらいに。だから分らないのよ。どうして2人がそうなったのか…」 「はぁ…」 大きなため息を漏らしてハルカは窓の縁に突っ伏す。 理由がわかっていればここまで悩まない。理由があって距離を置かれたのならしょうがないと割り切れたと思う。だけど『ごめん…』その一言で一方的に距離を置かれたのではたまった物ではない。何とか理由を聞こうと試みるが電話には出ないしメールも返してこない。これでは距離を置くと言うより『無視』されているに近い気がする。 「ハルカが居ないのいいことにシュウ様ファンクラブも動いてるみたいだね。」 「そうなのよね…見つけたと思ったら既に他の女子にさき越されてるし。」 シュウ様ファンクラブとはその名の通りシュウのファンクラブ。容姿も良くて運動も出来、その上頭良いとなればモテルのは当然のこと。ハルカの出現でシュウから遠のいていた会員メンバーだったが、シュウがハルカと距離を置いて1人になる時間が多くなったのをいいことに我慢していたメンバーの動きは活発化の一途を辿る。 「どうにかして話し合いの場でも持てたらいいんだけど。」 「話し合いの場…ね…あ!もう午後の競技の時間だよ。行かなきゃ。行くよ…ハルカ。」 「うん。」 名残惜しさを感じながらハルカはその場を離れグラウンドへと足を運んでいった。 「シュウ!」 「ん?」 午後の競技始まってグラウンドが再び活気を見せ始める最中、シュウと呼ばれる少年は友人と思しき男子に呼び止められた。 「どうかした?」 「どうかしたじゃねぇよ。どうしたんだよ?お前らしくも無い。」 「僕らしく?一体何の…」 「惚けても無駄。ばればれだっつーの!…何でハルカちゃんのこと無視するんだよ。」 お節介と分りつつも少年はシュウに不可解な行動の理由を追及する。先ほどハルカの友人も言っていた。クラスの人間もおかしいと感じ始めているということに。彼もその1人に間違いない。 砂埃が舞うグラウンドをシュウは入場門付近から見つめていた。 「無視してるつもりは無い。ただ…これが普通の男子と女子の関係じゃないかい?」 「普通って…確かにお前の言うとおり世間じゃ俺らの年の男女ってのは恥ずかしくて距離置きたがるけど…お前のは度が過ぎてる。」 「僕は…そうは思わないけど。」 「絶対にそうだって。それにお前らは最初っからそんな関係じゃなかったじゃん。あんなに仲良かったのに…どうして…」 「それが普通じゃないって気が付いたから…」 「へ?」 「僕達は近すぎたんだよ。だから普通に戻ろうって…それが彼女のためにもなるから。」 その言葉には何か特別な意味がこめられているのがわかる。…だが友人の男子はそこで引き下がるような人間ではなかったのシュウは忘れていた。 「ハルカちゃんが望んだんならな。」 「え?」 「それをハルカちゃんが望んだんならハルカちゃんのためにもなるけど…望んでないのに一方的にぶつけてもそれは迷惑だってこと。それ考えたか?」 度肝を抜かれた…。いつも考えるのは苦手と言っていた友人からそんな深い言葉が生まれるなんて。シュウは大きく目を見開く。 「驚いたね。君からそんな風に言われるとは。」 「そうか?」 「そうだよ。確かに君の言うとおり彼女が望んだ結果じゃないかもしれない。でも…その方が彼女のためなんだ。」 グラウンドを見つめる少年の目は何かを秘めていた… 「何で棒引きなんてあるんだか…」 「そう?私棒引きって大好きかも。」 「ハルカは運動なら何んでも好きでしょ。」 グラウンドの端の方で誰にも聞かれることのない2人の会話。女子にとって午後一番の目玉『棒引き』が今始まろうとしていた。 棒引きとは真ん中に置かれた数本の長い棒を多く陣地に入れたほうが勝ちと言う競技。女子全員参加ということもあって白熱したバトルには間違いない。 「しかも向こう…作戦会議長すぎよ。」 「足の速い人間を先に行かせるか…それとも力の強い人間を疎らに置くか…作戦によって有利になるからね。」 「ハルカの口からそんな頭を使った言葉が生まれるなんて…どうか閉会式まで雨が降りませんように。」 「わ、悪かったわね!」 「『各団用意をして下さい』」 「ほら、始まるわよ。ハルカは先に走ってあの棒引っ張ってきてよ?」 「了解!」 グラウンドの略中心で係の少年が合図用のピストルを空に向ける 「『よーい…』」 『パンッ!』 心臓に悪い音がグラウンド全体に響きわたった。それを合図に少女たちは棒にめがけて突進する。 「一番乗り!」 「そうはさせない!」 足の速いハルカが一番最初に目的の棒へたどり着くがその棒を狙っていた敵の人数が多く、形勢が逆転する。 「最悪かも!でも、譲れない!」 「それはこっちだって一緒よ!」 男子にはないと思われる競技中の口論。まだこれは可愛い方だ。酷い時は『離せ馬鹿!』『お前こそ離せ!』という罵倒が飛び交うことも屡。 「もう……」 目をつぶって棒に力を入れる。気が付けばその棒にはかなりの女子が群がっていた。既に陣地に自分たち担当の棒を入れあげた女子や、諦めて形勢の良さそうなこちらへ応援に来た女子等。こう言うときの団結力は強い。 「諦めないでー!」 「最後まで頑張って!!」 いろんな声が飛び交う中…ふとハルカはそれが自分に言っているように聞こえた。 そうだ…自分はまだ何にもしてない。 話し合いの場だってどうにかすれば持てるはず。 何もしていないのに諦めるつもり? 最後まで頑張ってみなくちゃわからない… それから諦めたって遅くは… 『パンッ!』 競技終了の合図の音が再び耳に入る。その時点で自分の陣地に入ってない棒は直ぐに手を離すのがこの競技のルール。直ぐに女子は手を離す。 「ハルカ、手離しなよ。」 「あ…うん。」 自分の世界から戻ったハルカ。気が付けば棒を持っている少女たちは既に帰還を始めていた。それに混じろうと手を離そうとした瞬間何かに強く引っ張られる。 「?!」 「ハルカ?!」 この競技で一番危ない所は多くに人間が引っ張る棒に一人でしがみつくこと。それは引きずられるため怪我の可能性が極めて高い。そうなる前に保護に当たっている教諭が離すようにと指示をすることが稀にみられる。 しかしそれは競技が終わっても起こる事態。時々協議が終了しても自分の陣地に棒を持ち帰ろうとするルール破りの女子たちが居る。気が付けば…ハルカは……… 「…盛大にやられたわね。」 「あはは…」 「あははじゃないわよ。どうするのよ?期待の星が負傷して!」 あっけらかんと笑うハルカに激怒する友人。 土埃まみれの体操服、小指の辺りから肘の辺りまでの大きな擦り傷、顔や髪についた砂。そして…右ひざから地面にまで流れる夥しい流血。膝は皮がめくれているのが良く分る。保健の先生曰く『この体育祭で今回一番の負傷者』その不名誉な栄光に輝いたのは案の定ハルカだった。先ほどの棒引きで人数が少なくなったのをいいことに3人の女子が棒を思い切り引っ張ったため、まだ棒を掴んでいたハルカは不意打ちを付かれその巻き添えになり、かなり引きずられた。それがこの状況を生む。 「たいした事ないって。」 「たいしたことって…引きずられた性で体操服捲れてわき腹の辺りも擦り傷作ったでしょ?」 「本当見られなくて良かったよ。捲れあがったの地面に面してたところだから。」 「良かったじゃなーい!」 どうやっても平常を保つハルカに友人は激怒を繰り返す。そうしてここまで普通でいられるのかと。 「保健の先生もここでお腹めくるのは嫌だろうから保健室開けるって今開けに行ってくれてるんだから。あいつに同行してもらった……あ…そっか…」 少女は口ごもってしまう。ハルカが一大事の時には呼ばなくても何時の間にか傍にいたその人は…今いない。いや、来てくれないのだ。それを言ってしまえばハルカを落ち込ませるのは分っていたはずなのに…。それをつい口走ってしまった自分を責める少女。その少女の顔を見てそれが分ったのか 「ううん。1人で平気。」 ハルカは宥める。 「ごめん…。」 「いや、私の不注意だし…でも…そんなに私甘えてたのかな」 「え?」 「なんか何時も何かあったときはシュウに頼ってたのかなって…今の言葉聞いてそう思った。」 「そう…かも知れないね。ハルカの行動は手におえないっていつもあいつに押し付けてたから…」 「それで愛想尽かされちゃったのかも…」 臨時に作られたテント下の保健室。その一つの椅子に腰掛けているハルカは視線を地面に落とす。 「いつも甘えてばかりだったから…だから…」 「んなわけないでしょ。」 「え?」 馬鹿らしいという態度で友人は言葉をはき捨てる。 「少なくともシュウはハルカに頼られるのを嬉しいと感じてるはずよ。それはクラス全員が知ってると言っても過言じゃないわ。見てて分るもの。」 「そう…かな?」 「ハルカは鈍感だから。ねぇ?シュウってハルカに甘えられるの嫌いじゃないはずよね?」 ハルカの負傷を心配して駆けつけたクラスの友人たちに少女は問い掛ける。 「うん。嬉しいはずだよ。だってもし嫌だったとしたらシュウ君の性格上きっぱり断ってるはずだもん。」 「そうそう。文句言わずにハルカの傍でサポートしてるのは嫌いじゃない証拠よ。」 「シュウとは小学生時代から一緒だけど、あんなふうに嫌味言うのはハルカちゃんだけだし。きっと嫌味は愛所の裏返し。だから嫌って筈なんてない。」 「本当に?」 「本当だって。ここにいる皆がそう思ってる。だからきっと今回の無視だって理由があるはず。怪我の手当てして落ち着いたらもう1度挑戦すればいいじゃない。ね?」 友人たちの証言を最後にまとめた友人はハルカの背中を大きく叩く。大雑把で豪快で男勝りな友人らしい励まし方。 それに何かを貰ったのかハルカは 「そうだね…よし!」 怪我など諸共せず勢いよく立ち上がる。 「ねぇ、交代してもらえない?」 「え?」 「この次の障害物競争。さすがにこの足じゃ無理だから。」 「いいけど…どう見ても元気そう…」 その疑いの眼差しを向けられたハルカはにっと笑う。 「私が怪我してここにいるのは全校生徒知ってるはずだよね?」 「うん。グラウンドで思い切り派手に負傷したからね。」 「そう。…そして点付け係は私ともう1人。私が怪我したってことは必然的にそのもう1人が得点板のところに行くのが普通。」 「もう1人って確か…?あ!…」 「そういう事かも!頼める?」 「…しょうがない。友人の為に一肌脱ぎましょう。絶対に納得してくるのよ?じゃないと教室の雰囲気が重くてしょうがないんだから。」 ハルカは決断の面持ちを『ありがとう』と言うとテントから走っていった…。 「あの2人がいると本当毎日が面白いよね。」 「本当だよね。」 「あら…ハルカさんは?」 保健室から戻ってきた教諭は首をかしげる。 「怪我より大事な事件解決しに行きました。」 きっと大丈夫だよ…皆見守ってるから… 「形勢逆転か。」 得点板の点数を張り出した後にシュウはそう呟く。今さっきの棒引きで最下位だった団がトップに浮上した。 「最後までわからない戦いになってきたね。」 「本当そうかも。」 誰もいないはずの校舎の廊下に聞き覚えのある声が木霊する。 「…なんで……」 さっきグラウンドで酷い負傷をして保健室に運ばれたと聞いていたのに何でいるんだ? そして驚いたのことにまだ血がとめどなく出ている膝。手当てなんてしてない。 「怪我…」 「怪我なんて後で消毒すればいいのよ。でも…シュウと話す時間は今しかないって思ったから…このまま来たかも。」 「どうして?何か話すこともであった?」 ハルカの気持ちを分っていながらもシュウはそっけなく振舞う。 「どうして?…どうして無視するの?」 「無視なんてしてない。話してるじゃないか。」 「必要最低限のことだけね。でもそれは無視と変わらない。」 「君は本当に馬鹿だね。無視というのはその人の存在をわざと抹消することで…」 「今のシュウはまさにそれじゃない。何処が違うのよ。」 「………」 痛いところを付かれた。確かにそれは当たっていた。言い返す言葉失ったシュウは黙り込む。 「ほらそうやってすぐ黙る。卑怯よ。」 「………。」 「勝手に距離置こうって…勝手に自分で考えて結論出しちゃって…それを私に押し付けて『ごめん』の一言で済むわけないでしょ!」 怒るのは最も。シュウは耳を傾け、怒りを受け入れるつもりだったが……… 「ごめん…」 意に反して思いがけない言葉が耳に入ってきた。どうして謝る? 「どうして君が謝る必要が…」 「私が頼ってばっかりが嫌だったんでしょう?シュウがおかしくなったの私がジャージ借りるの断った時からだもん。頼られるの分ってたから貸そうと思ったのにそれを断られて…それに腹立てたんでしょう?いい時にだけ頼っていらない時には頼らない…甘えない。そんな都合のいい話があるかって。だから距離置いたんでしょう?」 違う…違うんだ。 「もし怒ってるんだったら謝るかも…ごめん。」 距離を置こうって言ったのはそれじゃない… 「本当ごめん…シュウのこと頼り切って…もう甘えないから…」 どうして何処まで素直なんだ? 「私のことは自分でやるから…」 そしていつも最後には… 「嫌いにならないで…」 強気と困惑を持ち合わせた表情とはな顔とは対照的に頬を伝う雫。 …それは誰でもなく自分の為に泣いている涙。 「君のせいじゃない…」 漸くシュウは口を開く。何時の間にか流し始めていた涙は一瞬止まり、力の限り握り締めていた鉢巻へと力が緩む。 「え?」 「はぁ…結局泣かせてしまったね。」 眉一つ動かさなかった冷たい表情は困惑な表情へと変化する。 「泣かせないつもりでとった行動が裏目に出てしまった…。何やってるんだか僕は。」 「どういうこと?」 「…君を困らせないために距離を置いたんだ。」 「?」 「わからないって顔だね。君…上着借りなかった理由覚えてる?」 数日前のシュウが変わり始めたあの事件を思い出す 「確か…シュウ様ファンクラブが見てたから。借りたら何言われるかわかんなくてそれがあったから…」 「そう。つまり僕といると君に迷惑がかかるのがあの時に分った。だから距離を置こうって言ったんだ。」 「迷惑?何が?」 真剣に話をしているのに持ち前の鈍感さ故かどうも話を理解していないらしい。それにシュウは呆れた眼差しを示し、馬鹿にする。 「だから、僕といると僕のファンクラブが君に危害を少なからず与えるから、この先そうさせない為に距離を置こうって言ったんだ。」 「え、ちょっと待って、シュウは私がシュウのファンクラブを怖がってるって思ったの?」 「そうだよ。まぁ、前々から気が付いていたけど君が平気だと言うからさりげなくフォローだけしていた…けれど実際怖いと言ったから僕は距離を…」 その言葉を言った瞬間熱いものが頬に当たる。 「……」 何が起きてかは直ぐに分った。ハルカが殴ったのだと。しかも女子なのに平手ではなく拳。一応手加減はしてくれたのだろう。そこまでは痛くない。 「馬鹿じゃないの?!」 「どうしてここで殴るかな…」 「殴られた意味わかんない?」 「今の段階ではね。」 「だぁー!あのね、私はファンクラブが怖いなんて言った覚えてないかも!」 「だってジャージの時に…」 「借りなかったのは、借りた時にぐちゃぐちゃいわれて状況を説明するのが面倒くさかったから!それだけよ。」 …え……? 「勝手に勘違いして距離置いて…私確実に被害者かも。」 「怖がってたんじゃ…」 「前はね。でも今はそこまでじゃないわよ。免疫もなんとなくだけど出来たし。それに…見くびられてたことに腹が立つ。」 一変した状況で冷静を保とうおと必死なシュウ。そして怒りっぱなしハルカ。 「見くびる…僕が君を?」 「そうよ。ファンクラブごときを私がそこまで怖がってると思われてることよ。言っておくけど怖がってたらシュウと一緒にいるなんて出来ないわよ!私はそこまで柔じゃない!あーもう腹が立つ…」 その言葉を聞いた瞬間何故か笑がこぼれた。 「はは…」 「ちょっと勝手に笑わないでくれる?!」 「ごめん…そうだね。失礼だったよ。本当にごめん。」 そうだ…彼女を大切にする余り忘れていた。元々強い人だったということを。 「もう…あー。本当に馬鹿みたい…」 「本当にごめん。」 「謝っても許さない!……罰として何か奢って。」 「はいはい。何なりと。」 誤解が解けて何故か心が緩んだ。1人で空回りしていた自分が馬鹿みたいだ。 「それに…ちょっとがっかりしたよ。」 「え?」 笑いが少し引いたシュウだったが、反対にハルカまた悲しそうな瞳を足元に落とす。 「距離置くんじゃなくて…守ってくれればそれでいいんじゃないの?」 守る…そうかそう言う考え方もあった… 「それともシュウは女子を守れないほど弱いの?」 「いや…そうだね。守ればよかったんだ。僕としたことが…」 クラスメイトの男子の言葉思い出す。 『ハルカちゃんが望んだんならな。』 彼女が望んだやり方をすればよかったのに…どうしてあんなことをしたのか…本当に自分は馬鹿だ。 「ねぇ…守れない?」 「さぁ…僕が出る必要すらない気がするけど。」 「それどういう意味よ。」 「考えてみれば分るかもしれないよ。…そろそろ棒倒しの時間だね。」 「あ…そっか…」 女子全員参加の棒引きがあるように男子には男子全員参加の棒倒しと言う競技がある。守りと攻撃に別れ自分の陣地にある支柱を倒されないように守りつつ、敵の支柱を攻撃が倒しに行くという競技。危険度は高いがスリルがあるためかなりの人気を誇る競技。 「シュウはやっぱり守り?」 「いや、攻撃。」 「うそぉ!だってシュウって華奢だから…」 「身長が低い男子はすばしっこいから攻撃になりやすいんだよ。」 「ご愁傷様。」 「そう思うなら応援でもして欲しいね。」 「精一杯させていただきます。」 「それと…」 「ん?」 「帰ってくるまでに手当てしておくんだよ。」 「はーい。」 こうして2人は和解しいつものテンポで階段を下りていきグラウンドへと姿をあらわした。 「手当てまだしてないじゃないか。」 「いや応援に夢中で…」 「夢中でって…痛くはないのかい?」 「峠は越したかも。」 「さっさと手当てしておいで。見るに耐えかねるから。」 シュウの団の団長が支柱を倒したためハルカ達の団の勝利で終わった棒倒し。退場後ハルカがまだ傷の手当てをしてなかったことにシュウは少し怒る。 しかしその会話の最中ハルカの行動が止まった。 「どうかした?」 「ううん。何でもないかも。ただちょっと…」 「ちょっと?」 「華奢でもシュウのこと頼っても平気かなって思っただけ。」 「……?」 「さぁて、保健室行こう。」 「自由奔放だね君は。」 華奢でなんか頼りなさそうだと思ったけど… 棒倒しで必死に戦った後がシュウの背中にあったから… 叩かれた後とか引っかき傷とか。 攻撃は守りと見分ける為にシャツを脱がなきゃいけないって聞いたけど、 それの性で余計に怪我してた。 それでもシュウは戦ってたのかと思うとやっぱり強いんだと思う。 だからいざって時は……頼っても良いかな? 晴天の体育祭…波乱のあった数日間は漸く幕を下ろし… その問題の2人の絆は寄り深まったと言う…。 END 作者より… 棒倒し・棒引きって私の地区だけなんでしょうか? わかんない方がいたらごめんなさい。 危険と言う事で禁止している学校もあると聞きますが、 男子がやっぱり輝くのは棒倒しだと思ってます。 本当は騎馬戦でも良かったんですが、 私の学校は男女混同なのでどうやっても応援どころじゃないと判断。 そして棒倒しに。 棒倒しが終わったあとの男子って本当大変だと思います。 シャツを脱ぐと言うのは私の学校の仕来りみたいなものです。 上半身裸かシャツ着てるかで攻め・守りを見分けて戦います。 攻撃の子は傷だらけなんですよ。守りの子達に引っ掻き回されて。 しかもすっばしこい人間で選考するのが当たり前なので 身長の小さい男子ばっかり。それをシュウにしてみました。 たまには男の子って所見せてあげたかったんです。 頑張ったね。 ハルカの怪我ですがアレは友人の実話です。 血だらけになって大騒ぎ。 体育祭は傷が勲章とは言いますが程々に。 でも良い思いでなれば良し! 体育祭はやっぱりいいな… 2005.11竹中歩 |