悪夢のような一日はようやく終了した。 私は放課後になって制服を返してもらい、試着室で自分の制服に着替える。 馴染みのある制服は例え似合わなくても愛着のあるもので、それを身につけるととても落ち着いた。 中等部の制服も一日着ていたおかげである程度は愛着がわき、少し返すのが名残おしかったが、そんな事を言おうものなら絶対にまた着せられそうなのでここは黙っておこう。 なので、無表情でありがとうございましたと言って立花先輩に制服を返す。 その脇では風紀委員の中等部後輩達がほっと胸をなでおろしていた。 やはり心配と罪悪感にでも見舞われていたのだろうか? 綾部君に至ってはずっと携帯電話と睨めっこしているので何を考えているか分からないが。 「今日は一日楽しかった。礼を言うぞ」 「そりゃ良かったですね。私は自習出来なくて成績落ちるかもしれないですよ」 「その時は私に言うと良い。私直々に勉強を教えてやろう」 「生きた心地がしなさそうなので遠慮しておきます」 早々に帰ろう。 風紀委員長のくすくすとした笑みをそう思った。だが、ある事を忘れていた事に気づく。 「そうだ。私立花先輩に皆の為になる事言ってなかったですよね?」 「……何の事だ?」 「受け止めたくない現実かもしれませんが、受け止めましょう? 私、良い案があるんですよ」 白を切る先輩に向かって私は口の両端をあげてその案を口にする。 その瞬間、唯でさえ白い肌の先輩の顔が蒼白になったのを私は見逃さなかった。 雨の日に遊ぼう!! 報復の段 悪夢の日から数日過ぎた日の放課後。 明日は休日とあって、帰路に付く生徒達の顔はどこか晴れやかだった。 私ももちろん嬉しそうな顔をしているに違いない。 特に今日は違った意味で。 「あれぇ? ちゃん帰らないの?」 「うん。今日はやる事あるから」 「そっかぁ。何するかわかんないけど頑張ってねぇー」 「ありがとうー。そっちも気をつけてねー」 スローテンポで有名な級友に手を振り、私は彼女を見送る。 そのあともクラスメイトなんかが声をかけてきたが、似たような事を言って私は校門のわきから動かなかった。 その人が来るのを待っていたから。 そして漸く待ち人は来る。 驚きの声をあげた少女達と少年達の声に包まれて。 「さぁ、来てやったぞ、」 キラキラ、キラキラ。 丸でダイヤモンドダストのように儚く、淡く、煌びやかな笑顔をしてその人は前に現れた。 薄汚れた作業着を着てやけっぱちと思しき笑顔で。 「ぶっ!!」 思わず耐えきれずに噴き出す。 いや、それを指定したのは私なんですがね。あまりにも不似合いなのに、笑顔なのでつい。 しかもご丁寧に誰か先生に運転までさせて、ぼろい白の軽トラックで来てくれる完璧さの追求ぶり。 ある意味脱帽です。 「……大変お似合いですよ。立花先輩」 「誉めるなら真正面を見て言え」 「す、すいません……直視が……ぷっ!」 「ー!!」 がっと笑顔のまま、先輩は私の頭に爪を食い込ませる。いわゆるアイアンクロー。 はっきり言ってとても痛い。痛いが、この人をここまで追い詰められているのでその痛みはいつもより半減している。 なぜ立花先輩がこのような姿をする羽目になったのか。 それは私が立花先輩に課した『皆の為に出来る事』が理由である。 最初は何をやらせようとかと必死に考えた。あまり重すぎるものは可哀そうだし、後の祭りが怖い。 ある程度のことで先輩に仕返しと言うか罰になる事はなんだろうか。 六時限目が終わって、風紀室に向かう途中必死に考えた。 その時耳にしたのである。『学園長先生の思いつき』の結果を。 元はと言えばどうして先生達は集められたのか知らなかった。 まぁ、思いつきと言う事で大した理由ではないだろうと思ったのだが、今回は意外にまともだった。 なんでも来る学校視察の際に学校の景観を良くしようと先生達に持ちかけたと言うのだ。 確かに見た目は大事だ。しかも学校視察ともなればある程度お偉いさんが来るだろう。だから学園長先生も何かしなければならないと思ったんだと思う。 それで、先生達からいろいろな提案が出された。 前日に皆で大掃除をしようとか、壊れている棚を直そう等など。六時間全部使って話し合っただけに結構いい案がまとまったらしい。 そしてその中の一つに私の考えは集中する。 『校門わきに花を植えて明るくしよう』と言う先生方の会話に。 確かに校門から入ってすぐの場所はちょっとした芝生があるだけで少しさみしいとは思っていた。 なので、その案はとてもいい案だと思う。 そしてそこから私は今回の案を思いついたのだ。だから気付いた時には体が動き、その先生を引きとめその役を買って出た。 もちろん、立花先輩の為に。 そして今に至る。 「全く……なぜ私がこんな恰好を……」 「そう言わないでください。格好以外は立花先輩においてデメリットはないんですから」 確かに先輩が気にするほど先輩には作業着は似合っていない。 でも、それを除けば良い事ばかりなのだ。 花を植えると言ったのは立花先輩にしておいたから、立花先輩の株は上がる。 そして、その作業風景を見れば、他の先生方や生徒の株も上がる。 その上彼のファンの女子たちは珍しい格好を見れたと(一部の女子が)沸き上がる。 だから、悪い事はない。 私も先輩にある程度の罰を与えられたので、ある意味一石二鳥なのだ。 「はぁー。それにしても立花君が手伝ってくれるとは嬉しい限りですね」 よいしょと言ってトラックから降りてくる先生。 はて? 見覚えがない。 「そちらの彼女も手伝って下さるんですね?」 その先生は明らかに私へと視線をやる。 やっぱり見た目で分かるよね。私、今作業を着てるからね。 この学校は専門的な知識を扱う授業がある為、動きやすいように作業着を支給される。 A組は良く分からないけど、B組とC組はほぼ必須だ。 デザインは電気工事の人とかが着てるシンプルな作業着。 色は学年ごとに違い、立花先輩の学年は薄い深緑で私は薄い鼠色の様なもの。 だから、一発で手伝う人間だと分かったのだろう。 「そう言えば名前を聞いていませんね。お名前は何と言うのですか?」 「あ、はい。と言います。二年C組です」 「そうですか。今回は立花君とこの役を引き受けてくれて嬉しいですよ。この雨の時期は皆さん土を触るのを嫌がりますからね。あ、私は『吉野作造』と言います」 「吉野先生ですか。初めまして、ですよね?」 「あ、そうなりますね。私は基本的に事務員の様な仕事をしていますから生徒と触れ合う事はないんですよ」 「なるほど。だから見た事なかったんですね」 言っては何だが、一度見たら忘れなさそうな顔だもの。あった事を忘れる筈がない。 その髭と眉毛は特徴的すぎます。 「立花君。君の事を学園長は大変褒めていましたよ。自ら買って出てくれるとはと」 「は、はぁ……恐れ入ります」 なんとも腑に落ちない返信をする立花先輩。 まぁ、無理もない。本当は私が強制的にやらせているのだから。 「それでは始めましょうかね。そんなに数はないですが、早くやらないと日が暮れますから」 よいせとトラックの荷台から花の咲いたプランターをいくつか下ろす。 ピンク、紫、赤、黄色、白等など。何とも晴れやかな花達だ。多分パンジーか何かの親戚だと思う。 うん。これを植えれば確かにこのあたりはにぎやかになるだろう。 「では早速、この花を埋めていただきたい。あ、でもその前に土を掘り起こさなくてはいけませんね」 「あぁ。それなら大丈夫ですよ。そろそろ奴が来ます」 漸くやる気になったのか立花先輩は少し強気に笑ってそれが来るのを待った。 そう、薄い菖蒲色の作業着を着た人物が私達の元へ来るのを。 「綾部、遅かったな」 「スコップとシャベルどちらにしようか迷っていたんです」 「そして結局両方持ってきたのだな?」 「はい。どれくらいの穴を掘るかも聞いていなかったので。……先輩、こんにちは」 「こんにちは、綾部君。君も参加だったんだね」 「ええ。立花先輩が自分だけ罰を受けるのは理不尽だと言うもので」 そうか。言われてみればそうかもしれない。 私はあの日、二人から逃げていたのだ。最後の最後まで追いかけていたのが立花先輩だったから忘れていたが、彼も私を疲れさせて一人であることは間違いない。 「えーと、それでは綾部君も手伝っていただけるのですか?」 「ええ。こいつが穴を掘ります。そして私とで花を植えて行くと言う過程ですね」 「わかりました。それではお願いその方向でお願いしま……」 「僕達も手伝います!!」 さぁ作業にかかろうかと思った時、不意に後ろから声をかけられる。 誰だろうと思って振り返ると底には体操服を着た風紀委員の中等部の姿があった。 「今の声は……兵太夫君かい?」 「えへへ。僕たちも手伝いますよ」 少しはにかんだような笑顔の兵太夫君。 その横にはちょっとムッとした伝七君。 そして困ったような表情の藤内君。 私の知っている作法委員会のメンバーだ。 「綾部。お前が声をかけたのか?」 「私はかけていません。単に独り言言っただけです。先日の事件の罰で花を植えると」 「それ、ほぼ言ってるよ綾部君」 はぁとため息をついて私は頭を抱える。 天然なのか確信犯なのか。 彼は無言の圧力をこの後輩達にかけたに違いない。 「えーと……君たちは手伝わなくて良いよ? 何も悪いことしてないし」 「そうはいきません!! ……僕らも先輩に迷惑をかけましたから」 伝七君が必死の形相で私に迫る。 あぁ、相当気にしてたんだなこの子。ちょっと泣きそうだもん。 「私も伝七と一緒です。今回は風紀の責任ですから僕らも参加します。むしろ先輩は何もしなくて良いと思うんです」 「え? 私が?」 「そうです!! だって先輩は被害者じゃないですか!!」 そう言われてしまっては返す言葉がない。……と言いたいところだが今日はそうもいかない。 だから私は藤内君を見て笑う。 「いやー、今回は私も罰を受けるべきだと思うんだよ。相当色んなクラスの自習を邪魔したからね。だから私こそ参加すべき何だ」 今回の罰は自分にも課したものだ。 もちろん、立花先輩の醜態を見てみたいと言うのもあったが、私だって自分のわがままで逃げた。本当なら写真を撮らせてはいおしまいで良かった筈なのに。でもそうはしなかった。 自分を守るのを優先させたから。 だからこの作業は私も受けるべき何だと思う。それに、結構楽しい作業だと思うんだ。 「でも……」 「その気持ちだけで十分だよ」 きっとこの中であの事件を一番気にしているのは藤内君だ。 一番の常識人だし。ここまで悩んでくれただけで十分 「それに、私立花先輩が良い汗流しながら花植えるの見てみたいしね」 にやっと笑って立花先輩の方を見る。一瞬怯んだように見えた。 「先輩も結構人が悪いですねー。立花先輩と同じくらいじゃないですか?」 「誉め言葉として受け取っておこうか、兵太夫君」 くすくすと私は兵太夫君と笑った。あの立花先輩の怯んだ姿を見れるなんてそうそうないもんねと言わんばかりに。 「えーと……どういうことでしょうか? 罰とか何とか聞こえましたが」 その声ではっとする。 そうだ! 吉野先生はこの作業が罰だと言う事を知らなかったんだ!! うぉ!! やばい!! そう思った時、立花先輩が先生に笑う。 「気になさらないでください吉野先生。自分から進んでこの作業をやりたいと言うのが恥ずかしいからそんな建前を作っているのですよ。なぁ、?」 「は、はい! その通りです!!」 「と言う事です。ですからお気になさらず」 「なるほど……そう言う事ですか」 少し疑った表情でこちらを見ていた吉野先生だが立花君が言うのですからそうなんでしょうとなんとな納得した様子。 私はあらためて立花先輩の信頼が厚い事を知る。 「じゃぁ、作業を始めましょうか」 吉野先生の声で漸く作業が始まる。 女子たちが立花先輩を中心に携帯電話で写真を撮り始めると言う異様な光景の中で。 綾部君が穴を掘る。 立花先輩と私が花をその穴に置く。 兵太夫君と伝七君が埋める。 最後に藤内君が水をまく。 これが作業の流れだ。 途中大きな穴を掘りたいと綾部君が言いだしたり、兵太夫君と伝七君が言い争いを始めたりと色々あったがなんとか花を全て植えあげた。 視線を上へあげると少し空が陰り、ギャラリーも引いて、学校の中も静かになっていた。 どうやら無心に花を植えていたらしい。 だが、その甲斐あって寂しかったその場所は幾数もの色を使ったキャンパスのように色鮮やかになっていた。 思わずわぁと後輩から言葉が漏れる。 「綺麗になりましたねー!」 兵太夫君が嬉しそうにほほ笑む。あー、体操服泥だらけ。でも、可愛いと思ってしまった。 なんか中等部らしいなと。 「これ、明日みんな見たらどう思うんでしょうね?」 人に見てもらいたいと言うわくわくがこちらまで伝わってくる伝七君の笑顔。 確かにこの力作は見てほしい。 「次は桜の木でも植えましょうか? そうしたら大きな穴掘れますよね?」 小さな穴しか掘れなかった綾部君はどことなく寂しそうだった。 桜の木か……そうしたら花見が出来るかな? 「でも、流石立花先輩ですね。この計算しつくされた置き方を直ぐに考えられるなんて」 まじまじと花の列に目をやる藤内君に頷く。 うん、デザインセンス抜群だよね。これ。 「まぁ、私が担当したのだからな。完璧でなければ」 くくくと含み笑いをする立花先輩。 本当は吉野先生が置き方を指定してくれたのだけれど、立花先輩がこうしたらどうだと言う事で、急きょ花の置き方を変えたのだ。 うん、物凄く印象的ですよね! 「立花先輩。騒ぎなりませんかね?」 「それはそれでまた面白い。多くの人間の驚いた顔を見られるのだからな」 「驚いたと言うか、それを通り越して恐怖にならなければいいんですけどね……」 夕暮れに染まる花壇を見ながら、私は只管不安を覚える。 本当に大丈夫なのだろうか? 「ちょっと!! あの花壇見た?」 「あー、うん。見たよ」 「あれ凄いよねー!」 週が明けた日。 学校は登校するや否や、私は友人に花壇の事を話しかけられる。 案の定というか、なんと言うか学園の噂はほぼそれで持ちきりだった。 まぁ、学校入ってすぐだからね。そりゃそうもなるよね。 しかも態々見に行く生徒もいるし。本当皆暇人だなー。 「あれってさ、と立花先輩が作ったんでしょ?」 「うんにゃ。風紀総出で作ったよ」 「どっちにしろ少人数じゃん。それであれだけの物を作ったのはすごいよ。でも……なんて言うかさ。……才能の無駄遣い、だよね?」 「その台詞は立花先輩に言ってくれ」 私はただ手伝っただけだ。 本当にそれだけ。 だから出来上がるまで知らなかったんだよ。 「……まさか、学園長先生の顔を花で作るとはね……」 あのとき、先輩は出来上がるまでの秘密だと言って何を作っているのかは教えてくれなかった。 しかも夕暮れと言う事であんまり全貌も見えなかったし。 でも、全て完成してようやくわかった。 それがうちの学園長のお顔だと言う事が。 ええ、もうそりゃそっくりで驚いたよ。 それにちょっと怖かったんだよ、リアル過ぎて。 しかも夕暮れに染まってるから頬染めてるみたいでさ。 だけど、まぁ 「すげえわ。立花先輩」 立花先輩と似たような笑い方をする私。 だって花壇作っただけじゃなく、こうやって学校全体の生徒を笑わさせてるんだから。 本当に『皆の為』て言葉を果たしてくれたんだもん。 何気にやっぱり凄いよ、あの先輩。 だけど何か一つ忘れている気が…… 「おい! !!」 その声に思い切り肩をびくつかせる。それこそ話していた風紀委員長様だ。 何故そんなに恐ろしいお顔なんでしょうかね……。 「な、何でしょうか?」 「お前、生徒会の仕事を忘れていないか?」 「!?」 そうだ! あのとき潮江先輩が『生徒会の帳簿記入にもだ』て言ってたっけか!? すっかり忘れておりましたわ。 「えーっと、忘れてはいませんよ? ただ、私には無理なお仕事ですからお邪魔をしないようにと手を控えさせていただいておりました」 目線をさり気なく立花先輩から外すが、思い切り頭を掴まれ目を合わせられた。 おおう。やはりアイアンクローか。 「良く分かっているではないか。確かにお前がいた所で足手まといだ」 「ははは。ですよねー。では、何でそんなに怒ってらっしゃるんですか?」 「私がお前の分まで帳簿記入をさせられたからだ!! この休日を返上してな!!」 「そうだったのですかー。それは大変ですね。いやぁ、でも流石ですね。あの仕事量の多いと言う生徒会の仕事が手伝えるんですから。素晴らしいですよ。立花先輩」 「お陰でほぼ徹夜だ」 「ならば眠いでしょう。どこかでお休みになられてはどうですか?」 「流石に授業をさぼる様な事はせん。……だから、眠気覚ましに面白い事でもしようと思ってな」 さらにグレードアップした立花先輩の顔を見て一瞬冷や汗が出た。 この顔は何か企んでいる証拠だ。ま、また餌食なるんですか!? 私! その時、傍らにいた友人がすっと私と先輩の間に入りこむ。 「立花先輩! もうで遊ぶのは止めてください!!」 この子あんまり体力ないんですから。 私の安否を心配するように庇ってくれた。 ありがとう友人。今日ほど君を偉大に感じた事はない。 しかし、その行動に立花先輩は安心しろという。 「今日はで遊ぶ気はない」 「「へ?」」 予想外の返答に友人と二人して腑抜けた返事を返す。 面白い事と言うのは私で遊ぶ事かと思っていたがどうやら違うらしい。 「じゃ、どうして私の元へ?」 「実はな、こう言うものが今日入って来たのだ」 口の両端を少しだけあげて笑う立花先輩は一つの服を見せてくれた。 お店なんかで打っているような畳み方をされた一着の制服を。 「……これ、高等部の女子の制服じゃないですか?」 それはとても見覚えのある制服。 だって、今自分が着ているものと同じデザインなのだから。 「ああ。確かにこれは高等部の制服だ。だがな、これは長次でも大丈夫なサイズになっている」 「でかっ!!」 中在家先輩と言えば三年生で一番身長が高いであろうそのお方。 その先輩が大丈夫なサイズとはかなりの物だ。 「なんでそんなものがあるんですか?」 「どうやらサンプルとして届いたらしい。それでだ。どうせなら誰かに着せてみよう思ってな。……これが似合いそうで、普段は来ていないような奴に」 その瞬間、私は立花先輩と同じように笑ったと思う。この人が何か良からぬ事を思い浮かべた時の様な頬笑みを。 別に人の嫌がる服を着せると言うことに同意したのではない。 その制服が似合いそうな人物が、着せたい人物が私には存在しているから。 「……保健室、行きましょうか? きっと白衣で新野の先生の代わりにいる筈です」 「お前ならそう言ってくれると思ったぞ。流石私に罰を与えた事だけはある」 「いえいえ。立花先輩には敵いませんよ。では、善は急げってことで」 私は悪夢の日のようにまた廊下側の窓に手をかけ廊下へと降り立つ。 そして、立花先輩と笑いながらその場所へと向かった。 「ああ……。の性格がひん曲がってゆく……」 友人が心配しているなど全く知らずに。 女神さま。 自分に忠実な私をお許しください。 作者より 雨の日に遊ぼうシリーズ完結です。今回は学年単位って事で全学年回りました。 最初は誰かを赤面させたかっただけなのに、最終的には主人公が性格が壊れると言うオチに(笑) しかし少しですが微妙な関係をかけたので良しと言う事で! 読んで下さってありがとうございました。 2010.7 竹中歩 ←戻 |