大切な人と出来るだけ長い時間過ごしたい。
それは誰もが望む事である。
同じ時、同じ幸せ、悲しみ…。
それを一緒に感じたい。だから僕は……。





同じ時間





「ジーニアス、こんな所にいたんですか?」
 少し息を切らせたプレセアがジーニアスに駆け寄る。
 その2人の面持ちは世界を巻き込んだあの戦いのときに比べたら少し成長しているように思えた。身長も、声も、そして顔も……
 あの時から既に3年が経過している。顔が大人びるのは無理がない。
「プレセア、どうしたの?」
 しかし、二人が成長しようがしまいが、世界を構成させるたびは続いている。
 そして今はエルフの村『ユミルの森』だ。
 3年前にロイドが必死に頼み込み、ハーフエルフであるリフィルとジーニアスを入れてもらったときとは少々事が違う。ロイド達の行いを聞いた長老が、あの時より少し、ハーフエルフへの警戒心を解いてくれた。おかげでこんなに堂々とジーニアスが寛いでいると言う訳だ。
「どうしたのじゃないです。3時間も帰ってこないんですから。」
「え?!もうそんなに時間、経ってた?!」
「ええ。確実にもうお昼です。」
 ジーニアスが散歩に出るといって宿屋を出たのが朝の9時少し前。
 それから3時間…。確実にお昼に近い。
「そんなに時間が経ってたんだ。気づかなかった。」
「珍しいですね。ジーニアスが時間を忘れるのは…。」
 確かに。時間に結構敏感なジーニアスが時間を忘れるのは、ゼロスが一つの町で女の人を一人もナンパしない確立より低い。
「考え事ですか?」
「うん…。まぁそんなとこ。」
 少し低くなった声でジーニアスが頷く。
「プレセア……。話があるんだけど聞いてもらえる?」
「なんですか?」
 昔のプレセアではこうはいかなかっただろう。しかし、確実に彼女も成長した。意識しなくても『喜怒哀楽』が出せるようになっている。



「僕は……この旅をやめようと思う。」
「!?」
 ジーニアスから思いもよらない言葉が口から生まれた。
 その言葉にエクスフィアが埋められていた頃のようにプレセアの瞳から光が消えうせる。
「どうして…ですか?この旅は誇りを持ってやれる…。そう言っていたのはジーニアス、あなたです…。」
 いくら喜怒哀楽が出るようになったからと言って、プレセアの性格は相変わらず。冷静沈着だ。
「ごめん、言い方を変えるよ。僕の『やりたい事』が見つかった。それで…それをやりたいから、ここに残りたい。」
「やりたい事…ですか?」
「そう。どうしても調べたい病気があるんだ。」
「病気…?」
「うん…。この村でさっき長老に聞いたんだ『奇病』が存在するって。」










 ジーニアスの話はこうだった。
 昔、ジーニアスたちと同じようにこの森にも世界を変える戦いをする勇者たちが立ち寄った。しかし、そのときに深紅の目をした一人のハーフエルフの少女がその勇者一行に存在したのだが、その少女はハーフエルフである為この森に入る事は出来なかった。
 それからしばらく経った頃…。再びその少女はこの森へとやってきた。正確に言うと『連れて来られた』。
 その勇者一行の中にいた空色の髪をした青年の手によって。
 その少女はハーフエルフと言う事で、エルフまでとは行かないが寿命が長い為世界の戦いの頃から全く成長してはいなかった。
 少女は毎晩高熱にうなされ、医者に見てもらったのだが、原因はつかめず青年は最後の頼りとまでにここに連れて来たのだと言う。
 少女の熱は三日三晩続いたが結局原因のつかめないまま4日目の朝を迎えた。そして、少女の傍らで看病で疲れきった青年がうたた寝から目を覚ますと一人の綺麗な桜色した髪の女性が微笑んでいたと言う。










「それが、奇病ですか?」
「うん…。でも、続きがあるんだ。」
「続き…?」
 ジーニアスは微笑みながらプレセアに言い聞かせた。
「空色の髪をした青年はそれが誰か最初は分からなかったんだ。でも…すぐに分かった…。だってこの世で一番愛している人だったんだから…。」
「それは…つまり…。」
「そう、成長した深紅の瞳を持つ桜色の髪をしたハーフエルフの少女だったんだ。何故か分からないけど、その病気により寿命が人間と一緒になったんだって。」
「でも…、なんで『奇病』なんですか?普通は治らない凄く悪い病気に使うと思うのですが…。」
 プレセアの言う事は最もである。一般には医師たちが理解できない難病の事を『奇病』と言う。
「エルフたちにとっては確かに、悪い方の奇病かもしれない。だけど…。その病気のおかげでその二人は同じ時間を歩む事が出来た…。一緒に成長して、一緒に老いていく事が出来た…。エルフにとって一番辛い事は、大好きな人間と過ごした時間より長く生きなきゃいけないこと。それはハーフエルフでも同じ事なんだ。だから…その二人にとっては嬉しい奇跡。『奇跡の病気』だから奇病なんだ。」
「それをジーニアスは見つけたいのですか?」
「うん。だって……」





「僕は…プレセアと同じ時を歩みたいから…。」





「それじゃ……元気でな。また来るから…」
「うん…ロイドも元気で。」
 ジーニアスは再び旅に出るロイド達一行を見送る。ロイド達の姿はすぐに森の奥深くへと消えてゆく。
「ふぅ…。さぁ、新しい生活がスタートするぞ!!でも…プレセア、君まで残らなくても…。」
 空色の髪の毛のジーニアスの横に桜色の髪をしたプレセアが残っている。
「いいえ。ジーニアスを一人にするなんて出来ません。長老に許しを得たとは言え、村の外での生活は何かと不便ですから。だったら、村を行き来できる人がいたほうが便利です。」
「それは…そうだね。あの奇病の原理を見つけるまで、頑張ろう。…とりあえず、片付けをしようか。」 















君と一緒の『時間』を歩みたい。
エルフより例え寿命が短くても。
君を長生きさせるより、
僕が人間と一緒の時間を過ごしたいんだ。
君を…悲しませたくないから…。
折角、笑うようになった笑顔を…
壊したくないから……。










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作者より…
途中にでてきた青年と少女は皆さんお気づきの通りチェスターとアーチェです。
実は私のこの二人大好きでどうにかしてだしたいと思ってこのような形ですが登場させました。
やはり空色の髪×桜色の髪のカップリングからは逃げられないようです。
もしくはハーフエルフですね(笑)
2003.11 竹中歩