それはルークとティアが飛ばされて
 イオンと出会って
 ミュウに出会って
 ジェイドに出会って
 アニスに出会って
 ガイと出会って
 6人と1匹で初めて宿に泊まったときの出来事。
 初めてだから驚く事当然あったりするわけです。




おやすみなさい
 




「と言うわけで…本日の宿は確保できました。」
 ジェイドからの報告にルーク、ティア、ガイ、アニス、イオンそしてミュウが歓喜する。
「よっしゃー!久々のベッドだ!そっかの誰かさんが俺を飛ばした所為でずっと野宿やらだったからな。」
「そ、それは悪かったと思っているわ。」
 迷惑そうな目線でティアに視線を送るルーク。それに対してティアは収縮してしまった。悪いと思うからこそ返す言葉がない。
「まぁまぁ。喧嘩置いておいて。それで?部屋割りはやっぱり男性と女性に分けるんだろ?」
 ガイがルークとティアの間に入る。
「それが無難でしょう。」
「えー!!それってマジですか?!」
 誰も反対しないと思っていた意見に一人だけ反対者。トクナガを背負った状態で頬を膨らませている。アニスだ。
「アニスはこの部屋割りに反対なのか?」
「出来れば反対したいです。」
 ガイが首をかしげながら質問すると当然というように答えを返す。どうしてだろう?
「ルークと一緒の部屋を希望しているのですか?」
「「え?!」」
 確信犯的な笑みを零しながらジェイドが茶々を入れると何故かルークとティアが驚いていた。ルークは分るが、何もティアまで赤くならなくても…とアニスは内心思う。
「それは少しありますけど…そうじゃなくて、私はイオン様と同じ部屋にして下さい。」
「少しはあるのね……」
 その言葉でジェイド以外の三人が漸くアニスの反論を理解した。
 考えてみればアニスは導師守護役。その守護役が導師と一緒に居るのは当たり前。だからアニスは部屋割りに不満があったのだ。
「イオン様と一緒なら、女嫌いだろうが、なんだろうが同じ部屋でもいいです。」
「アニス、俺は女嫌いではないぞ?」
「苦手も嫌いも似たようなもんじゃん。」
 はぁ、と大きくため息をつくガイ。女性恐怖症と言うのは本当に不便なものである。
「と言うような意見が出てますけど…如何しますか?皆さん?」
「ねぇ、ティア…イオン様と同じ部屋は駄目?」
「え?!私に聞くの?!」
「だって、今6人居るんだよ?」
「ミュウも居るですの!」
「はいはい。6人と一匹居るんだから、三・三で分かれるのが普通じゃない?それにベットだって此処の宿三個ずつのはずだもん。だからさ…」
「そうね…ルークと同じ部屋になるよりはマシかもしれないわね。」
 普通突っ込むべきところはイオンが男性だから同じ部屋になるのはどうかとか言う問題なのだが、アニスの言葉巧みな意見によりどんどんとアニスのペースに巻き込まれていく。
「俺だってこんな冷血女とはごめんだね。」
「だ、誰が冷血よ!」
「おめぇだよ!おめぇ!」
 相変わらず口の悪いルークにティアは激怒してしまう。こんな単純なことで怒っていては身が持たないと回りのメンバーは思った。
「子どもの喧嘩ですね…」
「大佐から見れば此処のメンバー全員子どもに見えるんじゃないんですか…?」
「アニス?何か言いましたか?」
「いえ。べっつに〜。それで、部屋割りは…」
「僕はルークたちと一緒でいいですよ。」
 いつもならその輝かしいばかりの存在であるはずのイオン。しかし、ルークたちや個性の強い人々によって存在が薄くなっていた為、今漸く喋り始めた。
「イオン様?!」
「だって、女性たちの部屋に僕が入るの失礼でしょう?」
「あのイオン様?」
「はい?」
「それじゃ今まで同じ部屋に寝ていた私の立場がないんですけど…それじゃまるで私が女性扱いされてないのと一緒ですよ?」
「あ!…すいません!アニス。」
 大抵の事では傷つかないアニスもこれはかなり傷ついたらしい。天然とは怖いものである。
「あの、同じ部屋って…いつも二人は同じ部屋だったの?」
「導師護衛役が導師の傍に居なくてどうやって守れるの?ティア。」
「それはそうだけど、でもあなた達は同性じゃなくて…」
「あのね、変な考えもたいないでくれないかな。しょうがないじゃない。お仕事なんだから。それに同じ部屋ってだけだよ。」
 けろっと答えて見せるアニスにティアはあっけにとられる。その考えの大人っぽさに一瞬自分の考えが激しく子どもっぽく見えた。
「ごめんなさい…私が悪かったわ。」
「で?部屋割りは?」
 欠伸をしながら答えを待っているルーク。相変わらずマイペース。
「先ほども言いましたが、僕は男性の方たちと同じ部屋でいいです。」
「イオン様…」
「それにアニスも女性でないと喋らない事もあるでしょう?たまには外泊気分でティアと話でもすると良いと思います。」
「と言ってますけど?如何しますかアニス?」
「あう〜…分りました。男性と女性で良いです。」
 イオンの意見には逆らえない。いや、あの笑顔に逆らえるはずないのだ。アニスは渋々これを承諾した。








「眠れないの?」
「うん。」
 あのあと皆で食事をとり、久々にお風呂やシャワーを満喫すると各々の部屋へと入り就寝の準備をした。
 イオンが気を使ってくれたのは嬉しいが、今日はティアと楽しくじゃべれる気分ではない。いつもならルークの事でからかって遊ぶのに。
「ブウサギでも数えてみたら?」
「軽く千は越えちゃったよ…」
「そう…。」
 二人は其々のベッドの中でお互いを向くことなく、反対方向を向き、声だけで会話する。
「………」
「………」
「……」
「……」
「…」
「…」
 暫く続く無言。そして、
「私さ…こうやって旅の途中でイオン様と別々に寝たの初めてかも。」
 先に喋り始めたのはアニス。
「導師守護役はいつも一緒だと聞いていたけど…本当だったのね。」
「うん…。だっていつ敵に襲われるか分らないじゃない?」
 ああやって笑顔を振り撒き、天然で少し放って置けないイオン。だが導師である事は間違いない。それ故に命を狙われる事も多い。だからアニスは四六時中心配をして、傍に居た。
「だから今日もそう言うつもりでいったのに…。」
 彼は自分とは違う部屋を選んだ。
 それが彼なりの優しさだとも分っている。でも…やはり寂しいことには変わりない。
「大丈夫。導師お一人ではないもの。」
 分ってるよ。大佐も一緒だってこと。ガイも一緒だってこと。頼りないけどルークも一緒。でもね…
「それって私の存在意義が無くなっちゃう事を意味してるんだよ…」
 いつも必死で守ってきた。今日も守った。でも…今は自分ではない人間にあの人を任せている。
「考えすぎよ…」
「うん……」
「もう寝ましょう。」
「うん…。」
 そうして二人の会話は終了する。










 でもそうは言っても…
「大佐はマルクトだし…」
 敵じゃない。ダアトは中立…でもやっぱり信じられない部分もあるし、
「ルークはボンボンだし。」
 自分の事すら守れないような人。だから任せられるわけない。
「ガイは…女嫌いだし…」
 襲ってきた人が全員女性だったらそれこそどうなるか…
「だから心配なんだよ。」
 ティアが聞いていても居なくてもいい。それが今の本心だと自分に聞かせてみたかった。
「だからやっぱり………」











「のわぁぁぁっ!!」
 一瞬凄い悲鳴かと思いきや、それは直ぐに止まる。辺りをうかがってみるとジェイドに口をふさがれたガイが立っていた。
「はいはい。まだ朝早いですからお静かに。」
「何事だよ…」
 眠気眼のルーク。ジェイドが何かを指差している。よーく目をこすってみていると…
「…一人増えてやがる。」
 床に腰をすえ、毛布を被り、イオンの傍らで突っ伏している少女が一人増えていた。
「アニスですね。」
「見れば分りますよ。」
「アニス?ティアと一緒に寝たはずだろ?」
「不安だったのでしょう。何時の間にか潜り込んできたようですね。」
 少し笑う大佐。まるで何かを見透かしているような笑顔。
「導師と導師守護役は切っても切れませんからね。」
「なんで不安なんだ?ガイもジェイドも居るだろう?」
「大佐はダアト人間じゃないし、俺は彼女と知り合ってそんなに時間がたってない。お前に関しては頼りない。そう言う面から預ける事が出来なかったんだろうよ。」
 ガイも分っていたようで、それをルークに説明する。少しルークは不満そうだった。
「頼りなくて悪かったな。」
「まぁまぁ。声を出すと起きちまう。」
「もう暫く寝かせておいてあげましょう。」
「たくっ!」
「あとでティアにも説明を入れておきましょうか。」
 そう言ってその部屋の扉は閉められた。





 不安だから深い眠りにつけるわけがない。
 心配だから寝られるわけがない。
 傍に居ないと自分が怖くて…
 だから此処が安心する。
 安心でいたから眠い。
 だからもう少しだけ…おやすみなさい。










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作者より…
あの二人は同じ部屋に寝れると思う。
そんな風景が可愛いと思うが故に書いてしまった次第です(笑)。
2006.3 竹中歩