オリジナルの物は見事に受け継がれていた。
力?顔?権力?いえいえ。
もっと単純で、もっと年頃らしい物です。






受け継がれし心?






「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 久々の仕事のない午後。彼はそれがお決まりのパターンのように木の上で軽く夢心地に浸っていた。しかしそれも耳を劈くような悲鳴でたたき起こされる。
「なんだ?」
 軽く上体を起こし、その声のするほうを見定める。声の大きさはさっき聞いたときよりも確実に大きくなっている。
「来ないでぇぇぇぇぇ!!」
 必死に此方へと駆けて来るそれ。茶色い頭にピンクの団服。ああ見覚えがある。たしか…
「アニス…か…?」
 異国の絵本に出てきそうな名前。あれは兎を追いかけていた話で…名前ちょっと違うか?そんなことをふと思いながらそれを眺めていたが、どう見ても何かから逃げていた。魔物か?いや、魔物なら彼女が背負っているトクナガを巨大化でもさせて戦っているだろう。だとしたら一体?
「待ってください!アニスぅぅぅ!」
 アニスの後方から変な浮遊物体が続けて現れる。やはり魔物…いや、違う。それは彼がアニス以上に見覚えのある人物。それを見て大きく彼はため息をついた。
「あの変態。ロリコンも大概にしてほしいよ。」
 情けなかった。追いかけている人物が同じ六神将であることに。
 きらりと光る眼鏡に肩ほどの銀髪。必要をはるかに上回っている大きなたて襟。そしてそれが腰掛けるのは奇怪な動きをする浮遊椅子。誰でもない。ディストだった。
「何やってるんだか…。」
 アニスは必死の形相で逃げていた。しかし、自分にとってそれは関係のないこと。自分に影響が及ばなければその他のことはどうでもいい。だから、アニスがディストに追いかけられていようと知ったことではない。
 そうやって、彼は再び眠りにつこうとした。幸いその声はもう少しで通り過ぎるだろう。早く去っていって欲しい物だ。だが、
「んぎ!」
 変な悲鳴と共に叫び声は止まる。不信に思った彼は再び上体を起こし周りを見渡す。そして見つけた二人の姿は…彼の真下にあった。
 彼のいる木を背中につけ、真正面には怪しくは笑うディスト。これは大抵の人が怖がる状況だろう。
 きっと彼女の事だ。逃げるの必死で前を見ていなかったのだろう。それが災いし今のように追い詰められたのは安易に想像できた。
「まぁ、巻き込まれなければ僕にはん関係ない。」
 とりあえず、姿が見えなくなるまでは確認しようと思った。それに少し興味もあった。何故追いかけられているのかと言う物に。
「アニス…年貢の納め時ですよ。」
「あんたに納めるような年貢なら、ブウサギの餌にした方がマシよ。」
「そういわないで…もう逃げられませんよ……。」
 怪しくメガネが、基、目が光る。彼も彼なりに必死だったのだろう。おでこには汗が滲んでいた。こんな変態を目の前にしたら、大抵の人は気絶する。よく意識を保っていられる物だと少し感心した。
「絶対に嫌!あんたなんかに触られたくない!」
「んふふ…とは言われましても…私の興味も限界でして…」
「この変態!死ね!!」
「そういわずに…直ぐに楽しくなりますから……」
「第一、何であんたに触られなくちゃいけないのよ!」
「そうやって直ぐにじらす…大丈夫です。快感とは常に恐怖と紙一重なのですから…」
 何だ?この怪しい会話は?
 怪しく笑うディストにさらにため息が毀れる。あの変態は遂に手まで出したのかと。しかし、このままの状況が続けば、彼女がディストの手に落ちるのは目に見えていた。それに言っては何だがそんなところ見たいわけがない。
「さぁ!アニス!腹をくくりなさい!」
「いっやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」



「いい加減にしなよ。ディスト。」



 動かないでいるつもりだった。だって、自分には何の影響もないはず。それに出ていたっところで自分に害があるのは目に見えていた。
「…シンク…?」
「んぬぅ?!貴様何処から…。」
「何処だって良いだろ。それにしてもお前こんな所で…」
「なななな!なんですか?!私の研究に文句でも?」
 少しは後ろめたい気持ちはあったようだ。怯んでいるのが見て取れる。
 こんなおおぴらなところでやるのだから、もう少し気を強く持って欲しい物だ。さらにシンクの口からはため息が毀れる。
「なけりゃ、態々顔なんて出さないよ。やるならもう少し場所を選べ。外でやる奴があるか。」
「ちょっと、ちょっと!見えないところならいいてわけ?」
「僕にいらぬ火の粉が振りかかなければどうだっていいよ。」
「こんなに可愛いアニスちゃんが犯されようとしてるのに?!」
「だから、僕には元々関係のないことだよ。元はといえば、あんたたちの声がでか過ぎて五月蝿いからこうやって降りてきたんだ。あんたも導師守護役なら自分の身ぐらい自分で守ったら?」
 返す言葉もないらしく、シンクの後ろで必死に言いたいことを我慢しているように見えた。大体、アニスの力を持ってすれば逃げるくらい楽勝じゃ…
「それは無理な話でぇーす♪」
 再びディストが怪しい笑い方をしながら二人に話し掛ける。この人はどうやっても黙っていないタイプ。シンクが苦手な部類だろう。
「なぜなら!アニスのトクナガは私の手の中にあるのですから〜!!」
 ひょいっと持ち上げる黄色い塊。変な形のクッションかと思ったが、それはアリエッタのもつような縫いぐるみ。
 ああ…だから逃げてたのか。ある程度アニスにも生身で戦う力はある。しかしながらもディストは六神将の一人。それに応戦する力はいくら導師護衛役と言えどもないだろう。だから逃げるしかない。こうやって必死の形相でシンクを盾に使っているが漸く分る。
「あんた…なんであいつに渡しちゃったわけ?」
「だって、あれは元々ディストが作ったんだもん。修理頼んだら返す代わりに…その色々あってこう言う形に。」
「はぁ…」
 今日3度目のため息。どうしてこうろくなことを考えないのか。
「たくっ。」
 少し舌打ち交じりに言葉を漏らすのと同時に、高々に笑うディストの手からそれを奪い取りアニスのほうへと放り投げた。
「な?!」
「はうわ!」
 行き成りの出来事に二人は凍る。烈風のシンク。その名に嘘はない。あっという間の出来事だった。
「最初から奪えば早かったんじゃないの?」
「それが出来てたら苦労してないわよ。この口悪仮面男!」
「口が悪いのはお互い様でしょ?腹黒アニス。」
「勝手な名称つけるなー!!」
「それじゃ、それ奪い返したんだから適当に戦って此処からいなくなってよ。」
「んだと!」
 いつもの猫かぶりキャラは何処へやら。気づけば本性丸出しの口悪少女になっている。相変わらずシンクは人の神経を逆なでするのが上手い。
「ふふふ…それで私に勝ったとお思いですか?」
「は?」
「アニスを追いかけている理由…それはアニスから新たなデータをとり、トクナガをより強化する為です!だからトクナガはただいまメンテナンス中。それなのにトクナガが今までと同じ戦い方が出来ると思われては困りますよ。」
 早まった…。ディストはこれでも頭脳派。先手を打つのが上手い。きっと先を詠んでいたからこそ、ああやってトクナガを人の目にさらすような危ない真似が出来たのだ。どうしてそのときに変だと思わなかったんだろう。ああ、これでまた自分の休息が遠のく。
「こんの!変態性悪眼鏡馬鹿!!」
「こらこら!誰が馬鹿ですか!」
「馬鹿だから馬鹿って言ったのよ!」
 五月蝿いのと五月蝿いのが一緒にいればその五月蝿さは二倍。このまま二人とも血祭りにあげてやろうかと思った。その時…



「おやおや、どうかしたんですか?」



 白い装束に包まれた光を持つ存在。導師イオンの登場だ。その言葉に安堵の表情を見せアニスはシンクの後ろから物凄い速さでイオンにしがみ付く。
「イオン様ぁぁぁぁぁぁ!」
「どうしたんですアニス?半泣きじゃないですか。お金の事以外で泣かないあなたが。」
 ぐさっとくる真実を素でやってのけてしまう辺り天然とは怖いものだ。
「ディストがぁ!ディストがぁ!」
「ディストが?」
「あたしの事犯すんですぅぅぅ!」
「え……」
 さすがに天然ボケでもその言葉はちゃんと一般的にとらえたようだ。変な表情浮かべるイオンを見れば一目瞭然。もしとらえられなかったら確実にシンクが突っ込んでいたに違いない。
「ちょちょちょ!犯すとはなんですか!犯すとは!」
 傾いた眼鏡を正しい位置に戻しながらディストは否定する。今更どう弁解すると言うのだろう。
「だって、傷物にするんでしょう?!あたしのこと!これを犯すと言わずになんていうのよ!アニスちゃんもうお嫁にいけない……」
「どういう事ですか?ディスト?」
 心なしかイオンの顔が怖い。そりゃそうだ。イオンのお付に手を出したのだから。事と場合によってはディストの命が危ない。
「傷物違いでしょ!それにこれは貴女の為になるんですよ?アニス!トクナガを強化するために…。」
「それにしたって嫌!」
 それは確かに嫌だ。たとえ愛しいパートナーの為とは言え、自分の体を捧げるなんて。
 もう埒のあかないやり取りにシンクの怒りはそろそろ限界だったが、
「ああ…そうい事ですか。…アニス?協力してあげなさい。」
「い、イオン様?!本気で言ってます?!」
「ええ。本気ですよ。」
 にこりと笑うイオンに少し本当かと突っ込みたかったシンクがいた。自分のお気に入りだろ?それ。
「傷物になっちゃたらどうするんですか?!」
「大丈夫です。三日もすれば治ります。それが嫌だったら治癒を頼みますから。」
「でもでも!」
「一ミリにもみたないはずですよ。『注射』なら。」
 注射?……確かにそう聞こえた。傷物って言うのは…針が刺さったら皮膚に傷がつくって事で…犯されるって言うのは口の悪いアニスの逃げ口実で…てことはあのまま放っておけばよかっただけの問題?
「分ってますけど…」
「アニスは注射が苦手ですからね。それにディストにされるとなれば不安なのは分りますよ。」
「導師!何て酷い!」
「…馬鹿かお前らは…。」
「へ?」
 4度目のため息。黙っていたシンクが漸く喋りだす。仮面をしていて表情までは見えないが、あからさまに呆れている。
「注射が嫌なら最初からそう言えばいいだろ。」
「だって!この年で注射がいやなんて言ったら恥ずかしいじゃない!」
「その年で犯されるだの傷物になるだの言ってる方が恥ずかしい!」
 最もな意見。其の場が静まり返る。
「行くぞディスト。」
「え?!まだデータが…」
「また後日にしろ。」
 ディストの乗っている椅子を無理やり掴むとそのままずるずると自分たちの持ち場へとシンクは足を速めた。
「ちょっと!トクナガは?!」
「放り投げろ!適当にこいつが修理してあとで下の者に届けるよう言っておく。」
 少しむかついたぶっきらぼうな言葉。むくっと膨れながらもトクナガを勢いよく投げた。
「絶対に返してよね!」
 さっきまでの泣き顔は何処へやら…。導師の横で仁王立ちになり威張り腐るアニス。
「無事ならな。」
「もうー!!」
 そうやって二人はアニスの視界から姿を消した。漸く訪れた安息だがアニスは不機嫌な様子。それとは対照的にどこか嬉しそうなイオン。
「嬉しそうですね。どうかしました?」
「いえ、ちょっとディストに感謝しなければいけないと思っただけですよ。」
「ほえ?何でですか?」
「さぁ?それは…秘密です。」
「ぶー!イオン様の意地悪。でも…大丈夫でしょうか…?トクナガ。」
「大丈夫ですよ。きっと。」
 くすくすと笑う導師の言葉に説得力が余りなかったのは言うまでもない。



















本当に彼に感謝したかった。
守られている自分が彼女に頼られるだけの価値があると言うことを。
こんな自分でも彼女の役に立てると言う事実を教えてくれたことに。
ありがとう、ディスト。



















「あー…データが…」
「五月蝿い。」
 結局休息返上で訳のわからないものに巻きこれまれてしまったシンク。機嫌が悪いの当たり前である。
「…シンク?」
「アリエッタか。」
 真正面でいつも泣きそうな顔をしながら縫いぐるみを抱える少女。六神将の一人アリエッタ。さっきの騒ぎでも聞きつけたのだろうか?
「なんで…ディスト背負ってるの?」
「こいつがアニス襲った所為。」
「コラコラコラコラァ!なんであなたもアニスも同じこと言うんですか!」
「…ディストは変態だから…」
「そこ!公認しない!」
 背負われながらも威張り腐るディスト。此処で椅子ごと叩き壊してやろうか?
「…シンク。」
「なんだ?」
「服の裾…凄いシワ。」
「は?」
「んぬぅ!!」
 アリエッタの言葉で思い切りディストを椅子ごと落とす。案の定奇怪な悲鳴。
 後ろの服の下の方。変なシワがよっている。
「こんなシワ何時…?」
 シンクの服はシワが付きにくい。よっぽど強い衝撃でもなければこんなにはっきり分るはずがなかった。何時付いたのだろう?
「…人の手みたい…。」
「お前その変な想像力…」
 ふと思い出す。そう言えばアニスは自分の後方で必死に自分を盾にしていた。そのときに握り締めていた?
「どうかした?」
「いや…別に。さ、こいつをさっさと持って帰ってボコるぞ。お前も手伝うかい?」
「うん……。」
「こらこら!!」
 再び背負われるディストの猛講義。しかし聞こえない振りの二人。
「しかし…導師には驚いたな。」
「イオン…様…?」
「そう。僕なんて出る幕じゃないよ。」
















 だって、あいつは導師のお気に入り。
 それは見ててわかった。
 もしあの場で引いていなかったら確実にこの後ろの奴は今ごろ血を見ていたと思う。
 全くオリジナルに似て…














「独占欲つよっ。」















 オリジナルの性格は変なところで受け継がれていた。
 独占欲という変な形で…今存在する二人のレプリカに…。










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作者より…
絶対にレプリカズは独占欲強めで!
オリジナルがそうであったように(MY設定)。
シンクが突っ込みだ。しかも冷静。あまりありえない。
イオンはアニス絡みだと本気になるのが好き。
どんどん侵食していくイオアニシン。
イオンのことで悩むアニスで苦悩するシンクが好きです。
フローリアンも絡ませたいなぁ…。
2006.2 竹中歩