誰がどう君を変えてしまったのか…
もし時計の針が戻るなら…
私はその時間まで戻りたい。




逆さまに動く時計





「ねぇ根暗ッタ。」
「根暗じゃないもん!アリエッタだもん!」
 ピンク色の腰ほどにまで届く髪を持った少女は大きな声を出してその言葉を否定した。
「どっちでもいいじゃん。あんたには変わりない。」
「う゛〜アニスのいじわる。」
 意地悪といわれた少女はそれども何事も内容に会話を続ける。アニス・タトリン。ローレライ教団で導師イオンの付き人兼ボディーガードを勤める13歳。大きく二つに分けたツインテールがトレードマーク。
 見た目は年齢以上に幼いが、背中に背負われた『トクナガ』と呼ばれる熊に似た人形を操り戦う。その強さはローレライ教団でも上位の強さだ。
「でさ、話戻るけど…根暗ッタは六神将なんでしょう?」
「うん。」
 意地悪をされても会話を続けるアリエッタ。そこまでアニスのことは嫌いではないようだ。
「だったらさ、シンクの仮面の下見たことある?」
「…ううん。シンクは絶対に仮面はずさないから知らない。」
 六神将とはローレライ教団に属する神託の盾と呼ばれる物たちの集まりで、その中の上位の6人を示す言葉。その中にシンクと言う少年は存在していた。
 年はアニスとアリエッタたちと変わらないだろう。きっと10代前半。小柄な少年ではあるが戦いにおいての強さはアニス以上だ。それでも一目を置いているのに、それ以上に気になってしまう。それはいつもつけている仮面の所為。
「あいつ仮面いつもつけてるから表情が読めやしない。会話も滅多にしないし。」
「アリエッタ…一度見せてって頼んだら凄く悪口言われた…。」
「そこまでして見せたくないなんて…なんか秘密でもあるのかな?」
「秘密?」
「例えば…顔半分が魔物の顔とか…」
「それ怖い…。」
「冗談に決まってるじゃない。さて、そろそろ戻ろうか。」
 少しの間だけ取れた昼休み。二人は少女らしい会話を終わらせると各々の持ち場へと足を進めた。







「イオン様〜!」
 昼休みが終わって、アニスは教団内で必死になりながらイオンを探していた。イオンはこのローレライ教団の最高幹部。年齢は14歳だが、スコアを読めるとあって民のものからの信頼も厚い。しかし、導師と言う言葉を取ってしまえば、ただの14歳。しかもかなり天然が入っており、目が離せないという特典つきの少年である。
「どこ行っちゃったんだろう。」
「誰を探してるんだ?」
「?!」
 背後から行き成りかけられた声に背筋が一瞬凍った。先ほどまで人の気配すらなかったのに。
「び、びっくりさせないでよ!」
「勝手に驚くお前が悪い。」
「この可愛いアニスちゃんを捕まえておいて私が悪いですって?!」
「自分から可愛いと良く言えたもんだ。」
 鼻にかけたような笑い方。人を馬鹿にするような話し方。彼こそが先ほど話に出てきた六神将のシンク。またの名を烈風のシンク。性格ははっきり言って余り良いものではない。
「全く。失礼にも程があるわ。と、そうだ!イオン様知らない?」
「奴ならさっき最上階に向かって行ったよ。」
「最上階?!なんでそんな…私室より上の階なんてただの物置部屋しか無いじゃん。」
「そんな事僕に言われても知らないよ。」
「…………ぷっ!」
 何処に笑う要素があったというのだろう。アニスは会話の途中で噴出してしまう。
「何がおかしい。」
「いや、だって、あんた口は悪いくせに一人称が『僕』なもんだからギャップが…」
 そう。あまり会話をしたことがないから今まで気がつかなかった。これだけ口が悪ければ俺と使うはず。しかも年齢はどう見てもアニスより上。それなのに一人称が僕。確かに笑ってしまうかもしれない。
「別に良いだろ!それは僕の勝手だ!」
「ほらまた!…まぁたしかに勝手だけど何でだろう笑いが止まらない!」
 お腹を抱え軽く九の字になりながら必死で笑いこらえるアニス。どうやら笑いのツボに入り込んでしまったらしい。
「そのまま笑い死ね。」
「酷ーい!そこまで言わなくても!」
 笑いのツボを何とか打破したアニスは今の言葉に撤回を求める。
「笑うお前が悪い。」
「違うもん!僕って言うシンクが悪いんじゃん。」
「一人称をお前にとやかく言われる筋合いはない。」
「ぶー。本当相変わらず嫌な奴!でも、ありがとね。イオン様の場所教えてくれて。」
「何時までもイオン様イオン様て叫ばれると耳障りだったからね。それだけの事だよ。」
「素直じゃないなぁ。せめて、仮面でもとってくれて今の状況を赤面でもしてくれたら可愛げがあるのに。」
「僕に可愛げを求めるな。導師イオンにでも求めろ。」
「はいはい〜。そうします。じゃね。」
 ほんの数分の会話のやり取りそれを終えるとアニスは再びイオンのいるであろう最上階を目指し走っていった。
「結構面白い奴じゃん。からかいがいありそう。」


















「そう言えばそんな事があったっけ…。」
「行きますよアニス。」
「はいはい〜。」
 ジェイドに呼ばれて止まっていた足を再び動かし始める。







あの時のシンクはもういないの?
もし時間を戻せるならほんの少しでいいほんの少しで良いから私を連れて行ってください。
そしてあいつに言わせてほしんです。
「あんたはあんた。」
その一言を言わせてほしんです。だって…








あんたが死ぬとあたしが苦しいんだもん…。










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作者より…
えーと…エルドラントのシンクと再戦ちょい手前くらいです。
そんな風に普通に話せる時代もあったのにという回想?
もし元に戻せるならあの時点でで止めておきたかったなって。
多分それは皆同じ筈ですね。
たんにどれだけアニスがシンクを思っていたかという話ですが、
それってとっても大事だと思います。
2006.1 竹中歩