覚えているのは…多だ只管に紅い景色と… 体が焼けるような熱さ。 それと…一筋の光……。 一番最初の欲 「…で?何時事を起こすんだよ?」 「まだレプリカが完全には第七音素を使えるようにはなっていない。あと数年はかかるだろう。」 「偉く気長に待つんだな。」 「それは違う。事が大事なだけに念は抜けない。だからこその時間だ。お前もこの数年を使い、人からの信頼を集めてくといい。何かと都合が良いからな。」 そう言うとヴァンは席を立った。そしてシンクの私室から出るのと同時にシンクは部屋の窓を開ける。 「数年…ね……」 長い計画だと思った。 預言に縋りすぎる世界。預言中毒の世界をヴァンは変える計画を立てていた。最初聞いたときはヴァンの方こそ馬鹿だと思ったが、今はそのヴァンの考えに賛同している。いや、賛同しているのではなく、単にこの世界が無くなってしまえばいいと思っていたから手を組んだのだ。 何故シンクがそこまでこの世界を憎んでいるのか。…それは彼自身がレプリカだから。しかも不用品のレプリカ。彼はこの世界の中心的存在導師イオンのレプリカとして生まれた。しかし、実際に選ばれたのは彼ではなく、すでに導師イオンに成りすましているレプリカイオン。そう…かれは要らないもの以外の何でもない。そしていらないレプリカたちは…ザレッホ火山の灰として消えた。無論シンクもそうなるはずだった。だが、何らかの縁でヴァンに助けられ、今は導師イオン率いるローレライ教団の六神将として名を馳せている。 もちろん外見はイオンにそっくりな物であるから、仮面で素顔を隠していた。 「…こんな世界なんて滅べばいい…」 レプリカばかりの世界になればいい。預言に頼りすぎたから…スコアを読む存在が必要不可欠だったから自分が生まれた。望まれてもいない自分が。そんな世界への復讐…それが今の彼を動かしていた…。 「それに…気に食わないんだよ!」 窓越しから見えたのは今の導師イオン。オリジナルではなくレプリカイオン。幸せそうに日の中を先日着任した導師守護役と散歩していた。 レプリカの中で唯一必要だったレプリカ。 お前に分るかい? 生きながら苦しむという事が。 生きながら死ぬという事が。 人として扱われない人の形をしたものの気持ちが。 分ったところでお前は 苦しそうな顔をして優しい言葉でもかけるだろう。 そんな同情なんていらない。 もし欲しいのだとするなら… 「苦痛に歪んだ顔…か…」 考えるだけでうずうずしてくる。いつも幸せそうに笑ってる奴の顔が苦しむところを。だけど、あいつを痛めつけたところであいつはすんなり殺されるだろう。それで僕の気がはれるならって。 「どうすれば見られるか…」 「シンク?」 「…アリエッタか…」 ドアが開くのと同時にピンクの髪をたなびかせながらおずおずと少女が入ってくる。 「ノックはしてくれないか。」 「したもん!でも反応なくて…でも声はするし…?何見てたの?」 「お前の大好きな人さ。」 「イオン様?」 ドアからタッタと走って窓から体を乗り出す。細くて小柄な体。風で飛ばされてしまうのではないかと思うほど。 彼女は今の同時がレプリカであることを知らない。ヴァンから言うなと言われていたのだ。言ってしまったら自ら命を捨ててしまう恐れがあるからと。しかし、シンクにとってはどうでもいいことである。 「なんで…アニスなの?イオン様……」 「アニス?」 「うん。イオン様の新しい導師守護役。アリエッタの代わり…」 姿は確認していたが名前までは知らなかった。年はそんなに自分と変わらない少女。イオンと方を並べ和気藹々としている。 「…イオン様あんなに笑ってるの久しぶりに見た。やっぱりアニスのほうがいいのかな…」 一瞬でアリエッタの瞳の光が歪む。それほどまでにオリジナルイオンを大切にしていたのだろう。 「今の奴は幸せそうかい?」 「…うん。凄く幸せそう…」 「なるほどね…。」 頷くと同時に…シンクが不敵な笑みを浮かべた。 「本人が駄目なら大切な物を苦痛にさせる…か…」 「え?」 「後数年どうやって暇をつぶそうかと思ったけどどうやら時間を持て余さずにすみそうだ。」 「どういう…シンク?」 アリエッタが問いかけようとした相手は既に窓から地上へと降りていた。 大切な物を奪われた時ほど人は苦痛に歪む。 暫くは面白くなりそうだね…。 イオンを苦しませるよりアニスを苦しませた方がイオンが苦しむのを確信したシンク。 しかし、彼はまだ知らない。 アニスを苦痛にさせることが自分をも苦痛にさせるという真実が 待っていることに……… ------------------------------------------------------------END--- 作者より… うちのシンク×アニスの最初です。 シンクはイオンを何らかの形で苦しませようとアニスに 手を出すのですが、自分も苦しくなる事になります。 そしてそれがそのうちに愛しい思いに発展する感じです。 さらにその憎みがイオンに行くと思われます。 シンアニブラボー。 2006.1 竹中歩 |