いつも思ってたよ。 大好きな君に何かしてあげたいって。 だから今日はしようと思う。 この手紙、喜んでくれるかな? 「ねぇ、オリバー。アニスは何をしたら喜んでくれるのかな?」 フローリアンの唐突な一言にオリバーは動きを止める。 今日は二人での昼食。パメラはほかに仕事があるらしく、朝早くにお弁当を持参して行った。おかげで残っているのはフローリアンとオリバーのみ。家でのゆっくりとした時間が流れる。その中に突如現れた会話だけに少し動揺していた。 「行き成りどうされたんですか?」 「うーんとね。今日、遊んでた友達がお母さんのお手伝いをしてあげたら凄く喜んだんだって。それで僕も何かしたくなったんだ。もちろんオリバーたちにもしてあげたい。でも一番にしてあげたいのはアニスなんだ。」 フロリーアンの友達と言うのは、多分二桁に達さない程度の子どもの事だろう。そんな小さな我が子が手伝ってくれたのだ。親として喜ぶのは当然と言える。そしてその話を聞いてフローリアンもアニスにしてあげたくなったに違いない。フローリアンの一番大好きなアニスに。 「そうですか。それはとっても良い事ですよ。」 オリバーは笑って褒めた。それの笑顔が嬉しかったのフローリアンもまた笑う。イオンでは絶対に見られなかった子どもっぽい笑い方。 「じゃぁ、何が僕に出来るかな?アニスのお手伝いって…何かを倒すとか僕には無理だし。」 ただいまアニスはルークたちと旅の最中。まだ世界を救うたびは終わってはいない。 「そうですね…フローリアン様が一生懸命してくる事ならアニスはきっと喜びますよ。でも危ない事はもちろん駄目です。」 「だよね…何が喜ぶかな。お金のかかる事したら…」 「きっと怒られますね。」 「うん…」 きっと金銭面に関わる事をしたらアニスは怒る。だとしたら自分が出来る最大限のことは? 「うーん…オリバーは…アニスに何をしてもらったら嬉しかった?」 「私…ですか?」 「うん。だって、アニスはオリバーの子どもでしょ?やっぱり嬉しかった事ってあるでしょう?」 フローリアンの言葉にオリバーは思いを馳せた。 昔からあの子は手がかからなくて…何でもできるしっかりした子だった。その子がしてくれて嬉しかったこと。 「色々ありましたね。料理をしてくれたり…掃除をしてくれたり…あとは…」 「あとは?」 「手紙…ですね。」 「手紙?」 「ええ。」 にっこりと微笑むオリバー。 「どんな内容だったの?」 「いたって普通でしたよ。今日何があったとか…」 「それだけで嬉しいの?」 解らなかった。手紙を貰うのは確かに嬉しいけど普通の内容というのがそこまで嬉しい事が。 「あれはアニスが字を覚えたばかりの頃でした。それで一生懸命私とパメラに手紙を書いてくれて…所々間違った字もありましたが。…大切な相手からの手紙と言うのはそれだけ特別なのですよ。それに手紙は愛情が篭っていないとかけないでしょう?その人のことを思うから言葉が出てくるんです。思わないとかけません。」 「そうなんだ…。」 「子どもから貰う手紙…恋人から貰う手紙…友達から貰う手紙。その人の字一つ一つに心が篭っている。素晴らしいものだと私は思いますよ。」 「…僕も書いたらアニスは喜んでくれるかな?」 「きっと喜んでくれますよ。」 「…じゃ、書いてみる。それで今度帰ってきたときに渡すんだ!」 やる事が決まった。それだけで嬉しくて…もっとやる気がでた。アニスが喜ぶ顔がみれるから一生懸命手紙を書こう。アニスの為に。 数日後、アニスはほんの数時間の滞在だがダアトへ帰ってきた。しかし、すぐに出立するらしい。 「また行っちゃうの?」 「ごめんね…もう暫くかかりそう。」 「そっか…」 辛かった。その寂しそうな表情を見るのが…。もうこんな苦しそうな顔はごめんなのに。でも… 「じゃぁ、約束しようか。」 「え?」 「フローリアンの好きそうな料理をルークのお屋敷の料理長から教わってくるから…帰ってきたら絶対に作ってあげる。」 「本当?!」 「本当本当!私が今までに嘘ついたことある?」 「少しだけ…」 こう言う所は純粋だと思う。まぁ、これくらいのちゃめけがあってもいいかもしれない。 「もう!とりあえず、約束は守るから。はい、指きり!」 昔から何処の地方にも伝わる指きりの歌を二人で歌って指を離す。絶対に約束だよ? 「それじゃ、行ってきます!」 アニスはそう言って…仲間たちとアルビオールへ向かっていった。 鞄にはこっそり忍ばせられたそれがあることも知らずに。 「ん?」 アルビオールがとびたって一時間。調達した荷物の整理をしていたアニスは見覚えのないものがあることに気付く。 「どうしました?アニス?」 余程素っ頓狂な声でも出したのだろうか?ナタリアが近寄ってきた。 「いや、見覚えのない封筒が…」 真っ白な封筒。宛名はアニスとしか書かれていない。一体何? 「取立ての封筒…?」 思わず体をふるわせた。借金の取り立てだったらどうしよう。でもそれだったらリターンアドレスがあるはずなのにそれもない。だとしたら? 「開けてみてはどうです?」 「だね。私宛だから私が開けても大丈夫だよね。」 ナタリアの声に後押しされて封筒を開けてみるそこに入っていたのは1枚の便箋。この字は… 「フローリアンから?」 「わかりますの?」 「うん。これあの子の字だもん。」 まるで母親が言うような確信。でも間違ってはいなさそうだ。最後の方にフローリアンよりという言葉が見える。そしてアニスはその手紙に目を通す事にした。 大好きアニスへ いつもおしごとおつかれさま。 大好きなアニスになにかよろこんでもらえることはないかと思って、手紙を書いてみたんだ。いつもおしごとでいないアニスにぼくのことをおしえてあげる。 ぼくにはねともだちがたくさんいるの!いつもダアトのこうえんであそんでるんだ。そこでかくれんぼしたりすなのおしろをつくったりしてるよ。この前もねすごくたかいすなのおしろををつくったんだよ。アニスにも見せたかったな。あとね、オリバーたちもあそんでくれるよ。おいかけっことか。 アニスがいなくて毎日さみしいけど、アニスはみんなが幸せになる為にがんばってるんだよね。だから今がまんしてればぼくもしあわせになれるっておもうから、ぼくもがんばってアニスを応援するよ。 アニスもおしごとがんばってね。 ぼくはどんなときでもどんなことでもしてるアニスが大好きだから。絶対に帰ってきてね。ぼくも絶対に待ってるから!それじゃぁね! フローリアンより 「フローリアン…」 ふと子どものころの事を思い出した。読み書きがようやくできるようになった自分が両親へ宛てた人生最初の手紙。それを見て両親は凄く喜んでいた事を覚えている。何でそこまで喜べるのかと思ってたけど、今わかった。本当…凄く嬉しいや。 「字…こどもっぽい。帰ったらちゃんと教えなくちゃ。」 「そうですわね。」 横で見ていたナタリアも賛同。でも… 「私もこんな『恋文』を頂きたいですわ。」 「………は?」 何の事ですか?これはどうみたって子どもが母親に送る感謝の手紙。それでしょう? 「ナタリア…これが恋文?」 「そうですわ!大好きと連呼されているんですもの。それ以外に何がありますの?」 天然だからか…育ちが良いからか…どうしてこう言う風な解釈をするのだろう。 「あのね、ナタリア。これはどうみても子どもが親に送る感謝の手紙…」 「フローリアンはアニスの子どもではありませんわよ?」 「そりゃそうだけど…そう言う意味じゃなくて…」 「だって、好きな人でなければ…懐きませんわよ。あの子は…貴女を選んだのですよ?私やルークではなく貴女を。だからフローリアンがアニスの事を好きなのは当たり前です。」 恋愛に関してはかなり深い思い入れがあるに違いないナタリア。もう言う言葉がない。 「はいはい、もうそれでいいよ。」 諦めよう。何を言っても無駄だから。 …でも… もしかしたら本当に恋文なのかもしれないよ ------------------------------------------------------------END--- 作者より 多分、フローリアンのアニスへ対する好きはいろんな意味があると思います。 まだ、それを上手く方に出来ないから全部まとめて送っていると思います。 成長が今から楽しみで仕方ないです。 2006.7 竹中歩 |