別に世の中の所為にするわけじゃない。
でも…何時の間にか自分を見失っていた事は確か。
世間の声に答えようと必死になりすぎた自分が居た。
でもそれを打破してくれるのは…やっぱり君なんだ…





僕・私のポジション





 準々決勝戦前日…その少年は笑みの一つも浮かべず…ずっとテレビを見ていた。
 テレビはコンテスト会場専用のポケモンセンターのロビーの真ん中に鎮座している。時刻は夜の10時。コンテスト会場は熱気に溢れているがポケモンセンターは静まり返っている。当たり前かもしれない。ここはコンテスト出場者たちが主に使う。みんなピリピリしていたり休息を取る為に部屋から出て来ない。それを察してか宿泊者たちも静かにしている。
「………」
 テレビを見ているのは自分一人だった。他に人間は見かけるが皆飲み物を買ったり目的を済ませると早々と自室に戻っていく。だからだろうか?テレビの音がクリアに聞こえて余計に集中できた。
「…なんで…かな…」
 久々に声を出した。テレビを見ていたし、話相手もいなかった。だから喋る気は殆どなくて…自分でも驚くくらい黙っていたのだろう。
 そしてその台詞は…画面に写る彼女へと捧げた物。
「ねぇ…」
 誰もいないロビーだが声は響かない。それだけ小さいと言う証拠。
 テレビでは今日のコンテストの試合がダイジェストで放映されている。今は丁度彼女の番。危なそうだった。
 彼女が試合をしているときどこかで負けるんじゃないかとか思ってた。でもそんな心配は要らなかったようだ。彼女は実力で明日自分と戦う。準々決勝の相手として。
 少年の名はシュウ。本大会準々決勝進出者。そして相手はホウエン時代からずっと自分を追いかけてきた少女ハルカ。二人は前回グランドフェスティバルで果たせなかった優勝をかけて…今回は準々決勝でぶつかる。
「何で彼女とはいつも決勝で当たらないのかな…」
 本当は決勝戦で当たりたい。でも…今回も当たらなかった。また前回と一緒。だけど…前回と違うところが一つだけある。それは…シュウの気持ち。

『君たちとは違うんだ!』

 彼女へ向けた罵声。あの時は本当にそう思った。自分はのうのうと楽しくバトルをする彼女とは違う。美しさを求める。それに彼女より何倍も練習しているし結果も残してきた。それは自信を持って言える。だから一緒にされた事に酷く腹を立てて彼女に大声で怒鳴りつけた。だけど…本当はそれ以前からイライラしてたんだ。
 彼女に再会した時からずっと…。いつもみたいに嫌味を言う余裕すらなかった。ただ、彼女の愛想ない表情や純粋すぎる言葉のすべてに腹が立った。彼女に泣いたと言う過去を知られた時も…ずっとずっと…苛付いてた。それに止めをさしたのは彼女の一次審査。
 心の底から…煽られた。
 彼女にじゃない。彼女の成長に。
 ずっと自分より遅くにコーディネーターの道を進み始めた彼女がもうすぐ後ろまで来ていると言う現実が形となって自分の目に映ったから…慌てて…動揺したんだと思う。だから…いつものように彼女と接する事が出来なくて…彼女の言葉が全部嫌味に聞こえて罵声を浴びせた。それが…過去と言いながらも起こってしまった現実。それだけが前回と違うんだ。
「やっぱり…最悪なのかな…」
 あのあと彼女の友人たちに色々言われたけど、そのときにも言い切った。言い過ぎたとは思ってないと。でも…心のどこかでは言い過ぎたと思ってる自分も居る。中途半端な罪悪感。それが心に残って取れない。

「…相席いいかしら?」

 ふとその言葉で相手を見上げてみる。今回のコンテスト優勝候補のサオリがシュウの間ににこやかに立っていた。
 シュウは小さい声でどうぞと言うとサオリはありがとうと言いながら席につく。
「浮かない顔ね。」
「そう…ですか?」
 いつもなら上手くフォローが出来た筈。でもフォローする気力もない。
「そんな顔してるとバトルにもひびくわよ?」
「そんなこと…」
「バトルはポケモンとの信頼が物を言う…違う?」
 …言い返せなかった。
 確かにこんな不機嫌な顔でポケモンたちを誘導しても…ポケモンたちは違和感を覚えたり不安になったりでバトルに集中できないだろう。サオリの言うことに間違いはない。
「…そうですね…。」
「やっぱり…バトルの事が気になるの?それともハルカちゃんのこと?」
「…両方…です。」
 こんな状況で上手くバトルができるのかと言う不安。そしてハルカへの中途半端な罪悪感。両方理由に価する。
「ねぇシュウ君…どうして焦っているの?」
「え?」
「貴方のその必死さは彼女に負けたくないと言う焦りでしょう?」
「…何でもお見通しなんですね。」
「君よりずっと長くコーディネーターをやっていれば君のような人も見るわけだから…何となく解ってしまうのよ。」
「確かに…焦りかもしれません。彼女が僕の後ろにいると言う怖さ…そんな感じでしょうか?」
 不思議だった。サオリ相手だと話せる自分が。やはり彼女には人をひきつける違う魅力があるらしい。
「そうね…自分より後ろを走っていた人が自分に追いついてくると…誰でもペースを崩してしまうわ。良い例がマラソンね。自分のペースで走っていたのに後ろから人が来て、抜かされたくないとペースを崩して無理に速く走る。まさにシュウ君はその状態。自分のペースを見失っているわ。」
「僕の…ペース?」
「そう。君のペース。君は初めてのコンテストで決勝戦に進出した経歴を持つ。その実力は半端じゃない事はもちろん知ってる。だけどそれは君が努力した結果だからでしょう?その努力はどうやってしたの?アブソルみたいに怒って育てたの?そうやって努力してきたの?それが君のペースなの?」
 ふと…昔の事を思い出す。コンテスト初参加この頃は本当にただがむしゃらで…でも…楽しかった。努力も何もかもが。途中で負けたりしたけど…勝ちたいから必死で努力した。だけど今の努力は…
「今は……」
「おっと…その台詞を言うのは私じゃないみたいよ?」
「え?」
「私は席を外すから…本当に話す相手に話しなさい。」
 そう言ってサオリは席を立つと…笑って部屋へと戻っていってしまった。本当に話す相手って…
「どこに……」



『コンッ』



 少し鈍い金属製の音。そこまで重くはなさそうな微妙な重さのものが落ちた音がする。…そこに居たんだね。
「ハルカ…」
「いや、あの、えっと…ちょっと喉かわいたから飲み物をと思って…」
「コーヒーが飲めないのにコーヒー?」
 ハルカが落として拾ったのはコーヒーの缶。しかもブラック。甘党なおこちゃま舌のハルカが飲めるわけがない。多分…シュウの為に買ったものだろう。
「あのね、いや、…えーと…」
「座る?」
「良いの?」
「別に。」
 いつものハルカらしくなかった。笑顔が彼女の顔から見えない。むしろ…自分に脅えている。そんな感じ。
 そして案の定…沈黙。
「…」
「…」
「……」
「……」
「………」
「………」
「…人…いないね。」
「こんな時間まで起きてる参加者のほうが少ないよ。」
「そっか…。」
 再び言葉は止まった。それを見かねたのかシュウから珍しく切り出す。
「怖い?」
「え?」
「僕の事。さっきから顔色伺いながら脅えてるから…」
「そんなこと…」
「じゃぁ、どうして俯いてるんだ?いつも人と話すとき目を合わせる君が。」
「それは……」
 否定できずに彼女の行動は止まる。やはり罵声が行けなかったのか…彼女は目を合わせない。
「君の友人から話は聞いたかい?」
「うん…話の最後の方には笑ってたから大丈夫だって。」
「そう…。でも君はそうは思えない?」
「うん。」
 あんなに怒ったシュウを見たのは初めてだったハルカ。そう易々といつものようには戻れない。
「あのね…」
 今度切り出したのはハルカ。でも顔は俯いたまま。
「私のやってることって…間違ってるのかな?」
「やってること?」
「ポケモンたちと練習とかコンテストとかバトルとか…楽しくやるの間違ってる?そりゃバトルとかは勝った方が楽しい。負けるのは嫌。でもね…負けたから駄目ってことはないと私は思うの。負けても…また勝ちたいから練習する。それが楽しい。やっぱり全部が楽しいの。…これって間違ってるの?」
 それはこの道に入りたての頃自分の味わった事のある思い。それを今ハルカは掲げて走っている。あのときの自分にあって、今の自分無いものを彼女は持っている。
「やっぱり気にしてる…?」
「そりゃそうよ。」
「どうして?」
「どうしてって…」
 俯いていた顔をあげたハルカ。そしてシュウを見つめながら…

「それを教えてくれたのがシュウだったから…気になるかも…。」

 自分が…彼女に楽しさを教えた?
「教えた覚えは…」
「覚えはなくても…私はあるの。シュウにはじめて負けた時…悔しくて控え室でずっと泣いた。それから必死に努力して…努力が…練習が楽しいって思えた。いつもポケモンのことを第一に思う心もシュウから教わった。ポケモンを褒めて伸ばす事も。綺麗に見せる事も…それを教えてくれたのは誰でもないシュウなんだよ?だけどそのシュウが…ポケモンのことを怒ってるって…コンテスト楽しんでないって…凄く…凄く…悲しいよ。」
 ハルカの目からぽたぽたと床に向かって涙が落ちる。
「だけどそれは…君には関係無い。」
 シュウが楽しむが楽しまないかはハルカにとって関係のないこと。それを言われてしまっては言う言葉がない。だが、それで黙っているハルカではなかった。
「確かに…関係無いけど…だったらせめて…自分の言った事ぐらい貫き通しなさいよ…今のシュウがやってること…昔のシュウの言ってた事と矛盾してるかも!」
「!」
 自分でもわかっていた。彼女に言いながらも矛盾していると言う事が。
 ポケモンを褒めて育てる事を教えたはずなのに…当の本人はポケモンを責めている。言われてもしょうがない。
「考えの相違だって…経験を積んでいけばあるから…」
「その結果は?アブソル…泣きそうだった。ポケモンを悲しませるやり方が今のシュウのやり方なの?!そんなやり方をやるのはコーディネーターじゃない!」


 
 コーディネーターじゃない?
 コーディネーターはポケモンを美しく見せる事。
 ポケモンとの信頼を見せる事も意味する。
 だとしたら今の自分は?
 ポケモンを責めて悲しませる行為をした自分は?
 人を貶してポケモンを不安にさせる自分の行為って…



 「サオリさんがポケモンの育て方や見せ方に答えはないって言ってた。確かに怒ることも必要だと思う。それがポケモンの為になることだってあるから。だとしたら…そこまでしたんだったら楽しんでよ!本当にシュウが心から楽しんでよ…。こんなんじゃ一生懸命戦えるわけがない!お願いだから…一緒に頑張ろうよ…。」
 抑えきれなくなった感情は涙としてどんどん溢れてくる。拭っても拭っても拭えない。
 きっと彼女も混乱しているんだ。自分の知っているシュウでないシュウが目の前に居ることに。
 自分のしてきたやり方が教えてくれたライバルが否定したことに。
 なんだ…彼女も一緒で混乱して…自分を見失ってる。自分だけじゃないんだ。
「君は本当に馬鹿だね。」
「馬鹿はしょうがない…それはシュウだって知ってる事でしょ…。」
「そうだね。…自分のためじゃなくて人の為に泣くところが馬鹿だと思う。」
 ハルカが涙だらけの顔をあげると…そこではシュウが…笑っていた。大笑いとか馬鹿笑いじゃなくて…微笑む。
「君やサオリさんの言うように…自分のペースを見失っていたんだろうね。まさか君たちに指摘されるまで気付かないなんて…相当病んでたみたいだ。」
「シュウ…」
「今の言葉で我に帰ったよ。僕は僕のできる事をすれが良いと言うことに。勝敗は確かに大切だけど…楽しまなくちゃ…楽しんで勝てば最高だしね。楽しまないで負けたらそれこそ意味がない。全く、これじゃ前回のグランドフェスティバルとは逆だ。人の言葉に聞く耳を持たなかった君と同じことを僕はしていたんだね…。しかもそれを君のように美しくない人間に言われたんだから穴があったら入りたいよ。」
 初心に返るという言葉がある。まさに今はそれの時期なんだ。自分は彼女に煽られただけではなく、勝敗にも拘りすぎていたんだ。勝敗も大切だけどそれより大切な何かを自分は忘れていた。それを思い出したから…久々に君への嫌味が言えたよ。そう言う意味合いも込めて笑ってみた。なんだか久しぶりに笑ったような気がする。
「そうだよ…それでこそいつものシュウかも!」
 その笑顔にハルカの目からまた涙が溢れ出す。でも悲しくない涙。嬉しい涙。シュウの嫌味が久々に聞けた。
「だとしたらもう今日は寝るよ。夜更かしすると明日の勝負にひびくしね。」
「そうだね…私も…解決したから寝るかも。あ…でもお願いが一つ。」
 涙を拭うハルカの口から出た言葉。
「アブソルを褒めてあげて…もしくは謝ってあげて。あの子は何も悪くないから。」
 てっきりあの発言を撤回してと言われるかと思ったが…彼女の目はそちらではなくやはり他に向けられていた。いかにも彼女らしい発言。
「言われなくてもそうするつもりさ。」
「うん…じゃぁ、お願い。」
 ハルカは座っていた席にコーヒーを忘れて自室へと戻って行った。明日は遂に決着をつける日。
「こんなに長い間…彼女は気にしてくれてたんだね。」
 彼女なりの不器用な優しさ。まだほんのりと温かさが残っているコーヒーの缶を回収すると自室へと戻っていった…。
 いよいよ明日なんだ。
「約束…果たせるといいな…」





 次の日…ハルカとシュウの準々決勝。
 お互い良いバトルを繰り広げ両者一歩もゆずらず。シュウとハルカは幾度となくバトルをした事はあったがここまで白熱したたかいを見せた事はない。見守る観客たちは手に汗握る。
 勝負はやはりシュウが優勢の運びとなる。しかし、シュウを焦らせたほどのハルカの実力。そう簡単に引き下がるわけがない。最初にポケモンを一体ノックアウトさせたのはハルカの方。これには観客全てが驚いた。あの貴公子がハルカに押されていると。だが、シュウも負けじとハルカのぽけもんを一体ノックダウン。お互い、ポケモン一体の一騎打ち。そしてその決着は……
「準決勝進出者はハルカさーん!」
 その声に唖然とするハルカ。現実がわからないのだろうか?だからシュウは…微笑んで見せた。
 君が進出したと言う現実は嘘じゃないと証明する為に。それを見てハルカは声をあげて喜んだと言う。
 シュウの今回のグランドフェスティバルは幕を閉じた。
 後、ハルカは準決勝でサオリ対決。略完敗状態で敗退。よくやったと思う。後で聞いた話だが、それはそれは大きな涙を流しながら泣いたと言う。でもきっとこれが次のバトルへの第一歩となる事を信じている。





「残念だったわね。」
「サオリさん…」
 グランドフェスティバル恒例打ち上げパーティー開始から五分。サオリは会場の端っこで壁にもたれかかっているシュウを発見した。ハルカはまだ到着していないようだ。
「でも…私にとっては大きな収穫だったわ。」
「またこれで腕があがったようですしね。」
「うーん…それもあるけど…ハルカちゃんと出会えた事。」
「え?」
「シュウ君から話を聞いて一度会って見たかったの。今回運良くバトルも出来たし。あの子は良い子ね。真っ直ぐ。本当に真っ直ぐ。全力でぶつかれる子。でも真っ直ぐすぎて騙されやすいところが難点かしら?だからハーリーさんに目をつけられたのかもしれないけど。」
 当のハーリーは会場のこれまた片隅でハンカチをかんでいる。ハルカが準決勝戦に進んだ事が余程悔しかったのだろうか?
「シュウ君が気になるって言ったのわかった気がする。今後が楽しみだわ。ハルカちゃんもシュウ君も。」
「そうですね。僕も彼女の成長は楽しみです。」
「あら?ハルカちゃんが追いつくことを…受け入れられたの?」
「ええ。考え方を変えたんです。」
「考え方?」
 サオリが興味深そうに聞いてくる。考え方を変えた?
「ずっと下の人間だと見下していたから…傍に来たのが腹立たしかったんです。悔しいより怖いより…腹立たしい。成長も凄く早くて…焦りました。でも…彼女をライバルとし見ようと思ったんです。彼女の友人がライバルならバトルで決着と言う言葉と、彼女が僕をライバルと言ってくれることで…そう見てみようと思ったんです。そうしたら…凄く楽しくて嬉しかったんです。」
「嬉しかった…?」
「はい…彼女は言ってくれました。今の自分があるのは僕のおかげだと。彼女があそこまで強くなれたのには自分という存在が居たからだと言う事考えたら…なんだか嬉しかったんです。それに…自分に勝った相手がライバルとしてくれるのって嬉しいと思うんです。ライバルって対等と言う意味合いを持ちますから。」
「そう言う事ね。じゃぁ、今までハルカちゃんのことライバルとして見てなかったの?」
「最初のうちは勝手に言っていればいいと思っていたんですが…そのうち彼女をライバルとしみてる日が来れば良いと思ってたんです。でも…忘れていました。それだけこの頃の僕は切羽詰っていたんだと思います。」
 その表情はどこか嬉しそうだった。まるで昨日とは別人である。
「まぁ、今回はライバルとして見たが故に負けてしまったんですけど。」
「どうして?」
「ライバルと言うか…ずっと見てきたからお互いの手の内を知っているんです。それに油断しました。いつもの彼女だと思って挑んだんですけど…彼女も成長してるんですね。」
「だから楽しいのよ。前回と一緒じゃない。いつも違うから。それがバトルの醍醐味。」
「本当にその通りですね。まさか昨日の今日で人が追いつく事を楽しみだと思えるなんて思いませんでした。」
「漸く…いつものシュウ君に戻ったようね。…君を追い込んだのも彼女…。でも…結局助け出せるのも彼女。やっぱりシュウ君にとってハルカちゃんは特別なのね。」
 サオリがうんうんと頷いているところで漸く張るかが到着したようだ。それを確認すると
「サオリさん…お願いがあるんですけど…。」
「なにかしら?」
「彼女にこれを渡してもらえますか?」
 そう言ってシュウが取り出したのはお決まりの薔薇。
「会わないの?」
「あわせる顔が今回ばかりはないです。負けて…彼女を傷つけて…元々今夜には旅立つ予定だったんです。」
「そう…。メッセージは?」
「渡せば解りますよ。」
「解ったわ。」
 そうして…シュウはパーティー会場を後にした。後にハルカはサオリからシュウの薔薇を受け取るのだが、どうしても会いたいといってシュウを追いかけていった。






「シュウー!」
 後方から聞こえる彼女の元気な声。結局手渡しのほうが早かもしれない。息切れをさせた彼女は必死で自分の元へと走ってくる。

「いつかまたコンテストで!」

 彼女は高らかに叫んだ。負けても次は勝ちたいから努力する。そう言っていた彼女。やはりもう次のコンテストへと目を向けている。その表情は笑顔から真剣なものへと変わった。そんなときに言う台詞なんて決まってる。

「ああ。コンテストで」

 そして今回の会場で初めてとなる彼女の笑み。やっぱり君にはそっちの方があってる。
 そうして二人は再会を近い…シュウは次の行くべき場所へと去っていった。
「そう言えばシュウからおめでとうって言葉貰ってないね。」
 マサトのふとした言葉。そう言えばハルカ自身には言っていない筈。でもハルカの顔はどこか嬉しそう。
「貰ったよ。」
「どこに?」
「ここにね。」
 そう言って掲げられた薔薇に…傍に居た仲間たちは笑って返していた。
 そうだね。シュウのおめでとうはそれだから…。





「そう言えば…前回の約束果たしてなかった。」
 それはシュウとハルカ知らない約束。どちらかがグランドフェスティバルで優勝した場合、負けた方の本音を聞くというもの。でも二人とも優勝は出来なかったのだ。その約束は、
「繰越…だね。」
 彼女のさっきの言葉。コンテストで会おうってことは確実にグランドフェスティバルには参加すだろう。だとしたら今度は必ず全力でぶつかるつもり。それがライバルとして最低限の義務だから。
「ねぇ、ロゼリア…ライバルって良いものかもしれないね。」
 普通のバトルを楽しくさせてくれる。今までに居なかった存在だけあって本当にその存在の意味を知る。
「さぁ、次の町まで頑張ろう。」
 彼の中で元々大切だった少女。
 それはグランドフェスティバルを境にもっと大切な存在になる。
 とても大事で…大切で…気になる…『ライバル』と言う…独特な存在に。






「次は負けないよ…僕の大切なライバル(ハルカ) …」










作者より…
お題シリーズ最後のしめです。僕・私のポジション。
今回のGFでハルカはシュウのライバルになれたと思うのですが。
ぜひそうあって欲しいですね。
因みに別のお題ライバルと少しリンクしております。
シュウとハルカ知らない約束のあたりが…。
このお話は今回のGF見ながらこう言う話があってシュウは
バトルのとき立ち直っていたんじゃないかと言う感じで書きました。
サオリさん曰く焦っていたとは思うんですよね。
でも、ライバルだからて思うとがんばろうって気になるというか、
多分楽しくなると思うんです。この世界でのライバルは最強の存在ですから。
だから今回のお題の僕・私のポジションはハルカがシュウのライバルになった
と言う意味合いを込め使わせていただきました。
KGFのしめとしては最高のお題だと思います。
今回KGFはシュウとハルカだけでなくシュウとハルカとGFに関係のある
メンバーで書かせていただきました。
このお題はサオリさんと見せかけて実はハルカだったり(笑)
KGF本当に楽しませていただきました。
シュウの人間らしい一面も見れましたし。
感動とドキドキとワクワクをありがとう!
2006.7 竹中歩