仲裁役の別名を知っていますか?
喧嘩を止める際に必ず必要な存在ですが、
時にこう思われたり言われたりする事もあるんです。
『お邪魔虫』と…





仲裁役





「………。」
 ある晴れた空の下。シュウとハルカは再会した途端に言葉の衝突。それは簡単にポケモンバトルへと進展し、予想通りと言うか案の定と言うかシュウの圧勝で幕を閉じた。そしてその後繰り返される愛情の裏返し。再び討論開始。一体どうやればそこまで口喧嘩が出来るのだろう?もういつものことなのでマサトもタケシも放任状態。しかし、サトシだけは違った。いつも二人を心配して二人の喧嘩を止めようとする。恋愛感情に関して鈍感なサトシには二人の言い争いは嫌よ嫌よも好きのうちではなく、本当にただの喧嘩としてとらえてしまうらしい。サトシらしいと言うか単純と言うか。それがいつもの光景。しかし、今日だけは違った。



「………。」
 ただ無言で二人の喧嘩を見ている。別にマサトやタケシに仲裁を止められたわけではない。サトシ自らが無言を通しているのだ。その状態に驚いたのは討論をしている本人二人。
「ねぇ、シュウ…」
「なんだい?」
「気味が悪いんだけど…」
「僕も同感だよ。」
 口を挟んでこないサトシに違和感を覚え、遂には喧嘩する事さえ止めてしまった。一体サトシに何が起きたのか?
「今日のサトシ変かも。」
「へ?」
「いや、いつもだったら私とシュウの喧嘩止めるじゃない?なのに今日は入ってこないなぁって。」
 サトシの横に腰を下ろすハルカ。シュウはと言うと、サトシ本人に聞くより第三者達に聞いたほうが早いと言ってマサトたちの方へと行ってしまった。
「ああそっか。止めなきゃいけなかったんだっけ。」
 ふと我に帰る。止める事さえ忘れていたのか?これは思った以上に重症そうだ。
「大丈夫?変な物とか食べなかった?」
「食ってないよ。ただ…」
「ただ?」
「シュウを見ると思い出すんだよな…」
「誰を?」
「オレのライバル。」
 そう言うとサトシはにかっと笑う。余程そのライバルはサトシにとって特別な存在らしい。
「ええっと…確かシゲルさん…だっけ?」
「そう!何でも競い合ってたオレのライバル。ポケモンのことも身長の事も成績とかのことも…全部全部な!」
 サトシのライバルは世界中の数多くいる。しかしその中でも一際特別なシゲルというライバル。
「でも…なんでシュウでシゲルさんを思いだすの?私がシュウのことライバルって言うから…ライバルつながりで思い出したの?」
「それもあるけど…何となく似てるんだよな…。」
 空を見上げてシゲルと言う人の顔でも思い出しているのだろうか?その表情はやはりどこか嬉しそう。
「シュウと…シゲルさんが?」
「ああ。あの嫌味ップリ本当にそっくりだぜ?オレ、ポケモン貰う時寝過ごして四番目にとりにいったんだけど『四番目のサートシ君』とか嫌味たっぷりで言われたよ。遠まわしにとりにくるのが押しって言う意味でな。しかも気障なうえに顔もよくてこれがもてるのなんのって。」
「…確かに聞く限りにてるかも。」
「だろ?」
 シュウは気障で嫌味だがもてる。また、シゲルも気障で嫌味を言う。似ているところは多いかもしれない。
「だからシュウを見てるろ何となく思い出しちまってさ。」
「なるほどね。それでうわの空だったって訳?」
「そうだな。二人を見ながら昔の俺らみたいだとか色々思ってたから…今ごろあいつどうしてるんだろうな…」
 いつか勝ちたいと思っていた最高のライバル。しかし、今はお互い各々の道を進みバトルをする事は皆無に等しい。だが本音は…
「もう一度あいつとバトルがしたい…それで絶対に勝つんだ!」
「…そうだよね。ライバルって絶対に勝ちたいもんね!私もその気持ちわかるかも!」
「だろ?…あー…でも嫌味は勘弁して欲しいかもしれない。」
「それは同感かも。何でライバルの嫌味ってむかつくんだろうね。」
「そうそう。他の人間の嫌味とか悪口もむかつくけどライバルのは人一倍むかつくんだよな。」
「そうなのよ!一々言われなくてもわかることを突っ込まれたりね!」
「あと、過去の事をずるずる引きずるところとか。」
「人を小ばかにしたような笑い方とかもムカツクかも。」
「その上強いのが…」
「それで人に人気もあるのが…」
「「すッごくむかつく!」」
 猪突猛進、熱血系の二人はあっという間に意気投合。まぁ、不思議ではないかもしれない。シュウとシゲルが似ているように、サトシとハルカもまた似ている。
 すぐに熱くなるところ、周りが見えなくなるところ、お調子者、人がいいところ、騙されやすいところ…きっともっと多くの共通点がある二人。だからここまでライバルの事でむかつけるんだ。でも…サトシとハルカにはライバルに関して違うところが一つだけある。
「…ああ。そうか!」
 行き成りサトシは立ち上がる。ハルカはビックリして目を開いていた。何がわかったのだろうか?そんな質問を問い掛けたかったのだが、気づけばサトシは凄いスピードでシュウに通っていた。わかったと言うのはシュウのことらしい。



「シュウ!」
 ぶつかりそうなくらいの勢いでシュウに駆け寄るサトシ。訳がわからずやはりシュウも面を食らっている。
「なんだい?そんなに焦って…」
「お前さ…ハルカの事が大事なんだよな?」
「………」
 今、一秒間に何度瞬きをしただろう?一体彼は何を言っているのだろうか?案の定タケシとマサトも凍り付いている。
「えーっと……どう言う経緯で君がそんな結論に達したのか教えてもらえると大変にありがたいんだけど…」
「お前とハルカがライバルだからだよ。」
「………僕の理解能力が悪いのか…それとも…」
「確実にサトシの言葉不足だね。」
 マサトがすかさず突っ込みに入る。どう考えてもこれでは人に伝わらない。
「オレ…今まで何でシュウがそんなにハルカに冷たく当たるのか…はっきり言ってわからなかったんだ。タケシやマサトは恋愛の何とかって言ってたんだけど…そんなんじゃなくて…本当はハルカを大事に思ってるからこそ本当のことを言ってたんだよな?大事だからこそ…そいつの悪い点を指摘したかったんだろ?それが偶々冷たい言葉になって…喧嘩になってそう言うことだろ?」
 外れてはいなかった。大事な…大切な人だからこそ成長して欲しかった。だから嫌われるのを覚悟で本当のことを言う。的は得ていた。
「サトシの口から…まともな言葉が…」
「僕も驚いてる…」
 タケシとマサトの腰が引けている。驚くのも無理はない。でもどうして行き成りそんな結果に辿り着いたのだろう?
「何で君がそれに今更…」
「お前とあいつが似てたからだよ。」
「あいつ?」
「ああ。オレの一番のライバルにな。」
 その言葉でタケシが笑った。このメンバーでサトシの一番のライバルを知っているのはタケシだけだからだろう。
「確かに…奴には似てるかもしれないな。」
「だろ?それで…そのライバルもオレにいっつも嫌味とか言ってんだよな…でも今考えてみれば本当のことを指摘してくれてたこともあってさ…全部が全部って訳じゃないけどな。それで思ったんだ。シュウがハルカに言うのはそういう事もあるんじゃないかって。それで思ったんだよ。」
 まさか過去に自分が経験したライバルともやり取りがこんな事に役立つとは…サトシ自信思わなかっただろう。
「だからさ…オレ、もう二人の喧嘩止めない。ライバルにしか指摘できない事ってあるし…それで良いんだよな?」
「…君がそれで良いなら。」
「おう!それじゃ、二人のバトル終了を祝して昼ごはんにしようぜ!」
 こうしてシュウはいつものメンバーの空気に巻き込まれる。しかしそのときに彼の呟いた言葉を知るものはいない。
「…ライバルだから『だけ』じゃないんだけどね。」





君のライバルの考えも強ち間違いじゃない。
でも、君にはないだろう?
仲裁役である人間に嫉妬した事なんて。
ここが君と僕の考えの違い。だからもう暫く君には…
「嫉妬させて貰うよ。」
「ふえっくしゅん!」
「サトシ、風邪?」
「かもしれない。」





もう暫くの間…彼の風邪でないくしゃみは続くだろう。





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作者より…
仲裁役=サトシ=お邪魔虫と言う考えにいたりこう言う結果に。
うちのサトシは史上最強の鈍感です。恋沙汰全く気づきゃしません。
でもライバルとか友情は滅法気づくの早いと言う人。
だからシュウとハルカのやり取りもライバル関係だからこそ思ったのでしょう。
まぁ、シュウにしてみればそれだけではないのですが。
サトシの最強のライバルは言わずもがな、あの方です。某幼馴染だと思われる
白衣の似合う何とかさん(笑)
シュウ見たとき何となく似てるなぁと思ったのは私だけではないはずです。
だからこう言う小説が出来ました。
そしてサトシは二人を見守りつつシュウにはお邪魔虫と思われると良い。
鈍感て本当時に残酷ですね。
2006.6 竹中歩