明けない夜は絶対にない…そんな言葉がふっと自分の頭によぎる。 それはこの世に存在するもの全てに当てはまる言葉。 そう例えば…やまない雨はないとか… 雨 「最悪…」 ウイーンと言う音を立ててポケモンセンターの扉が開く。 その扉の向こうから室内に入ってきた少年…その業界では有名な人物シュウ。 いつもは美しさや綺麗さを重視するシュウが今はその状態とは正反対の立場にいる。少し外はねをおびた緑色の髪の毛はストレートになり床に雨粒を落として、黒い長袖の上には負っていた紫のジャケットは雨をしのぐ為の雨合羽代わりに。<この状況から言うに…雨と遭遇した模様。冒頭の最悪の意味が漸く理解できる。 「はい。」 「ありがとう…」 ……誰? よく確認しなかったが今、誰が自分にこのタオルを渡してくれたのだろう? しかもセンターのものじゃない。赤いドットの絵が入った女の子らしいデザイン。 「シュウが濡れて入ってくるなんて珍しいこともあるのね。傘は?」 「…驚いた…」 「答えになってないわよ?その言葉。」 頭の後ろで結わえたバンダナの余りが天井に向かってピンとはねている。 こんな珍しいバンダナの形は…シュウが知る限り一人しかいない。 「君がいるとはね…ハルカ。」 「やっぱり呼び捨てになってる…」 「気にする程のものじゃないさ。」 「はいはい。私が一言多かったわよ。でも…何で濡れてるの?」 「傘があったにはあったんだけど、暫く使ってなかったからどうやらガタ来ていたみたいで。開いたとたんに骨組が折れたんだよ。」 「シュウでもそんなこと怠るのね。」 「今回は僕の不注意…君には言い返せないか。」 ハルカから借りたタオルでとりあえず髪の水分だけでも拭う。しかし…気のせいだろうか? ハルカにジーっと見られているような… 「なんだい?人を珍しそうに…」 「いや、シュウのストレートヘアー初めて見たかもとか思ってたのよ。ほら、シュウってくせ毛と言うか天パと言うか…とりあえずストレートじゃなから…前回マボロシ島の時は見るどころじゃなかったし。」 「水分を含むといつもこんな感じなんだよ。」 「新しい発見したかも。」 こんなどうでもいことにころころと表情を変えるハルカ。見ていて面白いと思うし、何より…可愛いと思えた。 「それより、よかったのかい?タオルを借りてしまって…」 「そんなこと気にしなくてもよかったのに。本当はジョーイさんに頼もうと思ったんだけど、今往診中で。だから私ので悪いけど…ごめんね。デザインが可愛いのしかなくて…案の定シュウには不似合いだけど。」 「いや…借りられるだけありがたいよ。それにタイミングもよかったし。」 「たまたまね、外を見てたら見覚えのある人物が走ってきてたから…。て、こんな立ち話してる場合じゃないわよ。早くシャワー浴びるなりしないと風邪引くかも。」 「そうだね…このタオル後で返しに行くよ。」 「うん。」 このとき、ハルカは濡れたシュウに少しドキッとしてしまったことは黙っていようと思った。 夜…夕食をとって部屋でくつろいでいたハルカ達の部屋をシュウがノックする。 「ご丁寧に。」 「いや、本当に助かったからね。」 扉を開いたハルカの第一声。先ほど約束したタオルを返しにきたらしい。 シャワーも浴びて一段落したのは一目瞭然。いつもの外はねの髪の毛になっていた。 「シュウ…明日の天気もう見た?」 「いや?まだだけど…」 「なら、一緒に見に行かない?ロビーのモニターに出てるはずだから。」 タオルをマサトに託すとハルカはシュウの腕をつかんでロビーへと足を運ぶ。 「明日は…」 「雨ね。」 この地帯全域に雨のマークがついている。通り雨かと思ったのだが、どうやらそうではなっかたらしい。 シュウは雨が嫌いだ。見る分には別になんら支障もない。だがその中を歩くとなっては別。特にその町を出発するときなどは本当に嫌気がさす。 傘を差していても足場は濡れるし、道は泥跳ね等がひどい。綺麗さを維持しておきたいと思うシュウにとっては本当に憂鬱で仕方ない。きっと、天気が好きな彼女のことだ。同じ気持ちで憂鬱になっている…そう思って横を見たのだが… 「やった!明日は小雨だけど雨には変わりないかも!」 意外だった…どうして?なんで雨なんかが良いんだ?雨が好きなポケモンがいるなら未だしも、自分の知る限り彼女のポケモンにはそんな種類はいない。 「今日は驚かされてばかりだね…」 「なにが?」 「君が雨が好きだったとは…君の性格上晴れの日が好きだと思ってたから…」 「…私、雨が好きだなんて一言でも言った?」 ハルカは雨には喜んだが言葉に出して『好き』とは言っていない。なら余計に不思議だ。 「でも、こうやって現に喜んでる…。」 「ああ…そう言う事ね。理由は…明日教えてあげる。じゃ、今日はもう寝るから…私たち明日出発なの。おやすみ。」 「おやすみ…。」 不思議な笑いを浮かべるとハルカは自分の部屋へと戻っていく… 「明日…?」 「どう思う?ロゼリア?」 シュウは部屋に戻ってロゼリアをモンスターボールから出し、先ほどあったハルカとの会話を相談していた。これにはロゼリアも首を傾げるばかり。 「明日…特に特別な日付な訳でもない。」 カレンダーを見る限り明日は至って普通の日。語呂合わせも出来そうに無い。 それとも彼女だからこそ特別な意味があるのだろうか? 「ここまで悩まされるとはね…」 多分、他の人だったらここまで悩まなかった。きっとハルカだからこそ悩んでる…。 こうやって彼女のことで悩まされるのは何度目だろう? 「でも…考えずに期待だけしておくのも面白いかもしれない。糠喜びみたいにならなければ良いけどね…。話を聞いてくれてありがとう。ロゼリア…。」 こうして、シュウの一日は終わった… 次の日… 「雨…」 「雨…」 「雨…」 「雨ー!!」 ハルカ一人を除き、サトシ達は憂鬱な表情を浮かべている。 「一人だけテンションが高いね…単純な考え方だからできるのかもしれないけど。」 「単純で何が悪いのよ?良いじゃない。」 やはり、ハルカのテンションは一人だけ浮いていた。 「その荷物…てことはシュウも今日出発なの?」 「残念ながらね…。」 「それって最高かも!!」 「もう既に君がわからなくなってきたかもしれない…」 どうして、雨だけでここまで喜べるのだろう?今日が雨という事が一体どういう意味を持っているのだろうか? 「しかも…君と旅立てるのに雨って言うのは…更に残念かな…」 少しだけ見えたシュウの本音。ハルカのことを気にしているのは確かなのに、当のハルカはそんなことはお構いなし。 「で?君の言っていた今日が雨なのに喜ぶ理由って?」 「あのね…どこかの言い伝えでこんなのがあるの。」 『雨の日に旅立つ人とは必ずまた会える』 「だから喜んでたのよ。」 「…まさか…」 それだけのことで…ここまで喜んでた…? だけど遠まわしに…また会えることを望んでる……? 「本当にそれだけ?」 「そうよ?あ、でも旅立つ人同士ならもっと会えるって聞いたことあるから…。何よ?何か変なこと言った?」 「君は…そんなジンクスでもかけなければ僕と会えないって思っていたのかい?」 一瞬その言葉に口ごもるハルカだったが 「だって…事故でもしないかって…ちょっと不安だったのよ…いいじゃない。気休めでも!」 「全く…君って人は…」 少し…うれしくて…そして笑えた。そんなに僕のことを気にかけててくれてたのかって… 小さなジンクスでここまで喜べるって本当に羨ましいなって… だけど何より、僕と会えるのをそこまで望んでることが一番嬉しかった…。 「そこまで再会を願われてるとは思わなかったよ。」 「い、言っておくけど別にすごく会いたいって意味じゃないからね!!コンテスト会場とかで会えてバトルできたらってそういう意味!間違えないでよ!?」 「どっちにしても次に会うときはもっと強くなっててもらわないと。」 「その台詞、後悔しないでよ!」 やまない雨は無い…そう確かに雨は嫌いだ… だけど…こういう意味を持ち合わせる雨なら良いかなと思う… また…必ず会えるさ… ------------------------------------------------------------END--- 作者より… 1年越しの書きたかった文章が漸く書けました。 このジンクスは本当にあるものです。 どこか外国のジンクスだったと。 TVで見て使いたいと思ってました。 ジンクス一つでここまで喜べるハルカが可愛い(笑) でもジンクスになんて頼らなくても君たちなら 会えるから。ええ!それは私が保証するよ。 私は雨の日は大好きです。特に朝から雨が 降っているときは最高です。(大雨は嫌ですが) 雨が余計な雑音消してくれるのでいろんなことに 没頭しやすくなります。シリアスが非常に書きやすいです。 梅雨に突入したら書きやすくはなるんですが… 蒸し暑くなるのは勘弁です…。 2005.4 竹中歩 |