本当はわかっていたのかもしれない…
でもそれを確信にしてしまうのはなんだか怖くて…
ずっと『拒絶』してた
だって…
何かが変わってしまうようで…
それになんだか悔しくて…





悔しいけれど…





 ようやく5つ目のコンテストリボンをゲットしてからどれくらいの日にちが経過しただろう?
そんなに時間は経っていないのに色々ありすぎてかなり時間が経ってしまったような気がする。
後はグランドフェスティバルを控えるのみ…だけど、やることは沢山ある。
 フェスティバルで一緒に参加するポケモンを選んだり…
 ポロックを作ってポケモンを元気付けたり…
 いかに綺麗にそして華麗に登場するか等…
 簡単に考えればわかること。しかし、当の本人『ハルカ』はこの所集中していないことが多く、いつからか上の空のような状態が目立ち始めた。





「ハルカこの所こんな調子だな…それに名前呼ぶとなんか変な反応だし。」
 カチャカチャと音を立てて食事の準備をするサトシがタケシに話し掛ける
「フェスティバル前で緊張してると言う感じじゃない…と言うより、あれに近いな。」
「あれ?」
「『恋煩い』」
 不敵な笑みをこぼし決め台詞のように言ってみるが、タケシでは様にならないのは解かっている。
「タケシ…絶対サトシにはそれ、通じてないよ…」
「あはは。やっぱりサトシにはまだ早かったか。」
「悪かったな。でも、さすがにどうにかしなきゃいけないんじゃないのか?」
「でも、本人の問題だから、俺たち第三者がどうのこうの言う問題じゃない。それにこういう問題は女子のほうが自己解決するのが早いんだ。」
「と言うことは?」
「『時の流れに身を任せる』ってことだな。」
「僕は…あんまり乗る気じゃないよ…だって、僕あいつあんまり好きじゃない。」
 そう…ハルカ以外のメンバーは少しずつき気づいていた…










一人の少年の存在が…
ハルカの中でいつか…
『大きな存在』になることを…










「何でこうなるかな…」
 さっきから頭に浮かぶのはポケモンの戦術や技術なんかじゃない…
 風の音やそのあたりを舞う蝶々すら蟠りの対象になりそうなくらい、頭の中に靄がかかっている。
「どうして…?」
 前はこんなはずじゃなかった。



普通に接して…
サトシたちと変わらなくて…
嫌味とか言われたけど…
それすら友情関係に思えて…
絶対にいい関係になれると思ったのに…



「今は…あいつのこと考えると…頭が痛い…」
 考えるのがサトシ同様苦手なハルカ。すでに眉間のしわなど通り越し、無我の境地に近い顔になっている。
「こうなったのも…あいつが呼び方かえるから…」
 前は『君付け』だった自分の呼び名…だけど、この前の再会のときに
 『ハルカ』
 土壇場で窮地に追い込まれていた状況とは言えいきなりの呼び捨て…
 あいつとまた会うことを約束してわかれた後に気づいた。
 あれには意味があったのか?
 だとしても何故だか顔が赤くなる自分がいる。
 お陰でサトシやタケシが呼び捨てにしたときも過敏に反応してしまう。前までは平気だったのに…
「…あー!!もう!!」
「邪魔だったの?お姉ちゃん?」
「あ!マサトごめん!あんたに言ったんじゃないの。」
「そう…あのさ…お姉ちゃん」
「ん?」
「嘘は…体に毒だからね…」





「―――――――!………」





 マサトはそれだけ言い残しサトシたちのもとへと戻っていく。
「弟すら解かってたんだ…」
 そう…自分でもうすうす気づいてた。自分の気持ちに正直ではないことを。
 だって…
 どう考えたってそれはむかついたから…
 最初は嫌な存在でしかなかったのに…
 会うたび会うたびそれが薄くなって…
 『会えたらいいな』とか『今度はどこで会えるかな?』とか…
 楽しみでしょうがなかった自分。
 そんな自分がいたのは間違いない。
 だけどそれを認めてしまうと…





『不安』しか見えない…





もしも…そう思ってしまったら、自分が惨めになるしかない。
それはあいつが『美しいものが好き』だから…
私じゃ無理なんだ…美しくないって最初に言われてる…
もうその時点で
『敗北』『落胆』『拒絶』
いい言葉なんて浮かんでこない…だから気づかない振りしてたのかも…
何で今になって…





「こんなに押し寄せるの…」





こんな苦しい気持ちにさせられても
こんな惨めな思いをさせられても
こんなゴールの見えない状況になっても
事実は変わりはしない…





「だから…嫌いなのよ…」





良い思いなんてさせられてないのに…
それでも『あいつに会いたい』て言う自分がいる。










解かったわよ…もう。嘘は体に毒なんでしょ?










ハルカは大きく息を吸い込むと
「否定は確実にはできない…」





でも、確実にそうとも言えないもの。
まだ解からなくって…頭の中がめちゃくちゃになる。





だけど… 嫌いじゃないかも。こういう気持ち…





少しだけむかついて
少しだけ温かくて
少しだけうれしい





「少しずつ…これが何か突き止めればいいのよ。」
 そう心に誓うとサトシたちのもとへ走り出す。










「お!ハルカ戻ってきたぞ」
「お帰りお姉ちゃん!」
「なんか清清しい顔になってるな…」
「そう?さぁ、ご飯食べよ!お腹空いたかも!」










まだ自分の気持ちは良くわからないけど、
今度会ったら聞いてみよう
『呼び捨てには意味があるの?』
そのときは気持ちが顔に出ないようにしなくちゃ…
だって…
あいつを優越感に浸らせるなんて面白くないかも!















ハルカの心の中で気持ちに蹴りがついたとき…
大きな思いの変化と…
これからの二人の物語が
激しく変わることとなる…



シュウとハルカと言う…
二人の少年少女の関係が…










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作者より…
マボロシ島のお話に沿って書かせていただきました。
いきなりの呼び捨てに驚いて呼吸困難になったことを
覚えています(汗)。
何で呼び捨てになったのかとそろそろハルカもシュウへの
気持ちに気づいて良いんじゃないのかと思いこんな話。
大体人を呼び捨てにするときって
『その人との距離が縮まった』
『その人と親密になりたい』
この二つに絞られるのではないかと。
シュウの場合君付けが友人レベルで女の子だったら
さんだとかちゃん付け?呼び捨ては本当に特別じゃないのかな。
今年は急接近の二人をメインに。
2005.3 竹中歩