それは…欲しくてしょうがない物だけど…
どうやっても今の僕には手の届かない物
だけど、手に届かないからこそ、
それが手に入った時の喜びは大きい。
だから、それまで…





ヤキモチ





「弟君…ちょっと…」
「なんだよ〜!僕にはマサトって歴とした名前が…」
 そうマサトが口走った瞬間少年は自分の口元に右人差し指を添えた。それはジェスチャーで『静かに』と言う意味を持つ。それに反応したのかマサトは渋々ながらもその少年に近付く。少年の名はシュウ…グランドフェスティバル優勝候補の一人。



「悪かったね…急に呼び止めて。」
「本当だよ。お姉ちゃんに怪しまれずに来るの大変だったんだから。」
「そうかい?彼女なら簡単に騙せそうだけど?」
「…それに関しては僕もあまり否定は出来ないよ…」
 一緒に行動をともにしていたハルカたちから少し時間を貰い、マサトとシュウという珍しい二人組はポケモンセンターの本日シュウが借りる予定の部屋でなにやら、会話を進める。ちなみに、シュウが同じセンター内にいると知っているのはマサトだけ。偶然最後尾を歩いていたマサトが目撃したらしい。
「で?僕に何の用なの?お姉ちゃんの秘密は話さないよ?」
「そんな低レベルな会話をするために態々呼んだんじゃないよ。」
「低レベルって…」
「まぁ、そんな御託はどうでも良い。さっきちょっと変な噂が耳に入ったからね」
「変な噂?」
「まだ君が僕がここにいると言う事を知る前の話…君たちがここに付いた時の話だよ。なんでも、イザベ島のコンテストでアクシデントが起きたとか…しかも決勝戦に。」
 シュウの口から出されたその言葉にマサトは先ほどまで見せていた強気を一気に消沈させる。
「…心当たり…あるんだね。」
 マサトは世間一般の同じ年の男子比べたら落ち着いているし、しっかりもしている。そのマサトがここまで子どもらしく素直に感情を出すのだ。シュウは直感で何かを感じ取る。
「数ヶ月も前のコンテストだから…噂程度で治まったんだね…でもまだ残ってるとは思わなかった。」
「やっぱりハルカ君がらみか…確信はもてなかったんだけど…確か君たちはイザベの方を目指していたし、ハルカ君なら決勝戦に残ると思っていたから…。」
「…まぁ、シュウにばれるのも時間の問題だし…話してたほうが良いかもしれない。」
「理由があるなら無理にとは言わないけど…話してくれるなら聞くよ。」
 そこからシュウはある事件を知ることになる…



「あのね、事の始まりはプリカで知り合った『ハーリー』ていう男の人のからなんだ。決勝戦でお姉ちゃんの相手だった人。でもこの人…裏で色々やる人でさ…嫌がらせとか精神面でダウンさせるとか…。」
「…直訳すると単純なハルカ君はそのハーリーという男性の罠に見事に嵌ったと。」
「それは違う!それもあるけど…でも結局あれは…僕のせいだから…」
 俯いていたと思った顔を一気にあげると大声にも似た声で叫ぶマサト
「…君の?」
「僕が…ハーリーさんを信用して…お姉ちゃんの秘密喋っちゃったのがいけないんだ。」
「何でそんな見ず知らずの会ったばかりの人間に…」
「シュウよりは信頼できそうだったから。」
 この辺は相変わらずシビアなマサトだと思う。よほどシュウはマサトに嫌われてされているのだろう。
「そしたら…その時の会話録音されてて…決勝戦のバトルの最中に…会場内にスピーカーで流れて…お姉ちゃんパニックになっちゃって…まぁ、最終的には勝てたけど…。」
「それが…アクシデントね…」
「結局テープも見つからないし…ハーリーさんは終ったあとすぐに姿を消したから…証拠もなくって…あやふやなままに…。」
「なるほどね…。その秘密って言うのはハルカ君にとって余程きつい物だったのかい?」
「シュウは知らないだろうけどお姉ちゃん…絶対に水色の水着だけは着ないんだ。」
「……?」
「もうここまで喋っちゃったし、黙ってるのも変だから話すよ。お姉ちゃん、昔水色の水着着てたせいでメノクラゲの大群に囲まれて…しかも背格好が丁度似てて…ママが間違えてゲットしそうになったって話…。お姉ちゃんメノクラゲと水色の水着だけにはかなりの恨みとか恐怖こもってるみたい。」
「それは…トラウマって奴だね…」
「そう。僕にとっては笑い話なんだけど…お姉ちゃんにとってはかなりきついみたい。」
 マサトの言う事は一理分かる。確かに恥ずかしい出来事ではあるが、何故そこまで恥ずかしがるのか分からない。自分の笑い話でスルーすれば良いだけの話だと。
「だけどね、お姉ちゃん吹っ切れたみたいだよ。」
「え?」
「サトシがね…パニックになってるお姉ちゃんに一喝入れたんだ。そしたら、それを怒りに代えてハーリーさんにぶつけてね…本当に助かったよ。」
 今度はマサトのその一言でシュウの顔が一瞬渋くなったように伺えた。
「サトシってば本当に頼りになるよね。」
「そう…だね…。有り難う大体の素性はわかったよ。」
「シュウにばらしたって言うのは秘密だよ?それに今回は貸しだからね!」
「貸しね…。」
 そう言うとマサトはシュウの部屋の扉を開け自分の部屋へと帰っていった。





 暫くして気付いたが、少しだけ扉が開いたままだ。マサトの力が弱かったのだろう。
「…本当に欲しいもの…か…」
「お!シュウじゃん!」
 その男子のくせに快活で陽気な声はいつもハルカとセットで聞いているような気がする…
 そう、先ほどマサトの会話でも現れたサトシ。
「やぁ。」
「お前も来てたんだな!ハルカなら…」
「あとで自分で探すよ。」
「そっか。」
 まるで太陽か向日葵と見まごうばかりの明るさ。そのサトシにシュウは軽く笑って
「君のポジションは本当に羨ましいよ。」
「は?オレのポジション?オレサッカーなんてしてないぞ?」
「そのハルカ君に似たような単純な性格のせいかもしれないね…」
「お前何言ってるんだ?」
「声をかけたいときには…傍にいないし…何がおきて不安になっているのかもわからない…支えになりたいけど…今の僕じゃまだ無理だしね。」
「ん〜〜〜ハルカのことか?」
「おや?こう言う事は気がつくんだね。ハルカ君の話によると君はかなり恋愛関係に疎いと聞いたけど。」
「はぁ?オレ恋愛の事なんて言ってないぞ?」
「まさか…本当に…素?」
 珍しくシュウの冷静な表情が崩れる。頬に少し汗が見えるほどだ。
「解かるぜその気持ち。実際嫌いとか何だかんだいってもライバルだからこそ支えてやりたいとか思うもんな…ライバルだからこそ友情関係とか大事にしたいと思うのは当然だぜ。」
 能天気で…本当に単純でかなりの天然ボケそれにプラスして鈍感ここまで揃うと本当に笑しか出てこない。
「ライバルか…君にとってのライバルはそう言う関係なんだね。」
「シュウは違うのか?」
「ちょっとね…いつか…君から譲ってもらうよ。そのポジション。」
「??は?」
 再びシュウは笑って部屋に戻る。





「本当に欲しい物はすぐに手に入ると面白くないからね…君たちもそう思うかい?ロゼリアにアメモース…」










僕が居たいポジションにはいつも君がいて…
彼女を励ましたり…元気付けたりと…
本当は僕がしたかった。
早く言うと…嫉妬とかヤキモチの部類。
でも、まだ今の僕じゃ無理なんだ。
君みたいに純粋でもなければ鈍感でもない。
多分…彼の方がまだ僕より彼女を知っているから…
いつか…僕が君より彼女を解かるときまで
そのポジションは預かっててくれないか?










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作者より…
ハーリーさんの話でサトシがハルカに一喝した時
『何でシュウじゃないんだ!!』
と叫んだ事から出来たお話。
別にサトハルではありません。(私はサトカスなので)
サトシとハルカが一番歳が近いし、ハルカがへこたれる時、
多分サトシは昔の自分を重ねてるから、アドバイスが
出来るんだと思います。
ちなみに最後まで恋愛関係が絡んでるとわからないのが
サトシです。解かったら私的に駄目なんです。
今回のポジションですが大抵自分の欲しいポジションて
誰かがいるんだと思います。これは実世界も一緒で。
例えば、クラスの盛り上げ役になりたいのに、既に友人がなってるとか、
それこそ好きな人がいるのにその人に恋人は既にいる
と言うような感じです。
シュウも同じじゃないかなと思って。
サトシみたいに元気付けたいけどそれだけの器がこのときは
まだ足りなかったんだ。だから次こそはって。
まだまだ道は険しいぞ少年よ。ファイトだ!
2005.1 竹中歩