君からの突然の電話に
いつもより素直になれた
面と向かってではないけど
受話器越しだけど言わせて欲しい
僕が見せる珍しい本当の気持ち。





ありがとう」




「ふう……。」
 そうため息を付いて少年は窓際の席についた。歳は10代に漸く入ったくらいだろう。青年とはまだ程遠いがその行動が年齢に会わないほど落ち着いてる。顔立ちは9割方『美形』に属されるほどの良いもの。街でも噂になっておかしくないほどだ。翡翠色の髪を持ち、何かを見据えるような同系色の瞳。そして対照的な色『紫』のジャケットを羽織っている。まるでその席のみが絵画のようだった
「…疲れた……」
 席についたときに一緒のテーブルに置かれた温かい珈琲を軽く喉の流し込み、カップをソーサーに置く。『カチャッ』という独特の陶器の音と一緒に零された言葉その言葉は嘘ではなく、遠くから見てもその少年には疲れの表情が見えていた。

 少年の名はシュウ…数あるポケモンコンテストでリボンを獲得し、その強さ…その容姿…そして身のこなしから知らない人はほんの一部というほどの有名人まで上り詰めた少年である。

 今日は次のコンテスト会場までの道のり中に会ったポケモンセンターで一晩を過ごす予定だ。本来なら静かに読書などをしながら旅の疲れを取りたかった。が…そのささやかな願いも簡単に崩されてしまう。
 理由はポケモンバトル。ポケモンセンターについたとたん、顔をある程度知られている所為で何人かのコーディネーター志願者そしてポケモンマスター志願者に勝負を挑まれ約3時間戦っていた。おかげで漸く今腰を降ろす事が出来る。ポケモンセンターに着いたときは遥頭上に輝いていたというのに今は真横に等しいほど沈んでオレンジ色になっている。そろそろ疲れもピークだ。
「本当は…戦いたくなかったのに……」
 カップに入った珈琲に映し出される正反対の自分に問い掛けるように喋る。
 そう…戦いたくは無かった。理由はポケモン達を休ませたいという物もあったが、ココの所あまり調子が良くない。早く言うなれば『スランプ』と言う物である。シュウも人間だ。いくら能力が優れている年齢に不似合いなほど落ち着いていると言われても調子の良くない事だってある。しかも繊細な人間なら尚更。いつもは2、3日で大抵はいつもの調子を取り戻す。だが今回の事は本当に深刻だ。一週間もこんな調子である。
 スランプの時の対象は人それぞれ。だがあえて上げるなれば多い事例は二つ。

 『そのスランプの原因を徹底的に追求する』
 つまりポケモンバトルを嫌がらせのように何度もやる。
 『そのスランプの原因に極力関わらない様にする』
 この場合はポケモンバトルを出来るだけしないという事だ

 シュウは出来るだけ関わらない事を選んでこの数日間ポケモンと戯れたり花の散策をしていたりしていたのだがやはり良くならない。ちょっとした病気でもないかと自分でも思うくらいだ。なのにココへきて疲労になるくらいの回数のバトル。スランプの状況はバトルをすればするほど悪化しているのが良く分かる。コンテストで多々優勝しているだけの事はあって負けはしなかったが、こう言っては悪いとは思うがどう見ても自分より劣っている人間に対して苦戦を強いられるというシュウの苦手な『美しくないバトル』。流石に嫌気がさしていた。
「何が…いけないんだろう…」
 温かかった珈琲は一口、口をつけただけであとはそのまま。いつの間にやら湯気も消えうせていた。
 でも…こうしてただのスランプとして扱ってはいるが自分の中では原因はわかっている。一人の少女の所為だ。
 事の発端は一週間前の事…つまりシュウがスランプに陥ったのと同時期…



 一週間前ココでは無いポケモンセンターに泊まった時だ。
 そこのポケモンセンターでポケモンコンテストでは欠かせない存在の『ビビアン』さんの特集が行われていた。彼女が司会をしたコンテストが2時間に渡り放映されるという物だった。そしてその再放送の中で彼女を発見する事となる。彼女とは大抵同じ大会に出ているので自分の知っているコンテストばかり。下手をすればシュウが最初に出たコンテストのこともやっていた。まだそのときには彼女とは知り合いになっていなかったので、もちろんそのコンテストには彼女は存在しない。だがそのダイジェストとの最後に公開されたコンテストはシュウの知らない彼女が写り…そして優勝していた。

 そのときからだ…シュウの調子が崩れたのは…



 シュウの中でそこまでも大きな存在となっている少女というのはシュウのことをライバル視している同じ歳くらいの少女。シュウは徐にその少女との出会いを思い出す。

 初めて会ったのは自分の泊まっているホテルのプライベートビーチに無断で入ってきた集団の中にいた唯一の女子。最初は注意を促すために彼女達の視界にシュウが入った。話して見るとその少女の言葉や行動、ポケモンバトルに至ってまで美しくないときたものだった。シュウはそのありさまをそのまま言葉にしてぶつける。本来は滅多にそんな事はしない。そんな言動したとしても、ある程度知り合って、自分が苦手だと思った人間にしかしない行動。だから大抵はオブラートで厳しい言動を包みながら言うのだが、初めて会ったにも拘らずその少女に対しては何故かそんな行動をとってしまったのを今でもはっきり覚えている。
 次の日何の縁からかその少女とポケモンバトル。同じコーディネータを目指す物同士バトルするのは目に見えていた。しかし、それは邪魔が入り結局、決着がつかないまま終えてしまい、そしてシュウはそのまま彼女と別れようとした。少なからずコンテスト会場で会えるのは分かっていたからだ。だが、ココで予想だに出来ない事が起きる。



あれだけひどいことを言ったのに…
絶対彼女の中で『嫌な奴』で終らせられると思ったのに…
その少女は笑顔でシュウにまた会おうと言った。



 思えばそのときからかもしれない。彼女に魅力を感じ始めたのは。
 特に容姿が言い訳でもなく、性格がいいわけでもない。比喩表現にすら出来ないほどの『普通の元気な女子』だ。なぜそんな彼女に魅力をシュウは魅力を感じたのだろう?シュウは人よりも美しさへの探究心が強い。となれば美人に魅力を感じるのが普通だろう。しかもシュウが認めるほどの美人となればうはいないはずだ。そうなれば余計に謎は深まる。
「さて…どうしたものだろうね…」
 誰に問い掛けるわけでもなく、ただポツリと言葉を零した。
 無意識に珈琲を飲んでいたのだろう。何時の間にか冷めた珈琲は飲み干していた。この場所にいても意味は無いと思い、シュウは席を立ち上がる。外にはギリギリ太陽を確認できるくらい暗くなっていた。この場合夕日といった方が正しいだろう。
「…太陽は面白いね…時間によって呼び名が違うから…朝日…夕日…そして太陽…」
 無理やりにその少女の事を振り払おうと口から出した言葉。だがそれはポケモンセンター内に流れるアナウンスにかき消されてしまう。

『本日お泊りになられるシュウ君…繰り返します…』

 一度目は聞き逃してしまったが二度目で確信に変わる。それはどう聞いても自分の事だった。心成しか名前のあとが『さん』や『様』ではなく『君』という物に自分の年齢の低さを感じるが、それはどうでもいいこと。シュウは軽い駆け足でそのアナウンスの元へと向かう。
 アナウンスが行われているのは受付。シュウは受付にポケモンセンターには絶対的な存在のジョーイを見つけると話し掛けた
「あの…なんですか?アナウンスでの呼び出しって…?」
「あなたにお電話よ。」
 いつもの癒し系の微笑でシュウの問いかけに簡潔に答えを述べる
「電話…?」
 シュウには電話が掛かってくる心当たりが無かった。自分がこの町にいるのは知り合いは誰も知らないはずだ。知っているとしたら前回立ち寄ったポケモンセンターのジョーイさんにどこに行くのかと聞かれてこの町の方面を目指すといったくらいだ。
 そして備え付けの公衆TV電話にその電話を繋いでもらった。
「(…一体誰が…)」
 一応誰が写ってもいいように心構えはしていた。電話が繋がると独特の機械音とともに繋がっている電話の前の人物を映し出す





「≪うん…先に行ってて…≫」
 最初に映し出されたのは後姿だった。だが、シュウには後姿だけでも分かりすぎるほど知っている人物…










赤いバンダナに
秋に色づく落ち葉と同じ色の髪
そしてその人物が振り向いたのと同時に映し出される…
あどけない顔立ちと癒しすら感じられる透き通る碧眼…
自分が一番…心の中で…想った人物










「な…んで…」
「≪あ!ごめんもう繋がってたんだ!≫」
 思春期に到達したかしていないかくらいの年齢の少女が映し出される。
 シュウと同じとしくらだい。少女はぱっと咲いた月下美人のように笑顔でこちらを見ている。
「なんで…君が…」
「≪あ?やっぱり驚いてる?普通は驚くわよね。≫」
 電話の向こうでうんうんと頷く少女にシュウは面食らっていた。こんな表情をしたのは数ヶ月前のポケモンコンテストのバトルで自分の持ちポケモンロゼリアが不意打ちに等しい止めをが食らったとき以来だ。ただあの時とは少し違った驚き方だと自分でも思う。少女は気付かないだろうが少しの嬉しさと驚きが混同しているような表情
「どうして僕の居場所がわかったんだ?」
 その表情を押さえつつ冷静にことを判断する。数ヶ月も会っていない彼女が自分の場所を知っているのは変な事だ。逆にいえば知っているのが不気味なくらい…
「≪えーとね、私が今いるポケモンセンターに入ったときにね宿泊の登録をしてもらってたの。そのときにね、このポケモンセンターのジョーイさんにシュウのいる所のジョーイさんから電話が掛かって…その電話越しの向こうの画面にシュウがチラッと映って…最初は見間違いだと思って無視してたんだけど気になってジョーイさんにそっちに電話してもらったらやっぱり間違いじゃなくて…今こうして電話してるわけ。≫」
 自信ありげに語る少女。そんなところも可愛く思えてしまう辺りもう末期症状なのかもしれない。だが、そんな表情をあえて壊すようにシュウは厭味をかける。
「凄い偶然だね…まさか君のような人から電話が掛かってくるとは…現時点で僕の貴重な安らぎの時間が削られたって分けだ。」
「≪数ヶ月経ってもその厭味は顕在ね≫」
 電話の向こうで引く付いているのが分かる。その行動を見たいがために…いや、関わりが欲しいがためにシュウはこうしているのだろう。
「で?どうして君が僕に電話する必要があったんだ?嫌な気持になるのはわかっているだろう?」
 少女の気になって電話をかけたという言葉にシュウは興味を持つ。
「≪へっへー!!今日はに言われも少しは我慢するかも!コレを見せたかったのよ!≫」
 少女は自信ありげに電話の画面にコレでもかというくらい何か突きつけた。それはポケモンコンテストにあって当たり前のリボンだった。彼女のリボンは全部見ている。それは同じ大会に出場しているから当たり前だ。だが…それは見覚えの無い水玉模様のリボン。そう…シュウが唯一知らないハルカが優勝して勝ち取ったリボンだった
「≪この前の大会でゲットしたのよ!≫」
「…それは良かったね…君は運だけには恵まれてるようだ。僕がいたら…どうなってたか…」
「≪そうね…また今回シュウみたいに戦いがいのあるライバルも見つけて苦戦したけど前回の戦いで天狗になった…後悔して…ポケモンを良く見せる苦労もしたわ。でもそのかいあってちゃんとゲットできたもの!今回は運だけ何ていわせない!私のポケモンたちおかげよ!≫」
「…君からそんな台詞を聞けるとわね…今日は雨じゃなくて…落雷かな…」
「≪何があっても褒めようとはしないのね≫」
「いや、コレでも褒めてるつもりだよ…薔薇を活躍したポケモンにあげられないのは残念だけど。また会った時に倍にでもして渡すとしよう。」
「≪じゃぁ、ポケモン達に伝えておくわ。≫」
 鼻を高くして笑っている少女に対してシュウは対照的な少しくらい表情をとる。
 少女もそれを察したのかすぐさま問い掛けてきた
「≪どうかしたの?≫」
「…君にまで分かるような表情をするとは…僕の不調も相当な物だね。」
 軽く肩を竦めるシュウ 
「≪どこか体の調子でも悪いの?≫」
 さっきまでの嬉しそうな顔はいつの間にやら不安で潰されそうな表情になっていた。
「君がそんな表情にならなくても良いよ…体の不調…というより…精神の不調かな…」
 本来なら不調は戻っていた筈だった。でもその少女の『シュウみたいに戦いがいのあるライバルも見つけて』という言葉が余計に自分の気持を暗くさせる。唯でさえ、自分の知らないところで彼女は道を歩んでいる。



心の奥で…知らない部分が多くなるたびに…苦しかった…。



 そんなシュウに少女は関係ない言葉を漏らす。
「≪シュウ…丸くなった?≫」
 シュウは再び面を食らうが今回のは疑問系の面くらいの表情だ
「君は僕が太ったとでも言いたいのかい?」
「≪違う!違う!そう聞こえたならごめんね。唯ね…表情が丸くなったなって…≫」
「……え?」
 少女は何か言いにくそうな言葉を持っているのだろう。何度か言いかけるが直前で止めてしまう。漸く意を決したのか言葉をさらさらと早口口調で話す
「≪あのね、私一週間前にTVの特番で私が知らないコンテストに参加してるシュウを見たの。その映像がね私に知ってるシュウと違うなって…それでね、考えたらシュウと3ヶ月くらい会ってなくてあんなに表情きつかったのかな…私の思い違いかもとか思ってたら心配になって、そのときこんな偶然が起きて…嬉しかったの。やっぱり私の思い違いじゃない。シュウの表情柔らかかった…きっと映像の時から柔らかくなったんだって!…それで、電話したの…≫」
 普通は聞いていたら赤面しそうなくらい恥ずかしい台詞。確かにコレだけの言葉を話すにはかなりの勇気がいるだろう。
「…結局…お互い一緒か…」
「≪え?何か言った?≫」
「いや…表情が柔らかくなったね…そこまできついとは思わないなんだけど…」
「≪厭味はきついけどね≫」
「何なら普通接してあげても良いけど?今更気持ち悪いだけじゃないのかい?」
 少女は軽く想像したのか数秒でその想像が気持ち悪い事に気づく。
「≪普通のシュウがどんなのかわからないけど…シュウが厭味言わなくて普通に接したら確かに気持ち悪いかも!人間何か人より劣る所が無いとね≫」
「…劣る場所…ねぇ…」
「≪なによ…あ!ごめんもう小銭がないから切るね!またどこかの大会で!≫」
「少し待って…」
「≪え?≫」





 シュウは軽く笑う…そして…珍しく真面目表情をしたかと思うと
 再び目を瞑ってあどけない表情で…










「本当に…ありがとう…ハルカ君…」











その言葉に一瞬と惑ったがハルカは無言で… 満面の笑みを浮かべたと言う…。










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作者より…
短い詩にするつもりが長くなりました。
すいませんこの頃無駄に長いです。
でも久々に自分が頷けるシュウが書けました。
今回は回想に近いのかな?
私もスランプで最初に戻ってみよう!ということで
シュウも最初の頃を思い出してただきました。
資料を引っ張り出してみてみると自分のシュウが
どれだけリアルのシュウとかけ離れてるか分かりすぎて痛かったです。 もの書きとして反省する
します。私もハルカと一緒で
少し見失ってなって
いたのかもしれません。
見直して書いた小説では幸先がいいと思います。これからも精進です
でも最初の頃のシュウから徐々に見ていくと本当に
言動や行動が柔らかくなったと思います。
多分ハルカのおかげなんだろうね。
そんな感じと今回のコンテストにシュウが出てこなかった
寂しさ混ぜました。多分お互い不安なんだと思います。
知らないところで成長はしていく。
成長するのは嬉しいけれど会えない不安が待ってる
ある意味長距離恋愛?そして今回のありがとう。
シュウて大切な言葉を本当に大切な時以外言わないと思います。
それだけ大切な言葉を大事にしたいんだと。
これからも厭味たっぷりで行って欲しいです
2004.9 竹中歩