たまに見せる表情はドキッとする。
それは笑顔に近いほど余計に…





笑顔





 ある日の昼下がり、小春日和の陽気が街や森を優しく包んでいた。そしてその春の心地よい風を頬に受ける少年とポケモンが町外れの公園で佇んでいる。ハルカが今の所一番敵意を燃やす少年『シュウ』その人だ。そしてポケモンはもちろん『ロゼリア』…といいたい所なのだが、赤みを帯びた初心者のお勧めのポケモン『アチャモ』がシュウの視野範囲でちょこまかと動いている。
「全く、今日は運がいいのか悪いのだか…」
 これにはちゃんとした理由が存在している。それはしばらく前のこと…





「で?僕にアチャモをどうしろと?」
 少し無愛想な顔で話しているシュウの目の前には必死で頼みごとをしている。ハルカが存在していた。2人は次のバトルの開催される予定地の少し手前のこの街で今、偶然に出会ったのである。
「お願い!アチャモを預かって!!」
「それは…紛れもなく僕に頼んでいるのかな?」
「シュウ以外に誰が居るのよ?」
 ハルカはモンスターボールからアチャモを出すとシュウの目の前に差し出す。状況の分からないアチャモは機嫌よさそうに鳴いている。
「大体なんで僕がそんなことを…」
 それはそうである。何故ライバルからお世話を頼まれるのかがまず不思議だ。
「実はここの近所で凄く綺麗なガラス工房見つけたんだけど、入り口に入ったとたんアチャモが飛び出してきちゃって…どうやら、エネコの飛び出す癖を身につけちゃったらしいのよ。いきなりアチャモがガラス工房で飛び出しちゃったりしちゃったら…お店の中はガラスの破片でいっぱいよ…」
「だから、そのお店に入る間、僕に預かってほしいと?」
「そういう事。」
「本来なら、そういうところはそんな危険性があるなら我慢するべきだが…」
 シュウの言うことは一理ある。だが、綺麗なものに対する女の子の興味は抑えられない。
「やっぱりダメか…」
「誰もダメなんては言ってない。約束が守れるのであれば預かってもいい。」
 シュウの意外な言葉にはとが豆鉄砲を喰らったような顔になるハルカ。
「本当…かも?」
「一応、僕は嘘はつかない性格なんだが…君がそれを断るのも自由だ。」
「ううん!約束守る!…で?約束って何?」
「『時間厳守』絶対に1時間で戻ってくること。僕にも予定があるからね。それを守ってくれるんだったら預かる。…エネコはいいのかい?エネコのほうが動き回るんじゃ?」
「エネコはあらかじめポケモンセンターに預けてるのよ。一緒にアチャモも預ければ良かったなって今更後悔してる。ジョーイさんはこの時間は往診で外に出てるから預けられなくて…サトシタチも別行動でどこに居るか分からないし…シュウが居たときは本当に嬉しかった。…でも本当に約束それだけでいいの?」
「…なんならもっと約束事を増やしてもいいんだけど?」
「ごめんなさい。一時間ね?絶対に一時間内に戻るから!アチャモのことお願いね!」
 ハルカは心の中にその約束事刻むと猛スピードでシュウの視界から消えていった。明るく元気でやんちゃなアチャモを残して…





「僕も押しが弱い人間だな…」
 結構自分では口は悪いほうだと思う。正しいことをもう少し優しく言えればいいのだがそれはシュウの中では苦手に属される。それはハルカの前だと余計に。だけど、なぜかハルカの頼みごとだけは断れない。口が悪いと普通は断れるのだが…
「それにしても…このアチャモ、よく動く。」
 ある意味敵情視察であるが、ハルカはそのことには気づいていないだろう。しかし、シュウがそんなおいしい機会を逃す筈はない。先ほどからよく観察しているがあまりの行動ぶりに感心するばかりだ。走ればこけるし、尻尾を追いかけては目を回す。花を見つけるすぐさま飛んでいくという目が離せない生き物だ。そして、そう思っているときもアチャモは思い切り走ってこけた。
「やれやれ…」
 シュウはアチャモに駆け寄ると拾い上げ、軽くアチャモの体についた砂を落とす。
 「少しは落ち着けないのか?君は。…でもこうして見てると…」
 そこで一旦言葉が止まるとシュウが少し堪えたような笑い方をする。

「ハルカ君そっくりだ。」

 ペットとは飼い主に似るというがこの場合はポケモンはパートナーに似るといったほうが正しいだろう。シュウにしたらここまでアチャモを見るのは初めてだ。ポケモンバトルで見たことがあるのはアゲハントとエネコのみ。ハルカがアチャモを持っていたのは知っていたが、今までバトルで使われたことがなかったため、アチャモだけどんな性格をしているのかが分からなかったが、見れば見るほど行動がハルカとかなりの割合で似ている。その行動を見るたび少しずつ顔から笑みがこぼれる。
「君が居ると不思議と笑みがこぼれる。」

『ガサッ』

 シュウの後方から草を分ける人工的な音がした。姿は見えにくかったが垣根らしきとこから赤いバンダナが飛び出している。
「かくれんぼが苦手なアチャモが居るね…本当に姿を隠すのも美しくないな…」
「美しくなくて結構よ!」
「かくれんぼになってないよ…ハルカ君。早かったね。30分位しかたっていないよ?」
「あは、あはは……やっぱりアチャモが心配で早めに切り上げたの。」
「それは僕を信用してないってことかな?」
「いや!そういうわけじゃないの!」
 必死でその場を取り繕うハルカの瞳にはうそは存在しない。
「唯ね…やっぱり楽しいときはポケモンとも味わいたいって思うの。だけど、いないと思ったら急に会いたくなっちゃって…ポケモンセンターに預けてる時はもう少し長い時間離れてられるのにね…ポケモントレーナー失格かな…。」
「…それが普通だよ…でも、何で出てこなかったんだい?」
「あのそれは…シュウが笑ってたから…」
 そのハルカの言葉にシュウの行動が一瞬止まる。
「そんなに僕の笑顔は見たくなかったかい?」
「ううん。その逆。シュウの笑顔ってなんかいつも『バトルの時に達成感の笑顔』て感じで普通に楽しい時とか胸が暖かくなるようなほんわかする笑顔って見たことなかったからそれをちょっと見てたくて…きっと私が入っていったら消えちゃうと思ったの。だから茂みに隠れってたって訳。」
「そういう事か…」
「ああ!忘れてた!!これこれ!!」
 ハルカは自分のウエストポーチから小さな手の平サイズの紙袋を出す。
「これ、シュウに。アチャモ預かっててくれたお礼。」
 シュウはその紙袋をうけと取り開くと中にはさらに小さな布袋が入っていた。
「本当はガラスの置物とかが良かったんだけど…旅の最中じゃ邪魔になるし、割れるかもしれないでしょ?だから小さなガラス玉のお守りにしたの。あまりいいものとは言えないけど、色がね『ローズ』ていう色だったからシュウにいいかなって思って。お守りの意味は特にないらしいの。自分で好きな願をかけると良いって。」
 ハルカの行動に少しシュウはうつむくと

「それじゃ好きな願をかけさせてもらうよ。…それとね僕は確かにあまり笑わないけど…でも…僕に………は…………だから」

「え?ごめん聞こえない……?!」
 ハルカは視線をシュウの方に移す。そこには…





 本当に胸を暖かくするような笑みを浮かべたシュウがいた。
「(凄い…シュウが笑ってる…)」





「それじゃ、僕はもう次の町に行くよ。次にあう時はきっと会場だね」
「うん!またね!今日はありがとう!」
 いつもどおり前髪をかきあがるとシュウはその場をあとにした…










 そして、旅の途中にロゼリアをモンスターボールからだし、何か話している。
「そうだ、ロゼリア、彼女から貰ったお守りの願いは決めたよ…『彼女の笑顔をいつでも見れますように』…やっぱり気障だと思うよね。流石の僕もね、やっぱり気障だと思った。だけど、これが本心だから…え?ああ、彼女聞こえなかった台詞は何を言ったのかって?それはね…」










『僕に笑顔を与えてくれのは『君だけ』だから…』










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作者より…
一ヶ月ぶりの小説です。しかもお題です。この頃
お題しか書いてない気がします。
このお話は大分前から脳内にあってこの前思い出して
書きました。いやー気づいたのが今でよかった。
アニメのOPが新しくなってシュウが出たのは嬉しいのですが
アチャモが進化してることにヤバイと思いました。
進化したこの話がとても書きにくいのです。
何となくアチャモがハルカに似てたのでこのお話が
出来たのであるから、進化しちゃったらぜんぜん違いますからね。
今の時期で本当に良かったです。
というか、シュウがかなりの人気があることが分かりました。
OP登場ですか?シゲルも出ないのにシュウが出てますよ。
いやはや、本当に嬉しい限りです。もしかしてハルカとシュウの
遭難話がアニメで見れるのも夢じゃないですか?!
とりあえず今後の展開に期待します!!
2004.4 竹中歩