「痛!」
「お姉ちゃん…どうかした?」
 弟のマサトが心配そうに姉…ハルカの顔を覗き込む
「ん…ううん。平気平気。」
 ハルカは何事も無かったかのように笑って返す
「もう。驚かさないでよ…グランドフェスティバルになったとたん体調崩さないでよ?」
「分かってるわよ。流石の私でも今回ぐらいは自分で体調管理するわ。」
「大丈夫かな…?」





この時…既に私は痛感していた…
本当は欲しかった筈で
なのに、行動では欲しくないと否定していた
ある痛みを。
そしてそれがいつかは安らぎに変わると…
知っていたから…










ライバル










「やっぱりでかいな!」
 サトシの言葉で私も大きく頷く。確かに大きい…今まで見たどのコンテスト会場よりも。
 私はここで戦うんだ…数々の場所で勝ち抜いてきたコーディネーター達…そして…あいつと…
「とりあえず、宿舎に行って荷物を置こう。行動はそれからだ。」
 タケシに言われて漸く自我を取り戻す。そうだ…先にやらなくちゃいけないことがたくさんある。寄宿舎に行って、それからこの会場周辺の地理を頭に叩き込んで…バトル会場見学して、どのポケモンにするか…
「…ルカ!ハルカ!」
「え?」
「ぼーと突っ立てないで行くぞ!」
「うん!」
 私よりサトシのほうが張り切っている気がするけど…まぁ、今は宿舎に行こう。










 宿舎の部屋に行く途中、応援に来たママと合流。パパは来れないって言ってた。でも、それは予想してたから。ちょっとだけ残念だけど、テレビで応援するって言ってたから応援があるには変わりない。そう思うと俄然やる気が出るかも。
「わ…お姉ちゃん応援の手紙とかメールだよ!!」
 宿舎の部屋には今まで旅をしていて知り合ったコーディネータの友人たちから多くの手紙が届いてた。今まで気がつかなかったけど、私ってこんなに沢山のの友達がいたんだ…友達だけじゃない。友達の家族や友人まで一緒になって応援するという文面が多々綴られている。
「ハルカにはこんなに沢山の友達が出来たのね…」
 ママが満足そうに笑う。トウカを出るまで友達なんて一桁しかいなかった私…だけど今は両手の指どころか両足の指を使ったって足りやしないわ。そんな私を見てママはホッとしたんだと思う。そのママの安心した表情は今までどれだけ私を心配していたか分かる。今まで迷惑かけてごめんなさい…。でもその分今回のバトルを見て私の成長…ちゃんと目で確認してね。
「…グレースさんだけ無いな…」
 タケシったら必死で何を探してるかと思えば…グレースさんの手紙を探してたのね。手紙が無いってことはもしかしたら、参加してるのかもしれない…もしくは、山ごもりの修行の最中で日にち感覚ずれてるとか…あの豪快なグレースさんならありえるかも。
「あとは皆あるよ…お姉ちゃんが知り合ったコーディネータからの連絡は。」
 マサトの一言に一瞬『一人足りないかも』と言おうとした自分がいる。そう…手紙なんてよこさないとは思ってた。逆に貰った方が気味悪いわよ。それにあいつは……
「必ずここに来てるから…」
「何か言った?ハルカ?」
「ううん。何でもない。」
 ママに少し聞こえちゃったかな…でもいずれは分かるもの。さて、そろそろ町の中へと繰り出そうかな…




「ここにいるの全部コーディネーター?」
 広場と思しきその場所では既に他のたくさんのコーディネータが練習やポケモンとの交流を深めていた…私も負けてられないかも。私は自慢のポケモン達をママに紹介したくてモンスターボールから出してあげた。一匹一匹大事な私のパートナー。
「特にこの子は素敵だわ…」
 そう言ってママが手を差し出したのは…アゲハント。そうよ。だって私が一番最初にコンテストに出たポケモンだもん。それに…あいつと一番最初にバトルしたポケモン…だから思い入れは半端じゃない。この子だけは特に綺麗にしてあげたい。あいつにいつも褒めてもらえるこの子であるように…。
 他の子も可愛くて可愛くてしょうがないけど…ゴンベは目を離した隙に人のポロック食べちゃってるし。この子はまだ、コンテストには出せないかな。
 その時…背後に覚えのある気配…










「シュウ……やっぱりいたわね!」










 やっと見つけた…私のライバル。いると思ったわよ。私より先にリボンは5つもゲットしてるんだから。これで出てなかったら、確実に怒ってる。
「コンテスト出場おめでとう…」
 一応、褒めてくれてはいるんだろうけど…どうしても嫌味に聞こえてしょうがない。どアップの顔に一瞬かっこいいと思った自分が悔しい…どうせこの薔薇だって、またポケモンにでしょ?私とシュウの関係って何でか喧嘩になっちゃうのよね…コンテストぐらいまともに話をしたいかも。わたしだって、シュウがもうちょっと優しければ素直になるわよ。



「ハルカちゃん!!」



 すごく聞き覚えのある声…だけど、シュウ以上にむかつく声…思い出した!!ノクタス使ってたハーリーさんだ!!なれなれしくちゃんなんて呼ばないで欲しいかも!!この人のお陰で私またメノクラゲのこと思い出しちゃったんだから…一言言ってやる!!

…と思ったんだけど……これは何?

 ハーリーさんが無茶苦茶反省してるんだけど…あーあ、涙まで流しちゃって…とても一言なんていえる状態じゃないよわ。これで喝なんて入れたら、大声で泣きかねない…そしたら私、悪者よ。しょうがない…いいわ。気にしてないから。
 やたらとテンションと思いつつハーリーさんのペースに巻き込まれる私…薔薇を誰から貰ったのかと指摘されて私はシュウを紹介する。そうしたらハーリーさんのテンションは余計にヒートアップする。シュウはやはり有名人らしい。
「今一番注目のコーディネーターじゃない!!」
 その言葉にまた私に痛みが走る…一番の注目なんだ…。
 そりゃ、腕も良いし、むかつくけど顔も良いと思うわ。だけど、傍にいるせいか、どうしてもそんな上の人には見えない…私が上の人に近いって言う説もあるだろうけど…言葉に出すと嫌味を言われそうだから止めておこう。薔薇を貰ったことを今漸く突っ込まれた。一瞬赤くなってハーリーさんに反撃するけど、
 今思えば反撃しなくて『これはシュウがポケモンにあげたものなの』て言えばよかった。赤くなる必要なんて無かったじゃない。
…馬鹿みたい…










 暫くして練習を始めると、さっき離れて行ったハーリーさんは戻ってくるなり私のアゲハントの銀色の風が良かったと…それで本戦まで突き進んだ方がいいという。決まってなかったからな…どの技を出すか…褒めてくれてるんだし…よし!これで行こう。そう思ってハーリーさんの手をとったとき、シュウに指摘される。本戦で行くのは無謀だと。



分かってるわよ…無謀だってこと…
でもね…すくなくともハーリーさんは純粋褒めてくれた…
普段それが出来ないシュウに言われても…
何の説得力無いわよ。
だったら、ハーリーさんの方の意見を尊重してしまう。
それって当然じゃない?



結局私はハーリーさんの意見を選んでアゲハントの銀色の風で予選突破。ハーリーさんも…もちろんシュウもロゼリアで突破したわ。途中でパパに化けたロケット団とも戦ったりしたけど、その度、ハーリーさんは褒めてくれる。

シュウは何もせず遠くにいて…見てるだけ…。
…言いたい事があればハッキリばいいのに…何でいつもそんな態度なのよ…。

まだまだ、安心は出来ない…本戦まであと少し…










 次の日…私は再び練習を始める。練習している傍らでシュウがアメモースとロゼリアの手入れをしていた。あんな笑顔一度でもしてくれたことある?やっぱりポケモンの前だけあんたは優しいの?
 そして、また痛みが走る…。
 そんな思いを振り切るかのように私は夢中でハーリーさんとバトルの予行練習。ハーリーさんは昨日のようにまたアドバイスをくれる…昨日みたいにハーリーさんをやましい目でなんてもう見れないわ。うん…今度はエネコで行く。
「責任重大ねー♪」
 その他愛もない状況を見ながらシュウは再び私たちのもとから離れた…。
 既にアドバイスなんてしてくれることなく…ただ…私を睨むかのように…
 私が何したって言うのよ…?文句があるなら言いなさいっての!…









 そうして、再び第2予選開始…サトシ達はここで知り合った人がリボンを盗まれたとかで、その犯人探しを手伝っていた。結局ロケット団の仕業らしかったんだけどね。そして私はエネコの『猫の手』を使ってアピール。途中ゴンベの技が出て混乱したけど、吹雪で何とか切り抜け…ギリギリのラインの点数に不安を感じながら控え室に戻った…でも…そこには予想だにしない展開。
「謝る必要ない。」
 久しぶりに聞いたような感じ…シュウの声だ…だけど、どういうこと?
 ……状況を上手くつかむまで少し時間がかかったけど、何が起きたか漸く分かった。結局ハーリーさんはそういう人だったってこと。…また…だまされたんだ…。信じてたのに…また裏切られたんだ。その思いを前回の分と一緒にしてハーリーさんにぶつけた。だけど…その分私にもシュウから痛い叱咤。










怒られた…すごい勢いで怒られた…
シュウに怒られるはこれが初めてじゃないけど、
ここまで真剣な表情で怒られたのは初めて。
もっと自分のポケモンのことを考えたらどうなんだって。
…言われて当然よね…私はポケモンのことを信じてあげてなかった…
コンテスト初出場で誰かにアドバイスして欲しかった。
それが運悪くハーリーさんで…その言葉に甘えてしまった私。
それどころかシュウの言葉すら信じなかった。
『まさかシュウ君がこーんなにあんたのこと気にしてたなんてね!!』
ハーリーさんの残した嫌味な台詞が痛みに変わる。
ごめんシュウ…。信じてあげなくって…あんなに真剣に心配してくれたのに…










「あはは…マジ痛いかも…」










 そして、シュウはアメモースの技で華麗にアピールをする。それを見て思ったのはシュウはいつだって、ポケモンの魅力を引き出していたということ。私はシュウのポケモンのことに関しては秀でてるところや、ポケモンには優しくて…そのポケモンを綺麗に見せたあげられると言うところに憧れてライバルと認めたのに。最後になって気がついてどうするのよ…私。そしてその演技で余計なものまで実感させられる。シュウは人気があるってこと。何処からともなくシュウの名前を叫ぶ女の人の声。ツキコさんたちが特別なわけじゃなかったんだ。…皆これが普通なんだ。その叫ぶ女の子や女の人の顔を見てしまう私がいる。





あの人可愛いな…あの人綺麗だな…あの子は素直そうだな…
みんな知らないでしょ?シュウの本当の顔なんて…
お願いだからシュウ様なんて叫ばないで…余計遠くになっちゃうじゃない。
唯でさえ、今は怒られて幻滅されたっていうのに。
今、あんたに夢中な女の子たちに…私はライバルなんてとても言えない。
それだけが唯一の救いで他の女の子たちより特別なはずだった。
それだけで優越感に浸って自分は馬鹿みたいじゃない…
「もう見たくないかも…」
これ以上すごいと…遠くなる。…そう思った瞬間目が熱くなった…





 シュウがステージいっぱいに広げ泡をアメモースが銀色の風で綺麗にアピールをして
「ハルカ?」
「ちょっと、手洗って来るね。」
 同時に私は席を立って人が滅多に通らない階段を背もたれにして大きく息を吸い込む。










「そうね…しょげてもしょうがないかも。うん!私は私。ポケモンを信じてあげなくちゃ!」
シュウが怒って教えてくれたこと、無駄にしちゃいけない。シュウは最初から気づいてたのよ…ハーリーさんのこと。それを無碍したこは今更どうにも出来ない。だけど挽回は出来る。
それに…あいつが遠目から睨んでたのは私じゃなくて、ハーリーさんだったことも今分かった。いつも黙ってたのは、私が何をいっても無駄な状況だったから…それを見抜いてシュウは何も言わなかった。今思えば当然の行動よね。そう思うと、謝らなくちゃいけないことがたくさんあるかも。勝手に私一人で考え込んじゃって…だから、今はポケモンのこと以外考えない
「頑張るよ。私!」










 翌日…
 私はすれすれのところで本戦まで勝ち進み漸くバトルとなった。相手はハーリーさん。絶好のチャンスかも!今はこの人に勝ちたい…いや、勝たなくちゃいけないんだ!!ポケモンのためにも…裏切ってしまったシュウのためにも。そんなこんなで怒りや憎しみがパワーに変わったのか、ハーリーさんには勝つことが出来た。その間サトシはまたロケット団と一波乱あったみたい。ユキワラシがオニゴーリに進化したって喜んでた。
 次の対戦相手は、ここで知り合ったトンペイさん。ロケット団にリボンを盗まれたって言うから少しマイペースかもと思ったけど、バトルではそんなことは無かった。真剣に戦う姿はそう思ったのをお詫びしなくちゃいけないと思ったくらい。いい感じで最後まで勝負は分からなかったけど…何とか私が勝利で終わった。
そして…ついに…戦うことになってしまう…あいつと…



 本当は決勝戦で戦いたかった…でもこうなってしまっては仕方ない!全力を出し切るのみ!私はワカシャモとエネコでエントリー。シュウはロゼリアとアメモースで来ると思ってたから。でも予想は外れるものなのよね
「ロゼリア!フライゴン!GO!!」
 一瞬自分の耳を疑った。シュウ、フライゴンなんて持ってたの?!シュウとは度々会ってるけど、そんなポケモンがいるとは聞いてないわ。
「君とのバトルがデビュー戦になる。」
 シュウはいつもの癖のように髪の毛を軽くかきあげる。昨日だったら、ここで痛くなって筈…だけど、もう吹っ切れた。だって、ここでフライゴンを出すってことは私にそれなりの腕があるってことでしょ?自惚れだといわれてもいい。どちらかというとそっちの方が私らしいと思う。
「だったら、失礼のないステージにしなくちゃね!」
 こっちだって、ここまで来たんだもん。簡単には引き下がれないかも。
 戦ってみるとやっぱりシュウはシュウ。かなりの腕だ。久々に戦ってみるけどここまでくるとはね。ロゼリアは炎に弱いからワカシャモで攻めたけど、フライゴンの背中に乗られてしまうと、それも意味をなさない。フライゴンの炎もすごいけど、炎系ポケモンのワカシャモが炎で負けるはず無い!信じてるもん!
「お見事…」
 小さい声で言ってくれちゃって…褒めてくれたのは嬉しいけど、まだまだこれからよ!!だけど、バトルは頭脳を使うとはよく言ったもの。空高く舞い上がったフライゴンは太陽の光でまぶしくて見えない。これだけの能力…私ってやっぱりすごい奴をライバルにしてたんだ。だけど、それを後悔なんてしない。ライバルは強ければ強いほど…倒しがいがあるってものじゃない!
「フライゴン!鋼の翼だ!!」
 気づいたときにはすでの遅くて、綺麗にワカシャモとエネコに技が決まっていた…それと同時に終了の音が鳴り響く…
「…終わっちゃった…」
 こうして…私の初のグランドフェスティバルは幕を閉じた…負けてしまったけど…何でか清清しい気分かも。
勝ったシュウに声援が送られてる…でも、長いな…
「健闘を見せたハルカさんに盛大な拍手が送られます!」
え…私?シュウじゃなくて?だって、負けたんだよ…?
「良かったぞー!」
「最後まであきらめないなんてすごい!!」
「頑張れよー!!」
嘘…こんなに…?
どうして良いかわからなかったけど、嬉しさのあまり体が勝手にお辞儀をしていた…また絶対に…ここに来よう…





 結局…グランドフェスティバル優勝者は私が初めて参加したポケモンコンテストでの優勝を納めていたロバートさん。シュウはまたしてもこの人の前に負けてしまった。シュウ曰く
「上には上がいるものさ」
やっぱり、そうだよね…上がいなきゃ詰まんないもん!










 その日の夜…
 グランドフェスティバルを祝して盛大なパーティーが繰り広げられた。でも、シュウの姿が見えない。途中でちょっと存在忘れかけて、無謀に食べてたけど、やっぱり気になる。そう思って何気に浜辺を見たら…いたのよ…やっぱりシュウだ。気障なところにいるもん。私はその足で駆け寄る。そして、シュウはパーティーには参加せず、ポケモンのトレーニングをしていた。ロバートさんも既に始めたらしい。こうしちゃいられないわ。私もすぐに始めなきゃ…だって、これが終わりじゃなくて、また始まりだもん。
「僕はトップコーディネーターになる!」
 シュウは決意の意を私に見せた。初めて見たかも。シュウのこんな楽しそうな顔。そうだよね、みんな夢があるからこうやってバトルするんだよね。



「次のグランドフェスティバルで待ってるよ。」



 その言葉そのまま返すわ。こっちこそ待ちくたびれたって言うほど待たせてあげる。主役はそうやって登場するでしょ?
 感傷に浸りたかったけど…サトシが傍にいいるんじゃちょっとそれは無理な話かも。そして、その情景をママに
「これって青春かも〜?」
 突っ込まれたとき、ママにデジャブを感じた。あは、やっぱり親子だと。自分が親密な男女にする行動と全く一緒だと思った。そして、私はママに自分がトップコーディネーターを目指すことを告げる。もちろんママは喜んでくれた。ポケモンが苦手な私がポケモンにかかわることを望んだのから喜んでくれて当然か。
 こうして…夜はどんどんと過ぎていった…光が落ちることのない祭り会場と共に…















「眠れない…」
 フェスティバルの感動が残っているせいなのか…私は中々夢の世界に入れない。サトシ達は既に夢の中の住人になっている。私も早く眠りたいかもだって、明日は出発だもん。
「眠れないの?ハルカ?」
「ママ?」
 起きてたんだ…こうやってママと同じ部屋になるのなんて久しぶりだったけど、また明日からは無理。少し寂しいかも。
「感動が覚めやまない?」
「うん…そんな感じかな?」
「うふふ…」
「何?行き成り笑ったりして…」
 マサト達には聞こえない小声…笑い声だけは鮮明に聞こえる。
「本当はそれだけじゃないんじゃないの?」
「…え?」
「明日になったらハルカも…そしてあの子も旅に出て暫く会えなくなるわ…だとしたら話すなら今夜が最後よ?」
「あの子ってなによ?」
 忘れていた痛みが走る…それでも、嘘をつく私。本当に素直じゃないかも。
「素直になるかはハルカ次第。でも、後悔したときには遅いのよ?」
「……分かってるわよ…」
「なら、今行くべきじゃない?」
「普通寝てると思うけど?」
「本当に話したい相手なら起こしちゃいなさい…あの子ならきっと怒らないわ。」
 ママ、そこまで言う?
 ……わかりました。トウカジム令嬢の意地見せようじゃないの。私はそう思ってベットからぬけ出す。そして、ママにありがとうといって部屋を出た…




















 シュウの部屋の明かりは…案の定消えていた。シュウなら確実に無理せずに寝ているはず。だが、そんなことで帰るハルカではない
「シュウ?」
 なるべく聞こえるつもりでノックするが、音はかなり小さい。そんな音でも、繊細な人は起きるようで…
「…君には時間というものが…」
「ごめん…遅いからもうよそうと思ったんだけど…どうしても聞いて欲しいことがあるの。」
「そういう問題じゃなくて、男子の部屋に夜中にその忍びこむのはどうかと聞いてるんだ」
「忍び込むって失礼ね…ちゃんとこうやって了承を得てるでしょ?それに、別にその辺は気にしないわ。だって、サトシ達とは四六時中一緒だもん。」
「君って人は…とりあえず、入るなら入ってくれ。」
 シュウも何かを感じ取ったのだろう。頭を起こしてハルカを部屋に招き入れた…




「はい。」
「あ、ありがと。」
 シュウは温かい紅茶をハルカに差し出す。が、珍しく、シュウ自身も紅茶のようだ。
「あれ?シュウもコーヒーじゃなくて紅茶?珍しいかも」
「こんな夜中にカフェイン摂取してどうすんだ…」
「ね、眠れなくなるね。確かに。」
「既に『眠れない状況』にはされてるけどね」
 やはりシュウの嫌味は壮絶。確実に倍になって返している。しかし、ハルカはそんないつものやり取りをする為にきているような状況ではないようだ
「で、話って?」
「えーと…まずなにから話せばいいのか…言わなくちゃいけないのはとりあえず『ごめん』てこと。…ハーリーさんの意見鵜呑みにしてごめんなさい。自分が弱かったんだと思う。シュウに言われて気づいた…。甘えてたんだって。シュウも何度も注意してくれたのに。本当にごめんなさい。」
 前に同じ状況を見たことがある。それは、ツキコさんと戦ったときのこと。自惚れたハルカが墓穴を掘ったと言う痛ましい事件。あれによく情景が似ている。
「前回みたいに最後になって気づくより、途中で気づいたんだ…進歩したよ。」
「でも謝らなくちゃいけないことはそれだけじゃない。私今回謝ること多すぎるのよ。シュウが私のこと何回も睨んだり黙って見てたりしてて…それを私は『ムカツク』と思った。だけどそれはハーリーさんを睨んでて、見てたのは私が何をいっても無駄な状況だったから…でしょ?」
 その問いかけにシュウは肩をすくませて笑う。どうやら当たりらしい。ハルカは余計に申し訳なさがこみ上げる。
「君にしては上出来な分析だ。その通りだよ。言っても無駄な人には何も出来ないから。」
「今考えれば、シュウがどんなに私のこと心配してくれてたのかがすごく分かる。だって、あんな風に大勢の目の前でハーリーさんのこと怒ってくれた。ハーリーさんさえ、シュウが私のこと気にかけてるって言ってたくらいだもの。」
 シュウには謝ることしか出来ないハルカ…しかし、それだけのことしたのは事実。
「ごめんね…それとありがとう。この2つだけ言いたかったの。」
「それのためだけに君はこんな夜中に?」
 シュウは確実に呆れている無理もない。
「ごめんなさい。自己満足って事はわかってたんだけど…。も、もう帰るからね。」
「全く…君って…」


 帰ろうとしたハルカの手動きがふと止まる…


「シュウさ…今、私のことなんて呼んでる?」
「唐突だね。」
「いや、ここに来て『君』としか呼んでもらってないから。前回マボロシ島の時は呼び捨てだったけど、今度会ったときはどう呼ぶのかなって。」
「気になる?」
 シュウはその状況を楽しんでいた…。まるでハルカの表情で遊ぶように…。
「気になると言えば気になるけど…」
「時と場合によって…かな?」
「何それ?!」
「今はまだ分からないんだよ。どっちに固定するつもりもないし。呼びたいときに呼ぶさ」
 この返答にハルカは残念そうに俯く。シュウが素直に返事を返すわけがない。
「もう。じゃ、それはそれでいいわ。だけど薔薇はどうなるの?」
「薔薇?」
「そう。ここに来たときくれたでしょ?今回は君のポケモンとも言わなかったし。あれは私宛でいいの?」
「……」
「どっちなのよ?」
「君じゃなければ誰にあげたって言うんだ?」
「で、でもね、そうするとね…ほらハーリーさんが薔薇はどうのこうのって…」
「素直に喜べないのかい?」
「だ、だって!薔薇だよ?薔薇?他の花なら未だしも…」
 赤面しながら慌てるハルカ…その状況にシュウがついに…
「フフ…」
「え…」
「あは…すまない。ただ、あまりにも面白くて…」
 素で笑っている…表情だけなら何度か見たことはあるが、声まで出して笑っているのは初めて見た。
「素直に笑えばいいのに。」
「君に悪いと思ってね…。」
「答えない方が悪いわよ。」
「失敬…。とりあえず、薔薇は君への努力章と言うところかな。良くここまで上達したと言う僕からの敬意に気持ち。」
「なら、はっきりそう言えばいいじゃない。あーびっくりした。ハーリーさんの言ってた意味が本当にあるかもしれないと思ったわよ。」
「本当はあるんだけどね…」
「え?何か言った?」
「いや、別に。」
 肝心なところだけ聞こえていない…流石ハルカだ。
「それじゃ、ついでにもう一つだけ聞かせて。」
「いいよ。一つだけね。」
 ハルカは大きく息を吸い込むと
「シュウにとって…私はライバル?」
「直球で来たね…」










不安でしょうがなかった…
女の子たちに騒がれてるシュウとか…
アピールがすごいシュウとか見て。
私はこの人のライバルでいいのかとか。
シュウが、他の女の子をライバルと認めたらどうしようとか。
すごく胸が痛かったのよ。
私は…どうなの?










「もしかして…ヤキモチ?」
「そ、そんなのじゃないわよ!!で?どうなの?」
 見透かされてもしょうがない。このときのハルカの表情は真剣と赤面の両方を持っていた。読みが鋭いシュウにとってはたやすい。それがハルカなら尚更わかると言うもの。









 本当はハルカ自身も途中から気づいていた。
 胸が痛くなる理由なんて。
 でも、シュウにそれを知られたら絶対自惚れると思っていたからこそ
 言葉には出来なくて…










 そして暫くの無言が流れる…シュウには言うつもりは更々ないらしい。…そして気の短いハルカはその沈黙に終止符を打った
「わかった…言うつもりはないみたいね。なら、次回のグランドフェスティバルで、優勝した方から聞かれたことは全て素直に話す…どう?これなら、どっちにも良い条件だと思うんだけど。シュウが私に聞きたいことがなければ成立しないけど。」
 少し考えた後、シュウがいつものように笑う。…それはシュウが承諾した証拠。
「おもしろい…その言葉忘れないように。」
「いいわ!」
「予選で負けたり、リボンが足りなくて出場なんてことがないように祈ってるよ。」
「そっちこそ。」
「そうだ…今の質問が答えられないわりと言ってはなんだけど…」
「何よ?」
「僕は君に一つだけ負けている部分がある。」
 一体何処が勝っていると言うのだろう?言っては悪いがどうも見てもシュウに勝っている場所は見当たらない。
「そのコーディネーターとして成長…僕以上なんだ。」
「…え?」
「僕よりあとに修行を始めたのに…僕より多少下とは言え、勝ち上がった。それにリボンをゲットするペースも早い。だから、早速トレーニングを始めたんだ。君の成長の早さは今の僕をあっという間に追い抜きかねない。」
 その言葉に唖然とするハルカ。
「信じていいの?」
「信じるかは君次第だよ。」
「…信じるわ。今度はね。……グランドフェスティバル…楽しみにしてるかも!」
「ああ…」
「それじゃ…おやすみ…」





こうして私はシュウの部屋を後にした。
聞きたいことを殆ど聞けなかったけど、逆に良かったと思ってる。
だって、今聞いたら…今度どこかで会ったときの面白さがないじゃない。
この胸の不安と言う痛みはまだ残ってる。でもね多分あいつも痛いと思うの。
いいじゃない、痛みがあったって。痛みがあるから確信できるのよ。
それだけ分かれば十分かも










「それじゃ、ママ…行ってきます!」
「気をつけてね…」
 私はママに見送られてグランドフェスティバルの会場をあとにした










ママ…私トップコーディネーターになる!
それで、そしていつかあいつを追い抜かして、
本当のトップコーディネーターになる!
一緒に目指すって…何か楽しいと思うの。
まぁ、あいつのお陰でこうやってこの世界に来れたんだけどね。
やっぱりあいつは何らかの形で私に関係してくるみたい。
だから、見守ってね…










ハルカの道は再びここから始まる……










------------------------------------------------------------END---
作者より…
な、長かったです…フェスティバルで書こうとしたら
こんなことに…。今回初めてハルカになって物語り書きました。
第三者目線でないというのは結構きついですね。
物語を尊重させるためにはこの書き方が一番だと思って
今回このような書き方に。そして、オフィシャル盛り込み形。
最後の方を除いては、ほぼフェスティバルです。
オフィシャル見ながら自分の胸が痛かったんですよ…
シュウが遠くなるって…第三者である私がこんなのだから
当事者であり、感情を持ち合わせてるハルカはどれだけ
辛かっただろうと…まぁ大きく言うとやきもちです。
ハルカだって焼いてもいいじゃないですか!年頃なんですから!
それで、結局お互い素直じゃないまま次回フェスティバルに
答え持ち越し。これもまた良し!今分かったら面白くないですからね。
やはり2人には友情以上恋人以上の存在に見える恋人未満で
グランドフェスティバル…ロバートさんがシュウの最大の敵ですね。
いや、最大の的はセンリさんと信じてますんで!!(お義父さん)
頑張れ2人とも!見守ってるぞー!!
2005.4 竹中歩