僕らは同じ道を志していても
同じ時間を共にはしていない
同じ時間をそれぞれ自分で歩いている
だから君を守ることなんて到底無理。
でも…これくらいならできるんじゃないかな…





守護





 その日…少年はいつものように趣味の読書で時間を有意義に使っていた。しかし、読書とは時に酷な物で時間を忘れさせてしまう魔力がある。お陰で時計の針はあと少しで日付を変わろうとしていた…
「いけないと解かっているだけど…どうして読書はこうなるかな…」
 少年の名はシュウ。ポケモンコーディネーター界で一目を置かれている少年だ。実力もかなりのものだが、それ以上にその容姿がまた有名な理由。綺麗な若草色の髪の毛と同じ色に等しい澄んだ瞳。その上クールとも成れば、噂にならないはずが無い。それが世の中と言うものだ。普段の服装はハイネックの長い黒い服に、紫の半袖ジャケット。それに青緑色のようなズボンスタイルと言う高貴さを漂わせる服装。しかし、夜のせいなのか、それとも暑いだけなのか紫のジャケットは脱ぎ、黒いハイネック姿と言う珍しい格好。その珍しい格好がまた、高貴さをより引き立てているように見える。
「さて、水分を補給して寝ると………?」
 ポケモンセンター備え付けの台所。そこは深夜ともなれば何か出てきそうな雰囲気。宿泊者も利用できるが、こんな時間に人はまずいないと思ったのだが…誰かいる様子。変な物音がする。何かを砕いているような音…とりあえず、無造作に台所に入ることはせず、入り口で中の様子をうかがう。いるのは一人のようだ…その一人に、シュウは見覚えがあった…
「へぇ…こんな時間に僕以外にも起きてるとはね…」
「こんな時間まで起きてたの?シュウ。」
 名前を呼ばれて振りかった少女…やはり思い違いなどではない。思ったとおりの人物。
 シュウをライバル視している少女で名前はハルカ。とある有名なジムリーダーのご令嬢である。彼女もシュウと同じくポケモンコーディネーターを志す者。始めてそこまで時間は経っていない新人ではあるが、その実力…本人は自覚していないが、かなりのもの。成長は人の数倍早い。新人コーディネーターとして名前が上位に食い込んで来るほど。今からの働きが楽しみな少女である。
「読書をしていたらこんな時間にね…本当はあまり体には良くないんだけど…」
「夜更かしなんてシュウらしくないわね。確かに。」
「で?君こそこんな時間に何を?ベッドに入るとすぐに寝そうな人が…」
「それって嫌味?」
 シュウとハルカのやり取りはいつもこんな感じだ。シュウに嫌味等を言われてハルカが腹を立てる…まぁ、一種の愛情表現であることには変わりない。
「嫌味ととれば嫌味かもしれないけど…でも、それ所じゃないみたいだね…」
「それところじゃないって…今、どういう状況かわかるの?」
「それを見たら解かったよ…」
 シュウの指差したものは大きな氷の塊。それが音の原因だろう。その証拠にハルカはその氷を洗面器にいれ、アイスピックで砕いている途中だったことがわかる。
「氷に…脇にある水枕…誰かが熱を出したって所だろう。」
「流石…っていうか、解かって当たり前かも。そう。マサトが熱出したのよ。」
「でも今時…塊って…他の小さい氷はなかったのかい?」
「…しょうがないじゃない。他の部屋にも風邪ひいた人がいるみたいで間に合わなかったんだもん」
「風邪が流行っているのか…それで?風邪ってもしかしてあのあとにかい?あの時は元気だったのに。」
「そう。9時くらいまでかな…それまでは全然平気だったんだけど…」
 あのあととはハルカかがシュウと居合わせたのを知って驚いたときの事。波乱万丈に其々の道を歩いている者同士が偶然出会うなどとはかなり低い確率だ。それにも拘らずシュウとハルカはこのような偶然が普通の人より多く発生している…特別な想いがあるが故に…かどうかは定かではない。
「あれが大体…5時ごろか…」
「そう。私たち付いて直ぐだったでしょう?あのあとすぐに自室でご飯食べてくつろいでたら…マサトがなんか変だなーって…熱測るて言ったら駄々こね出したのよ…あの子風邪引くいつもそうだから…案の定。」
 苦笑いをしながら状況を説明するハルカ。でも、とても心は笑う何処ろの余裕はないだろう
「タケシ君とかは気づかなかったのかい?体調管理は彼がやっているんだろう?」
「んー…ほらあれかな。やっぱりそう言うのって姉弟の方がわかるのよ。だから、タケシは気づかなくて当然かも。」
「家族だからわかると言ったところかな…」
「そうそう。」
「それで?君一人で看病を?」
 ハルカは大きく首を横に振る。
「まさか。皆が付いてるわよ。でも、そろそろ二人には寝てもらおうと思うの。同じ部屋にいると風邪うつるでしょ?」
「君は…寝ないのかい?」
「寝れないわ。私お姉ちゃんよ?」
 この言葉にシュウは唖然とする…。彼女から珍しい言葉が出た…
「今…君が初めて弟君の姉に見えたよ…」
「どういう意味よ?それ?」
「君は…初めて会ったとき…一人っ子だと思ったんだ。自己中心だし…とても弟がいるようにしっかりしていなかったから。」
「見えなくてもシュウの人生には変わりないでしょ。」
 シュウとハルカは付き合いが長い…それだけの期間嫌味を言われればいつのまにか口が達者になってくる。お陰でハルカも言うようになった。
「でも、今の一言でその疑いは消えた…やっぱりお姉さんだなって。」
「…そう?当たり前じゃないかしら…だって…風邪引いたときに部屋に一人って心細いし…それにこっちは心配だもん。」
 ハルカはアイスピックを持った手を止める。
「夜は色々やることがあるのよね…寝汗かいたら着替えさせなくちゃいけないし…水分補給もさせなくちゃいけないし…あと、水枕の交換とかね…」
「よくそこまでやることがわかってるね。」
 これがいつもの能天気なハルカとは思えない。本当にしっかりしている
「あはは…実はこれママの受け売りなの。…マサトは見ての通りませてはいるけどやっぱり中身は歳相応だから…誰かに頼るのが当たり前…その時 しっかりしなくちゃいけない…。それは姉として最低限の勤め。だから、何をやればいいかとかママに聞いておいたのよね。」
「じゃ…今日は謝らなければいけないね…」
「え?何を?」
「君がここまで真剣に弟君のことを思っているのに嫌味を言ってしまったことさ…本来ならわきまえるところだね…すまなかった。」
 ハルカの動きが更に止まる…シュウがここまで本気で謝ってくれたこと…本当に数回程度しかない。
「別にいいわよ。それに、私のほうがお礼言わなきゃ…本当はね、すごく不安だったのよ。マサトが風邪拗らせちゃったらどうしようとか…。はっきり言って一杯一杯だったの。でも、シュウが嫌味言ってくれたお陰でいつもの私に戻れた。だから、ありがとうかも。」
「結果的には良かったって言うことかい?」
「そういうこと。さて…水枕替えに行かなきゃ。」
「手伝おうか?」
 首を横にゆっくりと振るハルカ
「シュウにまで風邪が移っちゃう。」
「でも、それは君も言えることだろう?」
「こういう時って風邪引かないものなの。だから大丈夫よ。それにいざとジョーイさんもいるし。風邪なんてひいてる暇は無い。だって、マサトは私が守らなきゃ…もちろんサトシたちも一緒に頑張ってくれるけど。その気持ちだけでいいわ。じゃ、おやすみ。」
「おやすみ……」
 彼女が水枕を抱えて出て行ったあとには空しく水道から水が少しずつ毀れる音だけ。
「どこか抜けてるんだよね彼女は…」
 閉め損ねられた水道の蛇口をひねる。
「何も出来ない…自分が悔しい……か……」
 こうして、いつのまにか時計の針は日付を変えていた……















 朝……
 眠気覚ましにシュウは裏庭をパートナーであるロゼリアと散歩していた。
「寝るのが遅かったせいで少し寝坊したね…ロゼリア…」
 そうロゼリアに語りかけるも『たまにはそれもいいんじゃない?』と言うような表情で返す。
「確かに。明日出発だからね。たまにはこういう日もいいのかもしれない。そういえば、彼女の弟君、もう大丈夫らしいよ。さっきジョーイさんから聞いたよ熱が下がったって。これで彼女も漸く安心……」
 その裏庭にある大きな木の袂でシュウは『それ』を発見する
「彼女には本当に珍しいところで会うね…」
 シュウは少し笑う



赤いバンダナがトレードマークで
元気しかとりえのなさそうな…
本当はしっかりした子



 少女は木にもたれかかることはせず、芝生の上で気持ちよさそうに眠っている。
「いつもなら風邪をひくよと言うところだけど…」
 昨日の今日だ…きっと看病してちゃんと眠れなかったのだろう。
「この気温なら大丈夫だけどやっぱり心配だから…」
 自分の紫のジャケットを脱ぐとハルカにそっとかけてポケットから読みかけの小説を取り出し少女の傍らに座る
「彼女の目が覚めるまでこうしてればいいさ…」










君は言ったよね…姉だから弟を守るのは当然だって
だったら、君のことは誰が守るんだって思った…
多分あの友人たちが守ってくれるとは思う。
だけど…ほんの少しの間だけ僕にも守らせてほしい。
君が気持ちよさそうに眠るこの時間だけでも…










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作者より…
守護ということですが、何か微妙に違う気がします。
守ってるのに入るんでしょうか(汗)
ハルカがお姉さんだということをシュウにわからせた話の
ような気がします。
でも、土壇場じゃハルカはここまでしっかりはしていないと
思います。多分サトシ達がいたからここまでしっかり出来たんだと。
友人の力って偉大ですね。
この頃小説が全体的に気障です。
シュウがすごい気障…嫌味のシュウとかすごく書きたいんですけど…
それはまた次回に。
2005.4 竹中歩