特権とは?… その人であるからこそ持っている 『特別な権利』 彼も彼女にとってはそんな存在かもしれません。 特権 「まさか、あの街から離れて1週間でシュウに会うなんて思わなかったわ。」 「それに関しては僕も驚いているよ。」 公園にあるベンチに腰掛けながらハルカは言葉をこぼした。その言葉にシュウは少し皮肉交じりで返事を返す。心なしか二人とも息があがっているように感じられる声だ。 それもそのはず、二人は唯の今までバトルに近い模擬試合を行っていた。少し違う点があるとすれば、普段は皮肉ばかりのシュウがアドバイスをしながらバトルを行っていた事。それはシュウの些細な気まぐれ。 「何でこんなところに居るの?!」 「…それは僕が君に尋ねたいことだ。」 ある街でタンポポの綿毛のように行くあてなく、散歩してたハルカの前にシュウは突然現れた。その驚き方はいつもより酷い様に見える。それには訳が存在していた。 「だって、1週間前に会ったばかりよ?しかも、それぞれ別のルーと選んだはずなのに!!」 「だからこの僕も流石に驚いてる。どうやらあの両方の道は少なからずここに繋がっていたのだろう。」 「そうなんだ……だったら無理に分かれないで一緒にここまでくればよかったね。」 ハルカの微笑と同時に生まれた言葉に心の中で動揺するシュウ。 「…それじゃ、僕の心臓が持たないよ……。」 それは心の中の声だった。確かにハルカと一緒に1週間も旅をしていたら、 自分の隠している気持ちが外に出てしまい、独占欲が強くなりそうだから…… シュウは今のところそれを少々悩みにしていた。本当の自分が外に出ることを… 「何か言った?」 「いや、別に。…それと今回もやるのかい?ポケモンバトル?」 「もちろんよ!…まぁ、ちょっと寒いのが引っかかるかも。」 ハルカの言うとおりだった。この街は雪は降らないがある程度の寒さに襲われている。 いつもの薄着のハルカも首に防寒具としてマフラーを巻いて、シュウも手袋をしているくらいだ。 「…それじゃぁ…アドバイスしながらのポケモンバトルなんて面白いかもしれない。決着はつけないで。」 「アドバイス?」 「そう。ハルカ君、君のバトルにはいつもはらはらさせられてばかりだから、アドバイスでもして改善策をしないととても見ていられないからね。」 「でも、私シュウになんてアドバイスできないよ?」 「それは最初から期待してないさ。僕自身のこの不安感を取り除くためにやることだから。」 「アドバイスしてもらえるのは助かるんだけど、…嫌味を加えながら喋るの辞めてもらえない?」 「別に嫌味を言った覚えは無いけど?真実なら語ったけどね。」 「いつか、公式場所で倒してやる…」 「期待しないで待ってるよ…。」 相変わらずのシュウに相変わらずのハルカ。こういう話の経路から二人がベンチに座るまでにいたる。 「まぁ、今回のことは勉強にはなったかも。」 「そうなって貰わないと、僕の貴重な時間が無駄になる。」 「もー!!!…何か飲む?」 「…え?」 「奢ってあげる。シュウに借り作っておくの嫌なの。」 「素直な言い方じゃないね。」 「どっちが!で、何がいいの?買ってきてあげる。」 ハルカが立とうとすると、先にシュウが立ち上がる。 「僕が買ってくるよ。道路を越えた先にある自販機まで君を行かせたら何が起こるかわからないからね。」 「全く、シュウがアゲハントにくれる薔薇は刺が無いのに、シュウの言葉には刺があるみたい。ちょっと痛いかも。」 「かも知れないね。…君は何にする?」 「うーんと…紅茶!…はい、これお金ね。」 「それじゃ、何事も事件を起こさず待ってるんだね。」 「わかってるわよ!!『べー』だ!」 「相変わらずその点に関しては美しくないよ…」 「もう!!」 「僕の送る薔薇には刺はないのに、僕自身の言葉には刺がある…彼女もうまいことを言うな…だけどその通りかもしれない。」 シュウは往復3分程度の場所にある自販機に向かって歩きながら自分の悔いを改める。 「(素直じゃない…か。確かに彼女以上に僕は素直じゃないかもしれない。…ほかの女子や人ならめったにこんな行動取らないのに。薔薇だって人になんて送らないし…。全く、彼女の前に居ると平常心が保てない…。)」 「と…もう到着か。早く買って帰らないと彼女は何をしでかすか分からない。」 シュウは紅茶と珈琲のボタンを押すと自販機の取り口へと手を伸ばす。缶を二つ回収すると少し駆け足でハルカのもとへと戻って行った。 「お帰り。」 「珍しく素直に待ってたようだね。はい、紅茶。」 「私を子ども扱いするの辞めてもらえない?そりゃぁ…一応子どもかもしれないけど、シュウとはあまり年変わらないと思うんだけど……。」 「君の行動は目が離せないからね。どうしてもそう扱ってしまうんだよ。」 「扱うって…ものじゃないんだから…」 再びベンチに座って今度は少しの笑顔を浮かべて話し始めるシュウ。 「だけど、本当に今日は寒いわね…。」 ハルカはいつもしている薄手のグローブをはずすと自分の手に向かって息を吹きかける。…グローブ外さない方が暖かい気がするが…まぁ、それは置いておこう。 「だったら、飲めばいいと思うけど…」 「あ…あははは!…まだ熱くてちょっと飲めない。今手で冷やしてるんだけど…あんまり効果ないかも。バトルやってからちょっと体が火照ってるから手もあったかいし…」 「そういうことか…貸してごらん。」 「え?…うん。」 ハルカの手に握られた缶をシュウは受け取ると自分の手袋をはずし、素手でその缶を20秒程度握っていた。そのあと、缶はハルカの手に戻される。その缶を手に取ったハルカの感想は… 「あ…ちょうどいい温度だ…。」 「君のように僕は火照ってないから…」 「…!…てことはもしかして!!」 ハルカは紅茶の缶をベンチの小脇に置くと今まで缶を握っていたシュウの手を掴む。 「やっぱり、冷たい。」 「…何事かと思えば…」 「なんで?さっきまで手袋してたのに。」 「たとえ防寒具を身に付けていても手は冷たくなったりするだろう?」 「そう言われて見ればそうかもしれないけど…でも、これ冷えすぎだよ。かして。」 ハルカはシュウの手を取ると自分の手でシュウの手を摩る。流石のシュウもこの行動には一瞬の赤面を許してしまう。 「ハルカ君…君ね…」 必死でもう片方の手で赤面を隠すシュウ。この表情は今までに見たことがない。 ある意味どぎまぎさせられる表情だ。しかし、ハルカはそれには気づいていない。 「だって、ほかに暖取るものないんだもん。これが一番だと思ったのよ。」 そのハルカの行動を見ながらシュウは言葉をこぼす。 「…弟君にもやってあげているのかい?」 「んー…それはないと思う。だってマサトのほうが体温高いし。」 「じゃ、誰にしてるんだい?こんなこと。」 「サトシは熱血系だからこんなことしなくても暖かいでしょ?タケシは自分で暖取るもの持ってるし…多分、今までにこんなことやってあげたことないと思う。なんでそんな事聞くの?なんかシュウらしくないよ?」 「僕らしくないか…確かに君と会うといつもの僕じゃなくなるけどね…。」 「シュウって、時々何か言葉こぼすけど、聞こえにくいよ。」 「わざと聞こえないようにしてるからさ。」 「何よそれ!!ほら、だいぶ暖かくなったでしょ?」 ハルカはシュウから手を離すと自分紅茶を飲み始める。シュウは今までハルカが触れていた自分の手を改めて見直している。 「やらないよりはマシなようだけど…」 「何よその言い草!!シュウだからやってあげたのに!!」 「えっ…」 「あー!!サトシたちだ!!私行くから!!これからちゃんと防寒対策やってよ!!じゃね!!」 「え、ちょっと、ハルカ君!!……全く、彼女にはいつも驚かさせられてばかりだ…。」 「僕だから…か…意味の捉えようによっては嬉しいけれど、多分彼女は『ライバルだから』という意味であんな行動起こしたんだろう。ま、それでもいいさ…。僕からは『彼女である特権』をいくつかしているのに彼女は全く気がつかないよ…。本当に見てて飽きないね。そこがまた彼女のいいところなのかな…どっちにしろ僕はライバルであるためのいくつかの特権を持っているようだ。それがいつか『僕だからある特権』になる日を祈るよ……。ロゼリア、君も一緒に祈ってくれるのかい?…ありがとう…」 特権は時に嬉しい時もあるが 本人にとってどの特権も嬉しいわけではない。 特権をより上へ上へと目指していく。 顔見知りの特権から…友達の特権へ 友達から…ライバルへ ライバルから…大切な人へと… きっといつかその特権が得られる日を願って…… お題≪特権≫ ------------------------------------------------------------END--- 作者より… お題挑戦してみました。 自分達が作っておいて自らがやらなくてどうするんでしょう 本当にもう…。お題書くの遅すぎだよ自分。今回は『特権』です。 シュウである特権にするか、ハルカである特権にするか、 ライバルである特権にするか…悩んだ挙句全部入れてみました。 シュウハルで甘い話書くのは大丈夫なんですが 他の好きCPで書くと恥ずかしくて耐えられません。 多分シュウが甘い話が似合うキャラだと思います。 普通恥ずかしくて出来ないようなことやってくれますからね。 薔薇投げるとか、前髪かきあげるとか、敬礼に近いような 決めポーズとか…書いてて某乙女ゲームキャラを思い出しました。 芸術の先生…セイ○ン様… 本当にこのCP好きになってよかったと実感しました。 2004.1 竹中歩 |