無理だと思っていた。
どこにいるかさえ分からなかったから。
『返したい』そう思っても出来なかったから…
でも… やっぱり偶然は存在するんだね…





偶然の再会〜Happy Whiteday〜





「どうしたんだい?ロゼリア?」
 ここはポケモンセンターの一室。そして今この部屋の住人となっているのはグリーン系の髪の毛が目を引く少年シュウ。今日は気ままに部屋で読書に勤しんでいたのだが、ポケモンボールから出したロゼリアがずっと壁にかけている『カレンダー』とにらめっこをしていた。
「カレンダーがどうかしたのか…もしかして、今日の日にち?」
 シュウの言葉にロゼリアは静かに頷いた。
「心配してるんだね…今日が『ホワイトデー』だと言うことを。」
そう、今日はバレンタインデーでお返しをする日『ホワイトデー』である。
 シュウにも今年は『関係ない』とは言えない事だった。
「彼女に返したほうが良い…そう言いたいんだろ?」
 ロゼリアはにっこり笑うと深く頷く。
「まぁ…あの時に薔薇の花束をあげたけど、あれは本来違う意味だったからね。ホワイトデーにはふさわしくない贈り物だったよ。…でもね、今日は前みたいな奇跡が起こらないから無理なんだよ。」
 シュウも別にホワイトデーを忘れていたわけではない。ただ、返す相手が今、この場所に居ないのだ。しゅんと落ち込むロゼリア。せっかくお返しが出来る日なのにとても残念がっている様子。シュウはロゼリアに気を使って外に出ることとした。










「あら?お散歩?」
「ええ。今日までの滞在ですからせめて、観光スポットだけは回りたいと思って。」
 玄関の所で声をかけてきたのはポケモンセンターには必ずいる『ジョーイ』
「あまり有名な所は無いけれど、自然が多いからロゼリアには良いと思うわ。」
「ありがとうございます。…それと、何かあったんですか?ラッキーやハピナスが忙しそうですけど…。」
「ちょっとしたイベントをしてもらっているの。」
「イベント…ですか?」
「そう、ホワイトデーの。」
 そういえば、ラッキーたちはかごの様な物を持ち、その中にある小さな包みをセンター内にいる女性に配っている。
「バレンタインデーにはチョコレートを配る所は多いと思うの。でもね、あまりホワイトデーに催しものをする所は無いでしょ?それに、なんと言っても男性はチョコをもらえるのに女性は貰えない…なんて、寂しいからここでは女性にマシュマロを配っているのよ。」
「そうだったんですか…」
「シュウ君は…ホワイトデーにあげる人はいないの?」
「一応いるんですけど、どこにいるか分からないんです。僕も彼女も『風』ですから…一ヶ所にとどまってないので…。」
 少し笑うシュウにジョーイは残念そうに返した。
「そう…残念ね…。あ、ラッキー、マシュマロもう少し作っておい。今こっちに向かっている女の子がいるそうだから。」
 ラッキーは了解のポーズを取ると奥の厨房へと消えていく。
「大変そうですね。それじゃ僕は散歩に…」
「いってらっしゃい。…はい。予約ですね…。」
 ジョーイさんに背を向け歩き始めた時に電話がなった。どうやら宿泊予定の電話らしい。しかし その電話の声にシュウは直ぐに立ち止まる。



「……ロゼリア…強ち、偶然もあるものだね…それじゃ行こうか…」
 シュウの足は観光スポットではなく、市街地へと赴いていた…それはあることを意味することとなる。










 …夕方……
「そう、それじゃこれを渡せば良いのね?」
「お願いします。」
「直接あげればよかったのに…もう少しすれば来るのよ?」
 ジョーイの言葉にシュウは首を横に振る。
「次に会う時はもっと強くなってからって決めてるんです。今までは回避できない位偶然に会ってて…だから会えるのを回避できるなら回避したほうがお互いのだと思って…。
「そう言う事なら。…それじゃ、気をつけてね。」
「ありがとうございます。行こう、ロゼリア…」
 シュウはオレンジの空から藍色に染まる空に向かって再び旅に出た…










「疲れたぁ!!」
 夜、少し静かなセンターのロビーに女の子の声が響いた。その女の子の周りにはつかれきった男子が3名ほどミイラ化している。よほど疲れたのだろう。
「お疲れ様、君たちの部屋はこの鍵の部屋よ。もう寝れるようにしてあるから…ハピナス、案内お願いね。」
 ジョーイに呼ばれて出てきたハピナスは4人を案内していくが女の子だけがジョーイに呼び止められる。
「どうかしましたか?」
「今日はねホワイトデーだから女性にはマシュマロを配っているの。」
 ジョーイから渡された小包を受け取ると疲れなど吹っ飛びような笑顔でお礼を言う少女。
「ありがとうございます!あとで、皆で食べよう!」
「あとね、これは別件なんだけど…。」
「はい?」
「これをね…あなたにって…。」
 そう言ってジョーイが差し出したのは大きなミニバラのブーケだった。香りも良く色も良いとても綺麗なバラ。
「これ……」
「この花束を渡せば名前を言わなくても分かるって言ってたわよ。」
 ハルカはその言葉に大きく頷く。
「ええ。知ってます、きざで口が悪くて性格もきつい男子を…でも、根は凄く良くて優しい奴なんです。…でも、何でこれがここに?」
「本人がね夕方までここにいたの。もう少し待ってればあなたが来るって言ったんだけど、次に会う時はもっと強くなってから会うって。だから、私は今回これを託されたの。」
「ありがとうございます…。それじゃ、部屋に行きますね。」
 少女は花びらを落とさないように静かに歩いて部屋へと帰っていった。
「さて、今年のホワイトデーもこれでおしまいね…。」
ジョーイは大きく背伸びをするとセンターの電気を落とし、ポケモンセンターに夜を告げた。










 少女が部屋に戻るとパーティの男子達は死んだように眠っていた。
「全く、前回もあの大量の花束処理するの大変だったのに…今回もどうしろって言うのよ…」
 なんて口ではいいつつ顔からは笑みがこぼれている。
「あれ?手紙付だ。」
 花が多すぎて見えなかったが、ラッピングの一部としてメッセージカードのようなものが付属されている。





『まさか、こんな形で再会するとは思わなかったよ。とりあえず、バレンタインのお返しはしたからね。あの時あげた花束は本来君の対するものではなかったから、今回こう言う形を取らせてもらったよ。次回会う時はコンテスト会場の決勝戦だといいけど。まぁ、せいぜい頑張って…ハルカ君。』





「手紙まで嫌な奴かも!!」
 手紙を一瞬は握り締めたが再び正常な形に戻すと少女もとい、ハルカは鞄にそっとしまう。
「まぁ、今回はホワイトデーに免じて許すとするか。」
 ハルカはポツリと呟くと自分の寝床へと入っていき深い眠りについた…。
 また強くなって、シュウと会える日を胸に誓って…。










バレンタインに起こった偶然
ホワイトデーに起きた偶然。
二人にはよっぽど多くの
『偶然』の女神達がついているのでしょう。










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作者より…
眠気眼で書いたら大変なことになりました。
いつもよりシュウが素直で余計にきざです。
甘さレベル6くらい?(通常が2〜3.最大が10)
このお話はバレンタインに書いたお話の続きです。
私が続きもの書くの凄く珍しいのですが…。
お話が分かりにくかったら、バレンタインの物を
読んでから読むと分かりやすいと思われます。
さて、私のシュウハル小説で欠かせない存在は
なんと言っても『ロゼリア』。シュウにとって
ロゼリアは相談役なんですね(笑)
いつもなら終盤でロゼリアに話し掛けるシュウが
いるのですが今回はあえて序盤で。凄く新鮮味がありました。
シュウは部屋にいるときは紫の上着
脱いでるの希望で。
読書は眼鏡付お願いします!!(オイ!)
この頃時期物しか書いてなくてごめんなさい。
時間がないのです。時間が余ったらしたいこと
いっぱいあるのですが…気長に更新まってください
2004.3 竹中歩