…はるか昔…こんなお話がありました…。 とある教会に心優しい神父様がいらっしゃいました。 ある日この神父様の下へある恋人同士が現れました。 話によるとお互いの国は敵国関係にあり、 結ばれることが許されない悲しい恋人同士だったそうです。 せめて式だけは挙げたいとその教会に訪れたそうです。 それを聞いた神父は罰せられることを覚悟で二人の愛を見届けました。 この話がいつしかその二人のような恋仲にある恋人達に広まり 気が付けば神父様の下には報われない恋人達が集まるようになりました。 しかし…しばらくしてその行いが国に対しての不法行為と言うことで その心優しき神父様は罰せられ…この世を去りました…。 神父の名前は『バレンタイン』 命日は2月14日でした…。 はるか昔のお話です… 偶然の喜び〜Happy Valentine〜 「あれ〜?おかしいな?」 ハルカは腕組みをしてテーブルの先にある一つの小箱を見つめていた。 その箱は赤い下地に白い花模様の入った包装紙で綺麗にラッピングされている。このようなものを用意する日それは…バレンタインデー。 異国の国物語になぞった記念の日である。 バレンタインは元々男性が愛する人へ愛を告白する日。 その形はいろんな国で様々な形が取られている。 男性が女性に宝石送る国や女性がクッキーを送る国。しかし、大体では女性が 日頃お世話になっている男性にチョコレートを送るようだ。だが、そのチョコレートを見つめてさっきからハルカはうなってる。 「どうしたんだ?ハルカ?」 サトシはハルカから貰ったチョコレートを口に運びながら問いかける。 「あのね、一個余っちゃったよ。」 「ポケモンの分じゃないのか?」 「それはないと思う。だってこれ、人間のだもん。」 確かにタケシの言うようにハルカはポケモンの分まで大量に買い込んだ。 しかし、人間用とポケモン用のものとは少々異なる。なんでも人間が食べるチョコレートにはポケモンにとって毒になる成分があるらしいのだ。 それに、ハルカはラッピングもポケモン用と人間用には区別がつくように変えてもらったのでタケシの推測ははずれる。 「お姉ちゃん、自分用のじゃないの?」 「それも違う。自分用のはほら、ここに確保してるもん。」 ハルカは自分のバックから皆にあげた義理チョコよりも大きなものを一つ取り出す。自分用を確保するのはやはり女子として当たり前だろう。 「マサトの分でしょ、タケシの分でしょ、サトシに…後は家に送った分で4つなのに、なのにどうして5個目が存在してるんだろう?」 自分の右の指を一つずつ折りながら数えていくがどうしても5つ目の相手がわからない。 「お姉ちゃん、またドジしたんじゃ…?」 「『また』てなによ?『また』て?」 こんな話が続く中、ハルカはまだ『彼』が同じ街に存在していることには気づいていなかった…。 「バレンタイン…一色…」 『彼』…もとい『シュウ』はハルカが自分と同じ街に来ていることなど知らずに街の大通りを歩いていた。街はバレンタイン一色らしく赤やピンクなどの暖色系が目立つ。その中をシュウは突き進んでいる。 「今年も僕には関係ない。」 シュウにはバレンタインなど関係ない。旅をする以前は家族や知り合いなどにかなり貰っていた。たぶんその大量の贈り物の中に本命も混ざっていたと思われる。しかし、それも数年前の話。旅をするようになってからはポケモンセンターの義理チョコや何かのお店の企画以外に貰ったことは自分が覚えている限りはない。旅をしていて所在をつかめないためもらえないのが理由。だが、そんな事は苦にはしていない。 「バレンタインに踊らされる人もいれば…またもらえなくて嘆く人もいる。理不尽な記念日だね。まさに。」 感傷に浸っていると足が何時の間にか街の花屋さんへと出向いていた。そして、シュウの足が止まる。 「…そうか…確か…。」 シュウは少し笑うと花屋の中へと姿を消していった。 「古いわね…でも、この教会でたくさんの思いが通じたり喜びが生まれたんだろうな…。」 ハルカはあの後、マサトと少しの喧嘩をしてポケモンセンターから少し離れた教会にの外階段に腰をおろしていた。 その教会はもう古いらしく、誰かが使っている様子はない。蔦が壁にびっしりはびこって、さらには壁にヒビなどが入っている。夜にでもなったらちょっとしたホラーハウスにもなりそうな古さだ。昼間でなかったら今場所にはいないとそう実感するハルカ。 「なんで、余っちゃうのかな…。」 「ハルカ…君?」 一気に現実世界へ呼び戻された。自分が振り返る瞬間にかなり強めの風が吹いてその声の主が持っている花が風に乗り少しの花びらを飛ばした。「…シュウ?」 「その驚いた顔を見るのは何回目だろうね。」 少しのからかいを込めたこの喋り方、まさしく『美しくないね』が口癖のシュウだ。 「本当…何回目だろう?」 「いや…本気で数えないでほしい…。」 ハルカが驚いた顔をする回数、すなわちシュウと偶然に会った回数である。 「シュウもこの街に来てたんだ。」 「どうやら、君たち一行とは行動パターンが似てるみたいだ。」 「そうかもね。腐れ縁てやつかも。」 「腐れ縁ね…でも、どうして君がこんな女子にはふさわしくないような場所に?」 「この教会のこと?そうね、確かにホラースポット系だから女の子には似合わないかもしれない。だけど、何となく足がこっちに来ちゃって…シュウは?」 「僕はこれを供えにね…。」 シュウは漸くかかえるような大きな薔薇の花束をハルカに見せた。 「供えにって…誰か知り合いのお墓でもあるの?」 「…ハルカ君、バレンタインは何の日か知ってるかい?」 「え?…恋愛について贈り物したりする日でしょ?」 「…そうだね。世間一般ではそういわれている。だけどね、本当は…ある人の命日なんだよ。」 大きな花束を抱えてシュウは教会の扉に向かって歩き扉の前で止まるとその花をそっと、扉の真下に置いた。 「命日…?」 「バレンタインて言う神父様のね…。非常なものだよ。自分の命日に世間では恋愛のお祭りとして祭られている。…そんなことを考えていたら冥福を祈りたくなって、この街の教会に来たのさ。僕が贐をするなんて言ったらこれしか思いつかなくてね本当なら今使っている方の教会に供えるべきだろうけど…こんなおおぴらな行動は人目につきやすいし、何より僕はそうい状況を好まない。」 「薔薇…か…シュウらしいわね。」 「ミニバラだよ…品種改良されて少し小さいけどね。」 ハルカはくすりと笑う。目立ちたがり屋のシュウだが、こう言う人に褒められやすいような行動は照れくさいのか苦手らしい。そのとき二人が会った時のように再び強い風が吹く。 「寒い!!早くセンターに帰ろう!!」 「ハルカ君…忘れ物だよ…。」 一度は教会に背を向け歩き始めたのだがシュウの声で振り返る。そのシュウの手には<先ほどまで供えられていた花束が抱えられていた。 「忘れ…物?何が?」 「良かったら、これを貰ってくれないか?」 「?!…だって、今供えたじゃない!!そんなものもらえない!!」 ハルカの言うことは適切である。しかし、その行動にシュウは笑う。 「…こんな場所に花束を置いていたらそのうち唯のゴミと化してしまう。そんなことバレンタイン神父も望んでないし、何よりこの薔薇が可愛そうだ。だったら、君にあげた方がまだ、マシだからね。」 シュウの『マシ』と言う言葉に少しカチンと来るが、状況が状況なだけに承諾する。 「しょうがないわね…貰ってあげる。だけど…私のお願い聞いて。」 「内容次第だね。」 「…このチョコ…貰って。」 先ほどまで悩みの種だった行き先のないチョコレートを差し出す ハルカは薔薇の花束で赤面するのを必死で隠しながらそう呟いた。 「た、たまたまね、余っちゃったのよ。たぶん人数の調整間違えたんだと思う。このチョコレートね…行き場がないのよ。それって凄くかわいそうだから…。」 いくら知り合いだからと言ってもサトシたちのような家族の様な親近感が<生まれていない相手にチョコレートをしかもバレンタインにあげるというのはかなりの勇気が必要だ。赤面するのも無理はない。その行動をみてシュウは少し笑みを浮かべる。 「…それじゃ…貰うとするよ。君のためじゃなく、君のドジでかわいそうになったそのチョコレートのためにね。」 「良い?義理だからね!!ギ・リ!本命じゃないんだから!!」 「そう言う事にしておくよ。」 シュウは扉の前から箱を拾うと再び歩き始め、教会を後にした。 「と言うわけなんですよ…どうしましょう?この花束?」 ポケモンセンターに戻ったハルカは受付にいたジョーイにこの花束をどうすれば良いか<相談していた。そんな崩れ行くハルカを見てジョーイがこんなことを口走った。 「…そう言えばどこかの街では男性が女性に告白する時に薔薇の花束をあげてその告白がOKだったらその場でチョコを渡す…なんて風習があったわね。」 そのにっこり笑うジョーイの言葉にハルカは少し赤面し、タケシは驚いてイスから崩れ落ちマサトはジュースを思い切り吹いた。サトシは変わらず理解できてないようだが… 「おおおお、お姉ちゃん!!あの義理チョコどうしたの?!」 「あ、あ…あはははは!!…シュウにあげちゃった…。」 「するとシュウの告白をハルカはOKしたと言うことに…?」 タケシの言葉でマサトは机から立ち上がりポケモンセンターを飛び出していった。 「絶対、シュウになんてお姉ちゃんは渡さないんだからぁ!!」 マサトのチョコ奪還作戦は…どうなることやら… 「そうか…そう言えばそんな風習があったっけ。」 どうやらマサトの願いもむなしくシュウはハルカがいた町をすでに出発していたらしい。 そしてしばらくして自分のした行動がどこかの街の風習だったことを思い出す。 「…彼女はこの事実…知らないだろうね。もし知っているとしてもそれはそれで彼女の困ったかをが見れて楽しいかもしれない。え?それは美しくないって?ロゼリア…確かに僕は美しくないものは嫌いだ。でもね…彼女のためならたとえ美しくなくなっても良いんだよ…。それだけ…僕は彼女が…いや、これ以上言うのはやめておくよ。だけど、彼女がくれたこれ。…食べれるものだと良いね…。」 バレンタインデーは心を表にして良い日。 それは…不器用な女の子の恋心が届くように。 素直になれない男の子が思いを伝えるように… バレンタイン神父が仕組んだ 恋人達へのプレゼントかもしれません…。 ------------------------------------------------------------END--- 作者より… 聖バレンタインデー企画です。 もうちょっと書きたい話があったのですが… なんか話がズレそうったので却下。 普通にノーマルにしました。 バレンタインは友達とチョコを 食べるものだと思ってます。 途中で薔薇のお話が出てきましたが どこかの国の本当のお話です。 薔薇はバレンタインにあげると 『プロポーズ』になるとか…。 それと、最初に書いたお話も本当らしいです。 神父(もしくは牧師)様の命日。 それを元で書かせていただきました。 上手くバレンタインが伝わればそれだけで 竹中は嬉しいです。 2004.2 竹中歩 |