神様の悪戯 〜風花のChristmas〜 「えー!!アチャモもアゲハントもエネコもないんですか?!」 「あー…全部売り切れちゃってるねぇ…」 ある街の大通りでその大声は響きわたった。その声の現況は赤いバンダナがトレードマーク、ポケモンコーディネーターを夢見る元気な少女ハルカ。その声はとある露店の主人へと向けられていた。 「なんでぇ?!どうして私も持ってるポケモンの『スノードーム』だけ売り切れてるの?」 ハルカの悲鳴の原因となったのは露店で売られていた『スノードーム』。透明な球体の形をしたガラスの中に水と白い粒子が入っており、逆さまにした後もう一度元に戻すとその白い粒子が中に入っている水のおかげで雪のように見える置物の一種。そして、その露店ではポケモンの入ったスノードームが売られていた。結構な種類があるのだがハルカの欲しいポケモンのものだけ売り切れている。その状況にハルカは悲鳴を上げていたというわけだ。 「悪いねぇ。ほんの1時間前まではアゲハントは残ってたんだけど…。アチャモは人気が有ったからすぐに売れちゃったし、エネコは可愛いから女の子を中心に売れちゃって…。残ってるので我慢してくれないかい?」 申し訳なさそうな店主の声。ハルカもわかっているが、サトシやタケシがお目当てのポケモンのスノードームを手に入れられたのに、自分の物だけ手に入れられらいのは少々悔しい。 「お姉ちゃん、残ってるのでもいいじゃない。このスノードーム一つ一つ手作りでクリスマスの今日しか買えないんだよ?」 そう、今日はクリスマス。神様の悪戯の所為で少しずつだが雪が降ってきている。本当なら素敵なホワイトクリスマスなのだが、欲しい物が手に入らない所為で少し憂鬱である。 「分かってるけど…どうしても、アチャモかエネコかアゲハントが欲しかったの…。」 「俺たちの欲しいのは残ってたのにな。」 サトシが自分のスノードームを見つめる。サトシの持っているスノードームはパートナーであるポケモンの『ピカチュウ』タケシは『ハスボー』マサトはどれにしようか散々迷った末『キモリ』にした。 「私…運無いのかも……。」 大きくため息を付くハルカ。その姿を見た店主が何かをひらめいたように大きな声を出す。 「お嬢ちゃん、君にならとって置きのスノードームを売ろう!」 「え?」 店主は軽く屈むとスノードームを置いてある台の下から一つの箱を取り出した。 「これはね、ポケモンがあまりにも細かい作業が必要だから1年に一桁ぐらいしか作れないんだ。だから、物凄く珍しいスノードームなんだよ。」 店主はニコニコしながら箱をゆっくりと開ける。その中から出てきたスノードームには綺麗なポケモンの人形が存在していた。 「……ロゼ…リア?」 「そう。このロゼリアは薔薇のところの細工が大変で、凄い腕のいい職人さんにしか作れないんだ。…さっき、ロゼリアが欲しいといった子がいてね、だけどそのときは私は丁度席をはずしていて、バイトの人に店をませてたんだ。バイトの人はロゼリアのスノードームがあったことを知らないみたいで、その子に『無い』と言ったらしいんだ。その子はやむなく他のスノードームを買っていったよ。もしかして、こうやって、他の人に買われることなくここに残っているのは君に買われるためにあるのかもしれない。よかったら、買ってくれないか?」 「わかりました。これ、買わせてください!」 こうと決めたら即行動にでるのがハルカ。何の迷いも無く、そのロゼリアを購入する事にした。 「うわー!綺麗!」 先ほど店で購入したスノードームをハルカは何度もひっくり返しながら眺めている。 「あんまり、やってると道に落とすぞ。」 「そうだよ、お姉ちゃん。折角良いのが買えたんだから、大事にしなくちゃ。」 「だって、スノードームはこうやって見るものでしょ?見なきゃ、もったいないかも。…そういえば、サトシは?」 「サトシならさっきの店でトゲチックのスノードーム買ってカスミに送ってくるて言って、宅配を頼みに言ったぞ。」 タケシは少し笑いながらサトシの行動をハルカに説明する。 「クリスマス一色ね。本当なら私も誰かに貰いたかったかも。」 ハルカは先ほど注意を受けたのでスノードームを買った箱の中へとしまう。 「さてと…これからどうしようか……!!!」 タケシ達のほうへと方向変換すると同時に物凄い勢いで誰かにぶつかる。 「わ!!」 普通ならなんてことなく体勢を立て直せただろう。しかし、先ほども言ったように雪が降り始めていたため、雪が少々積もり足場を滑りやすくしていた。 「わわわ!!あ!!!」 なんと立っていようとしたんだが、足がついて入ってくれなかったらしい。自分たちが休憩していた公園のど真ん中で大っぴらにこける。 「痛たたたた……!!そうだスノードーム!!」 転んだ瞬間に大きく打撃を受けた膝をさするが、自分が手に持っていたスノードームがないことに気づく。 「割れてないと良いけど…。」 そんなに離れていない場所にスノドームの箱は転がっていた。ハルカは手で拾うとスノドームが壊れていないか恐る恐る開けて確認する。 「よかった…壊れてなかったかも…!?これ、私のじゃない!!」 「いいかげんに、ぶつかった相手に謝ってくれないか?ハルカ君」 「へ?」 まだ雪の上で座っている状態のハルカはその声に驚き上を見上げる。 その声はコンテストのたびに聞いているような気がする、少し高めの男子の声。 「シュウ…よね?」 「それ以外に誰か当てはまる人物はいるのかい?」 少し嫌味がこもったこの口調。間違いない。ハルカがライバルと見なしたシュウである。 「どうして、私の前にいるの?」 「その前に、まず立ったらどうだい?雪で濡れると思うよ。」 「あわわわ!!」 シュウに言われて自分の今の体制を思い出し、瞬時に立ち上がる。 「あー、びっくりしたかも。まさかこんな所にシュウがいるなんて思わなかったもん。」 「それは僕にも言える台詞だけどね。まさか君たちがここにいるとは思わなかったよ。とりあえず、ぶつかった相手に謝ってくれるかい?それとも、君は『謝る』と言う行動を知らないとか?」 「な!!謝ればいいんでしょ!謝れば!ご・め・ん・な・さ・い!!」 少し…いやかなりの割合で怒りの入った謝り方。シュウはこうやっていつもハルカの行動を逆なでする。そして、怒りに我を忘れていたハルカはスノードームのことを思い出す。 「そうよ!!私のスノードーム!!これじゃないのよ!!」 「だろうね。君の持ってるスノードームは僕のだから。」 「え?これシュウの?だってこれ、『アゲハント』よ?」 ハルカが不思議がるのも無理ない。もし、シュウが自分たちの買った店でスノードームを買ったならもっと、自分の趣味にあったスノードームを買うはずだと。それこそ『美しい』ポケモンのものを。 「確かにそれはアゲハントだ。だけど、僕が買ったものだよ。」 「もしかして、1時間前にアゲハント買った子って…」 「1時間前?…多分僕だろうね。」 前髪をかきあげるクセを見せた後、シュウはハルカの言葉に頷く。 「ところで、ハルカ君は何のポケモンにしたんだ?」 「今持ってるのがシュウのスノードームでしょ。なら今シュウが持ってるのが私のスノードームよね?なら、中身見てみれば分かるわ。」 ハルカの言葉にシュウは今自分が持っている『ハルカの箱』を開けた。 「これは…ロゼリア!」 「そう、ロゼリア。」 シュウが珍しく驚いた顔をしている。バトルのときには見るが、プライベートなどでこのような顔をするのは珍しい。 「何故君がこれを?確か僕が買うときには無いって…」 「お店の人もそう言ってたわ。シュウが買うときにはちゃんとお店にはロゼリアのスノードームはあったらしいの。だけど、シュウが買いに言ったときに店員さんはその存在を知らなかったみたい。だから無いっていたんだと思う。」 「なるほど…そう言うことか…。」 シュウは少し笑みを浮かべる。 「何笑ってるの?」 「気にしなくても良い。…だけど、どうして君はこれを購入したんだい?もっと、君の趣味に見合うものが合ったと思うけど…。」 「そうかも。だけど、お店の人が『誰にも買われずに今あるのは私に買ってもらう為かもしれない』て言ってたから。それで買ったの。私も何となくこのロゼリアに引かれたから…運命ってやつかも。」 「純粋と言うかだまされやすいと言うか……。」 「なによぉ!!」 ハルカは少し起こっているがシュウは笑っている。やはりシュウの方が何かしら一枚上手である。 「と言う事で、それはシュウのね。」 「え?」 「だって、シュウはそれが欲しかったんでしょ?…そのロゼリアだって欲しいと思う人の所にいるほうが言いかもって思って。換わりに私がこれ貰っても良いかな?」 思いもよらない出来事にシュウが唖然としている。確かに、自分が欲しい物を貰えるのは嬉しい事。だけど、こういう状況は予想していなかったのだ。 「君がそれで良いのならね。」 「なら貰って良いのね?私、アゲハント欲しかったんだけど、売り切れてて…よかった!手に入って。」 「そう言う理由か…。」 「まぁ、シュウの言うとおりそれも理由だけど、クリスマスしたかったの。」 「クリスマス?」 「そう!誰かにプレゼント貰いたかったんだ。だから、それは私からシュウへ。これはシュウから私へってことで☆」 満面の笑みを浮かべるハルカ。かなり嬉しかったらしい。一度はあきらめた代物が手に入るというのはかなり嬉しい事だ。 「これがプレゼントじゃあまりに素っ気無い…。」 「え?」 シュウがハルカのスノードームの箱の上に一輪の薔薇を添える。 「これが一応僕からのクリスマスプレゼントと言う事にしてもらおう。」 「相変わらずキザね。…あ!また降り出したかも!!」 「雪…」 いつの間にか止んでいた雪が再び降り始める。今度こそ本当にホワイトクリスマスである。 「風花…」 「風花?なに…それ?」 「『風の花』文字の通りだよ。風に乗ることで雪は花に見える。だから、風花と呼ぶんだ。」 「へぇー、雪も花なんだ…。あ、そろそろ行かなくちゃ。」 ハルカはサトシ達が後方で手をふっている事に気づく。 「僕もそろそろ行こう…。」 「シュウ!」 歩き始めた筈のハルカの声にシュウは振り返った。 「メリークリスマス!!」 ハルカが笑顔でそう叫んだ。少し微笑んでシュウもそれに応対する。 「Merry Christmas…」 再び雪が降り始める。 「運命かもしれないねロゼリア。今回は君のおかげ彼女に会えたよ。どっちにしろ、今回は神様の悪戯だね。僕がアゲハントを買ったときからこの悪戯始まっていたのかもしれない。そして、その悪戯に導かれるように<ロゼリアは彼女に手に渡った…。本当に彼女と僕の間には何かしらあるんだろうね。それに僕の今年のサンタクロースへの願いは叶ったし…『クリスマスを彼女と過ごす』と言う願いがね…。」 クリスマスは皆が幸せになれる日。 誰関係なく幸せを望む日。 そして、神様が悪戯をする日。 その悪戯にあやかれる者は 幸せになれるという…… Merry Christmas for you... ------------------------------------------------------------END--- 作者より… バックミュージックはTOK●O『ding●dong』で。 クリスマス企画で書かせていただきました。 何時からあったんだろうこの案? かなり前からあった気がします。 とりあえず、二人のクリスマスはこんな感じ。 用意して渡すんじゃなくて、 素っ気無いけど交換みたいな感じが私は好きです。 スノードームじゃなかったらやっぱり、 シュウは薔薇の花束渡すと思うんですが…。 『風花』と言うのは比喩表現らしいです。新川の情報より。 とりあえず、皆さんへメリークリスマス。 2003.12 竹中 歩 |