それはサトシ達が立ち寄ったとあるポケモンセンターで起こった『悲劇』。 それはその始まりに過ぎなかった…。 パピルス〜paper plant 「ねぇ、サトシ…何か焦げ臭くない?」 「ん?言われて見れば……。」 目的にも町に向かう途中、そう、お昼を過ぎた頃。サトシたちご一行はマップに書いてあったポケモンセンターで今日は泊まる予定にしている。そして、夕食までかなりの時間があったためサトシとマサトはトランプをしていた。そして、マサトの『焦げ臭い』と言う台詞にサトシは鼻を動かして空気をかいで見る。確かに焦げ臭い。 「確か今タケシが厨房借りて、3時のおやつに何か作るって…。」 「この匂い厨房からだよ!」 マサトの声に反応してサトシは自分たちが今日泊まる部屋を飛び出した。 サトシたち以外にその匂いに気づく者はいない。今日はサトシたち4人しか泊まる人間がいないのだ。そして、厨房に向かう。 「うわ!!何だ?この煙!!」 「危ない!サトシ!!マサト伏せろ!」 厨房の入り口にたつや否やタケシが凄い勢いで厨房から飛び出してくる。 そして、物凄い轟音が辺りに響いた…。 『ドカ――――――――ンッ!』 タケシの指示通りその場に伏せたマサトとサトシは凄い煙の中よろつきながらも立ち上がる。 「こっちに窓があるよ!!」 「マサト、窓を急いで開けろ!!」 サトシたちは必死で周りにある窓を開ける。暫くして煙が薄くなった後、オーブンらしき物の前に座り込んでいるハルカがいたのをマサトが発見。 「お姉ちゃん!!大丈夫?」 「………。」 「え?何お姉ちゃん?」 ハルカは何かを呟いたのだが、何を言っているのかが聞こえない。そして、目に大量の涙を浮かべて大声で叫ぶ。 「私にはやっぱり才能ないのよ――――!!」 「一体何の事だ?」 サトシは首をかしげて考え込む。 「危なかった…危機一髪だったな……。」 「ねぇ、タケシ。何があったの?」 「何の騒ぎ?!」 爆音を聞きつけたのだろうジョーイが血相を変えて厨房に飛び込んできた。 そして…それと同時に煙が消えて厨房が今どんな状況下を把握するハルカ以外の人物たち。 黄色い液体が無残にも飛び散った壁 所々こげている天井&テーブル 料理用具が乱雑においてある(もしくは飛んだ)床 そして爆発したオーブン……。 「ロケット団でも襲ってきたのか?!」 「サトシ…これには事情があるんだ…。」 タケシの話はこうだった。 タケシが料理に取り掛かろうとしたとき、ハルカが『私もやりたい』といって来たので快くOKしたのだが、それがそもそもの間違い。ハルカに粉をボウルにふるうよう支持したところ、測った量の半分以上がボウルには入らないし、ボウルで泡だて器でかき混ぜる行動をさせたら、中身は周りに飛び散りボウルは空に。卵を割らせてみるものの、案の定殻入り。そして、とどめはこのオーブン。漸くオーブンに入ったと思ったのもつかの間、オーブンは怪しい光を放ち始め危険を察知したタケシが厨房から逃避……そして、この結果が生まれる。 「つまり、この惨劇はハルカの所為だと……。」 「そう言うことだ…。」 「それでお姉ちゃんは何を作ろうとしてたの?」 ハルカはオーブンの中にかろうじて残っている食材らしき物を取り出して見せた。 「……炭……?」 「僕もそう思う…。」 オーブンプレートに乗っていたのは黒い直径2センチほどの物体。それは炭と言うに相応しかった。 「……一応シュークリームの皮…かも。」 「「「…えぇぇぇぇぇぇ!?」」」 サトシ、マサトだけならまだしも、ジョーイまでが悲鳴を上げる。どうやったらこんな産物が出来るのだろう? 「うわーん!!やっぱり私才能ないんだ!」 「いや、そんなこと言ってる訳じゃないんだ!ただこれは…なんともコメントしがたい…」 「そうだよお姉ちゃん!一回や二回の失敗くらいで…。」 「六回やり直したんだ…。」 マサトのフォローもタケシの『六回やり直した』と言う言葉に無残に崩れ去る。 「大丈夫よ、また作れば良いじゃない。時間はあるんだから。とりあえず片付けましょう。」 ジョーイの温かい言葉が身にしみる。そして、タケシ達は片付けに取り掛かったのだが… またしても、悲劇は起きる。 「ぎゃー!!お皿割った!!」 「うわーん!包丁で指切ったかも!!」 「おなべが焦げてる!!」 全てハルカの悲鳴。何時の間にやら、厨房は爆発した後よりもひどい状況へと進化していた。 「(このままでは片付かない…。)」 ハルカ以外のメンバーに同じ思いがよぎる。とりあえず、何らかの理由でハルカに厨房から出てもらうことにする。 「そうだ!!このポケモンセンターの裏に葡萄がなっているはずよ。シュークリームを作るなら添えてみてはどうかしら?」 「さすがジョーイさん!!ハルカ葡萄を探してきてくれないか?俺たちはここの片づけをしているから。」「え…でも、私の所為で…。」 「行ってこいよ。俺が行ったところじゃ役に立たないし。」 「僕もここを手伝ってるから。」 そのみんなの言葉にしぶしぶながらその他の見事を受けるとハルカは厨房から遠ざかっていった。 「今のうちにやりあげるんだ!!」 タケシの大声で本当の大片付けが今、始まる……。 「やっぱり私…料理しない方が良いのか…ねぇ、アチャモ…。あ、そっか置いて来たんだっけ……」 自分の愚痴を聞いてくれるパートナーのアチャモが横いない事に気が付く。 「皆には迷惑かけるし、料理が出来ないし…最悪かも…。」 ポケモンセンターの裏手にそこまで深くない林をハルカは奥へと進んでいく。 「ジョーイさんの話だとこの辺に……あ、有った!!…ん?!」 ジョーイの話の通り少し入ったところに大量の葡萄がなっているのにハルカは気づくのだがそれと一緒にある人物まで見つけてしまう。 「……シュウ?!」 「ん…おやおや、誰かと思えばハルカ君か。」 その姿は記憶から抹消しようとしても抹消できない人物『シュウ』。キザでロゼリアをパートナーに持つポケモンコーディネータだ。 「何してるの?!こんな所で?!」 「何をしていると言われても……葡萄の実を見ていただけだけど…それが君に関係あるのかい?」 「別に関係はないけど……だって、行く先々にいるんだもん!こういう事も言いたくなるわ!」 「それは僕に見える台詞だろう?全く相変わらず美しくないね…。」 その言葉に一瞬怒りが湧いてくるが、とりあえず、葡萄の実を取ることに専念する。 「もしかして、葡萄を採る気?」 「そうだけど?悪い?」 シュウの言葉を聞きつつもハルカは葡萄の木に手を伸ばす。 「残念ながらこの辺りの葡萄はまだ食べるには早すぎる。」 「え?そうなの?」 「食べてみれば分かるさ。」 ハルカは手ごろなところにあった葡萄の鞘から一つだけ実を採って口に放り込む。 「!?すっぱーい!!」 「言っただろ?『まだ食べるには早い』と。」 目に涙を浮かべて葡萄を憎らしそうに見つめるハルカ。 「ここまで酸っぱいならきっと無理ね。どうしよう…。」 「…どうして、葡萄を採りに来たんだい?それにいつもの仲間は?」 「そのポケモンセンターに私たちは今日泊まる予定なの。そこでタケシに料理教わってたらオーブン爆発しちゃって…。今皆その片づけをやってくれてるわ。私はジョーイさんに勧められて葡萄を一緒におやつにしたらどうかって言われて来たんだけど……これじゃ無理かも…。」 そのハルカの言葉にシュウは一瞬たじろぐ。オーブンを爆発させる人など滅多にいないと思っていたのだが、本当にいた事に驚きを隠せない。 「で、何を作ろうとしてたんだ?君は?」 「……シュークリーム…でもやっぱり駄目ね。私は料理しない方が良いかも…。」 ため息を付いて佇むはるかの姿を見てシュウは少し考えて提案を出す。 「…シュークリームは素人には向いてない。簡単な物から始めれば良いさ。しょうがない、僕が一役買おう。」 「え?シュウが料理?」 「…もしかして、僕が出来ないと思っていたのかい?」 「うん…。」 「一応得意分野なんだが……。君の所為で仲間は被害をこうむっているのだろう?普通ならここで、町にまで行って何か買ってきて謝るけど……町までは片道半日はかかる。君の足じゃ到底無理だ。だから、君のためにではなく労働で美しく働いている君の仲間たちに僕がささやかながら何かしよう。」 そのシュウの言葉にハルカは怒り出そうとしたのだが、それを飲み込み笑顔へと変える。 「それじゃ、こっちにきて!!」 ハルカはシュウをポケモンセンターへと案内した…。 「これはまた…ひどく美しくない……」 シュウは思わず言葉をこぼした。ハルカの残した悲惨な台所を目にして。 「シュウ!!この傍にきてたのか!!」 雑巾を片手にサトシがシュウに駆け寄る。 「大変だね君たちも…。僕もささやかながら一役買わせてもらうよ。」 「え?」 「どうせ、彼女の所為でティータイムが過ごせていないのだろう?君たちが掃除をしている間に僕がなにか作ろう…。」 「私は掃除を……」 ハルカがほうきを持とうとした瞬間タケシは激しく止めた。 「掃除はいいから、ハルカはシュウの腕前を見て研究しててくれ!!」 「でも…。」 「見ることも大事なことさ…。ま、君には無駄な行動かもしれないけどね。」 「!…わかったわ!見てあげようじゃない!!」 気のせいだろうか?シュウは一瞬笑って見せた。 シュウの料理の手際は自分で言うだけあってかなりのものだった。その腕前は料理上手なタケシが認めたほど。 そして、皮肉にもシュウが作ったものはハルカが何回も失敗した『シュークリーム』。ご丁寧にカスタードと生クリームの二種類。そして味の方は…… 「おいしい!!」 「これいける!!」 「後で、レシピ教えてくれ!!」 掃除をし終わったメンバーはシュウのシュークリームに舌鼓。悔しいがその腕前はハルカが著とやそっとやったところで遠く及ばない。 「どうだい?ハルカ君、お味の方は?」 「おいしい…悔しいけど。」 それは否定できない事実。 「何で何でも出来ちゃうの?!私はいつもシュウにはかなわない!!ポケモンバトルも!料理も…。」 ハルカはその味に引け目を感じていたらしい。いつも何かやるとシュウの方がいつも優秀だ。それに悔しさがこみ上げおもわず涙が流れそうなになる。 「僕だって…生まれもってこんな才能が有るわけじゃない。…君ように美しくないバトルだってあった…だけど君の仲間のようにいつも練習や研究してこの今僕がいる場所まで来たんだ…。だから、旅を始めたばかりの君が僕にかなわないのは当たり前さ…。」 シュウの言葉に涙が一瞬で消えうせた。そう、自分の言った事がどれだけ子どもっぽく馬鹿馬鹿しいか気づいたのだ。シュウの経験は深いが今の自分はとでも浅い。かなわないのは当然である。 「私…今凄く馬鹿なこと言った……。」 その言葉を聞くとシュウは小さな紙切れをハルカに渡して席を立つ。 「え…シュウ?」 「これで頑張りたまえ…『ハルカ君』」 そう言い残してシュウは自分が今日、泊まる部屋と帰っていった。 「これ何…?」 ハルカを小さな紙切れを開くとそれにはこと細かくシュークリームの作り方が書いている。 「これって…」 「シュウのやつ、ハルカの事やっぱり心配なんだな…。」 タケシの言葉がなぜかハルカの心には染みた……。 時も過ぎ後5分で『明日』になる頃…… 「シュウ…起きてる?」 シュウの部屋を誰かがノックする。その言葉にまだベッドに横になっていなかったシュウが立ち上がりドアをあけた…。 「こんな夜中にどうしたんだい?…ハルカ君」 ドアの向こうに立っていたのはハルカだった。所々粉だらけでその手には型が崩れたシュークリームらしき物が皿と一緒に印座している。 「一応、今まで一番良いできなんだけど…味見してもらえるかな?」 「もしかして…こんな時間まで……?」 「…だってシュウに食べさせたっかったんだもん。だって、どうせ明日は旅に出ちゃうんでしょ?だから…なんてね!あはははは!!」 ハルカの顔は心なしか赤かった。その顔にシュウは軽く笑みをこぼす。 「見た目は確かに美しくないね……。」 「あ、味で勝負よ!!」 ハルカに言われるままシュウはシュークリームを口に運ぶ。 「どう…かな?」 「確かに見た目は美しくないけど……味は何とかいけるね。」 「本当!?…よかった!味見してないから自信なかったんだけど…。」 安堵の表情を浮かべるハルカにシュウは少し呆れた。自分が食べてない物を人に薦めるのかと。 「あ…確かに今まで一番美味しいかも!!」 自分もその場でシュークリームをほうばる。その豪快さにシューの中身が少し飛び出る。 「でも、100点中40点ぐらいだね。まだまだ研究の余地アリ。それに……」 シューを食べるハルカの頬についたクリームを拭うと再びそれを自分の口に運んだ。 「食べ方が美しくないからね。そっちの方も改善の余地アリだ。」 「い、いきなり何するのよ!!」 「とりあえず、事が済んだのならもう寝た方がいいんじゃないのかい?」 「帰るわよ!!じゃあね!!ベーだ!!」 小走りでシュウの視界から物凄いスピードでハルカは部屋へと戻っていった。 「全く、彼女は落ち着きが足りないね…。だけど、それが彼女の魅力かな?これからまた面白くなりそうだよロゼリア…。」 シュウの部屋の窓辺には綺麗なパピルスが風に気持ちよさそうに揺れていた…。 君は君だから…。 喜怒哀楽が激しくて、嘘をつけない、表情を隠せない 素直すぎるのが君の良い所。 僕にはないものを君は十分に持ってるんだ。 それが君の良いところなんだ。 花名≪パピルス≫ 花言葉≪素直さ≫ ------------------------------------------------------------END--- 作者より… 何だ!このべたべたに甘い話は! こんな物は中学一年以来書いてないぞ!! しかし…シュウなやりかねない行動だ…。 シュウが何かを拭って舐めるシーン書きたかっただけで 後はシュークリーム口いっぱいにほおばる ハルカが書きたかっただけ!!恥ずかしいよ!この作品…。 もう2度とかけるかこんな話。ていうか、顔から火が出そうです。 皆さんも読んだら脳から抹消してください。 シュウが料理上手なのは私の趣味です。ハルカは駄目そうだなって… 2003.12 竹中歩 |