ヴェロニカ〜speed well〜





「勝負あり!!アゲハント戦闘不能!勝者『ロゼリア』!」
 タケシの声が森の切り開けた場所に響く
「今日も美しかったよ…ロゼリア。」
「アゲハント。お疲れ様。」
 タケシの言葉に反応して一人の少年と一人の少女はモンスターボールにポケモンをしまった。
 勝者…シュウ&ロゼリア
 敗者…ハルカ&アゲハント
 この二人はつい先ほどまで戦っていた。その証拠に、辺りにはまだ砂煙が立ち込めている。
「あー!!やっぱりくやしいかも!!」
 ハルカは勝負に負けた悔しさを体全体で表現している。いくら、練習試合といってもやはり負けるのは悔しい。
「君はまだ、落ち着きが足りない…。」
「わ、分かってるわよ!!」
 シュウのアドバイスも少し時間をおかなければ、ハルカの耳には入らない。
 今はハルカ曰く『私のライバル』であるシュウに負けた事が悔しいのでそれどころではないのは目で見ていてわかる。
 負けるのは『当然』と言っても過言ではなかった。なんせ、あのサトシでさえシュウには敵わなかったのだから。そのときの勝負はサトシは『スバメ』で戦っていた。もし、その勝負のときにピカチュウで応戦していたのなら、勝てていたかもしれない。
 そして、何故この二人が一緒にいるのかというと、それはほんの偶然に過ぎなかった。


 ハルカたちはポケモンコンテストのために次の町を目指していた。しかし、サトシとタケシの二人に地図を持たせると何故か迷ってしまう。そして、森の中でうろうろする事1時間、その行動を不審に思った人物が声をかけてきたのだ。それがシュウ。
 事情を説明すると、道を教えてくれると言ったのだが…条件があった。それは『ハルカとバトルすること』。ハルカはその言葉を聞くや否や大張り切りでその条件を飲み、今にいたると言うわけだ。


「はぁ…私って才能無いのかも……。」
 勝負がついてお互い憎まれ口をたたきあったあと、少し大きめの木の根元に腰掛ける。サトシとマサト、それにタケシは少し離れた場所にある川原で3時のティータイムの準備をしているらしい。きっと、遠回しの心遣いだろうと思われる。(サトシは除く)
「確かに、才能は無いかもね。」
「普通こういうときにはっきり女の子に向かってそんなこと言う?」
「君が聞いたから、僕は正論を答えたまでさ。」
「ぐぐぐ……。」
 シュウの言葉に返す言葉が見当たらないハルカ。確かにその話題をふったのはハルカ本人である。
「早くこんな森から出たい……。」
「君たちはどうやったらこんな一歩道の森で迷うんだろう…。
「ある意味才能かも知れないね…。」
「いつも地図を持ってるのはタケシだもん!私の所為じゃ…」
「言い切れるのかい?君のことだから歩いてる途中で花やポケモンを見つけて追っかけて、それに皆が巻き添えくってるんじゃ……。」
「………。」
 ハルカの無言が続く。どうやら図星のようだ。
「全く…。もう少しポケモンコ―ディネーターの勉強じゃなく、一般知識も勉強した方がよさそうだね…。」 膨れ面でショウの方でなく反対側を向いてふてくされるハルカに向かってため息交じりでアドバイスを繰り返す。この嫌味さえなかったら立派なアドバイスなのだが、途中から馬鹿にしたように話しているのは気のせいだろうか…。
「いいもん!今度から気をつけるから!!それに、次は絶対に勝つかも!!」
「前向きなのはいい心がけだ。……これから時間はあるかい?ハルカ君?」
「ほえ?」
 シュウの場違いとも取れるその言葉に間の抜けた返事をするハルカ。
「『時間はあるか?』と聞いているんだけど……。」
「あるけど…それがどうかしたの?」
「どうこういうわけじゃないんだけど、いい場所に連れて行ってあげるよ。」
「……なんで?」
「僕の我侭に付き合ってもらったお礼さ。まぁきみが行きたくないと言うなら無理知恵はしないが…。」
 そのシュウの言葉にハルカは考え込む。そして、何かが吹っ切れたようにその場所から立ち上がる。
「いいわ!!暇つぶしがてらに。それに珍しいポケモンもいるかも!!」
 シュウの言葉を何も疑いもせず、『いい場所』に連れて行った貰う事になった。





「あれ…?あれお姉ちゃんたち?」
「へ?」
「あー…あれは確かにハルカとシュウだな。」
 川原でティータイムの準備をしている男子3人組みは自分たちの場所から下流へ100m程のところでハルカとシュウらしき人物を見かける。
 二人はどうやら川を越えるらしい。丁度いい感覚に飛び石がある。
 シュウは先にそれを飛んでハルカに手を差し伸べているようだ。しかし、ハルカはそれを拒否。普通に進んでいる。その行動にシュウは軽くため息をついている様子。まるで我侭なお姫様のエスコートをする付き人ようにシュウが見えてきた。
「どこ行くんだろう?」
「そう言うことなら聞いてやるよおー……!!」
「馬鹿!こういうときは気をきかせて大声なんて出すんじゃないぞ!」
 大声を出そうとしたサトシの口をタケシが慌ててふさぐ。
「何すんだよタケシ!」
「人の『恋路』は黙って見守ってやるもんだ!!」
「『小意地』?」
「サトシ…タケシと違う字、絶対に思い浮かべてるでしょ。」
 果てさてどうなる事やら……










「珍しいポケモン出てこないかな〜♪」
 鼻歌交じりにシュウの後を歩くハルカ。余程何かに期待しているらしい。
「君はいつでも元気だね。」
「それが私の取り得だもん!!」
「確かに…君から元気を取ってしまったら何も残らない気がするよ…。」
「そ、それはちょっと言い過ぎ!…で、どこまで行くの?」
「もうすぐ見えるさ……ほら、ここだよ。」
「?」
 シュウは草を掻き分けて少し盛りに深く入ると辺り一面を指差した。
「うっわ〜!!凄いかも!!」
その指差す方向にあったのは、紫や赤、白に黄色と言った地面に何色ものパステルを落としたような色鮮やかな花畑。
「こんな物よく見つけたね。」
「この花の香りにロゼリアが誘われてね…。美しい物は美しい物に引かれる…気に入ったかい?」
「久しぶりだよ!こんなにお花見たの!!うわー!!綺麗!!」
 ハルカは思わずその花の傍による。
「近寄るのは大いに結構なんだが、その花畑の方にはイバラが……。」
 シュウは注意をするのだが……時既に遅し。ドジなハルカが何も起こさないわけが無い。案の定イバラで手を負傷した。
「痛ーい!!もうちょっと早く言ってよ!!あーぁ手袋少し破けちゃった…。」
 ハルカは右手の手袋を外す。手袋からでてきた手の甲にはトゲが刺さった痕跡から<血が出てきていた。痛みを堪えられず手の甲をさすると余計に出血はひどくなる一方。その出血の量に今度はパニックになる。
「うわーん!血が止まんないかも!!」
「落ち着きたまえ。走り回ったところで余計に出血がひどくなる。」
 しかし、シュウの言うことは耳には入っていない。ハルカの悪いクセは落ち着か無くなると、周りの人間の言葉が耳に入らないこと。
「だってぇ!!」
「…静かに!」
そのハルカの行動に少し、イラつきを覚えたシュウは飛び回っていたハルカの右手を掴む。
「!!」
 シュウの行動に驚きを覚えるのと同時に我を取り戻したハルカ。
「君は何度いったら分かるんだ!ポケモンバトルでも、日常生活でも落ち着かない事にはどうにもならないと言っただろう?」
「…ごめんなさい。」
「…とまぁ、落ち着いたところで今の状況を説明すると、血が出ていることには変わりないが……一旦帰るかい?」
「マサトたちのところまで帰ってたらここにいる時間なくなっちゃうもん!それにまだ、珍しいポケモン見てない!」
「(僕は珍しいポケモンがいると言った覚えは全くないんだけど…)」
 勝手に『珍しいポケモンがいる!』と思い込んでいるハルカにかける言葉はシュウには見当たらない。
「それじゃ、そのまま血が止まるのを待つかい?」
「うーん…あんまり血は長い間見たくないかも…。」
「それじゃ、方法は一つだね。」
「はい?……?!」
「手を貸してくれるかい…。」
 ハルカは傷のある右手をシュウの方へと差し出す。シュウはハルカに『ハンカチはないか?』と聞くと、ハルカはポケットの中から自分の白いハンカチを出した。そのハンカチを受け取るとシュウは器用にそのハンカチを包帯代わりに巻いていく。
「結構手馴れてるわね。」
「僕は君みたいに団体で旅をしてないからね。何時何が起こっても自分で対処するから。それに僕がやるとハンカチの巻き方も美しいだろ?」
「一々、突っかかるいい方ね。」
「…これで良いだろう。あとは戻って消毒なりしてもらうといい。」
 シュウの応急処置の仕方は口で言うだけあって見事だった。止血もちゃんとされている。
「ありがと。わーい!!これで思いっきり遊べるわ!!」
 治療を終えるや否やハルカは花畑へとダイブする。それはまるで幼稚園児を見ているかのようだ。
 そしてすの姿を見てシュウはあることを確信する。



「どうやら止められないようだね…彼女への気持ちは。」



「シュウ!」
 言葉にすれば恥ずかしいかもしれない自分の世界に入っていたシュウはハルカの声で現実へと戻された。「せーの!!はい!!」
 ハルカは大量の花びらをシュウに浴びせる。花びらが舞い終わったあと、更に頭の上に中が載せられた。花の冠である。
「これは…」
 その行動に滅多に表情を出すことのないシュウが一瞬驚きの表情を見せる。
「うーん!即席にしてはいい出来かも!」
「これを今…作ったのか…?」
「そう!昔よく、マサトと近所の花畑で作ったわ。まぁ、あの時は白しかなかったけど。シュウはやっぱりその色かなって。」
 シュウの頭上にある冠の花の色は『赤』だった。
「君も結構やるじゃないか…。しかし、僕は男だからねこれは君にお返しするよ。」
 頭の上にあった冠をハルカの頭上へと戻す。
「折角作ったのに…でも、それもそうかも。」
 ハルカは冠を適当な木に引っ掛ける。そしてこちらへとUターンしてきた。
「帰ろう。きっと皆待ってるもん。」
「そうだね……もう良いのかい?傷の方は。」
「大丈夫!全然平気!」
 元気な姿を笑顔でシュウに見せる。その姿は『無垢』と言ったらきっと正しいだろう。





「そうだ…御礼をしないね…。」
「お礼?私に?…何の?」
「冠のお礼をね……。」
「え?別に良いよ。頼まれて作ったわけじゃないし。それに私のほうがお礼しなきゃだよ。」
「僕は『人間として礼儀ある行動』をとりたいだけさ。御礼をするのは一般常識だからね。…まぁ、君はどうかは知らないけど……。」
 その棘のある言い方にハルカは一瞬ムッとするがシュウが治療をしてくれた事が頭をよぎったのでその考えを無理やり心の中に封じ込めた。
「でも私、して貰いたいことなんてないかも…。」
「…それじゃ、僕が独断でお礼をさせてもらおう。」
「え?」
 シュウはハルカの前で立ち止まると片膝を地面につき、ハンカチを巻いている右手の甲に軽くキスをする。さしずめ『忠誠』のポーズと言うところであろう。
「ななな!!」
 余りされた事のない…いや人生の中でされた事の無い恥ずかしい行為にハルカはほんの数秒でバンダナのように真っ赤になる。
「おまじないさ…早く治る様にって……。」
「そ、そうなんだ!!い、いい事聞いた!今度マサトにもやってあげよう!!あの子時々怪我するから……。」
 何処と無く恥ずかしさで一杯一杯なのはわかった。そして、そんなハルカを知ってか知らずかシュウがポツリと呟いた。



「……僕以外の人にするのは遠慮願いたいな…。」



「なんか言った?」
 聞こえなかった。いや聞こえないような小ささで言った。
「いいや、ただの一人事さ…。見えてきたよ。」
 そしてシュウの声に反応してハルカは川原を見渡す。川上50m付近で手をふっている男子が見えた。
「おおーい!!…ねぇシュウもお茶していくでしょ?」
「僕は遠慮させてもらうよ………。」
「えぇ!もしかして、もう行っちゃうの?」
「どうやら君たちと僕の進むルートは違うようだからね。ここら辺で…。」
「そっか…じゃ、次に会うのはポケモンコンテストってことね!次は絶対負けないんだから!!」
「それまでに僕と張り合えるだけ強くなっていれば良いんだけど…それは高望みかなそうだ……これを……」そういいながらシュウがハルカに渡したのは小さくて、だけど青がとても綺麗な野花。
「今回は薔薇じゃないんだ…『アゲハントに…』でしょ?」
「君の思うとおりに扱ってくれればいい。それじゃ……。」  
「シュウ、これありがとね…早く治すから!!」
 そう言ってハルカはシュウの目の前でハンカチに小さくキスをした。
「……」
 自分がやるとの見るのでは全く違う光景に驚いた。  つまり自分さっきあんな事を素でしたのかと言う後悔が少し付きまとう。  そして案の定またあの冠のときのようにシュウの表情が崩れる。それは誰がどう見ても少々ながら『赤面』していた。
「どうか…した?」
「…いや、なんでもない…それじゃ、また……。」
 小さく手を振りながらシュウは再び旅立っていった…また会うその日まで……










「彼女には予想がつかないよ…だけど、そこがまた…彼女のいいところなのかもしれないね…ロゼリア……。」










君の行動には予想がつかない。
それが僕にとって嬉しい行動でもあれば
君が鈍感な故に僕にはキツイ行動でもあったりする。
だけど…それが君なんだ。
僕が『忠誠を近う』…たった一人の君だから…。









花名≪ヴェロニカ≫ 花言葉≪忠誠心≫
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作者より…
ありえない!!ありえないから!!
そしてクサイ!!何だこのクサさは!!
書いてた本人が一番謎です。
最初は普通のシリアス書こうと思って
文章作ってたんだけど…何処で間違えた?自分。
思い当たるとすれば、イバラの辺りからか。
トゲ刺さるなんて予定なかったモンな。
あれ、ハンカチの治療にしてますけど
実はあのシーン凄い乙女ネタをするところでした(汗)
本当はあれ指先だったんです。それをシュウがくわえて
治療するシーンとか書いてたんですが…

作者の精神が恥ずかしすぎてついていけませんでした。 

後は間接キスは出したかったから間接キス書いて、
忠誠のポーズは書く気全くなかったのですが
新川がそんなシーン見たいとかいってたなぁって
それがこのお話です。今回のお花は最後に出てきた青い花!
ここまでクサイの多分かなり先までかけないと思いました…
2003.12 竹中歩