そもそも、誰がこんな日を作ったのか?
いや、一応理由は知っている。
男性だけだとかわいそうだから、女性の日も作ろうとか。
チョコレート業界だけでなく、他の業界も立ち上がったとか。
他の国にもあるような似たような習慣から取ったとか。
色々説があって、結局のところどれが正しいかなんてわからない。
でもそれでも、やっぱり今日と言う日は楽しみなんだと思う。
お菓子をもらえるからとかじゃなくて、
単にお返しを貰えるほどの人物であると言うのが嬉しいんだ。
そのポジションを確認できる日だから……。






貴公子の真意〜Rose Whiteday〜






 季節が漸く春めき、街で行きかう人々の服装も軽くなるこの季節。
 とあるカフェテリアに人気のあるラジオ番組が流れていた。
「さて、今日もやってきました。皆さんの質問コーナー! どんな質問でも、この番組が解決しちゃいますよー!」
 声の主は人気パーソナリティーの男性。年は三十代前半。番組により声の特徴を変えられる為、彼の放送は場所を選ばない。
 だからだろうか?
 カフェにいるほとんどの人々が彼の声に耳を傾けていた。
「では、今日の質問に行ってみましょう。『ホワイトデーに貰う物って意味があるんでしょうか?』と言うことです。確かにそんな時期ですねー! お返しは三倍返しなんて誰が言ったのでしょうか? お陰で自分の財布はこの時期寂しいですよ。……と、自分のことは置いておいて、とりあえず、今日は番組のスタッフが全力でホワイトデーの事を調べてきました!」
 それを聞いていた社会人らしき男性がポソリと呟く。
 そういえば今日はホワイトデーだったな。何か買って帰らないと。
 家に奥さんか、または娘さんでも居るのだろう。彼は早速席を立って店を後にした。
 それでもラジオは続く。心なしかパーソナリティーの男性はテンションが上がっていた。
「ホワイトデー。色々意味があるみたいだけど、一般的な意味からあげていきます。
ホワイトデーはバレンタインデーのお返しを上げる日。皆は知っているよね? でも、そのお返しをする物で、自分がどう思われてるか分かるって知ってた? 自分も今回の取材で知ったんだ!」
 その言葉に今度は二人で紅茶を飲みに来ていた女性二人の行動が止まる。
 知らなかった……。
 私も知らなかったよ……。
 なぜか話しを聞く前に二人は沈む。結果を聞いてからでも遅くないと思うのだが。
 とりあえず、彼女らを見ながら耳をラジオへとむける。
「一応いろんな意味があるんだけど、番組調べで有力な説をここでは紹介するよ。まずアクセサリーとか雑貨とかを貰った人。これは残念ながら相手が自分をどう思っているかあまり分からないんだ。今回の取材で分かったのはクッキー・マシュマロ・キャンディーと言う定番商品について」
 それを聞くや否や、先ほどの女性達に活気が戻る。
 良かったー。私今回ネックレスだった。
 私指輪だった。
 それだけ高い物を貰っていれば、相手が自分をどう思っているか分かりそうなもの。
 しかし、恋する乙女と言うのはいつでも不安になるらしい。だからしょうがないのかもしれない。
 そんな言葉を思い出し、女性達から目線を逸らして再びラジオに聞き入る。
「まず、クッキー。コレは義理の定番と言うことらしいんだ。後は友達で居ましょうとか。だから、コレは本命でない可能性が高い。聞いてる女の子、ごめんねー! もし知らなくて、本命の子にクッキー贈っちゃったそこの男性! 直ぐに交換に行ってください!」
 その言葉で一人の男子学生が会計も早々に店を飛び出していった。
 ああ、彼はクッキーを送ってしまったのだろう。
 でも、代わりに何をあげるか聞いて行かなくて良かったのだろうか?
 そんなツッコミを入れるまもなく、ラジオは進む。
「で、何を代わりにあげたら良いかって言うと残りの二つのどちらか。本当は一つに決めたいところなんだけど、実は地方によってマシュマロが本命だったり、キャンディーが本命だったりするんだ。だから番組では無難に二種類一緒に贈る事をお勧めするよ」
 さっきの彼はコレを聞いていれば良かったのに。
 しかし、その彼はもうここには居ない。
 今出来ることは彼の気持ちが上手く伝わる事を願うだけ。
 それにコレは所詮、人の意見でしかない。
 自分が本命だといえば、例えクッキーでも野菜でも本命になる。
 つまりは全てが自分次第。
「まぁ、でも一番の方法は自分の口で伝えることだね。それが一番相手に伝わるよ。コレを聞いてる男性諸君。今年は勇気を出して、口で伝えてみてはいかがかな?」
 ラジオも同じ事を言っていた。
 結局皆たどり着くのはそこだ。
「と、もうそろそろ時間だね。何時も時間が短く感じるよ。最後に、ホワイトデーのお返しをすでに貰った女の子達。ここで言ったことはあくまで見解でしかない。だから、相手がどう思っているかは実際には分からないんだ。マシュマロとかの順位を知らない男性のほうが多いからね。だから、クッキーを貰っていてもあきらめちゃ駄目だよ」
 そうそう。
 いつもこうやって男性はフォローを入れる。
 コレですくわれる人も多いとか、少ないとか。
 パーソナリティーの後ろではすでにいつものエンディング曲が流れていた。
「そういえば、かなり特別な意味を持ったお菓子あがあるって聞いたことあるよ。それはチョコの入ったマシュマロ。えーと詳しい意味は忘れちゃったけど、チョコが男性の気持ちとかで、僕の気持ちを受け取ってくれてとか、包んでくれてありがとうって意味なんだって。だから、チョコ入りのマシュマロを貰った人はかなり感謝されてる証拠だよ。だけど、それが恋愛かどうかは分からない。全てはその男性に聞いてみると良いよ。じゃ、今週はこの辺でー!」
 全てを何とかしゃべり終えたのと同時に、ラジオは別の番組に切り替わる。
 再び店に訪れる静かな時間。
 だけど、その時間に乗り切れず、時が止まったままの少女が居た。
 さっきまでラジオを聴きながらお菓子を食べていた少女。
 知り合いに貰ったというクッキーを二枚食べた後、もう一つ別のお菓子を取り出していた。
 ラッピングから見てきっとホワイトデーのお返し。
 中から出てきたのは数種類のキャンディーとマシュマロ。
 そしてそこからマシュマロを選んで一口食べてから、彼女の時間は止まっている。
 マシュマロは普通のマシュマロではなく、チョコレート入りだった。
 さっきのラジオが言っていた本命とか感謝されてるとか言う意味のばかりばかり揃ってる。
 何時もなら気にせず食べていたのに、お陰で考えてしまった。
「あいつ……どんな意味で贈ったのよ。あの、貴公子は」
 そうぼやいて、少し顔を赤らめる。
 そして食べかけのマシュマロを食べあげたとき、漸く彼女の回りは時を取り戻す。



 きっと偶然。
 ラジオの所為だ。
 春の陽気もあるかも。
 認めない、認めない、認めてなんかやるもんか。
 勝ち誇った顔なんか見たくないから。
 だから絶対に、


 顔が赤いのはあいつの所為なんかじゃない。











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作者より……
知り合いの人に
『ホワイトでーって何返すか順位があるんですよね?』
といわれたのが発端。そんなの知らなかったよ。
関東と関西では本命がマシュマロかキャンディーどっちかになるらしいです。
そんなこと知らないので、普通にマシュマロをホワイトデーには使っていました。
だけど、チョコ入りでまた意味も違ってくるんだというのを
教えてもらった時にはかなり驚きました。
まるで花言葉みたいだと思いました。
でも、ホワイトデーに順位があるって知ってる人の方が少ないかも。
実際、男性は知らない人がほとんどだという。
でも、シュウなら知ってそうだ。
ということでこんなお話です。
いるかどうかも分かりませんが、コレを呼んでいる男性の方。
お返しには気をつけてください。
そして、お財布と心に無理はしないで下さい。
今年こそ男性に優しいホワイトデーでありますように。
2008.3 竹中歩