今年のオススメは断然コレ! 素敵なロッジを借りて、 街で有名なケーキを用意して、 緑と赤のキャンドルで明かりを灯す! あなたも是非、今年の流行でクリスマスを過ごしてね! 不思議が起きた魔法の日〜Surprise Eva〜 「て、言われてもね……」 とある街の、とあるカフェテリアの窓辺の席。そこで彼女は呟き、本を閉じた。 「無理があるかも」 彼女とは、赤いバンダナがトレードマークの少女『ハルカ』の事。 そのハルカはただいま今日のクリスマス・イヴについて深刻に悩んでいるらしい。 「……今年は一人か……」 ふと外を行きかう人の群れに目をやる。 クリスマスという事もあってか、行きかう人々は皆何か楽しそうな表情。もしかしたら、楽しくない表情をしている人もいるかもしれないが、少なくとも今のハルカにはそう見えた。 一人で寂しくクリスマスを迎えるハルカに取っては……。 現在、ジョウトで一人旅をしているハルカ。危険ながらも何とか一人で生活とコンテスト出場は続けている。しかし、クリスマスくらいは誰かと一緒に過ごしたかったので、当初は里帰りをするつもりだった。 しかし、今里帰りをしてしまうと、年明けに行われるコンテストに間に合わないことが判明。 結果、里帰りを断念。今年はコンテスト会場に近いこの街でクリスマスを過ごすことにした。 「あうう……寂しいかも」 知り合いも誰もいないこの街で、一人きりのクリスマス。ハルカでなくても楽しい気分にはなれない。 「ケーキだけは確保したんだけどね」 いくら寂しいといっても、食い気は別。とりあえずクリスマスケーキだけはこの街で一番良い物を用意している。一応その辺は、手元にある雑誌にのっとってみた。 だが、所詮それもマネ程度。ロッジまで用意できるはずがない。キャンドルは探してみたものの、どこも売り切れだった。多分、有名雑誌で特集されていたクリスマス企画だからだろう。皆やることは同じらしい。 「一人きりって訳じゃないけど、なんかねぇ……」 机に突っ伏してだらけるハルカ。 確かに一人で寂しくとは言っているが、実際本当に一人で過ごすわけではない。 ポケモンセンターに行けば、ポケモンセンター主催のクリスマスパーティーが行われる。元々それには参加するつもりではあるが、何か物足りない気がしてならない。 自分達だけと言う仲間内のパーティーしか知らないハルカは、不特定多数の知らない人と過ごすパーティーを心底楽しめるか不安だった。それに、 「誰ともプレゼント交換がないなんて寂しすぎるよー」 それが一番の問題。 ポケモンセンターのクリスマスは食事会がメインだ。だからプレゼント交換というものはない。 「はぁ……考えててもしょうがないし、バシャーモと街のイルミネーションで見に行こうかな」 カフェにいるのに飽きたハルカは席を立ち上がり、会計を済まして店をでる。 そして店を出て背伸びをしたとき、不意に視界にあるものが入った。 「え?!」 驚くハルカ。そしてそれと同時に走り出す足。 一体、何を見つけたというのだろうか? 「まさか……」 見間違える? ううん、そんなはずない 「でも……」 いるはずないよ。だって、この街に行くとは言ってなかったもん。 「だけど!」 あの紫と緑の配色は絶対にそうだ! ハルカは確信を得て、発見したそれに近づき、後ろから抱きついた。 「ハーリーさーん!!」 「ギャ!!」 抱き疲れた人間は一瞬ふらりと体勢を崩しかけたが、何とか持ち直す。 ハルカが店を出て目撃したのはなんとあの『ハーリー』。 何かとつけてハルカに対してコンテストのたびに妨害や嫌がらせをしてたオカマさん、その人だった。 「痛いわね! 一体誰よ! アタシにこんなことするなんて……げ! ハルカ!」 「やっぱりハーリーさんかも!」 露骨に嫌そうな表情を浮かべるハーリーと満面の笑みを浮かべるハルカ。全く正反対の表情をしている。 「あんたね、何で行き成りアタシに抱きつくのよ!」 「いや、見かけて、追いかけてきたら……ツイ」 「ツイじゃないわよ! もし持ってたもの落として壊したらどうするのよ!」 そう言うハーリーの手には大きな茶色い紙袋が抱えられていた。 「それ、なんですか?」 「あんたには関係ないでしょ!」 「気になるかもー!」 何時もはハルカがハーリーに押されているのに、今日はハーリーがハルカに押されている。何とも不思議な光景だ。 「あんたね、アタシのこと嫌いでしょ? 色々やってきたんだから。だからアタシもあんたのこと嫌いなのよ。それに今日はクリスマス! こんな聖なるロマンティックな日にあんたとこれ以上話したくないの。という訳で、アタシは消える!」 ハルカに馴れ馴れしく接してくるハーリーはどこへやら。今のハリーは確実に素のハーリーだ。ハルカを陥れた時や、シュウの前でさらけ出す、嫌がらせをする方のハーリー。 「そんなこと言わなくても良いかもー!」 ハーリーがおかしければハルカもおかしい。 ハーリーを見るや否や、何かに隠れて彼から逃れていたはずなのに、今日は自分から近づいている。 これもクリスマスと言う特別な日だからなのだろうか? 「ああ、もうしつこいわね! 何で今日に限ってそんなに構ってくるの! あんたおかしいわよ?」 「……あ、……すいま……せん」 その言葉でハルカはハーリーから距離を置き、視線を地面に落とす。 そして視線を落とすと同時に一瞬で表情を変えた。その表情は先ほどまでしていた嬉しさとは全く逆の寂しそうな表情。その変貌振りにハーリーも慌てる。 「ごめんなさい……」 「はぁ?! あんた、どっか頭でも打った?」 今度は謝罪の言葉がハルカの口から飛び出す。やはりハルカは何処かおかしい。 これはハーリーが素の性格をさらけ出す事以上に変である。 「ごめんなさい……ちょっとはしゃいじゃったかも」 何とか顔を上げたハルカだが、何か無理をして笑顔を作っている様子。 「まぁ、はしゃいではいたみたいね。アタシに自分から声かけてくるくらいだから。何? いじめてほしいから声かけてきたの?」 「ち、違うかも! 単に……」 「単に?」 「知り合いがいて嬉しかったから、それでテンションが上がっちゃっただけです。クリスマスに知り合いがいたから……」 さっきより少し本当の微笑みに近い表情をするハルカ。 それは……本心だった。 こんな特別な日に、自分は知り合いもいなくて、寂しいクリスマスを過ごすのかと考えていた。そんな時に知り合いの姿が目に入って、嬉しくなってしまっただけ。 例えそれが、苦手なハーリーだとしても、ハルカに取っては苦手より、嬉しさの方が大きかったらしい。 だからあんなにはしゃいでいたのだ。 「あんた……馬鹿?」 「な?!」 しんみりしたシリアスな雰囲気が漂う。 世の中はクリスマス。ハーリーが素敵な紳士になってもおかしくない状況だった。 しかし、そんな物は所詮、頭の中の考え。世の中はそこまで甘くない。 やはりハーリーはハーリーだった。 こんなに落ち込んでいるハルカに追い討ちをかけるなんて、早々できるものではない。唯一、ハーリーを除いては。 案の定、ハルカはハーリーに対して怒りを露にする。 「こんな時にそんなこと言わなくてもいいかも! 人が落ち込んでいるって言うのに!」 「馬鹿だから馬鹿って言って何が悪いのよ? 大体、あんたは甘ちゃんなのよ」 「シュウみたいに馬鹿馬鹿言わないでくれます?!」 「あら? やっぱり何がってもシュウ君が出てくるのね。よほど彼が恋しい?」 幸いながら二人が言い争いをしているのは裏路地。人の目には触れにくい。 しかし、流石にコレはやりすぎだ。声も大きすぎるし、内容もひどい。 「もう! だからハーリーさんてわからないかも! 私ただ、クリスマスが寂しい……」 「一人旅なんだから当たり前でしょ」 ハルカはその台詞を言ったハーリーの顔が他の台詞の時とは違ったため、驚いて一瞬怯んだ。 「え……?」 「自分で一人旅を始めたんだから、何それを棚に上げて甘えてるのよ。クリスマスに一人? 一人で旅するな当たり前。宿があるだけまだ良い方。アタシなんて、クリスマスに野宿した事だってある。クリスマスに一緒に過ごす人がいないくらいで喚かない。それくらいで挫折するなら今すぐ一人旅なんてやめなさい!」 それは嫌味ではなく、また悪口でもない真実。 ハーリーは珍しく、本当の事でハルカに説教をしていた。 「あんたはその辺が甘いのよ。現実を見なさ過ぎる。だからアタシの罠にも簡単にはまる。コレくらいの現実も受け止められず、落ち込む。それを乗り越えない限り、アタシやシュウ君には適わないわよ」 「……」 再びハルカは視線を地面に落とした。悔しさのあまり、ハーリーの目を見れずに……。 「どう? あたしの言った馬鹿って意味わかったかしら?」 「…………た」 「は?」 「わかったって言ったんです! 悔しいけど、それは本当のことですから……。確かに私が一人旅ってものを甘くて見てたからこうなったわけだから……」 今にも涙が零れ落ちそうだ。 どうして人は本当の事を言われるとここまで腹が立つのだろう? しかも、それを言っているのが何時もひどい事をする人。だから余計に腹が立つ。 ハルカは涙を落とさないように下唇を噛んで、こぶしを握り締める事で精一杯だった。 「……だけど、ここで挫折するんじゃないわよ。アタシにはあんたを倒してなかすって言う野望があるんだから」 「ハーリーさん……?」 「あー! やだやだ! 変に良い人ぶっちゃったじゃない! 早く行かないと料理が間に合わないわ! ケーキが買えなかったから作らなきゃいけないのに」 キャラでないのが自分にもわかっていたらしく、ハーリーは少し頬を染めその場から立ち去ろうとしたが、思わずその後姿をハルカは服を掴んでとめてしまう。 「ギャ!」 「あ……ごめんなさい」 「あんたね! ここはかっこよくアタシを立ち去らせなさいよ!」 「いや、あの……そうだ! ケーキ買えなかったんですよね?」 本当はありがとうを言いたくて止めたけれど、上手く言葉が出ずに、ハルカ話を他の方向へと逸らしてしまう。 「行き成り何よ? 買えなかったけど? 本当はこの街で一番有名なケーキを買いたかったんだけどね。有名雑誌にロッジでケーキを買ってキャンドルを灯せって書いてたから……」 「私、そのケーキ買ったんです! だから一緒に食べる……かも?」 「あんた……アタシの話聞いてた?」 「え?」 「一人でクリスマスを過ごす事に堪えろって言ったばかりでしょうが! 何でそれがわからない……」 「だって、今日はイブだもん! ハーリーさん、さっきクリスマスって言ってから、今日は一人じゃなくても良いんでしょ?」 ハルカのは単なる屁理屈だ。 話の内容からハーリーは今日の事を言っていたには違いない。しかし、今はその屁理屈にすら頼る。そうでもしなければ、きっとハーリーは姿を消し、お礼も言わせてくれないだろう。ハルカはその一身でハーリーを引き止める。例え話が逸れようとも。 「だから、今日は一緒にクリスマスしませんか?」 「あんた……アタシの事、嫌いでしょうが? そんなやつと一緒に過ごしてどうするのよ?」 「えっと、でも、でも……今日はそんなこと忘れて騒ぎたいかも!」 「…………」 「あ、やっぱり駄目ですか?」 じーっとハーリーは張るかを睨む。目線が上からな為、余計に怖い。蛇ににらまれた蛙状態だ。 そして暫くしてハーリーは一度目を瞑った。そして、 「良い? ロッジはポケモンセンターの八号。集合は夕方六時。あんたはケーキだけを持って来ること。プレゼントなんて用意したら承知しないわよ!」 「……」 「返事は!」 「はい!」 マシンガンのようにあっという間にしゃべられて、何が起きたのか一体わからず呆然としているハルカ。返事を求められ、一応返事はしたが、分からないことが一つだけある。 「あの、何でプレゼントは用意しちゃ駄目なんですか?」 クリスマスなんてプレゼントを交換、もしくは贈ったり、贈られたりすることに意味があるのではないか? それにプレゼントを強要するならわかるが、持ってこなくて良いと言うのは意味がわからない。 「プレゼントなんて貰ったら、旅の邪魔になるでしょうが」 「ああ……そっか」 「それに、貰った贈ったでお互いを気にするのも嫌だしね」 「納得かも。じゃ、私はケーキだけ持っていくんですね? 料理は?」 「アタシが作るわよ。そのための材料なんだから」 ハーリーは抱えている袋の中身を見せてくれた。 野菜に卵、あとはお肉や小麦粉なんかも入っている。よほど気合を入れて作る気らしい。 「凄い……じゃ、楽しみにしてますね!」 「遅れるんじゃないわよ?」 「はい!」 ここで出会ったときのような嬉しそうな表情をしてハルカは裏路地から本路地へと消えていった。 「全く、何でこんなことに。……はぁ、悩んでたってしょうがないわ。あの子の分も作らなきゃ。それとあと、あれの手配と、コレの手配と……」 どことなく、うきうきしているハーリーもまた、街の中へと消えていった。 そして……夕方…… 「うわ! かわいいかもー!」 ハーリーに来るように言われたロッジは所謂丸太小屋のような作り。 窓から中の光が漏れて、外の雪をきらきらと反射させる。まるでドールハウスのような見た目だ。 「おっと、見とれてる場合じゃなかった。ハーリーさーん!」 普通の家のようにインターホンがない為、ハルカは扉をノックして、中の住人を呼ぶ。 「はいはい!……って、あんた、本当に時間きっかりね」 「………」 「なによ?」 扉を開けたハーリーの姿に絶句し、ハルカは固まる。 「ハーリーさんが何時もの格好と違うぅぅぅ!」 「なんだ、そんなことに驚いてたの?」 何時もは帽子をかぶっているゆるいウェーブ状の長めの髪は一つにまとめられ、服装は白のハイネックのニット生地。ズボンは多分ボトム系。 緑の奇抜なファッションのハーリーはそこにはいなかった。 「だって、だって! 緑じゃないんだもん!」 「あのね、今日はクリスマスよ? おしゃれぐらいしなくてどうするの。さぁ、早く中に入る」 「あ、はい」 『普通』のハーリーに圧倒されたまま、ハルカは部屋に入る。 「うわぁ……綺麗! そんでもって、凄い!」 ハーリーの背丈より大きいクリスマスツリーはカラフルな装飾でなく、赤と金のリボンでのみ飾り付けされており、部屋の装飾もやはり赤と金を基調としたシンプルな物。 部屋の真ん中に鎮座するテーブルはローストチキンやサラダ、ちょっとしたオードブルなどで埋め尽くされていた。 「凄い凄い! ハーリーさんて料理上手だったんですね!」 「一人で旅やってると色々と上手くなるもんよ。まぁ、あんたにはまだ無理かもしれないけど。料理とか駄目そうだし」 にやりと笑ってハルカを見下すハーリー。 悔しいが料理ができないと言うことは事実なので、ハルカは反論の術を持たず、むくれる。 「どうせ駄目ですよーだ。でも、成長はしてるんです。簡単なものなら何とか作れますし」 「そんな調子で行けば、こんな料理を作れるのはいつになるのかしらね」 「もー! ハーリーさん、意地悪かも!」 「元々、アタシはこんな性格よ。それがわかってて今日は来たんでしょう?」 「うー……」 高笑いするハーリーに手も足も出ず、低い声を出すハルカ。 そんな時、ロッジの扉を叩く音。 「? ……誰でしょう?」 「ああ、きっとキャンドルの宅配便よ。緑と赤のキャンドルを頼んだから、それを届けに来たのね」 「もしかして、あの雑誌の通りにしようと思ったんですか?」 「そうよ。ロッジも取れて、ケーキもあるんだから、やっぱりキャンドルは欲しいじゃない? だから何とかするように言ったのよ」 確かに今この場には有名雑誌がオススメするクリスマスの過ごし方のポイントの三つのうち、二つが揃っている。となれば、やはり何とかしてでも最後の一つを揃えたいと言うのが心情ではないだろうか? 「あ、ローストビーフも焼きあがったみたいね。ハルカ、出てもらえる? アタシは料理の仕上げをしたいの」 「はいはい。了解かも」 ハルカはハーリーに言われた通りロッジの扉を開けた。 そして、それは思わぬ驚きをもたらす。 「え?」 「え?」 お互い発した言葉もタイミングも一緒。そしてそのあとの行動も一緒だった。 ただただ驚き、その場に立ち尽くす二人。 「なんでハーリーさんのロッジを訪ねるのがシュウなの?」 「それはこっちの台詞だよ。なぜ君がハーリーさんとイブに一緒にいるんだい?」 まるでクリスマスのカラーのような二人がロッジの中と外で立ち尽くす。 赤いのバンダナをしたハルカが部屋の中で唖然とし、 緑の髪のシュウが部屋の外で驚いている。 そんな二人を見かねて、 「ちょっと! 入るか入らないか、してくれる? せっかくの暖かいお部屋の空気が逃げちゃうでしょ?」 「あ、ごめんなさい。という訳でとりあえずシュウ、部屋に入って」 「ああ……」 訳のわからない二人は部屋の中に入り、今の状況を考えた。 「えっと……シュウは何でいるの?」 「僕は行き成りハーリーさんに呼び出されてね。赤と緑のキャンドルを調達して、ここに来るようにと言われたんだ。君は?」 「私は、今日は良い事も悪い事も全部忘れてハーリーさんとクリスマスを一緒にすごそうって誘ったの。知り合いに久々に会えたのが嬉しくて……つい」 「君ね……彼がどんな人物か知ってるだろう?」 「それは忘れてないわ。でもね、そんなに悪い人ではないと思うの」 ハーリーに聞こえないように二人はこそこそと話す。しかし、彼がそんな会話を聞き逃すはずなく、 「そこの二人、聞こえてるわよ」 「あ……ごめんなさいかも」 「すいません」 全く、しょうがない。 そんな顔をしてハーリーは盛り付けの終わったローストビーフをテーブルに運んだ。 「一応色々は揃ったみたいね。何とかキャンドルも届いたし。でも、このシーズンによく持ってたわね? 頼んだのはいいけど、絶対に無理だと思ったのに」 「キャンドルは野宿の時に明り代わりとして良く使うんです。たまたまその手持ちの中に赤と緑があっただけですよ」 「ふーん……流石シュウ君。と言ったところかしらね」 気のせいか二人の会話の間に何か目に見えないピリピリとした空気が漂う。 「だけど、何でハーリーさんはシュウと連絡が取れたんですか?」 たとえどんなに悪い空気をかもし出そうが、鈍感なハルカには伝わらないらしく彼女は普通に自分の疑問を述べた。 「少し前にシュウ君と会ってね。そのときにどの街に行くのかを聞いたのよ。同じ方向に行く気はなかったから。そしてそのとき聞いた場所のポケモンセンターにアタシは電話をしただけ。繋がらなかったら探す気はなかったわ。良かったわね、繋がって」 「ええ。今となっては良い結果だと思ってます。最初は何の罠かと思いましたけど」 ハルカがハーリーの毒牙にかかる前でよかったと思えば、この呼び出しも悪いものではなかったと思える。 シュウは今それをひしひしと感じていた。 「凄い偶然かも! てことは、シュウも一緒にクリスマスできるんでしょう?」 「え?」 「だって、ここに来たのってする気があったからじゃないの? じゃないとハーリーさんの所になんて来そうにないもん。クリスマスやるから来なさいって言われたんでしょう?」 彼女は本当に物事を単純に考える。そんな理由な訳がないのに。 「彼女には言ってないんですか? 僕がどうして呼ばれたか」 「言ってないわよ?」 今度はシュウとハーリーがハルカに聞こえないように話す。 実はシュウがここまで来たのにはハーリーの脅しがあったからだ。 『キャンドルを持ってこなければ、貴方の嫌なことが起きると思うわよ?』 そんな意味ありげな電話を貰って行かない訳には行かない。 結果、シュウはいやいやながらもこうやってハーリーの元へと来た。 もちろんそのやり取りをハルカは知らない。 「あ、でも、シュウが来るのがわかってればクリスマスプレゼント何か買っておいたのに……」 「あんたね……アタシがプレゼントは邪魔になるって言ったでしょうが」 「でも、シュウは何時も受け取ってくれますよ? プレゼントとか色々」 「……へぇ……」 「なんですか? 貰うのがおかしいですか?」 「別にぃ。よほど他の子とは扱いが違うのね」 二人にそんなやり取りがあったのは知らないハーリーは、少し面白くない様子。 言葉と行動にさりげなくその感情が出ている。 「まぁ、二人がどんなやり取りをしているかは知らないけど、今日はプレゼント無しよ。だって、ここにあるんだもの」 「え? どこにですか?」 「ハルカ……あんたの目は節穴? 目の前に色々あるでしょう?」 ハーリーは一つずつ指を指しながら説明をした。 「一つ、素敵なロッジにお料理。二つ、有名なケーキ屋さんのクリスマスケーキ。三つ、品切れ続出となっている貴重な緑と赤のキャンドル。ほら、コレであの雑誌のことは全部揃ったじゃない」 「あ……本当だ」 「一つずつじゃあまり意味がないけれど、不足していたものをアタシ達はそれぞれ貰った。それってプレゼントってことじゃないかしら?」 「………ですね」 説明をしてくれたハーリーの言葉にハルカは笑って答える。 「もしかして、あの雑誌のクリスマスを目指してたんですか? 有名な雑誌の」 「今頃気づいたの? そうよ、あのクリスマスをするためにあんたを呼んだのよ」 「シュウも知ってるの? あの雑誌」 「一応ね。だけど、確かに全部揃ってる。……不足しているものを補うか……確かにプレゼントと呼べるかもしれないね」 三人は漸く完成に至ったクリスマスに達成感を覚える。 「私は今日、ハーリーさんとシュウからプレゼントを貰ったことになるんだね」 「そう。アタシは悔しいけど、あんたとシュウ君から貰った」 「となると僕は彼女と貴方からもらった事になるわけですね」 不足した物を貰って、完成したのだ。貰ったのだから、プレゼントには間違いない。 「じゃ、始めましょうか。料理も冷えるし」 「賛成かもー!」 張り切って、シャンパングラスに飲み物を注ぐハルカを尻目にハーリーとシュウは再び小声で話し始める。 「今日は大人しいんですね」 「何? 罵倒でも浴びせて欲しい?」 「いえ、僕に連絡をした理由もわからないので、裏でもあるのかと思って」 「言うじゃない。……あんたに連絡したのはフェアじゃないと嫌だったからよ」 「珍しい事ですね……何時もはフェアなんて望まない人が」 「……そうね。珍しいわね。アタシでも何でそんなことしたのかって思うわ。だけど今日はイブ。何が起きても不思議じゃないもの」 「二人ともー! 何してるの? 始めよう?」 「はいはい。わかったわよ」 「しょうがないね」 用意の終わったテーブルを囲み、三人はグラスを手に持つ。 そして…… 「メリークリスマスかも!」 「メリー・クリスマス。ちびっ子ちゃん」 「Merry Christmas.」 乾杯をしてパーティーが始まる。 今宵は全てを忘れて楽しもう。 今日はイブ。 きっとなんでも素敵になる魔法の日。 「ハルカ! あんた、ケーキ買ったって……これは十人用の特大ケーキよ! 確かにアタシが行ったときもコレは残ってたけど、食べれきれないからあきらめたのに……」 「そうなんですか? 普通サイズだと思ってたんで気にしなかったかも」 「君、今回どれだけ食べる気なんだい?」 楽しい三人の夜と同じくらい楽しい夜を皆様に。 Merry Christmas for you. ------------------------------------------------------------END--- 作者より…… 今年のクリスマスはどんな風にしようかと思ったら、 ハーリーさんが行き成りふって沸いていきました。 彼はきっと料理が出来るはずです。 そして彼が今回はめちゃくちゃ大人しい。きっとイブだからですよ。 シュウハルというより、三人組みのクリスマスといった感じです。 シリアスより、暖かい雰囲気を目指しました。 シュウがあまり目立ってないですが、一応シュウハル+ハリです。 結構この三人組好きです。 なので、たまには仲良しな日があってもいいのではないかと。 だってクリスマスだもん。 そんなこんなで、 今年もみなさまに素敵なクリスマスが訪れますように! メリークリスマス! 2007.12 竹中歩 |