本日のランチ:トマトと鶏肉のピタ そして二皿目のピタを食べ始めようとしたハルカから不意飛び出した台詞。 その台詞に残りの三人は食べる手を止めていた。 「そう言えば…最近薔薇貰ってないかも。」 ホタルブクロ〜Campanula bellflower〜 「…どうしたの?お姉ちゃん。」 「へ?」 「いや、薔薇だとかなんだとか言うから。」 まだ一つ目の半分くらいで手が止まっているマサトは不安げにハルカの表情を伺う。まさか昨日のコンテストの疲れが今日出たのだろうか? 「いやー、最近シュウが薔薇をくれないなと。」 「なに?欲しいの?」 「違うわよ!」 マサト問いにハルカは全面否定。だけど多分それは裏返しの表現。きっと欲しいには違いない。 「でも、確かにこの頃シュウは薔薇をハルカに渡さないな…」 最後に残った一口を口に放り込み、ランチセットに付属されていたアイスティーを飲みながらタケシはシミジミと語る。 「あのね、何か勘違いしてるけど、シュウは私に薔薇をくれた事はないわよ?いつもポケモンにだったから。」 機嫌損ねたようで再びハルカは豪快にピタを食べ始める。そんなに勢いよく齧りついてはトマトソースが飛び出て大事になるのではないかとヒヤヒヤさせるマサトの気も知らずに。 「シュウの薔薇っていつも誰にやってたっけ?」 ピタを右手に、アイスティーを左手に携えたサトシの質問。 「大抵はアゲハントにだったわ。」 「じゃ、アゲハントいないからじゃないのか?」 なるほど。 サトシにしてはいい考えだった。ハルカの言うとおりシュウがいつも薔薇を送る相手がポケモン…即ちアゲハントだとするなら薔薇をくれなくて当然。今ハルカの手持ちポケモンの中にアゲハントはいないのだから。 アゲハントへ…シュウはいつもそう言ってハルカに薔薇をあげていた。でもそれが真実ではない明らか。まぁ、恋愛事にはかなり疎いサトシは知らなくてもしょうがない。でもあの薔薇は間違いなくハルカへと送られていた。最初の方はポケモンへだったかもしれない。でもグランドフェスティバルあたりの薔薇は確実にハルカへと向けられていた。その真実を知るのはタケシとマサトとごく少数の人間だけだろう。 「そうね、サトシの言うとおりアゲハントがいないからかもしれない。」 「それは無いと思うけど…」 「え?」 鈍感な二人の会話に割って入ったのは何時の間にかピタを食べあげたマサト。 「どうして?」 「だって…グランドフェスティバルの時、再会したとたんシュウは薔薇送ってじゃない。」 過去を振り返る。マサトの言うとおりシュウはハルカと再会した時に送っている。ということはアゲハントがいなければもらえないという憶測は外れてしまう。 「だとしたら…何でもらえないのかしら?」 「やっぱり欲しいんじゃない。」 「だから違うってば!」 弟の頭をひっ捕まえて物凄い形相で睨むハルカ。そこまで否定しなくても… 「単に…」 痛がるマサトを見て手を離したハルカは一気に静かになり、そしてポツリと 「私が薔薇を貰う価値がなくなったのかなって。」 「お姉ちゃん…」 「だって、会ってるのに貰ってないんだもん。やっぱり少しくらいはそう言う考えしちゃうわよ。」 薔薇を貰えるのは特別な存在だけと考えていたのは自分だけかもしれない。もしかしたら他の人も貰っているのかもしれない。そんな考えがハルカの頭を駆け巡る。 最終的にはシュウの薔薇の意味すらわからなくなってきた。 「何であんなややこしい事を……」 「シュウは意味をこめてちゃんと送ってると思うぞ。」 「タケシ…?」 自称恋愛のエキスパートであるタケシが笑ってそう答えた。ハルカですら分らない意味をタケシは分ったという。 「今ハルカが薔薇を貰ったときのことを思い出してたんだよ。最初はコンテストで再会した時に送ってるのかとも思ったんだが、ツキコさんと戦った時にはくれなかっただろう?」 「そう言えば…そうかも。」 「それで、コンテストに優勝した時だけ送ってるかとも思ったんだけど、キミマロ…ファントムの時は休憩中にやったらしいし、グランドフェスティバルに関しては再会の時だ。それに今回の大会も貰ってない。そして色々考えた結果…」 「結果は…?」 ハルカは息を呑んで耳を傾ける。 「シュウの薔薇にはおめでとうと言う意味がこめられてるんじゃないかと思ったんだ。」 「おめで…とう?」 祝杯、お祝い…そんな言葉がかけめぐる。シュウはそんな意味で? 「なん…で?」 「コンテストで優勝した時やグランドフェスティバルにたどり着いたとき貰ってるからな。ツキコさんの時、シュウはハルカが天狗の状態だったからあげるに価しないと判断したんだろう。」 「でも…今回優勝したのに貰ってないし…ユズリハも貰ってない。」 そう。もしもおめでとうの意味があるなら今回の大会、ハーリーさんに邪魔をされても勝ったのに貰っていない。ユズリハだって優勝したのに…。 「ユズリハは…ワカナがいたせいだろう。彼女に気を使ったんだと思う。そして今回の大会は…今の状態に満足するなってことだと俺は思う。」 「満足?」 「グランドフェスティバルまで頑張れってことだな。まだお祝いをあげる状況じゃない。」 「つまりはグランドフェスティバルまで努力をしろってこと?」 「そういう事だな。まぁ、俺の憶測だから。」 「そっか…」 意味が無かったわけじゃない。多分不器用なシュウなりの心遣い。 「あんまり信じない方が良いかもしれないよお姉ちゃん。なんせタケシの言う事だから…」 「マサト!それは酷い!」 「ううん。憶測でも良い。それに多分当たってる。」 タケシの言葉で少し楽になった。そうだ。多分間違ってはいない。 今まで再会しても貰えなかった時は何か自分が悪い事をしていた。だからもらえなくて当然。 それにユズリハの時はワカナを傷つけないようにわざとくれなかった。それに関しては少し腹が立つけど、ワカナのことを考えればこれも当然。 そして今回は嬉しいと天狗になりやすい自分への遠まわしのアドバイス。薔薇を貰えるという事で少し鼻が高くなっていたかもしれない。今の状況で貰っては多分努力を怠っただろう。多分シュウはそれを見越していたんだ。 「マボロシ島の時は薔薇貰うどころじゃなかったしね。うん…貰えない意味分ったよ。確かに今貰ってたら大事だったかも。」 落ち着いた表情でハルカはアイスティーを飲む。 「だから薔薇がもらえるよう…グランドフェスティバルでは絶対に良いバトルをするかも!」 「頑張れよ!」 「うん!」 ハルカの決意がその日の最高気温以上に上がったその日。四人のテーブルには光り輝くように生き生きとした蛍袋がその光景を見守っていたと言う…。 シュウは結局いろんな面で助けてくれた。 ハーリーさんのこととか色々ね。 薔薇をくれない理由にもシュウなりの理由があった。 そこまで助けてくれたんだもん。 次は絶対に良いバトルをしなくちゃ。 …でもその前に伝えなきゃいけないこともあるのよね。 今回去り際にしか言えなかったから…。 一応これは私でもちゃんと持ってるのよ? だからそのうち言わせてよね。 花名≪ホタルブクロ≫ 花言葉≪感謝の気持ち≫ ------------------------------------------------------------END--- 作者より… カジノキ大会次の日の話。 シュウハルのはずなのにシュウ出てきませんね。 まぁ、たまにはあっていいのではないかと思います。 今回目をつけたのはハーリーさんの嫌がらせではなく、 何で薔薇をもらえなかったかということです。 今回こそはもらえると思ってたんですけど貰えなくて。 だからそれを文章にしたしだいです。 撮りだめしてるビデオ見てみたらおめでとうと言うべき シーンで薔薇あげていたのでそう言う意味があるのかと、 私個人が勝手に思い込みました(きっぱり) 本当に私の独断ですから間違えないで下さいね(笑) そして何故ハーリーさんを書かなかったか。 今回のハーリーさん嫌がらせ凄すぎて嫌なキャラに なりそうだったので書かなかったんです。 ハーリーさん何気に好きだからそうなって欲しくなかったんですよ。 次こそ機会があれば日ハーリーさんを! それにしても本当にシュウ、ハルカのこと好きだな… いや、それで良い。それでこそシュウだと思いました。 2006.5 竹中歩 |