その出来事は全て一本の電話から始まった。 当日の結果〜Whiteday Fair?〜 ユズリハ大会から暫くの月日が流れたある日。 ハルカたち御一行はとあるポケモンセンターで一日を過ごしていた。 「ねぁ、次の大会までどれくらい日数あるの?」 「そんな事も知らないの?お姉ちゃん。」 「べ、別に知らないんじゃなくて確認したかっただけかも。」 ポケモンセンターのロビーで人目も気にせず姉弟喧嘩を始める二人。傍から見れば大変に仲睦ましい状態である。 「ハルカさん。」 フロントから不意に名前を呼ばれる。ジョーイの声だ。 「何ですか?」 弟マサトとの喧嘩を途中で止めてフロントまで駆け寄る。ジョーイはフロントにある電話機の受話器を持っていた。 「お電話よ。」 「へ?」 「貴女に。」 何処のジョーイとも変わらない笑顔で受け答える。 電話?誰から? 「ちょっと待ってね。あっちの一般者用の3番に繋ぐから。少し待っててもらえる?」 「はい……」 そう言われて3台並ぶ電話機の一番右端の椅子に座る。そして自分の思考回路に問い掛けた。 「電話なんて誰から?」 思い当たらない。まだ、誰にもこの街についたなんて言っていないのに。一体誰から? そう思いながら受話器をとった瞬間、ブワンと言う音を立てて電話の液晶に向こう側の映像が映る。映っていたのは、 「ワカナ?!」 「ハルカさーん!良かったそちらにいたんですね!」 オレンジの肩までの髪。暖色系でまとめられた服装、そして守ってあげたくなるような健気さとは裏腹に熱血形の心を持つシュウ様大好きな少女。ワカナだった。 「ど、どどどどど!!」 「どうしてって事ですか?」 言葉にならないハルカの言葉を何とか受け取り訳す。そう、その通りです。 「そうよ!だって、私がここにいるなんて…」 「簡単ですよ。ユズリハ大会の後からの日数とかを計算に入れて数件に絞り込んで連絡をすればどこかのポケモンセンターで情報がつかめますから。」 あっけらかんと話すワカナ。思い立ったらやりとおす少女。普通そこまで忍耐は続かない。めんどくさがりのハルカにとっては無理だと思った。 「そ、そう…。で?何か用事だったの?そこまで苦労してかけてくるって事は。」 「あ、そうでした!ハルカさんを見れたことで嬉しくてました!」 電話の向こうで何かガサゴソやっている。何かを探しているようだ。 そして、漸く見つかったのだろう。それを液晶に向ける。 「コレ、頂いたんです!」 「ん?」 水色の袋。巾着袋とでも言うのだろうか?両手から少し溢れるくらいの大きさ。ナイロン製のように見える。女の子向けのものだろう。いたるところに白いハートの模様がついていた。可愛いとは思う。でも、それは一体、 「何?」 普通にそう思った。だから純粋な感情をぶつける。 「あ、見てもわからないって事はやっぱりハルカさんのは違うんですね。」 「は?」 「コレ、シュウ様に頂いたんです。」 その言葉に絶句した。 なんで?そして何故?あのシュウがワカナに贈り物を?私だってあまり貰った事無いのに。知り合ってまだちょっとしたか経っていないワカナに如何して? いろんな困惑がハルカの脳裏を巡り巡る。その様子を見て液晶のワカナは慌てていた。 「どうかしましたか?凄いお顔ですけど…」 「いや、ちょっと考えてただけ。シュウが人に贈り物するって聞いた事ないから。」 「そうなんですか?!ならやっぱり私は幸せ者なんですね!」 凄く嬉しそうに笑うワカナ。そんなワカナに不粋な質問は出来ない。でもどうしてもらったのか気になる。それを言おうとした時、ワカナの口から再びあの言葉。 「それで、ハルカさんはどんな違うものを貰ったんですか?」 違うもの…さっきも言っていた。ワカナとは違う何かを自分は貰っただろうか?いや、貰うわけが無い。だって、ユズリハ後から会っていないのだから。だから何も貰ってはいない。 「あの…私シュウから何も貰ってないけど……」 「え?!デリバード持ってこなかったんですか?!」 「は?」 「私のところは昨日デリバードで届いたんですよ!だからハルカさんのところもてっきり…」 「あのさ…凄く申し訳ないんだけど、話が分らない。届くとか届かないとかって…」 「もしかしてハルカさん…忘れてるですか?!」 またワカナが驚く。何か約束でもしたっけ? 「忘れてる……?」 「今日…ホワイトデーですよ?」 ホワイトデー…それはこの地方に伝わるバレンタインのお返しをする慣し。 そんな一般知識がハルカの中で電車のように通り過ぎていく。 「………」 「ハルカさん?」 「………」 「ハルカさん…」 「………」 「ハールーカーさーん!」 「ああ!」 漸く一ヶ月前の出来事を掘り返す事が出来た。 一ヶ月前のバレンタイン。確かワカナと一緒にシュウヘバレンタインの贈り物をした覚えがある。だからワカナは贈り物を貰っていたのだ。 「そう言えばそうだっけ。」 「忘れてらしたんですね…」 「いや、ココのところ野宿ばっかりしてたから、日にちの感覚麻痺してたかも。」 そう言って誤魔化しては見るが実際忘れていたのは本当。乙女として失格である。 「もう!駄目ですよ。忘れてちゃ。でも届いてないんですよね?」 「うん。何も宅配便は来てない。」 「うーん…距離が違うから遅れてるのかもしれませんね。」 「そうかもね。ねぇ、ワカナはあれからやっぱりシュウを追いかけてるの?」 「はい。でもユズリハから自分でもコンテスト参加してるんです。だから前みたいにずっと追いかけてる事は出来なくて。」 「そっか。」 ユズリハからコンテストに目覚めたワカナ。今も精一杯努力してリボンを集めているのだろう。そう考えると油断していられない。もっと頑張ろうと思えるハルカ。だが、今はコンテストの話をしているのではない。ホワイトデーの話をしているのだ。 「だからシュウ様から手渡しでなく宅配便で届いたんです。今シュウ様とは違うところにいるので。」 「じゃぁ、あいつが何処にいる分らないんだ。」 「大体の予想はつきますけど…シュウ様ですから。捕まらない事の方が多いんです。」 「ふーん…」 「どうかしましたか?」 「いや、もしかして私の分忘れてるんじゃないかと思って。嫌がらせに連絡でもしてみようと思ったの。」 テヘへと子悪魔の様にハルカは笑う。しかし、心は表情と裏腹。 如何して自分のところには来ないのだろうと言うなんとも言えない不安感に襲われていた。 「そんな!シュウ様がハルカさんの分を忘れるなんて事ありませんよ!」 「そっかな…」 「そうです!何度も言いますけどシュウ様にとってハルカさんは特別なんですから!」 液晶に大きい顔が映る。きっと液晶に食い付いているのだろう。そこまで真剣と言うワカナの心の表れ。 「それに今日はまだ終わってないですから。きっと届きますよ。ね?」 「うん…。」 少しだがワカナの言葉で心が軽くなった。 そうだね。信じて待ってみよう。 「だから落ち込まないで下さい。私明後日までここにいますから…何かあったら連絡ください。」 「うん。」 「それじゃ失礼します。」 そう言って液晶が黒い画面に戻った。 デリバード…もう少し急いで。 私が不安になる前に。 「………」 嘘つき。 「……」 嘘吐き。 「…ウソツキ!」 誰に言うわけでもなくロビーで言ってみた。別にくれると言った覚えはないし、くると言う確証も無かった。でも何か言わないとやってられない。 時計の針は…深夜の12時5分を示していた。もう日付が代わってしまったのだ。つまりホワイトデーの終了を意味する。 「忘れたのかな…」 自分だけ忘れられていた?ワカナのところには届いたのに?デリバードが事故にでもあった?ううん。電話したけどそんな事故は起こってないって言ってた。それに… 『その名義のお届けものは此方ではお預かりしてません』 そうも言われてしまった。だから、デリバードなんて来る筈無い。なのに待ってしまう自分。馬鹿だ。 「シュウの馬鹿。」 ついでにあいつも罵ってみる。いや、誰も悪くない。自分が思い込んでしまったのが悪いんだ。ワナカも貰えたから自分ももらえると思い込んでいた自分が。 本当は悔しかった。 自分より先にシュウの贈り物が届いてるって事が。 そして不安だった。 自分よりワカナの方を認めたんじゃないかって。 「本当馬鹿かもね…さ、寝よう!」 踏ん切りのつかない気持ちではあったが無理に諦めを付けさせハルカは自室へと足を運ばせた。 その後姿は本当に切なそうに見えた。 「お姉ちゃん!お姉ちゃん!」 キラキラと輝く朝日がまぶしい。もう少し。もう少しだけ寝かせて。 そう思ってはいるがマサトがやはり五月蝿いようで目が開いてしまう。 「何?」 「電話だって。」 「電話?こんな朝早くに…」 「何言ってるの。もう9時だよ。」 「え?!」 昨日寝るのが遅かったせいなのだろう。この生活にしては寝坊である。 「んぎゃー!早く起こしてよ。」 「タケシが今日は寝坊してても差し支えないって言ってたから寝かせておいてあげたのにその言い草はないんじゃない?」 「あー!もう!」 ベットから飛び起きバンダナを締めたり歯を磨いたりと身支度をテキパキとすませる。 「で?電話って誰?」 「いや、単にジョーイさんから電話って言われただけで…」 「ワカナかな?」 「かもね。」 最後に鏡で自分の格好をチェックすると部屋を飛び出した。 フロントへと全力疾走。ぶつかりそうになった方にはごめんなさい。 「ジョーイさん!電話って…」 「相変わらずだね。ハルカ。」 足が止まった。 どうして? 電話って言ったでしょう? 人が来るなんて聞いてない。 どうして? どうして? 「あんたがいるの?」 「君は…如何して毎回同じことしか言えないんだ?もうちょっと他の言い回しが出来ないのかい?」 シュウの言葉に暫く考え込んだハルカは、 「コンテストが無いようなこんなところ来るなんて実は暇人?それとも余裕?」 嫌味には嫌味で対抗。 「…言った僕が悪かった。」 「そういう事かも。でも如何しているの?」 「僕が此処にいちゃ悪いかい?」 「いや、そうじゃなくて、ワカナの話だと此処とは違う方に行ってたみたいだから。」 「ああ…そう言えば彼女と方向は一緒だったね。でもちょっとした用があってね。フライゴンで此処まで来たんだよ。」 「そう…。」 「……浮かない顔だね。」 「そうかな?」 ワカナの話になったとたんハルカの表情が暗くなる。おかしい。元気が取り得の彼女が。 自分でこの話を出しておいて暗くなるなんて自己中心もいい所だとハルカは思ったがどうしても心のわだかまりは取れなかった。 「何かあったのかい?」 「ううん。特には。」 「そうか。じゃぁ、コレを渡したら帰るよ。迷惑がかからないうちに。」 ポンッ。 ハルカに何かが手渡される。 見覚えのある水色の袋。 これって… 「ホワイト…デー?」 「なんだ。それを言える元気はあるんじゃないか。」 少し嫌味笑いをする。しかしそんな事はどうでも良い。漸く貰えた。欲しかった物。 「……忘れられてなかった…」 「え?」 いつもどおりに嫌味に対して怒るか食べ物で喜ぶかどちらかを予測していたが、ハルカの表情はどちらにも当てはまらない微笑み。 「いや、昨日ワカナから宅配便でシュウから届いたって聞いてたんだけど、私の方には来なかったから忘れられたのかもって思って。だから心配してたかも。」 「……そんな事あるわけ無いよ。」 「…どうして?」 ハルカの問いかけにシュウははぁと大きくため息をついた。 「一度考えてみるといい。」 「教えてくれても良いのに。」 「考えないと人は大きくなれないんだよ。それじゃ。」 「あ…うん。ありがとう!」 「それと、コレも。」 何処から出したか分らない『例の物』をハルカに手渡すとポケモンセンターの外へと出て待たせていたフライゴンに乗る。それを見て慌ててハルカも追いかけた。 「ありがとうねー!!」 「と言うわけで、私のところにも届いたわ。」 「羨ましいです。手渡しなんて。」 約束していたワカナへの電話。漸く今日届いたよ。 「でも中身は一緒だから。」 「そうですね。何処で買ったんでしょう?あのマシュマロ。」 「あー私も気になった。美味しかったもん」 「私は勿体無くてまだ食べれてないんですけどね。」 嬉しそうに笑うワカナ。普通はこう言う態度をとるがやはりそこはハルカ。花より団子主義である。 「10個入ってたんで大切に食べます。」 にこりと笑うワナカに対して行動が止まっているハルカ。 「え?」 「どうかしましたか?」 「マシュマロ10個?」 「はい。マシュマロだけが10個入った袋でしたよ。どうかしましたか?」 「ううん。なんでもない。」 ごめん少し悪戯しちゃった。 本当は私の貰った袋はマシュマロとクッキーとキャンディーの詰め合わせ。 しかもあいつ例の物…バラがついてた。 ワカナと同じものだと思ってたけどやっぱりどこか違うんだね。 少しだけの特別扱い。 日にちに貰うのも大切だけど、 誰からどうやってもらったほうが もっと大切じゃない? ------------------------------------------------------------END--- 作者より… バレンタインの続編です。 バレンタインの話を書いたときから書こうと思ってました。 ホワイトーではやっぱり欠かせないでしょう(日本人的見解) どこかでやっぱり特別扱いしてるシュウのさり気なさと、 本当のことを言わず悪戯するハルカ。 私の小説では珍しく、シュウの方が振り回してます。 凄く新鮮でした。 やっぱりワカナちゃんかなり好きみたいです。 この子には裏表がないと信じています。 このままで行ってくれワカナ! 2006.3 竹中歩 |