「ハルカさん、今からお時間ありますか?」
「今から?ないこともないけど…どうかしたの?」
「一緒にシュウ様用のバレンタインチョコレート作りません?」
「はいぃ?!」
 ポケモンコンテストユズリハ大会が終わった次の日。再会したワカナの発言にハルカが驚いたのは言うまでもない。





当然の結果〜Valentine Fair〜





「…で?何作るの?」
「普通にチョコレートを作ろうと思うんです。溶かして固めるだけの物を。簡単ですけど時間無いですから凝った物は出来ませんし。」
「了解。それじゃ、私は何をすればいい?」
「チョコレート細かく刻んでくれますか?」
「OK。さ、ドジらないように頑張るかも!」
 ワカナのチョコレート製作の誘いを了承したハルカは、サトシ達と別行動をとり、ワカナと一緒にポケモンセンターで製作を開始していた。
 なんでも、シュウは明日の朝早くに出発してしまうらしく、今日中に作り上げなければならないらしい。
「でも言っておくけど、私料理下手だよ?」
「え?そうなんですか?」
「自分で言っちゃうのもなんだけど…とても人前に出せれる代物ではないと思う。」
「あー…大丈夫です。さっきも言いましたけど、溶かして固めるだけですから!」
 まな板と包丁を前に手が震えるハルカの手つきを何とか作り笑顔で見守るワカナ。料理が出来る以前に、怪我をしないか心配である。
「でも、まさかバレンタインシーズンにシュウ様とお近づきになれるなんて…私って幸せ者かも!」
 ハルカの横で湯煎用のボウルや温度計を準備するワカナ。その表情と行動はとても嬉しそうである。
「どうして?」
「だって、シュウ様は旅をしてますから…送りたくてもバレンタインの時期何処にいるかわかりませんし。それに直接渡せるなんて本当に奇跡ですよ。」
「そっか…確かにそうかも。シュウを好きな人にとっては今のワカナは羨ましすぎる状態ね。」
「はい。だから今年は力を入れて手作りにしてみたんです。私もバレンタインに手作りとかはじめての体験ですわ。」
「やっぱり好きな人には手作りってしたいものなの?」
「それは…当たり前だと思います。既製品だと他の人と被りかねませんし。それが人気のある人なら尚更です。だから世界中に一つの物を作るんですよ。他の人と差をつける為に。ハルカさんは手作りしたことないんですか?」
 ワカナの言葉にハルカはチョコレートを刻む手が止まる。
「うーん…。ないかも。ほら、私って料理下手だから。下手な料理を見て貰いたくないし。それに買ったものの法が断然美味しいしね。」
 美味しい物が好きなハルカとしては最もな意見である。
「てことは、シュウ様に手作りでバレンタインしたことって…」
「シュウに?!ないない。市販品をあげたことはあるけど、手作りなんてあげたら『美しくないね』で門前払いされちゃうわよ。」
「美しく…ないね?」
 ハルカはいつもののりでシュウの口ぶりを真似して見せたが、昨日今日出会ったワカナには通じない言葉だと言うことを思い出す。
「シュウはね…いつも私に嫌味ばかり言うの。その中でも一番言われた回数が多いのは『美しくないね』何かにつけて言われたわよ。バトルとか、私がドジしたときとか。だからそののりで言われそうだなって。」
「シュウ様ってそんなこと言うんですか?!」
「あ、別に裏表があるって訳じゃないよ。昨日みたいに握手で接したシュウが素だから。ただ…私の前じゃあんな態度滅多に取らない。だから昨日、からかってたのよ。」
 苦笑する笑いで再び手を動かし始めるハルカを見ながら、ワカナは笑う。
「やっぱり、ハルカさんはシュウ様が認めた唯一の女の子なんですね。」
「そう…なのかな?でも、どうして私が唯一だって思うの?昨日聞こうと思ったんだけど。」
「シュウ様を追っかけているその途中でなんとなく…。いえ、なんとなくじゃないですね。確実に違いますよ。扱いと言うか対応が明らかにハルカさんだけで違うから。それで。」
「そんなことで思うものなの?」
「思いますよ!だって、シュウ様は人気がありますから、テレビとか雑誌とかに出られてますけど、その応対とハルカさんの応対は明らかに違います。それに昨日お二人の状態を見て益々確信がもてました。それに今の言葉。きっと、ハルカさんを心配してるからそんな風に注意できるんだと思います。」
 ハルカが刻んだチョコを湯煎でゆっくりと溶かしていくワカナ。ゴムベラで優しく混ぜながらゆっくり。ゆっくりと。
「でも…だったら尚更私の存在って嫌じゃないの?」
「え?」
「だって、好きな人が…まぁ、特別扱いしてる可能性がある女の子だよ?私だったら…嫌かもしれない。こんな風にバレンタインを一緒にしようなんてとても思えないかも。」
 ハルカの意見は最もだった。普通、好きな人が好意を抱いている女性に優しく出来る可能性は低い。元々が友達や大切な人だったらそうでもないかもしれないが、ワカナとハルカは数日前に出会ったばかり。なのに、どうしてワカナはハルカにこんな行動が取れるのだろう?
 その問いかけにワカナは再び笑う。
「だって、ハルカさんは私のライバルですから…フェアに行きたいんです。」
「へ…?」
「勝手に決め付けてしまって申し訳ないですけど、ハルカさんは憧れで私の目標でもあり、ライバルなんです。確かに、昨日シュウ様に近づきたくてハルカさんに勝とうとしました。でも、バトルが終了した後、少し考えが変わったんです。」
「考えが?」
「私は、シュウ様を抜きにしてもハルカさんに追いつきたいんです。ポケモンを信じてるところとか、諦めないところとか。凄くその強さに憧れたんです。だから…私にはより一層、ハルカさんをライバルにしたいんです。」
「ワカナ……」
「それにハルカさんの言うとおり、シュウ様は好きです。それは恋愛の意味で。そしてもっともっとお近づきになりたいです。でも、それにはハルカさんを越えなければいけない。だけど、フェアで戦ってこそ越えたと言えます。私だけ渡しても、ハルカさんが渡さなければどっちが秀でているのか分らない。だから…シュウ様にチョコレートを渡してもフェアじゃないんです。バトルで言う不戦勝みたいな物ですね。だから…お誘いしたんですよ。ある意味どっちがシュウ様を満足できるか勝負がしたかったのかもしれませんけど。」
 嬉しそうに語るワカナの言葉に嘘はなかった。この言葉がハーリーさんなら腹が立っただろう。料理下手な自分とでは、自分の方が負けるのはわかっているのだから。しかし、ワカナはそうではない。本当に純粋にフェアプレーをしたいのだと。その思いは何処となく…
「シュウと私に似てるかも。」
「え…?」
「私もねシュウとはいつもフェアでいたいって思うの。前にシュウがバトルに出られないってことがあって。その大会は結局優勝したけど心からは喜べなかった。シュウがいるなら…その大会はシュウを負かしてこそ本当の意味があったんだもん。だからワカナの気持ち凄く分る。」
 ライバルだから、何をしても勝ちたいのではない。同じ状況でスタートしてそれで勝ちたい。それがバトルであるか、恋愛であるかなだけ。だから元の気持ちは一緒なのだ。
「じゃぁ、尚更良いの作らなきゃいけませんね。バレンタイン。」
「そうね。あ…なら、ちょっとした提案なんだけど…。」
「はい?」
「ワカナは義理チョコあげる人いる?」
「はい。一応家族と数人くらいは…。」
「だったら、これ、義理に回さない?」
「え?!何でですか?」
 驚くワカナに手招きをしたあと、ハルカはゆっくりと耳打ちをする。
「そうなんですか?!…そんな情報知りませんでした…」
「ね?だから、タケシ呼んでもう少し頑張ろう。タケシ料理は凄く上手なの。」
「はい!」
 女の子二人だけの秘密。その秘密は後に明らかとなる。










「…で?夕方の荷造りが忙しいときに君は…」
「もう、男がトヤカク言わないの!ほら、ワカナ。」
「はい…。」
 シュウは一昨日からユズリハにあるホテルに泊まっていた。ワカナと初めて顔をあわせたあのプールが付いたホテルである。ハルカはそのホテルに出向き、カウンターでシュウをロビーのカフェテラスまで呼び出してもらった。そして、一区画の席に座るハルカに最初に言った言葉は案の定嫌味。
「あの…これ、受け取って下さい!」
 ハルカの後ろで恥ずかしそうに隠れていたワカナだが、勇気を振り絞りシュウの目の前に今日二人で必死に作ったバレンタインの産物を差し出す。
「え……。」
「バレンタインにはシュウとあえないから、今日直接渡したかったんだって。」
「だから呼び出したのか…でも何でワカナさんじゃなくて君の名前で呼び出しを…」
「すいません、一人で行く勇気がなくて…」
 顔を赤面させ必死で言葉を取り繕う。昨日シュウに浜辺で話をしてもらったくらいで気絶するほどだ。無理もない。
「という事。」
「そういう事か…ありがとうございます。あとでちゃんといただきます。」
「は、はい!幸せ〜!あ…でも、此処で食べてもらえませんか?」
「此処で…ですか?」
「はい。それで、できれば感想いただきたいんです。お口に合うかどうか分らないので。」
「そういう事ですか。じゃ、失礼ですけど開けさせて貰います。」
 そばの椅子に腰をおろし、ワカナから受け取った包みを開く。中から出てきたのは細長いスティック状のお菓子。
「これは?」
「セサミクッキーです。白いのと黒いの2種類あります。」
「私がね、バレンタイン本番が控えてるのに、今から甘い物じゃ可哀想だと思って、甘い物じゃなくて他の物を作るように薦めたの。」
「なるほどね…。チョコレートだと思ってたから少し驚いたよ。それで…とりあえず両方食べればいいですか?」
「はい!」
 ワカナの真剣な眼差しで食べにくい状況だが、まずは白い方を口に運ぶ。味は予想通り。甘くなく、香ばしい香りが独特。サクッとした歯ざわりも中々。しかし黒い方は…微妙に味が違った。何処がどう違うといわれると言いにくいのだが、明らかにしろと味が違うが、これはこれで美味しく感じた。
「どう…ですか?」
「…美味しいですよ。」
「本当ですか?!良かったーハルカさん!」
「一生懸命作ってたもんね。そう言われて当然だよ。」
「ただ…」
「え?」
「な、何?」
 手をとり喜ぶ二人に水をさすシュウ。一体何処が不満なのだろう。
「どうして黒い方がハルカだって事を黙ってたんだ?」
 その言葉にきょとんとした表情を浮かべて凍る二人。
「え?…何が?」
「ハルカ…君は嘘が下手なんだから…こう言う事は早めにいった方がいい。じゃないと、ワカナさんが料理下手だという間違った見解が僕の中で生まれかねない。」
「わー!それは困るかも!……はい。黒いのは私です。やっぱり…ばれた?」
「当たり前だ。君が料理音痴なのは君から聞いていたし、ワカナさんはどう見ても真面目なタイプだ。昨日のバトルを見ていれば分る。白い方は基本が確実に出来ているクッキー。だけど黒い方は若干味が白より劣る。それに微妙に形も違うしね。こう言う作り方をする人を僕は一人だけ知ってるから…君だと思ったんだよ。」
 シュウの解答に二人は苦笑いを浮かべる。
「うわー…完璧な解答だよ。やっぱりばれちゃったね。」
「ですね。…すいません。どっちが美味しかったか聞いたあとに説明しようと思ったんです。」
「どっち…が?」
「シュウの素直な感想を聞きたかったからよ。私がこっち。ワカナがこっち。そう言ったら、例え私のは美味しくても、嫌味でそんなことどうでもよく発言されちゃうし、万が一にワカナのが不味くてもあんたは気を使って美味しいっていいはるから…だからこう言う手段をとったのよ。言っておくけど私が考えた案だからワカナには何の罪もないからね。」
「それは分ってる。はぁ……全く。君はろくなこと考えないね。」
「う゛ー…返す言葉がない…。でもよくわかったわね。形だって殆ど一緒なのに。」
「お菓子には性格が出るよ。それにさっきも言っただろ?僕に知り合いにこう言うことをするのは一人しかいないって。」
 ワカナがいるのも忘れて二人は言い合いを始めた。
 シュウは知的でかっこ良い人という見解を持っていたワカナはこんなシュウのやり取りに少し度肝を抜かれた様子だが、ハルカから聞いていたことを思い出し、二人のやり取りに満面の笑みを浮かべる。
「…やっぱり私はまだまだですね。」
「え?」
「何言ってるの?ワカナ。」
「料理の腕でもまだハルカさんにはかなわないです。だからまだまだだなって。」
「ちょっと!どう考えたってワカナの方が美味しかったわよ!私のなんて…食べられないことはないけど、ワカナのとは比べ物にならないわ。」
「そうですよ。彼女の一件で感想を言いそびれましたけど、美味しかったです。だから、謙遜しないで下さい。」
「いいえ。いいんです。それじゃ、私も用事とかありますから行きますね。」
「ちょっとワカナ!シュウ、ちょっと待ってて!」
 先にお辞儀をして歩いていってしまったワカナをハルカは必死に追いかけていく。










「ワカナ!」
「ハルカさん…」
「何で先に行っちゃうのよ?それにまだまだってワカナがまだまだななら…」
「料理の腕がどうとかじゃないんですよ。ようは…それがハルカさんの味だってわかったことです。」
 ハルカに止められたワカナは席を立った時と同じように微笑む。
「シュウ様は…直ぐにあれがハルカさんのだって分った。それだけハルカさんのことを知ってるって事です。私、今日聞くまでハルカさんが料理下手だって知らなかったんですよ。ハルカさんのことこれでも調べてるつもりだったのに。それをシュウ様は知ってるんです。それにああやって本心を言えるって事はそれだけ気にしてるって事なんですよ。」
「ワカナ…」
「ほら、それにハルカさんだってチョコレート作ってる時に耳打ちで教えてくれたじゃないですか。『シュウは甘い物が苦手だから甘くないのをつくろうって』シュウ様もハルカさんの事よく知ってますけど、ハルカさんだってシュウ様のこと知ってるってよくわかりました。そんな二人を見てたからまだまだなって思ったんです。」
 ワカナが言っていたのは今日のチョコ作りの過程の時に突如中断させた出来事。それは甘い物が苦手なシュウのことをもうなら、他の物が言いと言うハルカなりのアドバイスだった。
「そんなつもりじゃなかったんだけど…どうせならワカナだってシュウに喜んで欲しいだろうと思って言っただけで…」
「謙遜しないで下さい。でも、余計に闘争心がわきました!目標はより高い方がやりがいがあります!もっと上手くなって、料理も下手だから分ってもらえるんじゃなくて、美味しくてわかって貰えるように。バトルのアドバイスももっと本心で言って貰えるように頑張ります。だから、ハルカさんこれからも正々堂々お願いします。」
 さりげなくきついことを言うワカナにあっけにとられたが、その意気込みはけして嫌いじゃない。
「もちろんよ!次、戦うことになっても絶対に負けないかも!」
「はい!」
 手を振って歩いていくワカナを見えなくなるまで見送ったハルカは急いでシュウのもとへと戻っていくのだった。










「お待たせ。あーちょっと水のませてね。」
 カフェテラスに戻ったハルカは息を切らせていた。よほど全力疾走したのだろう。テーブルにおいていった自分用の水を一気に飲み干す。
「もうちょっと優雅に飲み干せないのか…」
「悪かったわね。」
「で、彼女はどうなった?」
「ん?また再会した時は正々堂々と戦おうって。負けられないかも。」
「そう。…でもまた今回は突拍子もないこと考えたね。」
 本当、結果が良かったからそういえる。もし、あの時黒い方がワカナだとしたら恐ろしい結果が待っていたに違いない。
「だって、フェアに行くにはそうするしかなかったんだもん。」
「やたらとフェアに拘るね。」
「私じゃなくて…ワカナがね。ワカナは本気でシュウのこと…」
 その瞬間口を塞ぐハルカ。確かにワカナは告白するといっていたが、その気持ちを自分が伝えていいはずないことを思い出す。
「それ以上は言わなくていいよ。聞かなかったことにするから。」
「そうしてもらえると助かるかも。でも…気づいてた?」
「大体分るよ。…そう言う感じの人はね。特に彼女は分りやすい。」
「そう?」
「持ちポケモンと君の勘違いしたバラを見てれば誰でも分るよ。」
「ああ…言われてみればそうかも。」
 前回の大会で受け取ったバラはシュウの物ではなくワカナからだった。バラはシュウの象徴であるから、今思えばきっとそれの真似をしたに違いない。それにワカナの手持ちポケモンは全てがシュウのもっているポケモンの進化前のもの。好きな人のまねをするという典型的な行為。確かにシュウの言うとおり見ていればわかること。ある意味気づかないのは鈍感なハルカだけかもしれない。
「なんかこう言うのもなれてるって感じね。」
「君は本当そう言うところついてくるね…。」
 再びプールでハルカにからかわれたときのように赤面するシュウ。どうやらこう言うからかいは苦手なようだ。
「ごめんごめん。ついね。でも…本気みたい。それでどうしても私とはフェアでいたいって。」
「本気なのは分るけど、でもどうして君まで巻き込まれてフェアとか言う問題に?」
「シュウが……」
「僕が?」
「えっと……」
 言いにくそうな行動と共にどんどんとハルカの顔が赤くなっていく。そして漸く口を割る。
「シュウが唯一認めた女の子だから…戦いたいって…ライバルだから…フェアでいたいって。」
 その言葉にシュウが珍しくきょとんとする。
「何だい…それ?」
「わ、私が聞きたいかも。でも、少なくともワカナはそう思ってる。」
「馬鹿馬鹿しい。そんなことで彼女は君をライバルに?」
「確実にはそうじゃないみたい。それは切欠に過ぎなくて今はシュウ抜きでもライバルでいたいって。戦いたいっていってくれた。だから私も負けられない!負けたくないもん!」
 周囲には気づかせずに保ってきていた感情だが、何時の間にか公になっていた。幸いハルカはまだ確実には気づいてない様子。特別扱いな女の子の話から、ワカナの話しに移動したのだ。それほどハルカにとっては大きな問題ではないらしい。
「そう言う事ね…。」
「うん。だから、今日はごめん。」
「いや、ちゃんと事情を説明してくれたんだ。怒る理由はない。」
「ありがとう。」
「だけど…成長したね。」
「え?」
 頬杖をついた状態でシュウは笑う。
「前の君だったら…有頂天になっていた気がする。でも今は有頂天にはならず、ちゃんと努力しようと言う心がけがあるんだ。成長したと思ってね。」
「…そうね…忘れちゃいけない過去。シュウが気づかせてくれたから今の私があるのかもね。」
「一応、感謝はしてくれてるんだね。」
「もちろんよ。…それ…で…さ、話し戻るけど、認めてくれるって事は嬉しいんだけど…唯一って本当?」
 逃げ切ったと思ったが、やはり戻ってきてしまった話しのネタ。さらりと流そうとするが
「さ…」
「『さぁね』とかあやふやな答えは要らないわよ。何時だってそうやって誤魔化されてきたんだから。」
 今日はハルカの方が一枚上手なようだ。
「知ったところでどうするんだい?」
「まぁ、状況は変わらないけど…糧にはなるかな。バトル頑張ろうって。もっと認めてもらえるように。」
「そっちの?」
「あ、やぁ、えっと…バトルもそうだけど…えっと…」
 シュウが嫌味笑いを浮かべる。嫌味と言うよりはそれを面白がっている笑い方。確信犯的笑みとでも言うのだろう。ハルカに置いての恋愛云々で楽しんでいるように見えた。案の定その言葉にハルカは慌てふためくが、あまり長い時間そうさせるのは可哀想だと思い、先ほどの質問の答えを返す。
「…まぁ、戦いにおいては女性は君一人だね。」
「本当?!なら、もっと頑張らなくちゃ!」
 シュウの言葉でやる気を見せるハルカ。それほどまでに彼女の中でバトルの関するシュウの存在は大きいのだろう。しかし浮かれるハルカにシュウは…
「それじゃ…僕も一つ質問させてもらっていいかい?」
「え?…私に答えられる物だったら…いいけど。」
「簡単だよ。君は…僕をどう思ってるのか。それだけ。」
「なぁんだ。簡単じゃないシュウは…」
『ライバルだから特別じゃない』そう言おうとしたのだが…シュウの質問が昨日のワカナの言葉を思い出させる。

『シュウ様のこと好きかどうかって事です』

 それはライバルであって…確かに気になるけど…これって友情とか言う感情じゃなくて…つまりは……?
「ありえない!ありなえない!」
「は…?」
 回想の世界に引き込まれたらしく、回想の世界の応対をしてしまい、シュウに不信がられる。
「あ、ごめん。気にしないで。」
「まぁ、君が変なのはいつもの事だけど。それでどう思ってるんだ?」
 どうもこのシュウの対応がこの場を楽しんでいるようにしか見えないハルカ。しかし、笑ってはいてもちゃんとさっきは応対してくれたのだ。こっちも応対しなければ。
「シュウは私にとって特別よ。サトシやタケシやマサトや他のコーディネーターとは違うもっと特別な人。」
 嘘ではない。本当にそれだけ特別な人。いつも思ってる。いつも元気にさせてくれる特別な人。それがハルカの本心。
「………」
 まさかそんな言葉がもらえるとは思っていなかったシュウは度肝を抜かれ放心状態。気のせいか少し顔が赤い気がしたが、直ぐに冷静に戻りふっと笑う。
「恥ずかしくないかい?」
「しゅ、シュウが言わせたんじゃない!」
「そうだね。…それじゃ、そろそろ僕は戻るよ。」
「あ、そうか荷造りの最中だったて言ってたもんね。それじゃ、またどこかで会いましょう。」
「ああ。そうだ…一つ言い忘れたことがある。」
「ん?」
「ワカナさんが言ってたように…君は確かに僕にとって唯一認めた女の子だ。」
「それはさっき聞いたわよ。」
「でも、君は知らなかったんだよね?僕がそう思ってるって。」
「うん…だって、人の心なんて読めないかも。」
「結構、周りは分ってると思うよ。あからさまだから。」
「え?そんな分りやすくしたことってあったっけ?」
「君が気づかないだけかもね。特別扱いが戦いだけじゃないって事も。」
「え?!」
「それじゃ…また今度ね。ハルカ…」















 その言葉でシュウが何を言いたかったのかわかった気がする。
 『ハルカ』
 そう…それが傍から見て直ぐに分るシュウからの特別扱い。
 何で気が付かなかったんだろう?
 あの時からずっと特別扱いしてくれていたのに。
 ワカナが分って当然かも。



「素直じゃないな…」



 シュウが消えていくホテルのエレベーターに向かって私はそう呟く。
 また今年も素直になれないバレンタイン。
 いつかは素直になれるかな…










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作者より…
ユズリハ大会&バレンタインごっちゃにしてみました。
時期も近かったし、なんかこう降って沸いたネタです。
ワカナが思いのほか好きキャだったんで、是非混ぜてみたかったんです。
そして途中まで、何処をどう間違えたかワカナは
ユズリハに住んでいると思い込んでました。
それだけシュウに浮かれていたのだとよくわかります。
今回のタイトルのValentine Fairはバレンタインの時期と言う意味と、
フェアプレーと言う意味をこめました。英語の使い方がなってないとか
言うことは言っちゃいけません(笑)
そして毎度のごとく、シュウは甘い物が苦手設定。
バレンタインはやっぱり大好きです。

PS:おまけでこんなものかいてみました。宜しければどうぞ。
当然の結果+@
2006.2 竹中歩