サンタクロースは必ず居る。
 でも、同じ人とは限らない。





赤と緑の贈り物〜your only〜





 その日、その地方では記録的な雪が続いていた。いつもなら人が溢れる歩道もかなり雪に埋もれている。
そんな運の悪い状況に何故彼女たちはいつも出くわすのだろうか?
「超最悪かも〜!」
 これ見よがしな大きな声でハルカは愚痴をこぼす。それを聞いてか横に居たマサトは大きく項垂れた。また姉のどうでも良い後悔が続くのかと。
「そんなこと言ったってこればかりはしょうがないよ。」
「う゛〜!何であんなへましちゃったかな…。」
「へまって言うか単にお姉ちゃんがドジなだけじゃ…」
「なんか言った?」
「何でも〜。」
 その愚痴に飽きることなくマサトは答えを返し続ける。
 ちょっとばかりだが自己中心的な考えの姉をもつと大変なものだと改めて実感した。
「もう…何で今日に限って…」
 ハルカが落ち込む理由…それは数時間前の事。





 それはサトシ達ご一行は今晩泊まる予定のポケモンセンターを目指していた時の話だ。
 いつもと同じで自分たちのペースに合わせた配分で道を進む。しかしその『いつも』の空気はある音と共に崩壊した。『バキッ』と言う嫌な音共に…。
「なんか今凄い音しなかったか?」
「サトシにも聞こえたか?俺の幻聴かと思ったんだが…」
「僕にも聞こえた。お姉ちゃんは……?お姉ちゃん?」
 一瞬男子メンバーは幻聴かと思った。それぐらい地味な音。だが、起きた事件はとても地味といえる代物ではなかった。
 マサトがハルカの方を振り返るとどうも様子が違う。微動だにして動かない。漸く顔をあげたかと思うとその顔は引きつっていた。そして次に生み出された言葉にメンバー全員が驚愕する。
「ポロックケース…踏んだかも。」
「「「え?!」」」
 それがハルカが落ち込む理由の始まりだった。










「うわーん!落とした挙句に踏むってどうよ?!私。」
「まぁ、お姉ちゃんならやりかねないね。」
「それにこの街のポロックケース殆どが品薄状態…。トコトン付いてないかも。」
「しょうがないよ。だって今日はクリスマス・イブだもん」
 そう、今日は子どもたちが楽しみにしてならないクリスマス・イブ。元々はどこかの宗教の聖なるお祭だったが、それが幾年の時を越えてサンタクロースと言うお爺さんが子どもたちにプレゼントを配るという習慣が身に付いた。
 もちろん楽しむのは子どもばかりではない。大人だって友達や恋人同士でプレゼントを交換したり上げたりする日でもある。それが祟ったのだろう。近年ポロックの需要が上がったせいか、クリスマスにポロックケースを贈る人が急増。今やこの街では品切れ状態が続出。お陰でハルカはまだポロックケースを買えてはいない。
「まぁ、二つあったからいいけど…多めに作って入れておかないとゴンベが直ぐに食べちゃうから…」
「だったら、さっきの店でも良かったんじゃないの?」
「だって、好きな色なかったんだもん。ポロックケースは長い期間使うから…やっぱり好きな色のほうが良い。」
 一応ハルカ達は手当たり次第の店を当たったが、ハルカの好む色は何処も置いていなかった。残っているのは微妙な色ばかり。愛着を持って使うので妥協したなくないという気持ちは分らなくもない。
「それならやっぱり次の入荷を持つしかないよ。」
「次の入荷何時って言ってたっけ?」
「明後日。大雪で道が埋まってるから遅れるってお店の人が言ってたもん。」
「毎年クリスマスに雪が降るなんて素敵かもと思ってたけど…今年の雪は異常よ。早く止まないかな…」
 ハルカの心とは裏腹に外では雪が深々と降り積もっていた…。










「…雪…止んだのに…」
 忌まわしいポロックケース事件からかなりの時が過ぎた。ふと時計を見れば夜の九時が過ぎ。殆どの子どもは眠りにつきかける時間。しかしその少女は灯りを落としたポケモンセンターのロビーで毛布に包まり鎮座していた。
「あら?まだ寝ていなかったの?」
「ジョーイさん…」
 不信に思ったジョーイはその少女に話し掛ける。応答に応じた少女…ハルカは少し落ち込んでいた。
「そろそろ寝ないと…サンタクロースが貴方のとことにはこないかも知れないわ。」
「あはは…もしかしたら来ないかもしれないです。今年私はいい子じゃなかったから…」
「そんな事ないわ。きっと来てくれる筈よ。」
「そうだと良いんですけど…。」
 何とか元気付けようとするジョーイだがハルカの表情はどこか無理をしているように見える。少なくともジョーイにはそう取れた。そして暫く考えたジョーイはハルカに笑いかけると
「ハルカちゃん…何か飲む?」
「え?」
「こんな所に居たから寒かったでしょう。今何か持ってくるわ。」
 ハルカの返答も聞かずジョーイは給湯室の方へ入って行く。その場に取り残されたハルカはいきなりの事に応対が出来ず唖然としていた。そして…数分後。
「はい。熱いから気をつけてね。」
「有難う御座います。」
 ジョーイからマグカップを受け取る。確かにまだ熱い。中をのぞいてみると白い液体が揺れていた。ハルカはジョーイの注意通りに冷ましながらそれを口元へと運ぶ。
「…チョコレートの味がする…。」
「驚いた?」
「はい。ホットミルクかと思ったんで…。」
「見た目はね。これはホットホワイトチョコレート。余りの飲む人はいないけど意外に美味しいのよ。」
「本当かも。」
 ホワイトチョコレートに少し驚いたが味は思ったより美味しく、グルメなハルカに少しの笑顔が戻る。
「…少し元気になったかしら。」
「あ…すいません。私そこまで元気なかったような顔してました?」
「ちょっとね。どうかしたの?」
「いや…なんで今日に限ってこんなに運が悪いのかなって。」
 今日の事を振り返っていたハルカ。元は自分がポロックケースを踏み割ってしまったのが悪いのだが、その後の不運続きには嫌気がさしていた。どうして楽しいはずの今日…クリスマスイブによくないことばかり起こるのだろうと。
「誰だって悪い日はあるわ。ただ、今日に重なってしまっただけよ。だからきっと明日には良いことがあるはず。」
「そうなんでしょうか…?」
「そうよ。だって明日が本当のクリスマスなんだから。良いことがあるわ。」
「…なんかジョーイさんが言うと本当にそんな感じがします。」
 不思議だった。どんなにサトシやタケシ達に励まされても前向きになれなかった。だけど今日会ったばかりのジョーイの言葉の力は大きく、ほんの数分のやり取りで前向きになれた自分。そんな自分に少しサトシ達への罪悪感を感じた。これがポケモンセンターと言う場所で親戚皆がナースを勤めるジョーイの凄いところなのだろうか?だが、どっちにしろハルカに余裕が生まれたのは確かである。
「元気が出たかしら?」
「はい。なんとか。そう言えば…鍵閉めないんですか?ここのポケモンセンター。」
 ハルカ達の立ち寄るポケモンセンターは大抵が夜九時を過ぎると鍵を閉める。それは就寝時間の問題や軽微の問題がある為。もちろん緊急用の扉にはかけないが、玄関扉すら閉めないというのは初めて見た。
「今日は特別だから…。」
「特別?」
「クリスマスは大人も楽しむ日。だから夜遅くまで外で時間を過ごす人たちが居るの。その人たちの為に開けているのよ。」
「へぇー……。」
「それに、閉めちゃったらサンタクロースが入ってこれないでしょ?」
「ああ。そっか。」
 笑顔を取り戻したハルカに安堵の表情を浮かべるジョーイ。その時だ。不意に外を見たハルカの表情が驚きに満ちる。
「どうかした?」
「ジョーイさん…あれ何に見えます?」
「あれ?」
 ハルカの指差す方向は夜空。雪がやんで夜の空は星達が眩く輝いていた。そしてそれには不似合いな何かのシルエット。暫く凝視をしているとそれはこのポケモンセンターへと向かっていた。
「…え?サンタ…?」
 ジョーイは自分の目を疑った。確かにそのシルエットは人。しかし、大抵のサンタはオドシシの橇に乗ってやって来る。だが、そのシルエットはそれと明らかに違う。
「違う…あれは…。」
 先に分ったのはハルカ。記録的な寒さの続くこの夜空の下に毛布を脱いで外へと飛び出す。










 降りてきたのはサンタじゃなくて…
 大きな翼をもったポケモン…
 そしてその背中に…
 『彼』は居た…










「お疲れ様フライゴン。」
「シュウ…。」
「?…おやおや、誰かと思えば君か。」
 降りてきたポケモンの背に乗る少年にハルカは話し掛けた。走って駆け寄ってきた為に息が上がり、呼吸をするたび白く目に見える形となる。それは周りの寒さを余計に感じさせた。
「変な再会かも。普通じゃありえない。」
「非常識ともで言いたいのかい?」
「そう言う意味じゃないわよ。ただ、ちょっと驚いただけ。」
 確かにクリスマスと言う聖なる夜に夜空からポケモンに乗ってくる少年との再会。普通は驚く。
「そうだね。僕もまさかこの寒さの中半袖で飛び出してくる子がいるなんて思わなかったよ。流石君だね。」
「貶してる?それとも嫌味?」
「君は真実と言う選択肢は出てこないのかい?相変わらす知識の薄さは美しくないね。」
「ちょっとでも今の登場がロマンティックだと思った私が馬鹿だったかも。」
 喧嘩しているように見えるがこれが二人の関係。ポケモンコンテストでのライバルである二人の会話。この会話の中に二人が変わっていないと言う現状が込められている。なんとも不器用な間柄の二人。
「とまぁ、喧嘩はこの辺にして、何でこんな時間に…しかも空から…そしてそれは何?」
「それ?」
「そのダンボール。」
 シュウの乗っていたポケモン…フライゴンの背には手で漸く抱える事のできるほどのダンボールが一つ乗っていた。それにハルカは疑問を抱く。
「中見てみるかい?」
「うん…。」
 シュウはダンボールの蓋を開けてハルカに見せた。そしてその中身に再び驚愕する。
「これって…ポロックケース?!でも何でこんなに大量に?」
 中には色とりどりのポロックケースが詰められていた。
「偶々仲良くなった店の主人の人がこれが届かないから困っていて…それを見かねて隣街にまで取りに行ってたんだよ。幸い僕のフライゴンなら人間も乗れるし、時間もかからなかったから。」
「だからこんな時間に夜空から…でも何でポケモンセンターに?先にお店行けば良いのに。それに雪降ってなかった?」
「ポケモンセンターに来たのはフライゴンが降りられそうな場所がお店の近所になくてね。気がついたらこの場所しかなかったんだよ。因みに雪はやんでから行ったよ。記録的な豪雪の中進むほど僕も馬鹿じゃない。」
「なるほどね。でも凄い速さ…降らなくなったのって1時間位前よ?」
「このフライゴンなら可能だよ。」
「すご…」
 改めてシュウの持ちポケモンであるフライゴンの凄さを実感する。そしてそのフライゴンは疲労の色すら見せては居ない。
「で?君こそなんでこんな時間に?もうとっくに寝てる時間じゃないのかい?」
「それは……」
 今度はシュウからの質問にハルカが戸惑う。戸惑うというよりは口ごもるという感じ。
「言いにくかったら言わなくてもいいけど?」
「そう言うわけじゃなくて、単にシュウに嫌味言われそうで。」
「美しくない事でもしたのかい?」
「違うかも。…落ち込んでて寝付けなかったの。」
「…どうしてそれで僕が嫌味を言わなくちゃいけないんだ?」
「だって…似合わないとか言われそうだったから…」
 ハルカは天真爛漫なイメージがある。それは自分も自負している事。落ち込むというキャラではない。それが分っていたからこそ、嫌味っぽいシュウには言えなかった。『神経がそこまで細いなんてかなりの驚きだよ』とでも言われるのではないかと。しかし、シュウは嫌味を返さず
「そこまで僕は無粋じゃない。君だって一応人だからね。落ち込む事があって当然だよ。それに落ち込む事がない人がいるなら僕が見てみたいさ。」
「なんかそう言われるとむず痒い…。」
「意外に君も嫌味を言うね。」
「そう?」
 言うようになったハルカにシュウは笑みを浮かべ、負けじとハルカも強気な笑みを浮かべる。そして訪れた和やかな雰囲気の二人の所にセンターからジョーイが顔を出す。
「さぁさぁ。中に入って話したほうがいいわ。風邪を引くから。」
「あ…そっか。」
 ハルカも漸く気づいた。自分も半袖で飛び出してしまったし、シュウも長いこと外に居たのだ寒いに決まっている。シュウを連れて中に入ろうとしたのだが、
「ジョーイさん、僕はこれを持っていかなくちゃいけないので…フライゴンを回復してもらえますか?」
「分ったわ。でも、早めに帰ってきてね。夜に一人は危ないもの。」
「はい。」
 シュウには託けものがある。ハルカはそれを思い出すとシュウにお休みの挨拶を送る。
「そっか、じゃぁ今日はここでおやすみだね。」
「そういう事だね。まぁ、明日になればまた会えるさ。」
「うん。」
「じゃ、おやすみ。」
 モンスターボールにフライゴンを戻し、それをジョーイに手渡すとシュウは雪で出来た白い大地に道を刻んで行った…。
「さて、私も寝よう。」










「おはようございます。ジョーイさん。」
「おはようハルカちゃん。サンタは来たかしら?」
 次の日の朝外は白銀の世界。その世界観に耐え切れずサトシとマサトは雪合戦を始めていた。
「はい。マサトにもサトシにもタケシにも…ポケモンたちにもちゃんと来てましたよ。」
「そう。」
「所でジョーイさん。」
「はい?」
「シュウ見ませんでした?部屋にも居なかったんですよ。早起きだから出かけたのかと思ったんですけど…。」
「シュウ君ならお庭の方でフライゴンの調子を見てたわ。」
「有難うございます。」
 軽くお辞儀をしてハルカはキラキラ輝く雪景色の中に姿を溶け込ませた。










「あ、本当に居た。」
 ジョーイの言うとおりシュウは庭の端っこの方でフライゴンの翼をなでていた。
「僕が居たら悪いような言い方だね。」
「そう言うつもりじゃないわよ。あ、よかったフライゴンも出てるのね。」
「フライゴンに用事かい?」
「うーん…ま、そんな所かな。これをね…フライゴンにと思って。」
 ハルカは手に持っていた紙袋から長い布のような物を取り出し、それをフライゴンの首に巻く。
「あ、丁度良かったみたい。フライゴンの首周りってわからなかったから…。」
「マフラー?」
「そう。シュウさフライゴン移動にも使ってるでしょ?」
「時々ね。」
「こんなに寒いのに頑張ってると思って。だから何かしてあげたかったの。」
「もしかして夕べの時に?」
「うん。」
 夕べ確かに疲労こそはしていなかったフライゴンだが、流石にシュウも夕べは寒そうには見えていた。それにハルカは気づいたのだろう。何かしてあげたいと思ったら直ぐに動く。少ないハルカの長所だ。
「今朝ね早起きして開いてるお店探したのよ。苦労したかも。早く巻いてあげないと寒いと思って。それでシュウには…これ。」
「…手袋?」
「そう。あの寒い中夜飛んでたのに手袋もなしでよく寒くないなと思って。まぁ、自分のは思ってると思ったんだけど、フライゴンにだけあげてシュウにあげないってのもかわいそうでしょ?」
「可哀想ね…」
 いつもなら逆のはずだった。シュウにあげるついでにポケモンにもと。しかし、今日の目的はあくまでフライゴン。それに少し嫉妬してまうシュウが居た。
「まぁ、クリスマスプレゼントって言うよりは有難うってことかな。」
「え?」
「昨日ね…私一人クリスマスに浸れなかったのよ。運が悪かったせいで。でもフライゴンが空から現れた時に運が悪かった事なんて忘れちゃったかも。」
「どういう…」
「こう言うところには鈍感かも。ほらフライゴンの色よ。」
「そう言う事か…」
 その言葉にシュウもくすりと笑ってしまった。
 そう…フライゴンの色は主に緑と赤。クリスマスカラーと言っても過言ではない色。ハルカはそれを示していた。
「空から降ってきたんだもん。余計に綺麗だったから…。一瞬のうちに『ああ、今日はクリスマスなんだ』て実感できちゃったの。だからお礼のつもりかな。」
「…相変わらず君らしいね。」
 赤と緑でイコールクリスマスと言う単純な考え。その単純と言う純粋さがハルカらしいと思う。
「良い意味?悪い意味?」
「どちらの方でも…所でフライゴンがお礼をしたいそうだよ。」
「え?お礼?」
 フライゴンの方に目をやると嬉しそうにシュウの言葉に頷いていた。
「まさかマフラーもらえるなんて思わなかったからって。」
「でも…どうやって?」
「空の散歩に招待したいそうだよ。」
「本当に?!」
「嘘を言ってどうするんだ。君はポケモンで空を飛ぶというのはやった事がなさそうだからね。高いところが苦手なら別の話だけど。」
「ううん。行きたい!」
「それじゃ、行こうか。フライゴン。」
 喜びをあらわしたフライゴンの背にシュウが乗りハルカに手を差し出す。そして二人が乗ったのを確認するとフライゴンは急上昇で空の光に飲み込まれていった…。










「お姉ちゃん!漸く見つけた!」
「ごめんごめん!」
 その日のお昼過ぎ、漸くフライゴンの空の旅から帰ってきたハルカを見つけたマサトは足早に駆け寄る。
「ポロックケースが入荷できたって態々お店の人知らせにきてくれたんだよ。」
「えー!悪い事しちゃったな…」
「早く行くよ!」
「それがさ、その必要なくなったかも。」
 あれほど欲しがって、愚痴をこぼして、色が気に入らないからと言って我侭を言っていたハルカが要らないと言っている。マサトはその状況に困惑した。
「何で?」
 驚くマサトにハルカはそうっと腰のポーチから真新しいポロックケースを取り出して見せる。
「どうしたの?これ?」
「サンタクロースがくれたの。」
「ええ?!だって、サンタは今朝違うもの貰ってなかった?!」
 今朝起きた時にメンバー及びポケモンたちの元には其々欲しかった物が届いた事を覚えている。確かにハルカもプレゼントを貰っていたが、それはポロックケースでなかった事は確か。
「おまけだってさ。」
「でも何時貰ったの?」
「…さっき空の上でちょっとね…。」
 含み笑いをするハルカ。だが、マサトは一体何の事だか理解出来てはいない。
「なにそれぇ?!」
「まぁ、実際ここにあるんだからあるんじゃないの?」
「いいなぁ…」
「それにサンタの顔も見れたし。」
 不意に零したハルカの言葉にマサトは飛びつく。誰しもが存在は知っていても顔は見た事のないサンタ。それを見たというのだから、気になるのはしょうがない。
「ええ?!ど、どんな人だったの?!やっぱりオドシシ使ってた?それともデリバード?」
「それは…内緒!」
「ずるいよ!」
「えへへ…そういえば入荷早まったの?」
「あ、うん。何でも優しい人が態々隣街にまで取りに行ってくれたんだって。凄いよねあの寒さの中行ってくれるんだから。」
「ふ〜ん…やっぱりね。」
「やっぱり?」
「きっと、その人がサンタだったのよ。」
「ええ?!そんな馬鹿な!」
「でも…私のサンタとマサトのサンタは違う人だから…マサトにとってはサンタじゃないかもね。」
「もう!今日のお姉ちゃん意味わからない!」
 そう語るハルカの真新しいポロックケースには赤と緑のポロックが詰められていた。丸でクリスマスを演出するかのような施しで。
「だって、マサトのところに来たサンタじゃ絶対に私の好きな色はわからないはずだもん。」










「良かったね皆。」
 シュウの手持ちポケモンたちは皆ボールから出され外の銀世界を楽しんでいた。それは昨日と同じような光景。でも、今日はちょっと違う。
「まさか全員分とはね。」
 ポケモンたちの首に巻かれたお揃いのマフラー。それはささやかなサンタクロースからのおまけ。そしてシュウの手袋もおまけの一つ。
「サンタは必ずやってくる…か…。」
 少しだけ信じてみようと思った。サンタクロースの存在を。
「彼女に…良きクリスマスが訪れますように…」










 サンタは必ず訪れる。
 ハルカの場合のサンタクロースは
 オドシシの橇に乗ったサンタクロースじゃなくて
 フライゴンに乗ったちょっと嫌味なサンタクロース。
 シュウのところのサンタクロースは
 デリバードを連れたサンタじゃなくて
 少しおっちょこちょいだけど純粋なサンタクロース。
 だから、きっと誰もが誰かのサンタクロース。
 そんな不器用なサンタクロースたちにメリークリスマス。










------------------------------------------------------------END---
作者より…
メリークリスマスな作品です。
作品のサブタイトルは貴方だけのサンタクロースという意味で
youronlyと名づけました。誰もが誰かの何とらやです。
そしてどうしてもフライゴンがクリスマスカラーにしか
見えなくて…考えてみればロゼ子さんもそうか。
まぁ、ありきたりと言えばありきたりな情景ですが、
逆にそれがいいと思いました。
因みにポロックケースは案の定お空の散歩中に
シュウから貰いました。
あえて出さなかったのは、今回の目玉はそこではなく、
フライゴンだということにしたかったので。
フライゴンのための作品と言っても過言じゃないかも
しれません(笑)
と言う事でお空での二人の関係はご想像にお任せします。
それでは皆さんにメリークリスマス。
2005.12 竹中歩