「シュウはどのケーキにする?」
「………」
「ねぇ。シュウ?」
 どうして今…僕はここにいるのだろう?
 誰か簡潔に説明して欲しい。





アマ〜Flax〜





「あー!!」
 ハルカが悲鳴をあげるのはいつものこと。それほどシュウも驚かなくなってはいたが、やはり気になり声をかける。
「どうかしたのかい?」
 2人はウインディの家族愛を見たあと、他愛も無い会話をしながら歩いていた。その時にハルカの悲鳴は発せられたようだ。
「忘れてた。一体何の為にこんな山奥まで来たのよ。私。」
「あー…ケーキ屋のことね。」
「そうよ!すっかり忘れてた。」
 呆れた。一体何事かと思えば。まぁ、ハルカの驚きの種と言えば結局そんなもの。シュウは項垂れる以外で自分の感情を表に出すことが出来なかった。
「今何時?!」
「えーと…3時半?」
「よし!おやつのピーク過ぎてる。お客さんひいてるかも!!」
 マサトに時間を言われ逆算するハルカ。食べ物への執念は深い。
「シュウ!」
「なんだい?」
 すごい剣幕でこちらを睨まれる。何度かハルカには睨まれたことはあるが、それは全てポケモンがらみ。食べ物が絡んだハルカの形相はその睨みといい勝負になるだろう。
「好きなケーキって何?」
「……は?」
 その剣幕が行き成り豹変し、にこやかな表情に変わる。大抵こう言う表情をしたハルカに良い思い出はない。
「だーかーら!好きなケーキって何?!」
「その話を振る人間を間違えてはいないか?」
「どうして?」
「君だって知ってるだろ?僕が甘い物を好まないと言うのは。」
 シュウが変なことを言っている?いや、ハルカの言うことの方が明らかに変だ。甘い物が苦手な人間にケーキの話をする人間はあまりいないだろう。
「君は本当にバカだね。」
「失礼ね!知ってる?バカって言う方がバカなのよ?」
「自分がバカだと気づかない人間こそ真のバカだよ。」
「う゛〜!!」
 ハルカは低い唸り声を上げるが、今はそれど頃ではないと我に帰る。
「違う違う!こんなことはなしてる時間無い!で!結局何が好きなの?!」
「だから言ってるじゃないか甘い物は…」
「もー!!埒があかないかも!!ほら!さっさと来る!」
 話の腰を折るかのようにハルカはシュウの左腕をつかむと来た道を戻るようにしてケーキ屋へと全速力で向かった。
 それが今にいたる。










「聞いてる?」
「聞いてるさ。」
 ハルカはメニュー表を広げた状態でシュウに問いかけをする。
 3時のティータイムを過ぎても残念ながら店は若い女性の利用客を中心に混雑していた。席は空くには空いたが、4人用が1スペースと2人用の席が1スペース。ハルカたちはサトシ、マサトとタケシで4人。それにシュウがプラスされると5人になる。シュウは自分が抜ければいいからと店を出ようとしたのだが、ここに連れてこられた時と同じようにハルカに無理やり相席にさせられてしまった。嬉しいやら悲しいやら。幸い、サトシたち3人の座る4人用の席とも近い。
「だからここのケーキは…」
「何度言っても無駄だよ。頼むなら君だけ頼めばいい。」
「どうしてよ?」
「いい加減にしないと僕も怒るよ?」
「ちょ、ちょっと!何で意味もないのに怒られなくちゃいけないの?」
 あわあわと慌てるハルカ。本当に理由がわかっていないらしい。
「さっきから何度も言っているけれど、僕は甘い物が苦手なんだ。だからケーキは苦手なんだよ。」
「甘い物が駄目だからって全部のケーキが駄目って訳じゃないでしょ?」
「普通、ケーキは全部甘いよ…。」
 いつもハルカと話しているといじめがいのようなものを感じて楽しいが、今はただ疲れるだけ。お互い意味もわからない理由で一歩も譲らない。
「嫌だと言う物を君は今進めてるんだ。だから怒るよ。これで分かったかい?僕が怒ってる理由。」
 ハルカが分かりやすいように簡潔に説明したつもり。これで理解できるはずと思いハルカの方に目をやるが…やはりハルカは不服な様子。
 そんな二人の様子にお店の中もざわつきだす。元々お店に入った時点でポケモングランドフェスティバルの上位者がいるということで少しザワザワとしていたが、今はそんなものは比べ物にならないくらいの騒々しさ。
「分かんないかも!だってシュウにも…」
「余計なお世話だよ。なんでここまでい………?」
 もう諦めるしかない。そう思ったとき、ハルカがシュウの目の前にこのケーキショップの載っていたグルメマップを差し出す。
「これが何の役に?」
「このお店のコンセプト見てみなさいよ。」
 細かい字で何か書いてある。目を凝らしてよく見ると…



『当店には甘くないケーキも用意しております。甘い物が苦手な方は是非お試しください。』



 絶句した。ハルカはこれを知っていたからこそシュウに進めていたのだと。考えて見れれば『だからここのケーキは…』『だってシュウにも…』自分が全てハルカの言おうとしていた言葉を先読みしてとめていた気がする。
「シュウにだって食べれるケーキがあるかもしれないから聞いてたのよ。」
 がっかりした様子で肩を落としながらハルカがぼそりと言う。
「バカは僕か…」
「本当よ。人の話最後まで聞かないで。シュウが甘い物があまり得意じゃないって知ってるもん。」
「でも君こそ言葉足らずだよ。何でもうちょっと早く言わなかったんだ。」
「時間迫ってたし…シュウが食べないの一点張りだったからよ。チャレンジ精神少なすぎかも。」
「すまない。」
「いいわよ理解してくれたんだから。」
 少し困った表情ではあるがハルカの顔に笑顔が戻る。
 ハルカは元が素直だ。謝れば許す主義である。時々それが仇にはなるが。
「で?何にする?」
 再びシュウの前にメニュー表を開く。
「君は?」
「とりあえず、苺のショートケーキとガトーショコラとモンブラン!」
「とりあえずにしては量が多くないかい?」
「良いのよ。甘い物は別腹かも。」
 一瞬『太るよ』と言おうとしたが、周りを見ていればハルカの頼んだ量よりかなり多くのケーキを食べている女性たち。ハルカだけでなくその女性たちにも失礼かと思いシュウは言葉を飲み込んだ。
「で?シュウは?」
「チーズケーキ……。」
 チーズケーキは甘くない物が多い。確かに甘い物が苦手な人にとっては無難だ選択と言えよう。
「ああ。それもあったかも!どうしよう…モンブランやめてチーズケーキにしようかな…」
「チーズケーキも食べると言う手段があるよ。」
「4つも食べないわよ。…いいや。モンブランで。すいませーん!」










「美味しい…。」
「うん…。」
 驚いた。本当に美味しい。大抵グルメマップに載っている店は当たり外れが激しい。昔は美味しくても雑誌などで取り上げられたが為に腕の落ちた店などがある。そういう店かとも思ったが、逆にそれが失礼なくらいに美味しい。しかも、うたい文句の通り甘く無くて本当にチーズの美味しさだけ出ている。
 シュウは純粋に『美しい味』と言うのはこう言うものの事を言うのだと実感する。
「なんて言うのかな…私の食べてきたケーキってなんだったんだろうて思うくらい。普通、スポンジとケーキって口の中で別れちゃんうんだけど、口に入れると一体感が生まれるって感じ!超絶妙!」
「僕も驚いたよ。チーズケーキは他のケーキと違ってくどさがあるときがあるんだ。でもこれにはそれが無い。チーズそのものの味わいだよ。」
「それにね、このガトーショコラ!甘くないんだけど、苦くも無くってすごくすっきりしてて食べやすい!こう言うのって『チョコー!』て言う感じあって最後の方に飽きてきちゃうんだけどそれが無いの!モンブランもクリームが栗を殺さずに生かしてる!栗ペーストも甘すぎなくてちょうどいい!」
 お互い自分の食べたケーキの驚きをどうにかして表現する。いつもは表現べたなハルカだが、食べ物ではシュウとはりえる表現力。
「周りの人が何個も食べれちゃうわけだ。」
 少しずつ味見をしただけだが、店がどうして人気があるか漸く理解した2人。そして再び黙々と食べ始まる。
「甘いものってさ、本当食べると幸せだよね。」
 ハルカの食べる顔は本当に幸せそうだ。今まで食事を何度か共にしたことはあるがここまで幸せそうなハルカを見るのは初めてかもしれない。
「皆が甘い物を好きって訳じゃないと思うけど…」
「そうかもしれないけど、少なくとも私は幸せかも。それにこのケーキのお陰で2人ともいつもより早く仲直りできたじゃない。」
「それは一理あるかもしれないね。」
「でしょ?」
「お待たせしましたー。追加の『本日のケーキ』です。」
チーズケーキを食べあげたシュウの前にもう一皿おかれる。確かに美味しいとは言ったが追加した覚えはない。
「あの僕は追加して…」
「ありがとうございます。そこにおいておいてください。」
 ハルカはシュウの訴えをそっちのけで店員にお礼を言うとその場から下がらせた。
「もしかして君の…かい?」
「ううん。間違いなくそれはシュウのよ?」
 お皿の上におかれているのは円形のチョコレート。このチョコレートに熱いブランデーなんかをかけたりすると中にあるもう一種類のケーキが食べられると言う少し洒落たケーキである。
「流石の僕もチョコレート系は遠慮したいんだけど。」
「まぁまぁ、そういわずにさ。その熱い液体チョコレートにかけてみると良いよ。」
 ハルカに言われるがまま別鍋として運ばれてきた熱い液体をかける。確かに早くかけなければチョコレートは解けない。そうなってしまったらこのケーキの意味がなくなってしまう。そう思いながらかけているとオレンジの香りが漂う。多分オレンジキュラソーだろう。
 チョコレートは見る見るうちに解けていくそして中から姿をあらわしたのは……
「アメモース……?」
「良かったじゃない。」
 手のひらより少し小さめのアメモースのケーキが姿をあらわす。どうやたっらここまで細かい細工が出来るのだろう?それより量産には向かない形の気がするが…。
「君もしかして知ってて?」
 シュウの問いかけにハルカは少し舌を出して小悪魔の様に笑ってみせる。
「このお店並んだ時からね。窓越しにお客さんが食べてるの見えたの。だからシュウに見せたいと思って。綺麗でしょ?」
「…ああ。」
「でも食べるの勿体かもしれないね。折角綺麗なのに。」
「その通りだね。ちょっと残酷な気がするよ。」
「あれと一緒かな?ほら、ホウエン名物のポッポ饅頭!何処から食べるか?みたいな感じかな。」
「そこまで迷うなら食べなければ良いじゃないか。」
「でも、食べたくなるの!…でもシュウ食べれる?頼んだは良いけど味の確認してないから。」
 ハルカにそういわれながらシュウはケーキを少しフォークですくうと口元へと運ぶ。
「…どう?」
「…大丈夫。甘くないやつみたいだ。」
「よかった。頼んだ後で少し不安だったのよ。」
 安堵の表情でハルカはカップに残ったカフェオレを飲む。何時の間にか3つのケーキは完食されていた。
「君は本当に甘い物が好きだね。」
「うん。食べる物なら何でも好き!」
 久々に見た気がする本当のハルカの笑顔に自然とシュウからも笑顔がこぼれる。
「女の子らしいところもあるんだね。一応。」
「一応は余計かも!私だっておしゃれも好きだし、恋話も好きだし、占いも好きな女の子よ?時々忘れそうになるけど。」
「忘れかけてるなら、一応の方が的を得てると思うよ。」
「嫌なやつー!」
 こうして2人の遅めのティータイムは過ぎていった。










「何これ?」
「ケーキのお礼だよ。」
 そろそろ道が分かれるため別れの時間が迫っていた。その時にシュウがなにやら小さい紙袋を差し出す。
「お礼って私何もしてないよ?奢ろうと思ったけど結局シュウは自分の分払ったわけだし。」
「君が言わなければアメモースのケーキは見れなかったからね。美しいケーキも見せてもらったし、僕も食べれるケーキにめぐり合わせてくれたお礼に。」
「別にお礼言われるほどのことでもなかった思うけど。」
「いらないと言うなら、受け取った後ゴミ箱にでも捨てると良いさ。」
「そんなことしたらもったいないお化けが出るわよ。」
「じゃ、受け取るんだね?」
「うん。…じゃ、私からもこれあげる。」
 ハルカが出したのはシュウとは色違いの紙袋。
「紙袋が一緒てことは…」
「うん。さっきのケーキ屋さんで買ったの。これもそうでしょ?」
「お互い傍にいてなんで気づかないかな。」
「ほんとね。」
 くすくすと笑いながらも時は過ぎていく。
「それじゃ。本当に今日はありがとう。」
「精精、リボンの一つはゲットしてること願うよ。」
「最後はやっぱり嫌味なやつ!!」










 そしてその日の晩…ハルカはシュウから貰った包みを開ける。
「あ!肉球の形してる。」
「何だそれ?」
 横にいたサトシが不思議そうに袋の中身を覗き込む。
「ほら、シュウに貰ったクッキー。サトシも食べる?」
「食べる食べる!」
 ハルカから一つ貰うとサトシは大きな口にそれを放り込むが、食べている最中になにか異物をかんだらしい。
「なんだ?」
 口から出てきたのは細長い紙。長さは5p程度。幅は1pにも満たない。多分折りたたまれかなり小さい状態で入っていたのだろう。ところどころに折り目がある。
「『明日はきっと友達が出来るでしょう』?」
 ハルカはハッとしてクッキーに付いていた商品説明のカードを見る。

『このクッキーは猫の手クッキーです。エネコの猫の手のように何が出るかはお楽しみ。占いになっていますので、それを楽しみつつご賞味ください。』

「占いクッキーだったんだ。」
「じゃ、これは俺の明日の運勢?」
「みたい。でも、友達できるなら良いじゃない。バトルできるかもしれないし。」
「だな。」
 シュウはハルカの占いが好きという言葉とエネコというものに引っ掛けてこれをくれたらしい。なんともシュウらしいと言うか
「子どもにしたら気障かも。」
 そういいながらハルカも一つ手にとりクッキーを割ってみる。中から出てきた占いは…
「『知らないうちに人を傷つけるかも』…用心しよう。でも、ありがとう。」





 その頃のシュウ
「嫌がらせではないと思うけど…」
 ハルカから受け取った紙袋の中身は偶然にもクッキーだった。しかし、種類は違う。

『このクッキーはミルタンククッキーです。カルシウムが豊富に含まれています。骨がもろくて悩んでいる方、なよいと言われる方、身長が低いことを気にされている方には大変お勧めです。是非ご賞味ください。』

「彼女はこれ以上僕と差をつけるつもりなのかな…ロゼリア。」
 どう答えて言いか悩んだロゼリアがいたのは言うまでもない。









花名≪アマ≫ 花言葉≪親切が身にしみる≫
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作者より…
ウインディの話を書こうと思ったら違う方に行きました。
本当はシリアスで書いてましたが、
途中で前の小説とネタがかぶっていたことに気づき、
こうなりました(笑)。
この頃シリアス書こうと思ってもかけないです。
最初の頃の小説書いた自分が戻ってきて欲しいくらいで。
今の小説も好きには好きなんですが、
シリアスとはやはり違います。
今回の設定は私の世界観です
シュウが甘い物が苦手とか。
何でも食べれるとは思うのですが、
グロテスクな物とか、度が過ぎる物とか苦手そう。
甘すぎるとか、辛すぎるとか。
何でもほど程がすきそう。
自分的に身長気にしてるシュウが好きです。
だから今回のお花は親切が見に染みた。
本来は親切にしてくれて嬉しくなると言う意味なのでしょうが、
今回の意味は親切が裏目に出て涙が出そうなくらい切ないです。
だって、ウインディの話のときハルカに身長
越されてましたから。
あの年頃は女子の方が成長早いですけど、
年頃の男子としては気にすると思います。
それが見た目重視のシュウなら尚更。
シュウはハルカに余裕がないときには余裕こいてますが、
素直なハルカとか目の前にするといっぱいいっぱいな子。
年齢相応だと思います。
好きなこの前だけでは意地を張りたいのだと。
そんな感じ書いた小説。
ちなみに文中に出てきました『ホウエン名物ポッポ饅頭』は
ひ○こ饅頭のつもりです。私は頭から食します。
そして次こそはシリアスにチャレンジ!!
2005.10 竹中歩