その街は昔から花にあふれていた。
 花を愛し、花を育て、花で喜びを表した。
 それは今も続いている。
 そして時代が進むにつれ人々は花の開発手段を手に入れた。
 花を進化させる行程を発明した人々からそれは伝わっていき、
 その街は世界でも有名な花の開発地となった。
 このお話はその花の街に代々伝わる
 二つの家系のお話…。





納花街大正事件記録〜BlueRoze〜





 どこかの世界のどこかの国に存在する花に囲まれた街『納花(とうか)』。街の名前は『花』をいろんな場所に『納』めていた事から由来する。
 そしてその街の東に位置するのが『東納花学院』。主に10代後半の少年少女が勉学にいそしむ施設として『大正』と言う暦が誕生した年に作られた。お陰で日はまだ浅い。それでも人数は他の勉学院にしては多い方だろう。他の学校では見られない男女が共に通う『共学』と言う稀に見る校正を取り入れているのが理由である。
「あぁ〜もう最悪かも。」
「また駄目だったの?」
「『また』はやめてよ。または!」
 和やかな空気に包まれた学院の教室で少女達は楽しそうに話に花を咲かせる。
 その話の中心部で憂鬱そうに顔を抱えている少女。名をハルカと言う。納花でも有名な資産家の出身。こげ茶色の髪に青い瞳。そして一際は目を引く頭につけた大きな結い紐。濃い紫に近い袴に赤を基調とした上着着物。これが彼女の常時の姿。何処にでもいそうな普通の少女だが、この街ではかなりの有名人である。理由は…
「もう…これで逃げられたの5回目かも。」
「大変だね…『怪盗ブルー・ローズ』を代々追いかける家系に生まれた人間は。」
「大体、名前からして嫌いなのよ!ブルー・ローズ…青い薔薇って言ったらこの町では不可能の代名詞よ!青い薔薇なんて今だ作れてないもの。」
「まぁまぁ。落ち着いて。」
 怪盗ブルー・ローズ…。それはこの街に長年住み着いていると言う怪盗。盗む物は限られており、ターゲットは唯一つ…花だ。
 花の開発が有名なこの地は新種の花がどんどんと生まれていく。
 その花の中でも一際は美しい花をブルー・ローズは長い年数盗み続けている。その正体は今だ謎。100年以上生きているとか、色々噂はあるが確かめようがないため、噂は日に日におひれはひれついて増殖傾向にある。そして、その怪盗を代々追ってきたのがハルカの家系だ。そして現在ブルー・ローズを追いかけているのがハルカ。既に何代目なのかも分からないらしい。これがハルカが街でも有名な理由。
「もう…生まれた時から決まってたのよね。でもまさかこんなに早く復活するなんて思わなかったんだもん。」
 ハルカの家には受け継いだ書物があり、それによると、ブルー・ローズはある日を境に十数年現れない時があるらしい。そしてハルカが就任したすぐ後に復活した。父親によるとこんなに早く復活したことはないとか。
「弟のマサトくんでは駄目だったの?」
「マサトはまだ幼いから…」
 笑って返すハルカだが、心境は明るくはない。自分の代になってブルー・ローズは既に5回出没している。しかし、今だつかまえられる気配すらない。
 長年にわたり出没しているブルー・ローズだが、全てが上手くいっているわけではない。もちろん盗めなかったこともある。盗めなかった理由の殆どとしてはハルカの家系の妨害や追跡によってだ。ハルカの先代…父親のセンリも十数年ほど前までは追跡をし、何度か阻止に成功している。しかしハルカと来たら…目も当てられない成績。追跡をかわされたのならまだしも、初めての事件…ツキコ亭での水色鳳仙花の時は居眠り。ロバート公の時の山吹石楠花は病欠。他遅刻が2回。そして昨日はブーツの紐が切れて追跡不可能となった為あえなく中止となってしまった。これでは逃げられてもしょうがない。
「今年私厄年だったかな…」
「何言ってるの。厄年まで数年はあるわよ。」
「だよね…」



『ガタンッ』



 そんな少女達の会話を一つの音が中断させる。それは椅子の音。
「静かにしてくれないか。」
 鋭い目つきで少女の集団を睨む少年。眼鏡越しの視線だが眼鏡が余計にその鋭さを増しさせている気がする。
 少年は『シュウ』と言う。この学院で上位の成績を保つ学生。武道・運動すべてにおいて完璧に近く、容姿も良い。しかしその性格はお世辞でも良いとは言えない。常時1人で読書をしており、いつも人を見下したような態度。物事は冷静に判断できるが発せられる言葉の一つ一つに棘と冷たさが混じっている。お陰で話し掛ける者はいないに等しい。
「それは失礼いたしました。でも、本来にぎやかである教室の休み時間に静かにしろと言う方が無理でなくて?」
 ハルカはシュウに対して言葉を返すが、その言葉の真意に謝罪は一切ない。上流階級出身者らしく言い返す嫌味の入った言葉も優雅である。
「誰がにぎやかであると言うのが定義だと決めたんですか?それは君の中での定義でしかないだろう?それを人に押し付けて意見するなんて…貴女もほとほと人を計る物差しが短いものだ。」
「貴方を計る物差しなんて一寸もなくて十分だと思うわ。」
「そんな安易な考えしか出来ないから怪盗にも逃げられるのではないですか?辞めた方が貴女のためだと思いますよ。」
「これは私の家のしきたりですから…しょうがないですわ。ためにならないご忠告ありがとうございます。」
 言い忘れていたがシュウも上流階級の出身者。その雅ぶりはハルカを凌ぐほど。お陰で言葉は丁寧でも嫌味ぶりはハルカを上回っている。頭が良いと口げんかも強い。
 この2人の仲の悪さは学院でも有名。お陰で数人の生徒が自分のことではないのに胃を痛めてしまったとか。ある意味伝説の2人である。










その夜……
「ハルカ!」
「何?」
 長刀の練習から帰ってきたハルカに母親がすごい形相で何かを持って駆け寄ってくる。
「また来たのよ!予告状!」
「ええ!またぁ?何で私の代になってからこんなに頻繁に……。で?何処の花を今度は狙ってるの?」
「トシキさんの所が最近開発したオレンジリリー。朱色の百合ね…」
「また気高そうな花を…。ま、ブルー・ローズらしいけど。いいわ。予告状は本人にも届いてるんでしょう?遅刻しないように早めに行くわ。何時?」
「今日の夜9時よ。くれぐれも気をつけてねそれと…失敗なんてした今度はどうなるか分かってるわね?」
「……行ってきます…。」
 このときの母親の顔を後にハルカはこう記している『般若がいた』と…










 予告先は大きな地主の屋敷。その敷地内の温室を兼ね備えた天井が高いカフェテラス。その場所に花があると聞き、行ってみると…
「ちょっと!本当に貴女で大丈夫なの?」
 1人の少女がすごい剣幕で近寄ってきた。話によると今回の予告先トシキさんの婚約者だとか。
 トシキ氏はこの家の1人息子。そして新米の花開発者。開発中偶然に生まれた花を盗まれる予定となっているが、本人はそこまで焦ってはいない。むしろそれどころか誇らしげな態度をとっている。
「ええ。一応警察よりは詳しいですよ。」
「詳しいのと捕まえられるかは別よ。それに…今まで一度も阻止できたことがないのでしょう?本当に大丈夫かしら?」
 痛い一言を躊躇いものなくどんどんと言っていく少女にハルカも少し腹立たしさを覚える。
「確かに阻止は出来てません…まだ5回ほどしか見たことないですし…」
「5回も阻止できなかったの?!…もうお金払って誰か雇った方が良かったかしら…」
「まぁまぁ、別に盗まれてもいいし…。」
 婚約者を必死でなだめるトシキ氏。しかし効果はない。
「それは駄目!これはトシキが開発したはなんだから…私は絶対に盗まれたくはない…」
 決して婚約者の少女はハルカが嫌いでさっきのような言葉を口走ったわけではない。本当に盗まれたくないから…守ろうとして必死なのだ。
「でも…ブルー・ローズのターゲットとして選ばれるなんて…開発者としてはすごく光栄なことなんだよ?」
「それは分かってる!でも…」
「大丈夫。僕は君が無事ならそれでいいんだから…。それに盗まれる花は必ず戻ってくるんだし。」
「だけど…開発を先にブルー・ローズに名乗られたら…?」
「そんなことブルー・ローズは一度もしていないよ。だから大丈夫。」


「オレンジリリー…頂きあがりました…」


 一応控えていた警察…トシキ氏と婚約者そしてハルカでもない声が頭上から降ってくる…。
「来たわね…ブルー・ローズ!」
 天井付近の窓にそのシルエットは浮かんでいた。必死で追い続けているハルカが見間違えるわけがない。
 そして、その高さを諸共せずブルー・ローズは地面へと舞い降りる。
「マントが少し邪魔だったので外させてもらいました。失礼こんな格好で。だけど、今宵…貴方の大切なオレンジリリーを頂きに、参上させさていただきます…予告状はちゃんと届いたようですね。」
「トシキさんのところにも…私のところにも確かに届いたわよ。」
 白い長袖のシャツに黒で統一されたベストとズボン。ベストは背広の中に着込むようないたって普通のデザイン。しかしは首元だけが普通の物と違う。『学ラン』とよばれる黒い学生服の首元の様に詰襟になっている。素顔は目の部分が隠れる白い仮面をしており髪の毛は漆黒。その格好は巷で流行っている仮面舞踏会と呼ばれる格好に近い。かなり紳士的な格好だ。
「今夜は絶対、花は渡さないんだから!これはトシキさんと婚約者であるエリコさんの物なの!2人の大切な物だから絶対に盗ませはしない!」
 最初はむかついた婚約者…しかし、二人の会話を見いてきるうちにどれだけこの花が二人にとって大切な物かが分かった。汚名返上のためにも今回は失敗できない。
「…君は本当に純粋だね。」
「なにがよ?」
「だから僕は欲しいんだよ。二人の大切な花だから…。」
「たち悪いかも!」
 2人の言い合いが長く続くかと思われたが、怪盗は長居などしない。
「…残念ながら僕は君と長話をする予定はないからさっさと退散させてもらうよ。」
「え?!」
 ブルー・ローズは手に携えていた長い布…マントを羽織る。深紅の紐タイで胸のあたりで結び、マントを固定すると手をパチンッと鳴らし自分の入ってきた頭上の窓から何かを侵入させる。
「ロゼリア…花弁の舞!」
「ちょ、ちょ!」
 部屋に入ってきたのは3歳くらいの子どもの背をした生き物。それは犬でもなく猫でもない。両手には赤と青の色違いのバラを持っている。可愛い表情をしておりどこか憎めない。しかし、ブルー・ローズに従い部屋中に桃色の花弁を撒き散らす。
「前が見えない!」
 目くらましの役割を果たしている花弁。おかげで動くと他の人に危害を加える恐れがあるため容易には動けない。
「それでは2人のオレンジリリー…少し拝借させてもらうよ。」
「ええ!」
 花弁が宙を舞い踊るのを止めた同時に視界が開ける。しかしそこにはブルー・ローズの姿はおろかオレンジリリーの姿も消えていた…。残っていたのは桃色の花弁と必ず出現場所に落とされるメッセージに入りのカード。

『あなた達の幸せ…少しお借りします。』

「絶対に逃がさない!!」
 ハルカは何のためらいもなく地主の家を後にした…















「やはり綺麗な色だね…ロゼリア。」
 ブルー・ローズは人気のない通りであのバラを持った生き物名をロゼリアというらしい。そしてそのロゼリアと今回のターゲットオレンジリリーの美しさに酔いしれていた。しかし、その優美な時間も終わりを告げる。
「はぁ…はぁ…見つけた。」
 どうしてここにいるのがばれたのだろう?その前に女性ではありえないほどの足の速さに怪盗は驚く。
「おやおや…見つかってしまいましたね…。さて、どうしましょう。」
 等とぼやいているが心なしか表情は楽しそうである。
「『どうしましょう』じゃないわよ!今日こそその素顔見させても貰うんだから!覚……!」
 漸く追い詰めた…そう思い飛び掛ろうとしたときハルカは躓く。しかも突起物など何もない。ただの地面で転び…そして顔面は防げた物の見事なスライディング。間抜けにも程がある。さすがにこの行動にはブルー・ローズもあっけに取られた。
「痛………だけど何のこれしき!」
 しかし、彼女は怪盗が思うほど弱くはなかった。こけたことももろともせず起き上がる…右ひじのあたりで血が滲んでいるのをのぞけば…。
「君…怪我してることに気づいてるかい?」
「え…ぎゃぁー!!血が滲んでる!!わー!!膝も皮めくれてるし!!」
 袴を太もも辺りまでめくって漸く現実に起きている怪我のすごさに驚く。その一大事のせいで一瞬怪盗が目の前にいることすら忘れてしまう。
「…おいで…」
「え?」
 ブルー・ローズはハルカの手を引くと、少しゆっくりのペースでどこかへと歩き始めた。





 連れてこられたのは廃屋になった屋敷の外。門が壊れており難なく進入できた。そしてその敷地内の井戸へと連れて行く。
「傷のある腕と足を出して…」
「え?あ、うん。」
 言われるがままに着物と袴を捲る。あらわになった傷口を見て少し考えたブルー・ローズはロゼリアにどこかに行くように指示した後、井戸の水をくみ上げてバラの刻印が入ったハンカチを浸ける。そして少し絞って傷口に当て始めた。
「言うまでもないけど…しみるよ。」
「分かってるわよ…だけどあんた…変わってるわね。」
「どうして?」
 膝が終わり四つ折りのハンカチの面を変えて今度は肘を冷やす。
「普通追われてるなら、こんな人間放っておいて逃げるわよ。それが自分を追いかける人間なら尚更ね。こんなことしてたら私、捕まえるわよ。」
「お好きにどうぞ。だけど君がいくら頑張っても捕まらない自信はあるよ。」
「嫌な奴…。ありがとう。後は自分で何とかするわ。」
 そう言うとハルカは裾から手ぬぐいを出し大きな音を立てて立て半分に引き裂く。それを1人で器用に怪我のところへと巻いていく。
「器用だね。1人でそこまで処置が出来るなんて。さっき変なところでこけてたから結構鈍感なのかと思ったけど。」
「さっきは興奮してたからよ。捕まえられるって。でも…やっぱり駄目ね。こんなに傍に要るけど捕まえられる自信ないかも。」
 肩をだらんと落として大きくため息をつく。
「…そこまで無駄だと思うなら追跡なんて辞めればいいのに…」
 ブルー・ローズにそう言われるとハルカは苦笑い浮かべる。
「…私もそう思うけど…私にはこれしかないから…。私はこれでしか存在を示せないもん。」
「存在意義?」
「そう…私は生まれた時からあんたを追跡することになってた。それは他の人よりも武道が得意だったから。だから私はあんたを目標に生きてきた…だけど…私にはあんたを追いかける事すら許されなかった…。」
「どうして…?」
「…先代…前にあんたを追っかけていたのは私の父親。私はその父親の武勇伝を聞いて育った。勉学はいつでも一番。運動武道も全て首位。そして追跡もまた天下一品だったって。だから私もそうあるべきだと思って必死で何もかもやったわ。勉学も…武道も作法も…追跡だって父に教わった…。だけど今の学校では全てが駄目なの。クラスにね何でも首位の奴がいるの。男だから運動とか武道はしょうがないって思った。でも勉学はおろか、作法も…品位も家柄すら敵わなくて…だからあんたを捕まえることで…私は私として認められると思った。そうすれば例え他の物がうまくいかなくても大丈夫だって。それに両親は女の子なんだから出来なくて当たり前。無理なときは無理と言いなさい。といわれたわ。それが両親の優しさだって分かる。だけど、親戚では『血筋始まって以来の落ち毀れ』そう言われてきたから…やっぱり無理かも。さっき怪盗本人にも言われたし…。」
 ほんの少しの前の会話でそういうことを言ったことを思い出すブルー・ローズ。言わなければ良かった思うが、既にとき遅し。
「本当に…申し訳ない。」
「え?どうしてあんたが謝るの?」
「僕の性で…君の人生を左右してしまっている…本来は君のものであるはずなのに。」
「それを言っては駄目!」
 怪盗の目の前で人差し指を立ててハルカは怒る。
「貴方だって怪盗の名を汚さないように苦労してるんでしょう?だからおあいこさまかも。…さて、家に戻るとしますか。」
「本当に捕らえない気なんですね。」
「だから、やっても無駄なのは分かるもの。それに傷口が痛いから歩きたくないし…。このまま帰るわ。」
「そう…あ…帰ってきたようだね。」
 どこかへ行っていたのだろう?ロゼリアが何かを持ってきている。それを怪盗は受け取るとハルカに手渡す。
「傷口に当てるといい。痛みが直ぐに引くはず。」
 渡されたのは塗り薬。これを敵である怪盗が自分に?
「あんた…お人よしって言われない?」
「残念ながら…言われたことないよ。」
「そう…ではありがたく頂戴するわ。さようなら…」
「さようなら」
 こうして闇夜に怪盗ブルー・ローズは消えてゆく…
「本当に次がさようならだよ…」
 心残りがあるかのようにハルカは呟いた……










 ある屋敷に水の音が響く。それは水道の蛇口の音。少年は考え事をしながらその水道の水に頭をもっていく。頭にかかった水はどんどんと少年の髪を黒から緑へと変えていき…本来の少年の髪の毛の色に戻っていった。そう…ここは怪盗ブルー・ローズの屋敷。
「仕来り…か…」
「お帰り。」
「姉さん…」
 少年を出迎えたのは赤い髪をした快活そうな女性。名はグレース。
「今日も上手く盗めたみたいね。」
「盗めたはやめて欲しいな。借りてるだけなんだから。」
「本人の承諾もなく持ってきているのだから盗んだには間違いないでしょう?」
「確かにそうですね。そうだ、ロゼリアの調子見てもらえますか?異国の意思を持った薔薇とは言えまだ未知数を秘めているので気がかりなんです。」
「大丈夫よ。そこまで神経質にならなくても。この子は頭がいいもの。体調が悪い時は何かしらサインを出すはず。…ほら何処も悪くない。」
「そうは言ってもやっぱり心配なんですよ。ありがとうございます。」
 お礼を言いつつも少年の顔は晴れやかではない。
「元気ないわね?どうかしたの?」
「あ……今日…追跡家系の女の子と話になって…。」
「良く捕まらなかったわね…」
「そこまで間抜けじゃないですよ。でも…僕のせいでその子の人生は決まってしまっていた。彼女も僕が怪盗として育てられたように、同じく追跡をする為に育てられた。だけど彼女は僕を捕まえることも出来なくて…学院で僕に何もかも敵わなくて…自分の存在意義を見失ってしまった…。こう見るとやっぱり嫌な家系だよね。」
 暫く黙り込む2人。
「だけど…あんたはどうしても彼女に追跡を止めてもらいたいんでしょう?それが理由で怪盗になったこと…忘れてないでしょ?本当なら人の集まるところでは自分の成績をあらわにせず一般人らしい振る舞いと成績をしていればばれないと父さんに言われたのに、あえて危険を冒してまで全てをあらわにしている…。そうすれば勉学にいそしむ為にその女の子は追跡を辞めると思ったから。もし、今やっていることを辞めるのだとしたら全てが水の泡になってしまう。」
「分かってる…。だから手の打ちようがないんだ…」
 少年の苦痛の表情と…水は暫く止まらなかったという…










 次の日納花学院は大騒ぎで始まる。
「シュウさん聞きました?」
「何をですか?」
 同じ教室の女子生徒が珍しくシュウに話し掛ける。
「今度この教室の人が結婚されるとか。」
 この国では結婚適年齢期は約18歳。しかも大抵の物は幼い頃から許婚がおり、対して珍しい話でもない
「そうですか…だけど僕には関係のないことですから。」
「そう…なのですか?結婚されると学校をやめられてしまいますから…皆で盛大に送って差し上げようという話になっていたのです。ハルカさんは楽しいことが大好きでしたから。」
 その瞬間珍しく眼鏡越しの目が大きく見開く。
「結婚されるのって…」
「ええ。ハルカさんです。」
「相手は?」
「キミマロ公のところです。あそこは家柄も宜しいですし、資産家でもありながらキミマロさんは花の開発者としても有名。そしてハルカさんのことを本当に慕っているようですから…本当に良い縁談でしたわね。人柄もよい方ですし。」
 少女は楽しそうに話すが…はっきりってシュウはそれどころではなかった。





 帰り道普段なら勉学のことを考えながらでも帰っていただろう。しかしそんなことをいっている場合でもない。
「彼女が…結婚?」
 考えられなかった…。教室でも一番幼くて結納なんて程遠く見えた少女が嫁いでしまう…。
「どうすれば…。」
「あら?珍しいですね。シュウさんが本を逆さまにして読書中とは。」
 いつもの癖で持っていた本。考え事をしていたので逆さまになっていることすら気づかなかった。そしてそれを指摘したのは…ハルカ嬢。
「これはこれは。貴女でしたか…。」
「ええ。私のようなものでごめんなさい。」
 2人の会話は何があっても変わらない。
「聞きましたよ…キミマロ公の所に嫁がれるとか…。」
 その会話を出すとなぜかハルカの表情が険しくなる。可笑しい。普通なら嫁ぐと決まれば嬉しがる物…嬉しがらない結婚があるとすれば…
「表情が重たいですね。」
「そんなことないですよ…?」
「…同意結婚ではないのですか?」
 一瞬ハルカの方がびくつく。だが、その肩を押さえながら俯いた状態で話を始める。
「これで良いんです…。そうすれば何もかも収まる。」
「…第三者ですからあまり大きなことは言えませんが…貴女は追跡者を辞めるのですか?」
「どうして…そんなことを聞くんです?」
「いえ…嫁ぐ事を期に辞めてしまうのかと思っただけです。」
「……………せん。」
「え?」
 漸く聞き取れるほどの小さな声で囁く。しかし、シュウの聞き直しに何かが途切れたのか、目に涕を浮かべ少女は必死に叫んだ。
「辞めたくはありません!けれど、私には何の才能もない!追跡者としての能力すらないのです!…両親がそんな私を見かねて持ってきた縁談です。非の打ち所はない方…小さい頃から仲が良かったですから私を愛してくれているのを知っています。それに私が辞めても弟がいますから…。だからこれで良いのです。家の家柄も良くなりますし、大きな富も名誉も入りますから。」
「決まってしまったことなんですか?」
「え…?」
 シュウもまた俯いた状態で問い掛ける。最後の望みをかけて…
「決まった…こと…ですか?」
「完全にではありません…」
「望みはあるんでしょう?」
「あってないようなものですから…。もう一度だけチャンスを頂きました。今度怪盗が現れた時阻止できたら追跡者を続けてもいいと。だけど捕まえられません。まだ、私の手では届かない存在ですから…。もう少しすれば追いついたかもしれない。いえ…追いついたと思います。だけど、今はまだ無理なのです。だから悔いのないように全力で追いかけます。…それでは失礼します。」
「失礼…。」
 最後に全力でぶつかってくれるといった少女の言葉は少年の心に大きく突き刺さった…。










「ただいま帰りました…」
「お帰り−!…なんか暗いよ?」
 グレースは弟の暗さに少し驚く。
「ちょっと学院の方で色々ありまして…。」
「ふーん…そうだ!新しい花の情報入ってきたよ。今度はあんたの好きな薔薇だよ。どうする?盗みに行く?」
 グレースは嬉しそうに話し掛けるが少年にとっては大きな選択だ。もし、この薔薇を盗んでしまえばそれが彼女と最後の別れ。わざと花を落とそうか?わざと間抜けな事をすれば彼女が阻止できたことになるのではないか?だが…少女は言ってくれた悔いの残らないように全力で追いかけると…。それを無碍にすることは出来ない。
「すいません、少し考えさせてもらえますか?」
「珍しいね。薔薇だとすぐ下見に行って盗みに行く人間が…」
「本当にすいません。」
「わかった。とりあえず今回の情報ね。開発者は…キ…ミマ…ロ?かな?」
「…今何て言いました?」
「え?キミマロ…だけど?そうそう、開発した薔薇はね青い薔薇なんだって。どうする?行く?」
「…ええ、考えが変わりました。」
「じゃぁ、予告状出さなきゃね。なんて書く?」
「『今宵…貴方の大切な薔薇を貰いに参ります』で。」
「了解。」










「ハルカちゃん無理はしないでね。」
「大丈夫よキミマロ君。」
 行き成り届いた予告状にキミマロ公の家は大騒ぎ。しかも盗まれるのがブルー・ローズの名前と同じ青い薔薇。見ものになると観客も多い。
 薔薇は気象の変化に弱いということで温室にて待機。さすが金持ち言うだけあって建物の面積はかなりのもの。
「僕は盗まれてもいいんだ。君が無事なら…」
 ハルカは昨日のオレンジリリーの事件を思い出す。確かあの2人もこうだったと。
「私は大丈夫だってば。私の頑丈さはキミマロ君が一番知っているでしょう?」
「分かってるけど…。」
「あ、そうだ。そのターゲットの青い薔薇って見せてもらえないかな?」
「うん…ほらこれだよ。」
 キミマロは厳重な箱から薔薇を取り出す。
「これが…青い薔薇?」
「うん。色素が限りなく青に近いんだ。だから青い薔薇と呼ばれてる。」
「青く…ないんだね。」
「今はこれが限界なんだ。」
 その薔薇は青と言うよりは紫に近い。しかもかなり淡い紫。ハルカに言わせれば紫の薔薇だろう。それを見たハルカは暫く考え込みキミマロにある問いかけをする。
「ねぇ…紫の薔薇ってある?ここに。」
「え?確かこの辺に…ああ、あった。」
 大きな温室だけ合って薔薇の種類があること。難なく見つけた紫の薔薇をキミマロはハルカへと差し出す。案の定紫の薔薇は青い薔薇と酷似しており、青い薔薇よりも色が強い。
「これで…騙せないかな?」
「え?」
「ほら、紫の方が色素濃いからこっちの方を青い薔薇と思うんじゃないかな?」
「確かに素人目から見たら間違えそうだけど…」
「とりあえず…罠仕掛けてみる。」
 もしかしたら捕まえられるかもしれない。ハルカにかすかな希望の光が見えた…。





「出たぞー!!」
 それは外の警備隊の声。
「いよいよ来たわね…」
 いつもどおりに警戒態勢をとるハルカ。建物の真ん中には贋物である紫の薔薇を鎮座させていた。これを間違えて持っていけばハルカが阻止できたことになり、自分の追跡者続行も可能となる。
 しかし、今日はいつもと勝手が違った。優雅にかつ何の音もなく忍び込んでいたブルー・ローズ。どういう事か今日に限って温室の頭上の窓を破っての侵入。
「(ウソ…こんな進入いままでしたことないのに…)」
「わお!ジャスト!…というわけで参上!パープル・ローズ!」
 入ってきたのは黒を基調とした人物ではない。緑を基調とした異国の服に紫の髪の男。少し女性のよう言葉使いだがそれはブルー・ローズとは全く違う人物。…一体誰?
「あんた誰よ?」
「ウフフ…!あたしは怪盗パープル・ローズ。世界をまたにかける希少価値の高い物専門のハンター。と言うわけで世界でも類を見ない青い薔薇を頂き来たわ。」
「ちょっと待ってよ!あんたから予告状なんて来てないわよ?!」
「そんな捕まりやすいように予め言うわけないでしょう?オ・バ・カ・サ・ン!だけど人が多いのはちょっと気になるわね。まぁ、私の逃げ足には何処の警察もついてこれないでしょうし。さてと、目的の青い薔薇ちゃんは…これね〜!あら?紫色みたいな色ね。でも青い薔薇と呼ばれてるには間違いないのだから…とりあえず貰っていくわ!それじゃアデュー!」
「ちょ、ちょっと待ってそれは!贋物の…あー…行っちゃった…」
 ハルカが忠告するも空しく怪盗パープル・ローズは丸でバッタのように飛び跳ね、警察をからかうかのようにして夜の街へと消えて行った…。
「本当にだまされてる…」
「ハルカちゃんの言うとおりだったね。」
「うん…あ、新しい紫の薔薇用意しなくちゃ。」



「その必要はない。」



「?!」
 パープル・ローズに夢中になった性で気づかなかった。既に青い薔薇の前にマントを羽織ったいつものブルー・ローズが凛々しく聳え立っている。
「先客がいたようで…無断で失礼。それにしても目利きのない怪盗だったね。本物と贋物を間違えるなんて。」
「本当かも。でも漸く来たわね。」
 ハルカはにやりと笑みを浮かべる。これが最後のチャンス…自分の人生をかけた最後の賭け。
「予告状通りに。だけど残念だったね。罠が使えなくて。」
「逆に良かったかも。貴方とこうやって最後に話が出来たんだから。だけど今日こそは捕まえさせてもらうわよ。」
 ハルカはブルー・ローズに向かって飛びつく…が、簡単に避けられてしまう。本当に文字通りの『最後の足掻き』。
 本当なら今日終わってしまうかもしれない。ブルー・ローズに話せばこの花を盗まないでいてくれるかもしれない。しかし、そんな仕草など見せずハルカは必死に追いかける。
「動きがワンパターンですよ。お嬢さん。」
「悪かったわね!」
 2人の追いかけっこが始まりそれはかなりの間続いた。いつもなら長居はしないといって立ち去る怪盗も何故か楽しそうにしている。まるで…最後の舞を楽しむかのように…。
「残念ですがそろそろ切り上げます。」
「…そう…」
「ロゼリア!」
 再び異国の意思を持った薔薇…ロゼリアは花弁を温室いっぱいにちりばめる。身動きがとれず、花弁の殆どが地面に積もったあとその場にいた警察…自警団そしてキミマロは異変に気づく。
「ハルカちゃんが…いない!追いかけていった?!でもそんなこと一言も…」
 薔薇は盗まれることなく元の場所に鎮座していた。そして怪盗ブルー・ローズと…ハルカの姿が消えていた。前代未聞の出来事に人々は唖然としていたと言う。















「何か不都合でもありますか?お嬢さん。」
「…大有りよ。」
 2人は前にハルカの手当てをした廃屋の庭にいた。しかし、空気が非常に思わしくない。何故かブルー・ローズの目の前にいるハルカはご立腹。一体何があったのだろう?
「何で盗まなかったのよ!青い薔薇!予告状出してたくせに!しかも私はこんなところに連れてこられるし…」
「まぁ、落ち着いて。でも…君はこの青い薔薇を見てどう思った?」
 ハルカの立腹を知ってか知らずかブルー・ローズは全く違う問いかけをする。普通の人間なら『何を言ってる!』等と言って怒るだろう。しかし、鈍感なハルカは案の定そのペースへと巻き込まれる。
「……青くない…そう思った。」
「そう。僕もそう思ったから盗まなかったんだ。」
「ちょっと待って?!つまり満足の行く物ではなかったか辞めたって事?」
「そういう事だね。」
「単なる我侭じゃない!何考えてるの?!かなりの人を巻き込んでおいて。」
「だったら君は自分の気に入らない物を危険を冒してまで盗む?」
「あんた…気に入った物だけ盗んでたの?」
「一応ね。」
「どうして?…差し支えなければ教えて欲しいわ。もしくは、ここまで婦女子を勝手に連れてきたお詫びに。」
「その程度ならいいですよ。」
 口元だけで笑うブルー・ローズ。そして怪盗は語り始める。





「美しい月を見たとき…どうしたい?」
「はぁ?美しい物を見たとき?何よその質問。」
「とりあえずどうしたい?」
「ええっと…綺麗だから弟にも教えたいなとか…」
「そう…綺麗な物は家族や友人に見せたいと思う。それが代々花を盗む理由。」
「ごめん、意味がわからない。」
「代々ブルー・ローズは好きな人の為に花を盗んで来たんだ。愛しい人を喜ばせたい…花の量がその人への想いの量…。」
 思っても見なかった真実。花を…愛しい人のためだけに盗む。そんな紳士的なことを代々しているの?
「ちょ、ちょっと待って。でも…盗んだら返してるから意味ないんじゃ…。」
 ハルカの慌てる仕草に少し声を立てて笑うブルー・ローズ。
「その種子を貰って自分の庭で育てるんだ。それを好きな人にあげる…それを繰り返してる。」
「なるほど…だから本体は要らないのね。」
「他の人が育てた花では意味がない。自分の手で育てた花だからこそ価値がある。僕はそういわれて育った。」
「何でそんな愛情表現を…」
「僕の家系は昔から素直になれなくてね。あと目立ちたがり屋が多かったから…それが理由だと思う。」
「…でも十数年間も出てこなかったの?その間にだって新種の花は…」
「怪盗が世に出なくなった日は…怪盗が幸せになった日。」
 口元に手を当て少し考えたハルカは答えにたどり着く。そう…
「結婚した日…?」
「そう。そして、十数年は子どもが生まれてその子どもが怪盗になるまでの期間。」
「なるほどね…。て、ことは貴方にもいるのね愛しい人が。」
「そう言うことになるかな。怪盗に着任する日は自分が恋に落ちた日になってる。」
「また…熱い仕来りです事。顔から火が出るかも。」
「確かに。やっていながらそう思うよ。でも…さっき言ったとおり僕は不器用だから…それに美しい物は元々好きだし。満更嫌いでもない。君は追跡者…嫌いかい?」
「ううん。私も体を動かすことは好きだから。それにやっぱり貴方の顔、気になるし。」
 ハルカの笑みが少し戻ったように思えたが、直ぐに仏頂面に戻る。
 理由は簡単。いい話を聞かせて貰っても、今回の事件には全く関係ないと言うことに気がついたからである。阻止できたともいえないし、ブルー・ローズも成功したとはいえない。確かに仏頂面にもなる。
「いい話だけど…結果には関係ない…」
「結果?」
「そう。貴方が今日盗むことに成功したら私はあのキミマロ公のところに嫁ぐことになってたの。そしてもし私が阻止できたら追跡者を続けることが出来る。なのに今日の結果は何?どっち付かずでしょ?」
「確かにそうだね。」
「人事みたいに…でもどうなっちゃうんだろう。」
 白黒ハッキリしないことが嫌いなハルカは頭を抱える。それを見かねたブルー・ローズはあることを切り出した。
「…ならこの勝負僕の負けだ。」
「はぁ?何言ってるの?そんな要因何処に…」
 ブルー・ローズはハルカの目の前にあるカードを差し出す。

『今宵は盗むことが出来ませんでした。また機会があれば参上いたします…怪盗B・R』

「何…これ?」
「僕がキミマロ公のところに落としたカード。つまり僕は負けを認めてるんだ。」
 そう言えばブルー・ローズが現れた後の場所には必ずカードが落ちている。そして今回のカードがこれ。
「つまり…今あの場所は…」
「少なからず君が阻止に成功したと言うことになっている。」
「じゃ…私は追跡者を続けてもいいの?」
「そういう事になると思う。」
「なんか八百長みたいだけど…考えて見れば私が今回の事件で辞めるなんて知らなかったはずだから。これは間違いなく…」
「僕の負け。」
「………良かった…。」
 その言葉と共にハルカの目から雫が落ちる。
「私…本当は嫁ぎたくなかった。確かにもう嫁いでもおかしくない年齢かもしれない。…でも、でも…私はまだ貴方を追いかけたい。だから…」
「…皮肉だね。追跡者に喜んでもらう怪盗なんて。」
「居ていも良いのではなくて?」
「そうだね。だけどそろそろ戻った方がいい。君が居なくなって大騒ぎしてるはずだ。」
「ああ…そうか。何も言わずにここまで来ちゃったんだ…。…ねぇ、ブルー・ローズ。」
「何ですか?」
「絶対に私はこの手であんたを捕まえてみせる。そして素顔見てやるんだから。」
「じゃぁ、一生見れないですね。」
「うるさいかも。それじゃ…」
 再び怪盗を追えることとなったハルカは満面の笑みでキミマロ公のところへと帰っていった。





 そしてその場を自分も離れようとした時見覚えのあるシルエットが自分に向かってくる。
「お疲れ様。」
「…姉さん。」
「父さん説得するの大変だったでしょう?」
「ええ。」
「『現追跡者を自分の愛する人と認めて欲しい』父さん驚愕していたわ。何でそんなことになったのか…そう言ってた。でも愛があってこそ受け継ぐ家系だから…文句言えなかったみたいだけど。」
「これで心置きなく怪盗が続けられます。それに彼女も追跡者続行みたいですから。」
「あんたもやるわね。彼女が頷けるように自分の負けをあんな形で認めさせるなんて。確かに周りはあの女の子が阻止に成功したという話になっていたわ。周りが動いてしまえば人間それを受け入れるしかないもの。」
「いえ…本当今回は盗めなかったんです。」
「盗まなかった…でしょ?」
「いえ…本当に美しい薔薇を持ち出すことは出来ましたけど、持って帰ることは出来ませんでしたよ。ね、ロゼリア。」
 頷くロゼリアを見ながら姉は何かを感じ取り少年に言おうとしたが首を振ってその言葉を飲み込む。
「そうね…まだ花が足りないのよ。」
 そしてマントと仮面を外し、そばにあった井戸の水をくみ上げ、躊躇いも無くかぶる。あらわになった緑の髪。少年は本来の姿へと戻っていく…
「頑張って集めなさい。シュウ。」
「ええ。そのつもりです…。」










「おはよう。」
「おはようございます。」
 2人は学院の門で顔をあわせる。
「わけあって…追跡者続けられるようになったわ。」
「それはそれは。またご両親が苦労されますね。」
「ええ。そのつもりです。それに目標を見つけましたし。」
「目標…ですか?」
「はい。怪盗ブルー・ローズの仮面を必ず剥がして見せます。」
「無理だと思いますよ。」
「無理でもやるんです…そうだ。貴方は好きな花…なんですか?」
「行き成りですね。花…ですか…薔薇ですかね。気品も高いですし。」
「そうですか…。」
「貴女はどんな花を好まれるのですか?」
「私ですか…」
 シュウの問いかけにハルカは笑って答える。
「青い薔薇が好きです…でも愛しい人からもらえる花ならなんでも。」
「欲張りな方ですね。」
「単に愛されたいだけです。」
 その時ばかりは珍しくシュウも笑っていたと言う。












 数年後…

 『今宵貴方のお宅で一番美しい薔薇をいただきに参上いたします。怪盗B・R』

 追跡者の家に届いた一枚の予告状。
 現追跡者は盗まれないようにと心していたが、
 案の定その家からは一番美しい薔薇が盗まれた。
 それはとても簡単に盗まれてしまい…家族は微笑ましく見守ったとか。
 そして…後に納花をあげて盛大な婚礼が行われた…。
 その日を境にまた怪盗は現れなくなったと聞く。



 このお話はその花の街に代々伝わる
 二つの家系のお話…。
 とても暖かくて素直になれなかった
 青い薔薇のお話…










-------------------------------------------------------------END---
作者より…
迷惑かけました企画決定リクエスト

…伝説の大泥棒の一族の末裔がシュウで、
それを追い続ける一族の末裔がハルカ!(逆でもOK)

ということでかかせて頂きました。泥棒と追跡者。
今回リクエストくださった皆様本当にありがとうございます。
そして新川と姉に感謝。
これを書こうとしてかなり詰まりました。
ハルカが泥棒なら
セイントな怪盗になるか(昔アニメ)
貴方のハート奪いに良くフルーツになるか…(乙女ゲー)
シュウが泥棒なら
星までも盗む伝説の怪盗になるか(声つながり)
白いシルクハットの怪盗になるか(マジシャン)
それが一番の問題で。結局シュウを怪盗に。
殆ど姉と書いた様なものです。ネタ出してくれました。
時代は大正。浪漫あふれる時代です。
だけど花の開発がかなり進んでるとかありえない(汗)
そんでもって2人の仲がありえないくらい悪いというのも
シュウが常に眼鏡と言うのも初めてでした。
かなり長くなりましたが自分では満足してます。
ブルー・ローズと言う怪盗の名前も姉が出してくれたんです。
『不可能』と言うのがちょうどシュウにはあるかもしれないと。
髪の色が黒と言うのが楽しかったです。
植物性の顔料使ってるんで水で解けます。
まぁ、後は遊んでましたけど(笑)
コンテスト関連の人間総出演。
最初の友人がカナタで中間の友人がホシカちゃん。
キミマロ君とかもろポジション的に美味しいと思うのですが。
ハーリーさんも役にジャストフィット。
台詞も純愛があふれていた大正なので、常に赤っ恥。
『本当に美しい薔薇は〜』も赤面です。
でも、パラレルだから許せます。
因みにハルカが怪盗のことをあんたと呼んだり貴方と呼んだりするのは、
その時興奮しているか落ち着いているかの問題。
良家のお嬢さんですから
本当にたくさんの人からの応募嬉しかったです。
これからも迷惑をかけながら歩いていく私ですが、
どうかよろしくお願いします。
2005.9 竹中歩