花は一輪一輪意味を持つ。
それは解釈する人により全く意味をも持つこととなるが、
どの解釈にしても換わらない意味合いを持つ花があることも
また事実。
そのためかその花は特別な扱いとなっている。
それはいつの時代でも…





色違い 〜Thanks〜





 朝と夜の気温の差が激しい時期を通り過ぎると、世の中はまた新しい季節へと移り変わる。
「この時期が一番憂鬱かもしれない…」
 そんなことをぼんやりと言葉にするのは新緑と同じ色をした髪を持ち、且つ同系色の瞳を持った少年。顔立ちはまだ幼く、10代と呼べるか呼べないかとい微妙な年。だがその少年の持ち合わせる独特の雰囲気は年齢にしては落ち着き過ぎているため気配だけなら20代に到達してもおかしくないほど。
 少年の名前はシュウ…紫のジャケットがよく似合うポケモンコーディネーター。その容姿からファンの多さは年々人数を増しているという。
「夜は夜で日に日に蒸し暑くはなるし、雨が多いからの道なんかは泥の水溜りが多くなる。本当に嫌な時期だ…でも、君たちにとっては良い季節かもしれないね。」
 そうやって話し掛けるのはロゼリアとアマタマの進化系アメモース。
 ロゼリアは元々草タイプなので日の光と言う光合成が出来るときや水分補給が出来る雨などを好んでいるし、アメモースに関しては名前の由来になるほどの天気。嫌いなはずが無い。その証拠にシュウの問いかけにロゼリアとアメモースは笑顔で頷く。
「幸い今は雨がやんでるけどいつ降る事やら…」
 宛の無い修行の旅。焦らずゆっくりと旅をしている。だが、雨となっては別の話。雨になったならばすぐに屋根のある場所を探さなければならない。
「あ…見えてきたよ。今日僕らが泊まる所。」
 視界に入ってきたのはマップにのっていた小さな町。しかし町と言うには少し小規模な気がする。町というよりは村に近い。
「ポケモンセンターがあるだけ良い方だね。」
 ポケモンセンターさえあれば雨など簡単にしのげる。今日はそこで寝泊りをするつもりだ。
「今度はどんな出会いがあるかな…」
 旅の醍醐味の一つとしては色々な物にめぐり合えること。シュウの場合それは美しい物やポケモンにめぐり合えることを示している。今回はどんなものにめぐり合えるのだろう?





 ポケモンセンターに入り受付で今日の宿泊の予約を入れると後ろから声を掛けられる
「シュウ。」
「……君か…」
「久しぶりね。」
 あどけない声と比例した年齢と容姿。何処にでもいる普通の少女。しかし、見た目に惑わされてはいけない。この少女、年齢とは裏腹にポケモンに関してかなりの腕の持ち主。その上有名な某ジムリーダーのご令嬢でもある。赤い色で統一された服装が彼女のトレードマーク。名前はハルカと言う。
「本当だね。3ヶ月ぶりくらいかな。」
「もうそんなになるのね。」
 この2人の間柄は少し言葉では説明しにくい。普通間柄などはお互いが同じように扱ってこそなりたつ物。しかし、この2人は違った解釈をお互いへ持ち合わせている。
 ハルカがシュウへ持ち合わせている感情はライバル・友人・目指す人等同じポケモンコーディネーターを目指す人へと持ち合わせる感情。ポケモンを差し引いてもその感情は親友に等しい。だが、シュウの場合ハルカと同じ感情を持ちつつ少々…いやかなり違うような感情も持ち合わせている。それは続に言う『友情以上恋人未満』と言ったような男女特有の感情に等しい。そんな2人だが、何故か諍いが絶えない。好きなゆえ…近すぎるゆえの面白い関係の二人。
「そうだ!シュウなら…私の願いかなえてもらえるかも!」
「何を?」
「あのさ…ここについたばっかりで悪いんだけど、ちょっと付き合ってもらえる?」
「……」
 シュウは少し考えたが肩をすくめて口元だけで笑みを浮かべると、
「どうせ君は断ったところでも強引に事を進めるだろうからね。だとしたら今のうちに君の頼みにのっておいた方がよさそうだ。」
「会ったばっかりで嫌味なのね…まぁ、いいかも。付き合ってくれるって事よね?」
「そうだと言ってるんだ。」
「い、一応むかつくけどお礼は言うわ。ありがとうかも。」
「とりあえず、部屋に荷物を置いてくるくらいのことはさせて欲しい。あとでロビーに行くから。」
「OK!」










「で?僕なら何が出来るって?」
「そうそう。私さ今どうしても欲しい物があるんだよね。」
「君の…欲しい物?」
「うん…私薔薇が欲しいの。」
 ハルカの唐突な返答にいつもポーカーフェイスのシュウでさえその驚きを表情と言う形に出してしまった。
 薔薇とはシュウのトレードマークで、シュウを見つけたファンは薔薇を持っているか否かで判断するほど、シュウにとって欠かせないアイテム。だから、シュウに薔薇が欲しいと言ったのだろう。薔薇をいつも持っているシュウだからこそ。しかし、時に薔薇は恋愛に関して言葉の代わりになるほど大きな意味合いを持つ。
 時には別れを意味し、時には相手の見た目を意味し……そして時には愛の告白をも意味する。
 その花を欲しいと言うのだ。きっと何か意味が存在するに違いない。
「何で君が薔薇を?君には薔薇は…」
「どうせ私には似合わないって言いたいんでしょ?分かってるわよそれくらい。でも私が欲しいって言うのは私自身が使ったり飾ったりすると言う意味じゃない。…渡したい人がいるから薔薇が欲しいのよ。」
「…誰に?」
 その返答で否定をして欲しかった…。だけど……



「…私の大切で…大好きな人に…」



 返答どころか、確信を得る言葉へとなってしまった。
 ハルカは間違いなく、好きな人へ薔薇を送ろうとしている。多分…愛の告白関連…。
「……」
 シュウ自信ハルカに出会ってここまで驚いたことはないだろう。本当は否定したい事実だが、その話をする彼女の表情はとても嬉しそうで…そのことを真実として受け止める以外に方法はなった。
「だからいつも薔薇をもってるシュウなら、良い薔薇持ってるんじゃないかなと思って。」
「あのね、いくら僕だからといっていつも持ってるわけじゃないんだ。」
 このときからシュウの表情が険しくなる。あからさまに表情に出しても鈍感なハルカ…しかも嬉しいことがあるときなどの有頂天状態では気づくはずが無い。
「あ、やっぱり?ファンの間でシュウの薔薇は四次元から来るって噂あったけどやっぱり噂なんだ。」
「当たり前だよ。持ってると言ってもどこかで調達してるから持ってるんだよ。だからマボロシ島で会ったときは、持っていなかっただろう?」
「そう言えばそうね…。ねぇ、知らない?この当たりすごくいい薔薇売ってるお店。探したんだけどこの町…花屋さん無いのよ。」
「君ね…僕はさっきこの町についたばかりなんだ。僕より君のほうが地理に詳しいのは分かってるはずだろ?相変わらず美しくないね。」
「シュウが『美しくない』て言葉使うときは馬鹿にされてる気がするかも…」
「おや、今ごろ気づいたのかい?」
 いつものシュウじゃない…。普段なら『さぁ?それがどうだろうね』など言ってはぐらかすのに今のは確実に悪口に値するほどの酷い言葉…こんなことを言えばどうなるかわかっているのに…表情と態度…そして言葉が止まらない。
「残念ながら僕じゃ力になれないようだね。悪いけどやることがあるんだ部屋に戻らせてもらうよ。」
「ええ。どうぞどうぞ!嫌味な奴はどこかに行って欲しいかも!!」
 いつもならシュウが折れたりハルカが謝ったりしてここまでは酷くならない。しかし、今回は状況が違う。二人とも薔薇どころでは無い。そのことを上回る怒りや不安が交差する。
 何時の間にか2人は露骨に不機嫌な表情を浮かべたまま自室へ足を向けていた…










「………」
 自室へと戻ったシュウは備え付けの机に肘を突いて考え込んでいた。
 ハルカの好きな相手、あの嬉しそうな表情、つい言葉にしてしまった暴言そして…薔薇を渡そうとする行為…
「本当は彼女もそこまで馬鹿じゃない…」
 ハルカだって女の子だ。薔薇がどういう意味合いをもつか知っている。だからこそ送ろうといたのだろう。なのに…
「本当に今回は全面的に僕が悪いね…」
 自分を頼ってきてくれた。それはシュウが薔薇をよく知っている人物だと、彼女は知っているから…シュウなら本当に美しい薔薇を知っていると。だから頼ってきたのに…
「踏みにじってしまった…」
 自分の一方的な感情の性でハルカを傷つけたのは確か。
 友人だから…一緒に同じ道を歩む友達だから言ってきたはずなのに…
「最悪だね…。」
 どんどんと悪い方に考え持っていくシュウ。そのシュウに救いの手を差し伸べたのはロゼリア
「ロゼリア…」
 ロゼリアは必死にドアの方へとシュウを引っ張る。
「どうしたんだい?ロゼリア…」
 ドアを開けるとそこにはハルカが訝しげに壁にもたれかかり立っていた…。
「な…んで」
「き、来たくた来たんじゃないかも!部屋にアメモースが来て…もう一度シュウと会ってって顔するだもん。嫌だって言ったら目に涙いっぱいためて訴えてくるし…考えたらアメモースは悪くないもん。だからシュウのためじゃなくてポケモンたちのために来たんだからね!」
「さっきちょっと出て行ったと思ったら…」
 心配して心配されて培う信頼関係。シュウがどうしたいかポケモンたちはちゃんとわかっている。
「言っておくけど、私は謝る気なんて更々無いわよ!」
「分かってる…」
「なら、私はやることがあるから行くわよ!」
 その状況はさっきの二人の大喧嘩と変わりはしない。ハラハラしながら見守るロゼリアとアメモースだったが
「すまない…」
「え…」
「今回に関しては君に悪いところなんて無かった。僕の一方的な感情で言ってしまった暴言だから…君が謝る必要は無い。僕だけで良いはずだ。」
「ちょ、ちょっと…そこまで深く考えなくて良いってば!ちゃんと謝ってくれたし…それにポケモンたちも仲直り望んでるみたいだから…この件は終わり!一緒に綺麗な薔薇を探してくるって言うので忘れてあげるかも!」
 そのハルカの問いにシュウは笑って返すと
「お望みとあらばね」
「よーし!それじゃ行くかも!!」










「え?花屋さんの場所知ってたの?」
「いや、確信があるわけじゃなかったから言えなかったんだ。遠目からだったからね。」
「そうなんだ。あ、もしかしてあれ?」
「そう。」
 そこは町のほぼ中心にある公園。丸い噴水を中心としてその周りに広場があるという静かな新緑公園だ。その噴水のから少し離れたところに軒先を花で固めた一軒のお店を発見する。
「あ!花屋さんだよ!良かった…なかったら自分で山の中でも探しに行ってたかも」
「もう、今の時期は流石に薔薇は咲いてないよ。」
「あはは…えーと薔薇は…あ、目立つ場所にあるね。それにしようかな…」
 ハルカの言う通り薔薇は入り口のすぐ脇に切花として売られていた。その薔薇を選別する目は真剣そのもの。シュウとしてはかなり複雑な心境だろう。





 彼女は今好きな人のための花を選んでいる。
 それはどう足掻いたって自分じゃない。
 彼女が薔薇を欲しいと言った瞬間から覚悟していた。
 彼女が恋愛をしているって事を…
 彼女が告白をしたいと思っていることを…。





「潮時かな…」
 そんなことをふと心の中で思っていたシュウは本来の目的を思い出す。
 『綺麗な薔薇を探す』
 ハルカのことだ。本当に綺麗な薔薇がどれかは分からないだろう。そう思って、その中で一番きれいな薔薇を教えようとしたとき、
「決めた!これにする」
 ハルカが手を伸ばした薔薇は…黄色。
「えっ…?」
「だって、これが一番花が開いてて綺麗だったんだもん」
「それは分かるけど…君、黄色い薔薇の花言葉知ってるのかい?」
「え?薔薇って色で花言葉違うの?」
「違うよ。チューリップだってそうだよ。赤いのは愛の告白を意味するけど黄色は希望のない恋…全然違う意味をもつんだ。」
「だったら黄色の薔薇は?」
「冷めた愛情…」
「うわ!ならやっぱり変えたほうが良いかな…」
「だろうね。こっちにするといい。」
先ほどの見つけた薔薇をシュウは指差すとハルカは少し首をかしげる。
「でも…赤い薔薇ってプロポーズとか告白とかに使うでしょ?」
「だからこっちに…」
「赤は使えないよ。確かに似合うとは思うけど…他のするにしても時間が…やっぱり黄色で良いよ。それに王道だし。すいませーん!!」
 シュウが進める物を断るとハルカは店員を呼ぶ。その時点でシュウはどうも話がかみ合わないことに疑問をもち始めた。そして、その疑問は次の言葉で解決する…









「これ、父の日に送りたいんで配達お願いできますか?」









「…え」
「いやーシュウがいてくれて助かったかも。パパに送る黄色い薔薇が見つからなくて…毎年送ってるのに今年だけ送らないわけには行かないでしょう?ここで見つかってよかったかも。」
「つまり…君が渡したがってた相手って…」
「大切で大好きなパパだけど?どうかした?」
 そして本当に点と点が線でつながる。
 ハルカは愛の告白をしようとしていたのではなくて黄色い薔薇を父の日に送りたかっただけと言うこと。つまり…途中から完全にシュウの思い込み。
「父の日ね…漸く分かったよ…」
「はい?」
「なんでもない。…だとしたらこっちの薔薇の方がいい。」
「え?今の薔薇駄目?」
「そうだね…宅配するなら蕾のほうがいい。こっちとかね。つく頃にいい具合に開花してるはずだ。」
「なるほどね。すいませーん!やっぱりこっちの薔薇にして下さい!」










「え…貰っていいの?」
「今日は君に迷惑かけたからね。」
「でも…ポケモンにくれる奴じゃない。」
 シュウがハルカに渡しているのは自分が先ほどの店で一番綺麗だと思った赤い薔薇
「だから、お詫びとしてもらってくれればいい。」
「まぁ、もらえるなら何でも貰うかも!ありがとう。それと今日のこともね。」
「今度から、花を探すときは色も指定してくれると助かるよ。」
「そうするかも。じゃないと意味が違っちゃうもんね。」
「そう…それに変な勘違いも生まれないしね。」
「変な勘違い?」










 今度は薔薇以外の相談にして欲しいよ…
 もう二度とあんな思いは……ごめんだからね…










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作者より…
6月ということで父の日をテーマに書いてみました。
薔薇+好きな人にあげる=愛の告白
という単純な物にシュウが引っかかったら楽しいと思いまして…
ありえるようなありえないよう微妙な感じですね。
6月言ったら普通は雨や結婚に関してが多いようですが、
それはお題と前やってしまったので今回父の日。
シュウがたまには年齢的に剥れても可愛いなとか
思ってしまったしだいでしす。
タイトルは父の日らしくないですが、
タイトルで父の日小説だとばれると楽しくないので、
あえてちょっとずらしたものにしました。
まぁ、気づく人は気づくと思います。
父の日には薔薇だったら何の色でもいいみたいですが、
まぁ、王道ということで。
世界中のパパさんにありがとう
2005.6 竹中歩