お互いが信頼しているから戦える その信頼はたとえ真剣でも 切れる事は無い! 江戸浪漫夢日記!〜SAKURA〜 ここは多種多様な現実・未来・過去が混同する一つの世界。 そして、この街はそんな世界に存在する街 人々が安心して暮らせることをスローガンにしているのほほんとした街 朝…靄が漸く視界から消え寄せる時間…その少年は城の敷地内で聳え立っていた。 『ストンッ』 その俊敏な音をたて矢は的のほぼ中心へと突き刺さる。 その少年の腕を確かめるには十分なほどだった。 少年の名は『シュウ』。この街『燈火』の城に使える少年だ。 歳は十代前半、千歳緑色の髪に緑青の瞳。身長はそこまで高くは無いが弓道の腕・勉学そして容姿そこら辺の平民にどころか上流階級の人間にも引けを取ることを知らない人間が憧れるものをほぼ兼ね備えた少年だ。 「今日もいい調子だ…」 シュウが朝の練習を終えるころ日は眩しいくらいに燈火城を照らし出す。 それと同時に凄まじい音連発的に城の敷地内に轟く 『バンッ』 『バンッ』 『バンッ』 その音を聞くとシュウは足早にその音の方向へと足を向ける。その先にいたのは… 「今日も絶好調かも☆」 「…何をやってるんですか?…『姫』」 琥珀色の少々ハネッ毛を帯びた髪に露草色の大きな瞳を持った少女がばつが悪そうにこちらを向いている。 「もう起きてたんだ…」 「起きていなくてもそのような大きな音では目を覚まします。またやっておられるのですか?火縄銃の練習を?」 「もう!何度も言ってるけど火縄銃なんて言い方は古いわよ。銃でいいのよ!大体縄なんてどこにもついてないわ。今は火薬を…」 「姫の銃に関するご説明は日が暮れてしまいます…何よりもう少しおしとやかになってください。」 シュウ少年の最大の悩み…それは自分が使えている主の娘…つまりこの城の姫君『ハルカ』である。普通の姫君は十二単などで着飾り部屋でつつしまやかにするのが鉄則。しかし、それはこのハルカには当てはまらない。十二単なんて暑苦しいし動きづらいといって普通の着物を太ももの高さまで切断して他国で流行っている『みにすかーと』と呼ばれるような短さまでし、護身術では長刀や弓道を習わず銃の使い方を習い、今ではこの燈火で右に出るものはいないと呼ばれるようになったもの。それを踏まえて言うにかなりに暴れん坊である。 「だって、パパが…」 「お父上でしょう。全く姫は新しいものに目がないのですから…直ぐに他国の言葉を取り入れる…」 「いいじゃない!新しいものを取り入れるのはいいことよ?第一シュウだってその格好は他国譲りのものじゃない!」 姫の格好もさながらシュウの格好もまた面白いものである。『のーすりーぶ』と呼ばれる最近城下に出始めた服を身にまといそれの上から着物を軽く羽織ると言う流行の服装である 「これは、もう城下では定番しつつある服装です。姫のはまだこの国には到達所か見たことすらない服装です!」 「だって、こっちの方が可愛いでしょ?それにちょっとはドキドキしない?」 もちろんコレは冗談で言っている。別名この城のお姫様は『鈍感姫』と呼ばれるほど恋愛に疎い。だからコレはシュウに対するからかいの言葉だ。だが、そう言うことを言うだけあって、ハルカはその歳の子供にしてはプロポーションがよかったが… 「残念ながら私はそんな気が全く起きません…もう少し成長なさってください。」 シュウお得意の厭味を込めて平然と話す。コレがハルカにとって悔しいものの一つ 「全く…お目付け役なのにこれじゃ爺やと言ってる事変わりないかも…」 何を隠そうこのシュウの城での仕事はこのハルカ姫様を命に代えても守る事。 つまり外来語で言うなれば『すぺしゃるぽりす』もしくは『姫とないと』である。 「…とりあえずもう少し大人しくしてください。どこの国に朝から銃の練習をする姫がおられるのですか!」 「だって、『己の身は己で守れ!己すら守らざるして、民の平和が守られようか!』てパパに言われてるんだもん!」 「でしたら、何も銃など使わなく、長刀などあるでしょう!」 「長刀なんて大きすぎで持ち歩けないじゃない!」 「小刀の練習でもよいではないですか!それに…銃に弱点が…」 「もういいわよ!シュウなんて知らない!」 「あ!姫!」 ハルカはそう言うといつものように城から飛び出していった… 「全く、どこの世界に毎日城下に出る姫がいるのやら…」 頭を抱えてため息を付いたシュウは自分の弓道具つまり、姫をお守りする道具一式をもち、門番や使えの者に後を託すとハルカを追って城下の町へと繰り出した…… 「シュウのばーか…」 ハルカがいたのは池のある神社。大抵いやな事や悩み事があるとこの神社へ来ては池に向かって石を投げている。 「前はあんな敬語も使わなかったのに…」 シュウとハルカの出会いはやはりハルカの脱走劇から。何時ものように勉強が嫌でお城を抜け出したハルカは城下の外れにある寺子屋へと足が伸びた。 そこの勉強風景と自分の勉強風景には明らかな違い、楽しそうに友だち同士で教えあう自分と大して歳の変わらない子供達。一人で大人数の家庭教師を相手にする自分の勉強とは歴然とした差が存在した。 それからハルカは毎日のようにその寺子屋をのぞくようになる。生徒や先生には見つからないように塀に攀じ登りあたかも自分がそこで勉強しているかのように学んだものだ。そんなことをして一週間のある日、そこの一人の生徒がハルカに声をかける。 『どうして君はいつもそんなところから見てるんだ?それなりの格好をしているからお金には不自由していない筈だろう…だったら、中で学べばいい』 それはハルカにとってカルチャーショックのようなもの。同年代の子と話すなんて初めてだったのだから。似たような歳の子は弟のマサトのみで、城下に遊びに出る事はあっても、大抵の子供が自分の身なりに引けや恐れをなして離れてしまう。だから、どうしていいか分からず固まってしまったのを今でも覚えている。 『君は人に挨拶も出来ないのかい?』 その不躾な言葉からハルカは怒って自分が姫と言う立場すら忘れ口げんかになった。 それがシュウとの出会い。自分が姫であると言う事を明かすとシュウは多少驚いたがそんな事は関係ないと普通に接してくれた。城の中では学びたくないし寺子屋にも通えない自分に勉強を教えてくれたのもシュウ。そのうちその事を父親に話すと父親は快くOKしハルカも寺子屋へと通う事になる。そして、シュウがどれだけすばらしい人間であるかを知ると殿であるハルカの父はシュウをハルカのお目付け役として雇った。それが今から一年前の話。 「シュウと出会ってから私の世界は全部変わったのに…」 シュウのおかげで勉強も楽しくなった。そして姫と言う自分と向き合い当時は珍しかった銃を護身術に学び、城下に出るときは出来るだけ姫らしくない格好をと心がけ、そのおかげで友人と呼べる人間も出来た。なのに…今のシュウは… 「私を姫としか見てない……」 寂しかった…友人がどこか遠くへ行ってしまうようで… 「なんでかな…」 そのときだ…自分の足元に今はもうあまり見なくなった手裏剣が突き刺さる 「何事?」 「燈火城の姫君!お命貰い受ける」 それはハルカにとって珍しくもない事。命を狙われるのは当たり前のことだ。だから、シュウのような有望な人間を回りに置くのだが、ハルカは言葉でこの場を仰け反る方法を身につけている 「あはは!私が姫?そんな風に見える?」 確かに…そんな格好で見える筈がない。 「そうか…間違えたのか…すまないコチラの手違いのようだ。」 昔の忍者と違って今の忍者は目的以外の人間を殺すような事はしない。そう言って忍者がその場を立ち去ろうとした時、運悪くシュウが自分の名を呼ぶ。 「姫?」 その一言でハルカは頭を抱える…そうばれたのだ。 「やはり姫か…危うく騙される所だった…どう見ても下町の不良娘かと思ったぞ!その露出の高さは!」 「あは!不良娘はあってるかも!」 少し強気な笑いをするとハルカは腰にぶら下げてあるGUNホルダーに手を伸ばし敵へと構える。致命傷ではなく相手の手を封じるため腕や手の甲を狙う。相手はニ、三人だと思われたのだが、どうやらその倍以上はいるようだ。シュウも自分の周りについた忍びと戦っている。 「(流石にここまで多いと弾切れが早いわね…)」 弾のスペアを取り出そうとしたとき不意をつかれ手裏剣が自分の服をかすり体勢が崩れる 「(やば!)」 「お命!頂戴!」 そう言った瞬間その忍者の足元に長くて鋭い矢が刺さる 「姫の命…何があろうと守るのが…私の仕事です…」 「シュウ…」 「ちっ!いったん退け!!」 そう言うと忍び達は姿を一瞬にして消した 「さすが忍者…早い…」 「早いではないでしょう!!」 思わず耳を塞ぎたくなるほどの大きな声。 「だからあれほどお一人で城下に出るのは危険だと申し上げたのに。それに銃は弾をかえるにどうしても隙が出来ます!」 「ごめんなさい…」 「全く…やはり私がいないと駄目ですね…」 「そこまで呆れなくても…分かったわよ。お城に戻ればいいんでしょ?流石にもう一度あいつらを相手にするだけの労力は私も残ってないかも。」 「そうですね…一度…戻りましょう…」 こうして、その日の大事件は幕を閉じた… 次の日。 シュウは練習着と呼ばれる袴で敷地内に存在していた。 「そうか…シュウは剣術もやり始めたのだな…。」 「はい…お館様。姫を守るにはコチラもやらないと駄目なようです。矢を取り出すときに時間をとられますから…。」 「そうか…ハルカも朝から練習しておる。」 「ですが、今朝は音が…」 「なーに道場に行けばわかろうて…」 その主の不信の笑みに違和感を抱きつつ、シュウはハルカのいる道場へと足を運ぶ。 「姫…」 そこにいたのは一心に静けさを求め小刀で護身術をするハルカが存在していた。 「あらら…もうばれちゃったのね。」 「何を…」 「…だって、シュウが小刀の練習でもしなさいって言うから…昨日でわかったのよ。遠距離戦は銃が有利だけど近距離になると刀使えないときついんだもん。シュウは…何やってたの?ちょっとなんで笑ってるのよ!」 シュウは声を出さずに必死で笑うのを堪えている表情だった 「いえ…お互い考えるのは一緒なんだなと…」 「え?」 「私も剣術を始めたのです…弓も射る時に隙が出来ますから。」 「なんだ…じゃ、小刀の練習しなくても良いかな…」 「いいえ。小刀はやってください。姫君としての心得です。」 「はーい…そう言えばさ、シュウは何で私が護身術を銃にしたか知ってた?」 「新しい…からなのでは?」 「ううん…確かにしそれもあるけど…銃を退く時シュウが側でフォローしてくれるから安心して戦えるって思ってコレにしたのよ。刀だとお互いはなれちゃうから…」 その言葉だけで、シュウは十分すぎるくらい嬉しさをかみ締めていた。 「それだけで十分です…」 「欲がないなぁ…そうだ!あとね、改善しなきゃいけないところがあるんだ。」 「改善ですか?」 「シュウが『姫』て呼ばなければあの戦いは回避できたんだけどなぁ…」 ハルカは少しきつく責任感を問う様な言い方をシュウに向ける 「それは…誠に申し訳ございません。」 厭味を言うシュウだが、根は真面目。責任に問われると沈んでしまう 「だから、姫って呼び方辞めてもらえない?昔みたいにさ、気軽に『君』とかでいいから…」 「それはいけません。『君』と呼ぶ呼び方は基本的には自分と同等もしくはそれ以下への呼び方です。」 「それじゃ、私はあの時それ以下だったんだ。」 「いえ…決してそう言うわけではなく…」 「だったらさ、名前で言いや。」 「呼び捨てなどもってのほかです…」 段々何を行っても否定する冷静なシュウに腹が立ってきたハルカは悪戯を仕掛ける 「もう!何とか呼びなさいよ!」 姫最終奥義…押し倒し…爺やだろうが女中だろうが父親だろうが使う手段。 しかも、こう言うことが最も苦手なシュウとしては余計に赤面となる 「何とか呼びなさい…」 「姫君…」 「却下!」 「姫様」 「却下!!いいかげんに怒るわよ?」 「……… 「はぁ?!もっと大きな声で!」 「ハルカ… 「んー…良しとしましょう!」 漸くハルカから開放されたシュウは冷や汗でいっぱいだった。 「これで、また友達同士みたいに戻れるね…」 「それならば…私からも一つお願いがあります…。」 「え?何?」 「もう少し…着物を長くしてください…」 「え…だって、可愛いじゃない?」 「違うんです…私の…理性が…飛びかねませんし…目のやり場に困りますので…」 シュウの赤面につられ瞬間鈍感娘と呼ばれたハルカが珍しく赤面する… 「最悪!ばか!!」 「ひ、姫が!」 「姫じゃない!!」 「ハルカ君がもう少しおしとやかになってくださればいいのです!」 「あー!!もう!!シュウのバカー!!」 桜が散る青空の袂…今日も燈火は平和なり!! ---------------------------------------------------------------完--- 作者より… 5万ヒットの祝い小説です。もう書く事はなかろう何に時代劇風。 すいませんキャラが少々アレンジ入ってます。参考までにキャラ紹介 ハルカ 燈火城の姫君。暴れん坊で城下の町や民が大好き 新しいものが好きで直ぐに取り入れる癖がある 恋愛話は好きだが自分の話となっては別。 物凄く疎い。銃で腕前は50m先のピン球が打てます シュウの事は大好きですが、まだコレが恋愛だとは 気付いておられんかわいらしい姫様です シュウ 燈火城城主に引き抜かれたことにより下級貴族に昇進 文武両道・頭脳明晰なお方。弓道が得意でほぼ片時も 姫様と一緒です。嫌味と言うよりは改善して欲しいと言う コチラも親心に似た愛情の裏返し。 姫様の事は大好きで、時々理性が吹っ飛びそうな格好を されると赤面する初心な人(笑) 取り合えずハルカは『暴れん坊』シュウは『真面目君』な設定で書きました。 もう書く事がないというのは分かっていたのでありったけの妄想をつぎ込みました。 ありえないから素直なシュウとか赤面するシュウとか! 結構書いてて面白かったです。新川のイラストの服もデザインできたしね♪ なにはともあれ5万ヒットありがとうございます! 2004.10 竹中歩 |