どっちにしろ、今回の僕は自分で馬鹿げてると思った。
だけど…事実は事実。
それに浸るか浸らないかは僕の心次第。
とりあえず、僕の今の状況をあの花が説明してくれるよ…
今の僕の状態をね。





マダガスカルジャスミン〜clustered wax flowe〜





「珍しいね。君が誘いをかけるなんて。」
「ま、それは色々とね。」
 ポケモンセンターの談話室、一人の少年と一人の少女が会話を交わしている。
 少年は鮮やかな緑系統の髪にかなりの容姿を持ち、少女の方は子どもらしいあどけない可愛らしさを持っていた。それは、ちょっとした有名人『シュウ』と『ハルカ』。
「で?結局なにごとだい?」
 シュウはハルカの座っていたベンチの横に腰掛ける。ハルカは何か物を言いにくそうに手遊びをしていた。
「あの…あのね…えーと…」
「…?」
 ハルカの口からはその場のしのぎの接続詞らしき言葉しか出てこない。その言葉にだんだんと不信感を抱くシュウ。
「こう言うことって…何ていえばいいのかわからないんだけど…取りあえずね…ごめんね。…それと、ありがとう。」
「…?…?」
 そのハルカの言葉にシュウの先ほどの不信感は疑問系に姿を変える。
「僕は…今回君に対してお礼を言われることもしてないし、第一、謝られるようなこともしてない。」
「そんなことない!」
 ハルカはシュウの目を見ながらそれを完全否定した。
「私…今回のコンテストで大切なこと忘れて…天狗になった挙句に、フシギダネに怖い思いさせて、それでもって、人の言葉に耳なんか貸さなくて…本当のバカやったなって思うの。」



 今回のコンテスト…すなわちルイボス大会のことである。
 ハルカの言うように今回のハルカの行動ははっきりってかなり人に迷惑をかけたもの。
 この地方で知り合った参加者の方たちにおだてられ、本来の自分を忘れていたハルカ。バトルが終わってみればその行動に対しての後悔や恥ずかしさで、穴があったら入りたいと言う状況だった。その件に関して、注意を投げかけたシュウに耳も貸さず逆にバカにしたことに対してのお詫びとお礼をするためにわざわざシュウを呼び出したと言うわけである。



「まぁ…確かにね。あの時の君は見るに見れないほどの状況だったから…」
「その点に関しては、反省してます。本当にごめんなさい。」
 ぺこりと頭を下げるハルカ。ハルカのいい所はどんなに口下手でもちゃんと謝ると言う所だ。
「それでね…私今回決めたことが……」
「あのーすいません!」
 そのとき、ハルカの言葉を遮断するものが現れる。
 それはハルカと大して歳が変わらないと思われる少女だった。多分、年上だと思われる
 その少女は、ハルカにではなく、シュウに話し掛けていた。
「何か僕に御用でも?」
 シュウは自分より年上だと思われる人物には敬意をはらうように心がけているらしく、自然と敬語が口から出てくる。
「写真とっていいですか?」
「…はぁ?」
「私、今回のコンテストでシュウ君みて、感激して…お願いです!写真とらせてください!」  
「えーと…基本的にそういうことはお断りしてるんですが……」
 余程のこの地方に来て、ファンの方たちに怖い思いをさせられたのだろう。顔が引きつっているように見える。
「ダメですか…?だったらサインでも良いんですけど……。」
「サインはちょっと…かけませんから…」
 その少女の目に負けたのだろう。シュウは無言で頷き、写真をOKした。…が、これが不運を招くことになる。一人OKした突端にどこからか女性たちが出現し、シュウを取り囲む形になってしまった。
 人というのは恐ろしく、一人が行動に出れば次から次へと行動に出る。シュウとハルカの距離は10p…50pとどんどんと離れてしまい、最終的には5m弱まで離れてしまった。
「あの…お願いですから…他の方に迷惑のかからないようにお願いします…」



 結局シュウはファンにつかまり約1時間写真を取られたり、握手を求められたりとアイドル並の待遇をされグロッキー状態に落ち入ることとなる。そして、気づいた時にはハルカの姿は談話室から消えていた。










「悪いことしたな……何か言いかけてたのに…」
 談話室から出るとシュウはハルカの捜索へと取り掛かる。唯でさえ、今回はまともに話が出来ていない。シュウはファンのお母様方につかまっていたし、ハルカは天狗になり他の人の話を聞こうともしなかったことや、父親がセンリだったこともあり、違うファン層につかまっていた為、本当に今回お互い話は出来ていない。だからいつもならコンテスト終了と同時に開催地を出発するのに、今回は出発を明日に見送り、ハルカと話そうと思っていたのだが、ファンはおいそれと離してはくれなかった。
「それに…あまりファンと交流してる所は彼女に見られたくない…」
 そう。勘違いされたり軽蔑でもされた日にはかなりの精神的ダメージを受ける事は確実。それだけは避けたい。
 これは…好きな子を持つ人間として当たり前の感情だろう。
 そして、なんだかんだ言っているうちにターゲットの人物を見つける。
「はぁ…。ハルカ君。」
「ん?あ…シュウか」
「ごめん。僕のせいで君に迷惑をかけたみたいだね。」
「かなり大変そうだったね。まぁ、困る気持ちがわからなくないことはないけど…私のほうが先だったんだけどね…。」
 その言葉が軽く胸の奥のほうでチクチクと感情をいたぶる。
「でも…少し残念だな……。」
「なにが?」
「いや、別に。」
 少し…ほんの少しだけど期待していた。彼女がもしかしたら、自分に対して先ほどのファンを見て『嫉妬』してくれてるのではないかと。だけど、期待はするものではない。そんな感情は彼女には存在していないようだ。
「何してたんだいこんな場所で?」
 ハルカが居たのはポケモンセンターの裏庭。風が心地よく体の横をすり抜けていく。しかし、いくら気持ちがよくても余りにも殺風景なため、人は近寄らないと確かジョーイさんが言っていた。
「コンテストの練習。フシギダネでね。」
 そういうハルカの前にはまだゲットして間もないと言っていたフシギダネが鎮座している。
「君にしては珍しいね。昨日の今日で練習とは…」
「なんと言われても良いわよ。というか言われてもしょうがない。」
「…実は…僕も今回謝りたいと思っていたことが一つある。」
「ん?」
「言葉のアヤとはいえ、君の機嫌を逆撫でして、フシギダネを出させたこと。」
「ああ。そのことか。でもあれは私も悪いし…。だってね、シュウは新しいポケモンで参加するのに、私は参加しないなんて…なんかムカツイて…負けたくないって気持ちが先にいっちゃたし。おだてられたことが後押しして…。だから謝らなくてもいいのに。ちゃんと自分のレベルを考えなかった私が悪いのよ。」
「だけど……」
「はいはい!この話はおしまい!私時間無いんだ。」
「時間が…ない?」
 ハルカの言葉に再び疑問視するシュウ
「シュウさ…今リボン何個?」
「…4つ…だね」
「てことはさ、あと一個で5つ揃っちゃうんでしょ?」
「そういうことだね。」
「そしたらさ…もう、コンテストには出ない…て言うか出る意味ないんでしょ?」
 その言葉をハルカは呟くとその場を立ち上がり空を見上げた言葉をこぼす。
「会えなくなるんだよね…コンテスト会場で…」
 ハルカから聞いた言葉にシュウは胸の中で何かがこみ上げるのがわかった。



  もし、シュウがリボンをそろえてしまったら…それはすなわち…
  ハルカと長い期間会えないこと意味していた。



「そうだね…。」
 今にも言葉になりそうな『嫌だ』と言う感情を必死で抑えて会話するシュウ
「多分また会うと思うの。次のコンテスト会場で。それでね…行った先で知り合いが居るってとても心強いし、楽しいの。…だけど、もし、私がまた今回みたいなことがあってシュウに負けちゃったらその次のコンテストではあえないでしょう?…それって凄く寂しい。だから今使える時間を使って、練習したいの。今回怖い思いをさせちゃったフシギダネと」
「別に無理をして、フシギダネを使わなくても…」
「ううん!フシギダネに出来ればしたい。だって、このこに味あわせてあげたいの。勝った時の気持ちよさ。…ツキコさんがね言ってた。リボンはポケモンたちが勝った…頑張った『証』だって。…それをフシギダネにも味あわせてあげたいの。…もう二度と同じ過ちを繰り返さないように。だからさっき言いかけた決めたことって言うのは『シュウに近づくことに決めた』てこと。」
「そういう事か…でも、いい考え方だと思うよ。僕は。」
「本当?…よーしがんばるかも!!」
 ハルカは大きく手を空に向かって伸ばし、軽くジャンプする。
「ま、せいぜい頑張って、僕に勝ち続けて、お互5つにリーチになったとき、決勝戦で戦えること願うよ。」「うん!…それとね。あとどうしても強くなりたい理由があったの。」
「まだあるのかい?」
 こくりと頷くハルカ
「もし…シュウと同じくらい強くなれたら…今日みたいに会話の邪魔はされないなって。私、絶対強くなってシュウと並んでても違和感の無い様になりたい。なんかね…ライバルでもない女子とシュウが一緒に居るのって凄く腹が立つの!つまり…何て言っていいのかわからないけど…」
 少しハルカは考え込んだが、何かひらめいたらしくすぐに会話に戻ってくる
「とりあえず、シュウの隣は絶対『ライバル』である私の居場所!」



 それはつまり…遠まわしだけどファンに対して…
 『ヤキモチ』を焼いてくれてる?



 ハルカは自信満々で断言している。どうやらハルカはその感情をヤキモチだとは思っていないらしい。だけどその嬉しさはシュウの顔に出ている。
「……」
「笑ったわね!でも私本気なんだから!!」
 声を殺して、かなり嬉しそうな笑顔で笑っているがハルカにはそれがバカにしているように見えるらしい。「もう…そうだ!さっきね、見たことのない花見つけたんだけど、名前わからなくてシュウに聞こうと思ってたの。こっち来て!」
 ハルカはシュウの手を引っ張ると少しだけそばにあった林へと入る。
「ほら…これ!」
 そこには甘い香りのする白っぽい花の群生地が広がっていた。
「……マダガスカルジャスミン…。」
「え?これジャスミンなの?」
「いや、名前にジャスミンが入ってるけどジャスミンの仲間じゃない。でも…こんな時にこんな花見つけるなんて…本当に君は面白いね。」
「意味わかんないかも…」










「何時の間にか…彼女は僕に『ライバル』と思われていると思ってるらしいよ。だけど、僕の中じゃ、彼女はもっと優位な場所に居るんだけどな…。ま、本人が気づくまでそっとしておこうかロゼリア。…あ、アメモースにはまだ言ってなかったね…僕にとって彼女がどういう存在か…それはね…」










僕は自惚れながらも君の先に行く。
君が僕に追いつこうとしてるのはわかってるけど、あえて先に行くよ。
もし、立ち止まったり、手を差し出したら、
君怒って手を振り払うだろうから、
僕は先に行く。
だけどそれじゃ、今回僕を喜ばせてくれた君に悪いから
止まるのじゃなくて、少しゆっくり歩く。
だから一生懸命追いついてきて…









花名≪マダガスカルジャスミン≫ 花言葉≪自惚れや≫
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作者より…
久しぶりに花言葉シリーズを書きました。
本編にそったお話第二です。第一はキミマロ君のとこね。
今回の話は見ていて凄く痛かったです。
何となく天狗になりそうな予感はしてたんですが、
天狗のレベルか予想をはるかに超えてました(笑)
だからあえて、こんなお話です。
アニメ最後のシーン、サトシではなくシュウを希望していたのですが
やはりそこまで無理でしたね。
でもこれがハルカにはいい教訓になったのではないかと思います。
さて、小説本編ですが、とりあえず、やきもち焼いて欲しかったんですよ。
おおぴらだろうがさりげなくだろうが…。
れにシュウのハニカミぐあいを混ぜて、
自惚れと言うこと言うことになりました。
絶対可愛いと思います。ハルカのために笑うシュウは。
さて、夏に向かうと色んなお話が出来るので、
いっぱい書いていこうと思います。
夏に海とかでシュウが出てくることを祈ります(笑)
2004.6 竹中歩