薔薇のつぼみを君に…




「また道に迷った…」
 サトシ達ご一行様は今日も目的地を目指し旅をする。そして、ここは誰がどう見ても森である。  森にサトシたちが入ったらやる事は一つ。『道に迷う事』だ。
 今回も案の定、道に迷ってしまった。その確定の言葉はマップを持ったタケシから述べられる。
「またなのぉ!!」
 最初に悲鳴をあげたのは最年少のマサト。まぁ、体力から言って悲鳴をあげるには無理もない。
「つ、疲れたかも…。」
 『かも』を語尾につけるのが口癖なハルカ。何度この行動を繰り返してきただろう。しかし、またそれも思い出の一つだ。
「そろそろ日も暮れる。今日はこのへんで野宿とするか。」
 メンバーのお母さん的存在のタケシが準備を始めるとハルカがふらふらと歩き出す。
「ハルカどこ行くんだ?」
「アゲハントとイメージトレーニング。ご飯までには帰るわ。」
 サトシの問いにそれだけ答えたハルカはサトシ達の視界から消えていった。
「もう!お姉ちゃんたら自分勝手なんだから。」
「いいさ。こっちは人手が足りてるし。体を動かしたいんだろ。」
「お!サトシがそんな事を口にだすなんて!成長したな!」
「タケシ、喧嘩売ってるか?」
 男子たちだけの仕事がはかどっているのは気のせいだろうか?










「アゲハント!銀色の風!」
 ハルカの声にあわせてアゲハントが銀色の風を起こす。日ごろの練習もあり、日々着実に成果は上がっている。しかし、今日は失敗した。
「あっちゃ〜!失敗!!」
 自分の顔を手で覆い尽くすハルカ。よくある事とは言え、やはり失敗するのはいい気持ちはしない。
「あーぁ…。アゲハント、戻って。」
 モンスターボールにアゲハントをしまうとハルカはその辺の岩に腰をかける。
「何で失敗しちゃうのかな…。こんなのじゃ、また負けちゃうかも…。」
 どよーんと沈んでいるハルカの目にあるものが目に入った。
「うわー!!きれいかも!!」
 それは緑ばかりで殺風景な景色に彩りをくわえる。薔薇のつぼみ。よく見ると花畑とまでは行かないがかなり沢山咲いている。
「アゲハントに見せたら喜ぶだろうなぁ!!」
 そう思い、ハルカはモンスターボールに手を伸ばす。そのときにふとした台詞がフラッシュバックのようによみがえった。


『美しくないね』


 銀色の風の練習のときに死ぬほど聞いたあの台詞。失敗するたびに連呼されては流石に覚えてしまう。
「だぁー!!何であんな台詞がよみがえるのよ!!」
 理由は何となく分かっていた。

 銀色の風を失敗した事
 薔薇のつぼみが目に入った事
 この二つが連結してその台詞を思い出させるのであろう。

「毎回毎回言った先々に居るし、会うたびに美しくない美しくない、うるさい!!大体、何であんな奴に美しさを評価されなくちゃいけないのよ!!」
 人の影が見えない日の沈みかけた森で大声で叫ぶ。
「(考えたら私…花貰った事ないかも…)」
 時々『美しいバトルだったよ』と言って薔薇をくれるが、それはいつもアゲハントにだ。ハルカ本人は全く貰った事がないといっても過言ではない。
「そりゃ、私のバトルはとても良いと言えるものじゃない。だけど一応頑張ってるのにあんな言い方って…。とりあえず、アゲハントをだしてあげよう。アゲハント!出ておいで。花がいっぱいあるよ!!」
 アゲハントはモンスターボールから出るや否や花を見て大喜びしている。
「この調子ならもしかしたらいけるかも!!アゲハント、銀色の風!!」
 ハルカの予想は的中!機嫌のいいアゲハントからは今までで、一番いい銀の風が出来た。
「大成功かも!!」
 しかし、その銀色の風が再びあの嫌な台詞を髣髴とさせる。

 そんなに自分は駄目なのか
 そんなに無力なのか
 そんなに『美』に反しているのか…

 考え込んでいたら何だか女子としての自信がなくなってくるハルカ。無理もない。同じ年くらいの男子にあそこまで言われては普通は落ち込む。
「そんなに私、女の子として美人じゃないのかな…。あー!!あのキザ男ぉ!!!」





「相変わらず美しくないね。」





 その人の神経を逆なでするような声は顔を見なくてもわかる。
「シュウ!!」
「また会った様だね。行く先々でここまで会うとは…。」
「それはこっちの台詞!!」
 自分が女子である自信を崩壊させそうな台詞をこれでもかと言ってくれた相手。ロゼリアがパートナーなポケモンコーディネーター『シュウ』である。
「なんであんたがここに居るのよ!!」
「その台詞そっくりそのまま返すよ。だけど、相変わらず美しくない喋り方だね。まるで怒りがにじみ出るような…。」
「あんたがそうさせてるんでしょ!!」
 頭に血が上っているハルカと冷静なシュウ。このままバトルとなればシュウの圧勝であろう。
「とりあえず、今さっきの『銀色の風』結構よかったね。それじゃこれを…」
 シュウはいつものように、すばらしい演技を見せてくれたアゲハントあての薔薇をハルカに頼もうとしたとしたのだが、ハルカは拒絶した。
「今は、目の前にアゲハントが居るんだから、アゲハントに直接あげてよ。」
 その答えは最もである。
「そうだね…。アゲハント、これを受け取ってくれ。」
 薔薇を空に向かって投げるとアゲハントはそれを掴む。何時しか当たりは真っ暗だ。
「でも、本当に美しくなくなるばかりだね君は…。もう少しアゲハントを見習ったらどうだ?」
 大きくため息を付くシュウの言葉に、ハルカの中で何かが音をたてて切れる。
「…ほっといてよ!!」
 その大声にシュウ、アゲハント、ロゼリアが一瞬時と言う名の音を失う。
「美しい、美しくない…なんでそんなこと、一々シュウに言われなくちゃいけないの!!私は!私なんだから!! シュウに審査してもらう義理なんてないわ!!」



 怒ったのではなく…。
 泣いていた。



 理由はハルカ本人にも分からないだろう。ただ無性に情けなくて、悔しくて涙の出るペースは遅くても、今、確実にハルカは泣いていた。
「(くやしぃーかも!!こんな奴の前で泣くなんて!!)」
 心の中でそう叫んでいた。その状況を見て心配するアゲハント。
「アゲハント……この薔薇…私にくれるの?…でもそれはね、アゲハントが頑張ったから貰ったんだよ。私には貰う資格ない…。」
 その二人の状況を見ていたシュウはそっとハルカに近寄る。
「何よ…。泣くのが馬鹿らしいんでしょ?笑えばいい……?」
「確かに君は美しくない……」
「(この男、性懲りもなく!!また美しくないって!)」
「だけど…薔薇にはまだ程遠いけど、この花なら今の君ぐらいじゃないのか。」
 シュウがそう言って差し出したのはいつもアゲハントに送る薔薇とは少し違う。薔薇がまだつぼみの状態だ。
「これ……私に……?」
「そうだね、この場には此花が合うのは君しかいないだろう。」
 ハルカは差し出された花を受け取る。その花を受け取った瞬間ハルカの涙は自然に止まった。
「嬉しい…かも。」
「ゲンキンだね、君は。まぁ、泣き顔が収まったのならそれでよしとしよう何度も見せられたのじゃ、大会で手加減をしなくちゃいけないからね。…それじゃ、僕は行くよ。また大会で会おう。」
 そう言ってシュウはロゼリアと一緒に消えていった。
「よーし!!頑張って、シュウより強くなってやる!!がんばろうね!アゲハント!皆のところに戻ろう!!」
 そう言って、ハルカは晩御飯の匂いのするみんなの元へと帰っていった…。










 ハルカと分かれてロゼリアと歩くシュウしかしロゼリアが立ち止まる。
「彼女は早とちりだね。『美しくない』とは言ったけど『可愛くない』なんて言った覚えはないんだけどな…。ロゼリアどうしたんだい?もしかして、本当のことを話さなくてよかったのかって?…そうだね。『アゲハントに直接渡さないのは君に対する口実がなくなるから』でも、話すにはまだ早いような気がする。まぁ、あの花の群生を見つけたとき、彼女に会える気はしてたんだけどね。偶然とは恐いね。本当に会えたよ。どっちにしろ、あの花は彼女にしか相応しくないから。いつか本当にこの薔薇に見合う日が、静かに待っていれば来るさ。」





 ハルカがシュウから本当の意味で『開花した薔薇』を貰える
 日がくるまでしばらく遠い目で見守る事にしよう…。










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作者より…
えー、今回初めてシュウハルなるものを書いてみました。
本人は小学生の頃からポケモンが大好きです。ピカが特に…。
カップリングではサトカスが一押しなのですが、なぜにシュウハル?!
いや、大好きなサトカスサイトさんをのぞいたら、このカップリングが増えてて、
ビデオでもう一度見たらはまりました(笑)
ちなみに薔薇のつぼみの花言葉は『可愛らしい』だそうです。
何となくぴったりだと思い、この話の題に使いました。
今のところ私の中のイメージは
シュウはハルカで遊ぶ
ハルカはライバル視する。
なんと言うか女の子がムキになるカップリングが好きなんです。
これからも頑張って書いていこうと思っておりますのでよろしくお願いします。
2003.11 竹中歩