剣と魔法が何の躊躇いもなく存在する世界…
その世界には当然のごとく学び舎ような施設が存在した。
これはその学び舎で起きたひとつの物語…
誰にも語られることのない小さな物語…
しかし本人たちにとっては…とても大きな物語…





宝石の騎士隊





『キンッ!!』
『カンッ!!』
 金属独特の音が鳴り響く場所…ここは『騎士教習所』。要約して言えば騎士になるための若者が集い、己の腕を磨く場所である。
 この場所に滞在する時間は生徒のによって違い、5年かかるものもいれば、1年足らずで卒業していくものもいる。つまり、自分の成長が物を言う。
 そんな教習所では1年に一度『即位式』と言うものが開かれる。500人近くいる教習所の中でもトップクラスの若者が自分の腕に見合った『称号』と呼ばれるものを授かる儀式。今年は9人が候補に上げられ既に上位七名は色が決定している。

…しかし……





「いいかげん本気出したらどげんね!!」
現時点の騎士名『紺碧の騎士』。若干15歳でしかも女子と言う体ながらそれを諸共せず、戦ってみせるその姿は、まるで神話の戦いの女神『アテナ』が降臨してきたとも言われる少女。
「本気ね…」
余裕を見せながら剣も抜かずにサファイアの剣を避ける少年騎士名『深紅の騎士』。
剣の腕はすごい物だが、それを発揮することはめったとなく、殆ど守りでここまでやってきた少年。年はサファイアと同じ15歳。
この2人1ヶ月経っても決着がつかない。毎日のようにこうやって決定戦を行っている。





「まだ決着つかないのか?あの2人は?」
 今回『赤の騎士』に選ばれた…この教習所内で一番の腕を誇っている青年レッド。年は18歳。今後マサラと言うここから少し離れた国への派遣が決まっている。
「時間が無駄なだけだ。」
 『緑の騎士』グリーン…レッドと腕はほぼ互角。赤の騎士決定戦でも引き分けたが、自分ではなくレッドの方が優勝にふさわしいと言うことで同時優勝を辞退した一人。レッドと同期で同じく派遣先はマサラ。
「でも、サファイアの方が今回の配当金高いわよ?」
 女性で唯一『原色の騎士』所属の『青の騎士』ブルー。剣の腕よりその頭脳で今回決定戦を勝ち抜いた。お金関係の問題で教習所内ではかなりの有名人。年齢は不明である。



「絶対にルビー…本気出してないよな。」
 光の騎士隊所属『金色の騎士』ゴールド…言わずと知れた不良騎士。だが、剣の腕は確か。いつも軽くプレイボーイだが、忠誠を誓ったものへの信頼は裏切らない。年は17。
「あいつはいつもあんな感じだからな…」
 『銀の騎士』シルバー…青の騎士ブルーの義理の弟。剣の腕も確かなら、頭もいい。だが、冷静さを無くすと手がつけられない青年。同じく17歳。
「サファイアもいつもあんな感じだからね…」
 光の騎士所属の女性騎士『水晶の騎士』の異名を持つクリス。剣の技術はまだまだだが、その成長振りは既に教師たちの予想はるかに越えている。頭の切り返しが早く、臨機応変に対応が出来る優れもの。ゴールド・シルバーと共に隣国のジョウトへ派遣予定。



「怪我をしなければ良いんですが…」
 『黄色の騎士』イエロー…本来入学当時は男子として入学。しかし後に女性とであることがバレ、ちょっとした大騒ぎなった人物。今回その類稀なる魔力によって特別騎士として任命された。無所属であるため、今回皆が派遣されるマサラ・ジョウトそして…まだ決まっていない。サファイアとルビーの派遣先にいつでも派遣される臨時騎士。天然なところが少々危ない16歳。





 今年は『原色の騎士隊』『光の騎士隊』『宝石の騎士隊』とランク分けされ、卒業後はその隊ごとで国の上部機関の護衛として派遣される。今現在決まっている今年のランクは

『赤の騎士』(原色の騎士隊長)
『緑の騎士』
『青の騎士』
『金色の騎士』(光の騎士隊長)
『銀の騎士』
『水晶の騎士』
『黄色の騎士』(特別騎士のためランクは最下位)

 この騎士の名前は全員の名前に共通しているのは言うまでもない。
 あとは本当にルビーが勝つかサファイアが勝つかでランクが決まる。





「本日それまで!!」
 教官のダイゴの声が2人の勝負にきりをつけさせる。
「…何で本気で戦わんと!!」
「さあね…」
 息をかなり切らせたサファイアは友人のイエローからタオルを受け取ると足早に更衣室へと戻っていった…。










「全く…あそこまで真剣にならなくてもね…」
「そろそろ本気を出したらどうですか?」
「師匠…」
 ルビーの担当教師ミクリはいつものように軽やかに登場する…悪く言えば無駄な動き。
「本気を出さないなんて…騎士らしくありませんよ?」
「…僕は言ってるんですよ?僕の負けでいいと。だけど彼女はそれを承諾しない。」
「意味もなく負けでいいといって信じる子ではないですからね。」
「どっちにしても…深紅の騎士と紺碧の騎士は一緒に行動することが決まっている。だったらどっちが上でもいいじゃないですか。」
「…はぁ…どうやったらyouは本気を出すのか…。このままでは騎士の免許を剥奪されますよ?それはyouが一番困ることじゃないのかい?」
 ルビーは騎士として認められなかった場合、家に強制送還され父であるセンリの後を継ぎ、あるお城の護衛として一生を捧げる事を決められていた。そんな人生が嫌で…自由がほしくて入ったこの教習所。貰えるのなら例え下の階位でもいい。それがルビーの考え。
「…師匠…女の子本気に戦えますか?」
「…騎士に男も女もないはずだ。」
「確かにそうですけど…彼女の血を見るのは気が引けます…」
「そうでしょうね。」
 頭を抱えるミクリ
「youが本気を出せば優勝だって夢じゃなかったのに……」





「先生…どうやったらルビーが本気を出してくると思うと?」
「難しい問題だな…彼は殆ど剣を抜かずに戦っている…戦うと言うよりもサファイアの動きを読んで避けていると言った方が正しい。この時点で彼の腕はサファイアやより上回っている…なのに手加減をしている…不思議なことだ。」
「先生…質問の答えになっとらん。」
「ああ…すまない。だが…どうやっても決着をつけるつもりか?」
「当たり前たい…先生。勝ったほうが『宝石の騎士隊』の隊長になると。でも…あたしが勝っても意味ないけん…何が何でもあいつに勝ってもらわんと困るとよ。」
「サファイア……お前はそれで本当にいいのか?」
「何度も言わせんといて。先生…あたしの代わりはこの教習所には沢山おるけど、あの場所には…あたしにしか出来ことがあるから…」
「ふぅ…しょうがない…最終手段をとろう。」
「何?」
 神妙な雰囲気の2人…サファイアの担当、ナギが生み出した最終手段とは…










「深紅の騎士対紺碧の騎士隊長決定戦…開始!」
 再び昨日と同様の勝負が繰り広げられる。一方的に向かっていくサファイアと息も切らせず唯避けているだけのルビー…言うまでもないがこれでは勝負にならない。だが、いつもと違う雰囲気は漂っていた…それはある男の存在…
「ルビー!お前の気持ちなどそんなものだったのか!!」
 その声に驚き一瞬よろめいてしまうルビー
「(…父さん?!)」
「驚いたようやね…あんたを本気にする打開策に先生が呼んでくれたとよ。さぁ、どげんするね?流石にこんな姿を見られたら家に戻されるんじゃないと?」
 図られた…ルビーが家に戻されるのを必要以上に嫌っているのは教習所では有名な話。こうなっては剣を取るしかない…
「…そこまで本気にさせたいのかい……」
 今までとは違い笑いや余裕のある瞳は消えうせ、深紅の騎士の名に相応しい紅い瞳が戦意を見せる。それはまるで…戦士の目…
「本気になってもらわんとこっちも困るけんね…」
 唯闇雲に剣を振っていただけのサファイアも一旦手を止め戦う前の静けさを取り戻す。何者にも迷わない…そのすんだ蒼い瞳はルビーと戦うことだけを望んでいる…。
「一回で決めるよ…」
「あたしもその方がいい…」
 間合いを取りながら少しずつ足をずらしていく…。










そして…先に動いたのは……紺碧の騎士…










 だが、本気を出したルビーに隙があるはずもなく…背後に回られ刃を突きつけられる…
「(終わり…かな…)」
 勝負では相手が降参した場合…もしくは先に血を流した場合が負けとなる。
 今までの決戦では血を流したものはいない。大抵は背後を取られ自分が剣を振るえなくなった状況で降参するのが当たり前…しかし…サファイアは血を流されることを覚悟で…振り返った…。
「(何で…?!)」
 予想のつかなかった行動のため剣を引くことが出来ずに唯呆然と立ち尽くすルビー…案の定振り返った瞬間にサファイアは左手の肩の辺りに傷を負う…
「勝負あり!勝者深紅の騎士!よって宝石の騎士隊隊長は深紅の騎士!」
 あまりの出来事に観戦していた友人や生徒は言葉を出すことが出来なかった…



「やっぱり負けたとね…あたしには隊長は無理やし!」
 空笑を浮かべるサファイア腕に小さいとは言えキズを負っている…
「君…なんで…」
「それじゃ、がんばってな!騎士隊長!あたし部屋戻って手当てするけん…」
「どうし…」
 まだ言葉を発しようとするルビーの口元をサファイアを抑えて小さな声でこうささやいた…










アタシノ分マデ頑張ッテナ…










 それだけを言い残すとサファイアは中には練習場から姿を消す…。
 本当は追いかけたかったが…思わぬ勝利に駆けつけたクラスメイトで大きな隔たりができ、追いかけることが出来なかった…。クラスメイトに解放され、サファイアの行き先をトップ騎士隊の友人たちに聞くと…



「サファイアなら…もういないわ…」



 クリスの口から思いがけない言葉が毀れる…
「どうして?!」
「変だと思ったろ?あの敏感なサファイアがあの状況で降参せずに振り返ったの…」
 ゴールドの言うとおり普通なら降参する状態で何故振り返ったのかは不思議だった。
「サファイアは劇が苦手だからしょうがないわよ…」
 ブルーの言っている意味がわからない…あれが劇?ということはわざと?
「どういう事ですか?」
「サファイアがどうしてあそこまで本気になってたか知ってるか?」
 レッドは理由を知っている口ぶり。…どういうことなんだ?
「理由なんてあったんですか?!」
「サファイアは…お前と戦っていた1ヶ月前から既に家に帰ることが決まっていた。」
 どうしてグリーンまで知っているのだろう?…なんだよ…それ?聞いてない…。
「その顔だと知らなかったみたいだな…」
 当たり前だろう?シルバーは少し呆れている…
「サファイアさん…お父さんの研究所が狙われてるって聞いたらしいんです…だから『父ちゃんのことはあたしが守る!』と言って…ここを後にするつもりで…」
 イエローさえ知っていた?

 みんなに言われてどれだけ自分が惨めだかわかってる…
「何で言ってくれなかったんだよ…」
 一言もそんなこと言わなかった…
 そんな悩みすら抱えてることすら知らなかった…

「あんただから言えなかったんでしょう?」
 ブルーがついに切れてルビーに近寄ってくる
「何でですか?」
「あの子は…あんたを親友だと…ライバルだと思っていたからいえなかったのよ。もしそんなことを明かせばあんたが本気で戦わないのさえ知っていたから。『僕の負けでいい』それで言いわけないわよね。だって、自分はもうすぐいなくなる身。そんな人間が決定戦でみんなの前で勝ってしまったら…隊長にでもなったりしたら…示しがつかないじゃない。だから公の場であんたに勝ってほしかったのよ。本気を出して。そうすれば示しもつくし、残されたあんたもとやかく言われはしない。特に今回の流血騒ぎ…あれはどう見てもサファイアの不注意よ…だからここからいなくなった理由として『あたしはあんな不注意するから騎士には向かない』とか何とか言って消えても不思議じゃないわ…あれだけ本気をだしてって毎日涙目で訴えてたじゃない。それに気づかない人間にとやかく言う資格はないわよ。」
 自分の痛いところ…サファイアの言いたいことを…全てブルーに言われた…呆れるしかないよな…

「本当にあの子…馬鹿だよ…野蛮で…すぐに行動出でるから…悩みもわかるって思ってた…親友だから言ってくれると思ってた…なのに…あの馬鹿!」
 座り込んで思い切り地面を拳で殴るルビー。かなり力が入ったのだろう手袋に血が滲んでいる。
 何が悪いわけじゃない…自分が情けないだけだ…。










「落ち込むだけが脳じゃない」
「師匠…」
「派遣まで半年間ある…その間自分に出来ることをやればいいさ…彼女の分までね…」
「…はい…」





いなくなってしまった彼女を追いかける資格がないことは確か…
だったら追いかける資格のある自分になればいい……
彼女の分まで真剣に戦えるだけの力を持つ自分になればいい……















半年後……















「父さんがつかえてる屋敷より大きいかもしれない…」
「あはは。そうですね。迷子なんかになっちゃいそうですよ。」
「イエローさん…貴方はいつまでいられるんですか?」
「僕ですか?一応力を見極めて残っているようでしたら渡すものを渡して…そのあとは人手不足の所に行く予定です。」
「そうですか…それじゃ、呼びますよ?」
 ルビーは扉を大きく叩く。
「≪はいはいー!!≫」
 扉の向こうから聞こえる声…毎日やかましいくらい叫ばれてた声…
「誰ね…こんな朝早く……」
 暫く会ってなかったけど…やっぱり変わってない…
「久しぶり…」
「イエローさんに…あんた…」
 ほらね。彼女は絶対女子から先に呼ぶんだ。しかも僕なら絶対最後に。
「騎士教習所の命によりオダマキ博士を警備するため派遣されました宝石の騎士隊所属騎士隊長深紅の騎士ルビーです」
「同じく黄色の騎士ことイエローです。暫くお世話になります。」
「…長い台詞やね…まぁ…予想は出来てたと。うちの父ちゃん上の方の人やし…でも2人が来るとは驚きたい。」
「2人じゃないですよ?」
 イエローがうれしそうにトランクからあるものを取り出す。
「…それ騎士隊の服…」
「サファイアさんに騎士としての力が残っていれば再び紺碧の騎士として認めるそうです。もちろん辞退は出来ますよ。どうします?」
「どうするも何も…あたしは父ちゃん守らないけんから…ここから離れられん…」
「そのことなら問題はないよ。」
 ルビーが自信満々に答えを出す。
「ここに来る輩は決まってるみたいだからね…その大元を叩けば君のお父さんが狙われることはない。そうすれば君も他の場所にいける。どうする?」
「…聞かんでも2人なら解かるんやないと?」
「なら準備しましょうか…」



 久しぶりに剣を握るサファイア…だが見ただけでも力が劣っているようには見えない。寧ろ逆だ。力が強くなっているように見える。
「それじゃ…ルビーさんと戦ってもらいますね…」
「久しぶりやね…戦うの…」
「本当に…」
「それでは開始します……始め!!」





あの時のように空に剣のぶつかる音が響く……





「合格です。でも…また怪我しちゃいましたね…」
 サファイアの腕にくるくると包帯を巻くイエロー
「大丈夫たい。こんくらい。だけどあんたがあそこまで強くなっとるとわね。」
「君こそね…パワーアップしてる…」
「お互い頑張ってるみたいですしね。ルビーさんはサファイアさんの分まで頑張るって言って、あれから真面目に戦うようになりましたし…」
「イエローさんしゃべり過ぎ…」
「ごめんなさい」
 少し照れているルビーをいじめるかのようなイエロー…やはり年上と言うのは強い。
「あ…サファイアさん…この傷…」
「ああ…ルビーと戦ったときのやつたい…多分一生消えんて言われたけど別にどうってこと…」
「ええ?!ル、ルビーさん…確かあの後…お父さんに…」
「うん…今僕も思い出した…」
「どうかした…?」
 部屋の隅のほうで何故か沈んでいるルビー
「…ルビーさんお父さんに『女の子に傷をつけるとは何事だ!傷が治るまでその子の傍を離れるな!』て言われてましたよね…?てことは一生…」
「離れられない?」
「何でそうなると?!」
「落ち着いてください2人とも…いっそのこと結婚すればいいんですよ!」
「こんなアマゾネスみたいな女子」
「こんな意気地のないへたれ男子」



「「絶対に嫌だ!!」」










後にこの国の治安を収めることとなった宝石の騎士隊…その2人の英雄伝は…
ここから始める…










------------------------------------------------------------END---
作者より…
10万ヒットはおとぎ話で祝おうと言うことで
考えたんですが、どうしてだか。サファイアが
姫に見えなくて…ルビーと戦友と言う設定。
どちらかと言うと私の中ではこの2人、
姫と騎士ではなく、
『同じお城に使えるメイドの子供同士』と言う設定。
だから、モチーフにしたのが剣つながりで三銃士。
全然話し違いますね。それに一人足りないし…。
10万ヒットを盛大に祝おうとポケスペキャラ
全員集合させて見ました。
結構楽しかったです。世話焼きブルー姉さん…天然系イエローが…。
ルサは案外こういう感じの方が書きやすいかもしれません。
今後とも先に進んでいきますので、応援よろしく
お願いします!10万ヒットありがとうございました!
2005.3 竹中歩