Canvas〜ココロ〜 「あ〜!!やっぱりダメ!!」 ハルカはどこか遠くのほうまで聞こえるぐらいお腹の底から声を上げ後ろへと大きく体勢を崩す。 ココはとある地方の田舎町。ポケモンセンターに聞いても名所なんてものは存在しない田舎。ハルカ達は昨日この町にいついたばかりだ。 昨日この町に付いた時、日が暮れていたのでポケモンセンターに泊まり、今日の朝出発する予定だった。…が、その予定もハルカの我侭の所為で変更となる。 「やっぱりムリなのかな…」 ハルカの寝そべっている場所はこの街に存在する大きな自然公園。『自然』と言うだけあってブランコや滑り台などの遊具はなく、代わりにかなり広大な草原が広がっている。ハルカはその草原のど真ん中とまでは行かないが、中心部で体を楽な姿勢で寝そべっていた。 「まぁ、俄仕込みだけどさ…」 大きくため息をついて大きな空を見上げる。そのとき空からの光を遮断するものが現れた。 「よくこんな所で寝れるね…ハルカ君」 「………」 その人物が眼にはいるや否や元々大きかった眼を余計に大きくして高速で瞬きをするハルカ。 「人を珍しいものをみるような目で見るんだね。」 「シュウ?!」 ハルカの目に入ったのは、綺麗なこの草原と同じ色をした髪に『高貴』と言う別名をもつ色の『紫』のジャケットを羽織、そこまで熱くは無いが黒い長袖を着ている。コンテスト会場ではサトシ達の次に会う確率の高い少年『シュウ』その少年が寝そべっているハルカを見下ろしていた。ハルカは大きく体を振り子のように揺らして起き上がり軽く体についた芝生をはらうと立ち上がってシュウと同じ目線に並ぶ。 「久しぶりね。」 「…珍しいね。君が僕に会うと必ず言っていた『どうしてココにいるの』と言う台詞を言わないのは…」 「私そんなに言ってた?」 「少なくとも二桁ぐらいは言ってるよ。」 「あはは。でもね、私たちが会う理由が漸く分かったような気がするのよね。多分、出発時間が違ったり、道が分かれちゃうけど、結局は似たような方向に進んでると思うの。だから会う機会が多いのよ。」 「へえ…君にしては上出来な考えだね。」 「相変わらず『嫌味』だけは顕在ね。」 「僕は嘘をつけない体質だからね」 と、ハルカの前では強がってはいるものの、ハルカの前ではすでにこの人格自体が 『嘘』と言うことになるのはシュウも重々承知である。 「で…シュウが何でこんな辺鄙な場所に?唯でさえ、ココは田舎なのに…なんかシュウには似合わないような気がする。シュウって優雅な喫茶店で珈琲飲んでそうなタイプだもん。」 「それはかなりの誤解だね。僕は自然が多い所のほうが心が安らぐそれに、ロゼリアにも良いし。珈琲は好きだけど、街中の汚い空気は好きじゃない。」 「…へぇー結構意外。私は賑やかな町も好きだし、こう言う風が気持ち良い所も好き。さっき『こんな所でよく寝れるね』ていったけど、横になると芝生のいい香りがするし風も気持ちいいわよ?シュウも寝てみれば?」 「今は遠慮させてもらうよ。」 「そう…で、シュウはどうしてココに?」 「…さっき、ポケモンセンターで君の弟君に会って、君もいるのかと思ったら、君はココに行ったって聞いてね、ロゼリアの散歩がてらにちょっと寄ってみただけさ。」 シュウの足元にいたロゼリアは無言で二回頷く。素直に『君に会いたいから』と言わないのがシュウらしい 「ふーん。でもよく探せたわね。『この時期』になるとこの辺は人が多いのに。」 「簡単なことだよ。君のトレードマークの『赤』を探せばいいだけだから。それに、バンダナをまいてる人も少ないし。…でも『この時期』と言うのはどう言う事だい?」 ハルカはシュウに聞かれると自分の腰のポーチの辺りからB5サイズのチラシを取り出し、それをシュウに見せる 「…ポケモン絵画コンテスト…」 「そう。この時期にねこの街ではポケモンをメインとした絵画を募集するの。私はそれに書いた絵を出そうと思ってこの場所に来たって訳。普段は静かなこの公園もこの時期になると絵を書く人で結構賑やかになるらしいの。この場所はポケモンがリラックスしやすい場所らしいから…」 ハルカに言われて周りを見渡すと確かにまばらだが人がいる。その人たちの殆どがスケッチブックを片手にポケモンを見つめながら絵を書いているようだ。キャンパスや油絵の具を持ち込んだ手の混んだ人もいる。 「それでか…でも、君はポケモンを出していないようだね?」 シュウにその言葉を言われるとさっきまで明るかったハルカが何かに取り付かれたように暗い空気に包まれため息を吐く 「それがさ…私のね…ポケモン達って…モデルに向いてないかも……」 「向いて…ない?」 「リラックス効果が大きすぎて……じっとしてないの…ワカシャモもエネコもフシギダネも唯一大人しそうなアゲハントだって自然が多い所にきたら大騒ぎで…」 ハルカの言葉はその言葉だけで十分すぎるほどだった。ハルカのポケモンなら<じっとしていないことは間違いない。それはシュウも知っていること。 「やっぱりムリなのかな…」 ハルカの傍に投げ出された濃い目の鉛筆数本、その他の筆記用具に水彩セットそしてスケッチブックと画板が寂しく転がっている。 「ずいぶん用意が良いね。」 「あ、この道具のこと?これはね。ポケモンセンターから借りたの。スケッチブックは自分でこの街で買ったけど。」 「そんなことまでするんだね。この街は…」 「なんか、ドーブルで昔は栄えた街らしいよ?今は少し落ち着いてるけど、世界で有名な絵を描いてるドーブルの殆どはこの街の出身なんだって。」 「だから絵で街の繁栄を…か。何か賞品とか出るのかい?」 「えーと確かチラシに…あ、これだ。最優秀賞には絵画セット、優秀賞、水彩セット…3位が図書券で…あとは皆参加賞だって。」 「それじゃ君は賞品目当てじゃないんだ…」 「そうよ?単に絵が描きたかっただけ。…何?その顔は?そんなに私が賞品目当てじゃなくて参加するのが珍しい?」 「早く言えばね。」 「ちょっとそれは酷いかも…。でもまぁ、これも気まぐれね。しばらく絵なんて描いてないし…それにね、私自分のポケモン達のイラストとか写真とか一枚も持ってないの。それを考えたら描きたいなって…かなり気まぐれな創作意欲て奴もあるかな?」 ハルカは少しあきらめかけていた。モデルがこう騒がしくては絵は描けないと。 だが、シュウの顔を見ると何か思いついたらしくさっきまで暗かった顔が一気に明るくなる。そして、シュウの手を握りこう叫んだ 「そうよ…そんな手があるんじゃない!!」 あまりのいきなりの出来事に少しシュウは動揺を隠せないでいた 「あのさ、シュウ…ロゼリア貸して!!」 「君は今自分のポケモンが描きたいって言ったばかりじゃ…」 「だって、シュウのロゼリアだったら大人しいし、便乗して多分アゲハントも大人しくなると思うの!お願い!貸して!!」 …普通は女性だろうが何だろうがロゼリアに関しての頼みごとは断っていたが、ハルカとなれば…シュウが断れるはずが無い。 「しょうがないね…その代わり、こっちも条件がある。」 「条件?…」 「僕もこの大会に参加するよ。」 「えぇ?!だって、私がロゼリア借りちゃったら…何描くの?」 「あのね…僕のポケモンはロゼリアだけじゃないし、別に2人が同じポケモンを描いてもいいはずだ。だから問題はない。」 「…確かに…無いけど…どうしちゃったの?いきなり?」 「3位のね…図書券にちょっと。」 「あぁ…シュウ本読むの好きだっけ?…まぁいいわ。それじゃ、ロゼリア借りるね!」 ロゼリアもシュウの心がわかっているらしく、ハルカに快くついていった。 「じゃあ、ココで軽くポーズとってくれる?」 ロゼリアは軽く頷くとハルカの直ぐ傍で花びらの舞いの様なポーズをとる。 結局ハルカはアゲハントとロゼリアを描くことにした。 「あぁ…本当に大人しい。便乗して私のポケモン全部出してみたけど…アゲハント以外は相変わらず元気ね…まぁ、とりあえず描こう…シュウ?」 いざ描こうとしたハルカのもとからシュウは遠のいていく 「どこ行くの?」 「機材とかを借りにね。スケッチブックも買わなきゃいけないし。」 「あぁ!それなら…」 ハルカは画板の上に置いた自分のスケッチブックから一枚破りとるとスケッチブック本体のほうをシュウに渡す。 「はい。これ使って。」 「…普通は破ったほうをあげると思うんだが…」 「私は一枚と画板で十分。確かに画板がない分描きにくいだろうけど、使って。出品は今日までだし…時間ないもん。機材なら多めにあるから全然問題なし!絵の具もあるし、筆も4本ある。鉛筆もまだあるからね!スケッチブックは余ったのは返してくれれば良いから。好きに何枚も使って。」 そのハルカの行為をシュウは素直に受け止める。 「それじゃ、ありがたく借りるよ。あと、僕はもう少し離れた場所から描くよ。ロゼリアの全体図を描きたいから…。」 「そう…わかった。」 こうして、漸く2人は目的は違えども絵を描き始める 数時間の沈黙… 「よし…鉛筆書きが終わった…あとは色付けね…」 気づけば太陽が沈みかけていた。締め切りは今日の夜の九時。あと数時間しかない 「君らしい絵だね…」 ハルカの背後には何時の間にかシュウがいた。シュウはハルカの絵を見るなりそう呟く 「え?そう…かな?結構上手く行ったかななんて思ったんだけど…」 「本当…君に似て美しくない絵だね。」 「…言ってはならないことを……知ってるわよ!私の絵お世辞でも上手くないもん!!そういうんだからシュウの絵は上手いんでようね!」 かなり嫌味と怒りが困った言い方でハルカは反論するとシュウの持っていたスケッチブックを奪い取る。 「あ…」 奪い取られるのが早く、奪い返す時間さえなかったシュウは少し体勢を崩し、珍しく驚いた時の声をあげた 「うわ…」 ハルカは一瞬言葉を失う 「(これは人に言うだけあるかも…)」 着色はされていないが、そこには『美しい』の一言ではもったいないほどのロゼリアが描かれていた。それも薔薇の部分までかなり細かい所まで。とても同年代の男子が書いたとは思えないほどのできばえである 「…完敗ね。流石に人に文句つけるだけあるわ…多分入賞すると思うわ…いいなぁ。きっと色づけも上手いんでしょう?」 「そりゃね。色は絵の命。特に気をつけるから…」 「私、色付けが一番苦手なのよ…はみ出るし滲むし…」 さっきの凄い絵を見てしまったら急に創作意欲が失せてしまった。こんな気持ちで色塗りをしたら余計に上手くはいかない。シュウは少し考えるとハルカの描いたイラストを指さし軽くアドバイスを添える 「だったらいっそのこと鉛筆だけの単色にした方がいい。幸い君の描き方から見ると鉛筆で色を濃くする方法や淡くする方法を知っているようだし…別に色がついてなくてもいいと思うよ。」 「そっか…私、色をつけなきゃッて固定観念があったから…うん!頑張る!!シュウ、ありがとう!」 こうして2人の短い時間は過ぎていき、絵画の仕上げも架橋へとなっていった… 翌日… 絵画の審査は徹夜の作業で行われる。それは旅人なども参加するため、早めに結果を出さなければいけないのだ。 「おねえーちゃん!早く早く!」 「そう急がせないでよ!!」 朝…ハルカの弟マサトはポケモンセンターの部屋で寛いでいたハルカをかなり急かしてセンターの中心部へと連れて行く。いつもは談話室なのだが、今日は違うポケモン絵画コンテストの発表場所である。 「そんなに早く行かなくて、私は入賞してないんだから。シュウは入賞してるでしょうけど…」 「…何言ってるの?お姉ちゃん。ちゃんと見てみなよ。」 「だーかーらー…」 マサトに言われてしぶしぶ人の根を掻き分けて何とか発表場所の掲示板までたどり着く 「えーと…一位は知らない人だし…2位は何処かのドーブルね。やっぱり上手い。で、3位がシュウで……・・・?!私?!」 「そうだよ!!だから早くって言ってたのに!!」 それはどう見ても昨日ハルカが必死で書いた鉛筆だけのシンプルなアゲハントとロゼリア。その絵画が3位に鎮座していた。 「どうして?!私の絵なんてシュウに比べたら……」 「あ!ハルカちゃん。丁度良い所に。はい、賞品の図書券。おめでとう」 唖然としている自分を捕まえて図書券を差し出したのはこのポケモンセンターのジョーイだった。 「ありがとう…ございます。…てじゃなくて!何で私なんですか?!私より上手い人いっぱいいるのに!!」 「確かに貴女の言うとおり上手な人は沢山いたわ。だけど貴女の絵は自分の絵がどうやったら引き立つか分っていたし、何よりポケモンの愛情が見て取れたの。それにこの鉛筆だけの描き方。手抜きだって言う人もいたけど。私にはとてもそうは思えなくて…だから最優秀とまでは行かないけど3位なの。本当は最優秀にしたい子がいたんだけど…その子の絵は残念ながら人が大きくなっていてポケモンもちゃんといるのだけど…おしかったわね。ほらあそこに飾ってあるわ」 ジョーイが指さす方向には参加者と明記された絵画がかなりの量で飾られていた。子どものイラストや何が描いてあるかわからない絵まである。だが、その中でひときわ目立つオレンジが主張の暖かい絵画… 「あら…これ…今気づいたけど…ハルカちゃんと4匹のポケモンね…」 その絵画には一人の少女を真ん中にしてワカシャモ・アゲハント・エネコ・フシギダネが囲んでいるとても暖かい絵だった。 「あの!これって表彰式とかないんですよね?」 「…え?ええ。旅立つ人とかいるから。あまり時間が取れないし…」 「やっぱり、この賞は私がもらうべきではないんです…この絵を描いた子は?」 「…ほんの少し前にココを出発したわ。」 「あいつまた!!」 ジョーイの言葉を聞くとハルカは人込みをくぐりぬけポケモンセンターを飛び出していった。 「あ…返し忘れてた…」 そして、問題の少年シュウはロゼリアとアメモースをポケモンボールから出して旅を再び続けていたが、何気なく荷物と一緒にまとめたスケッチブックを思いだす。 「夜遅かったし…ジョーイさんに託そうと思ってたのに…一回戻らなきゃダメかな…あの絵も置いてきちゃったし…今更戻るのはちょっと…」 「シュウー―――――!!」 かなり後方から怒声にも似た大きな声と一人の少女が全速力でこちらに向かっている。 「はぁ…はぁ…追い…ついた。」 かなり全力で走ったのだろう。体が大きくしなるほど大きく呼吸をしている 「やぁ…3位おめでとう。」 「『おめでとう」じゃないわよ!何よあの絵は!!ロゼリア描いてたじゃない!!」 「あぁ…あれね。ロゼリアを出したら優勝して賞品が絵画セットになりそうだったから…あえて2番目の絵を選んで出したんだけど…モデルが悪かったから見事に参加賞だね。」 「まるで私が悪いみたいな言い草じゃない!元はと言えば、ポケモンの絵画コンテストに人を大きく書いたシュウが悪いのよ?」 「そっか…」 「で、これ!」 ハルカはかなり強い握力で握った封筒を差し出す 「これは?」 「お望みの図書券。私、本は読まないし…欲しがってたシュウにあげた方が良いと思ったの。」 「でも…それは君の力で取ったものだよ…」 「…私の力じゃない。…シュウがアドバイスしてくれなかったら鉛筆での絵は生まれなかったし…シュウがロゼリア出さなかったから…私は3位に入れた…だから全部シュウのおかげなの。これはシュウにもらって欲しいの!」 ハルカの瞳は『絶対に受け取って』『返されても困る』と言うことを物語っていた。 彼女の気の強さはシュウも十分知っている。ここら辺が潮時と思ってシュウはその封筒を受けとる。 「それじゃ…ありがたく受け取るよ…」 「良かった…これで私の心のもやもやもすっきりするわ!」 表情はいっぺんいつもの向日葵のように明るいハルカに戻る 「…あのね、一つだけ聞きたいことがあるの。」 「ん…?」 「どうして…私を描こうと思ったの?私のポケモンも…」 「それは…ね…」 シュウは少し間を置くと 「最初はポケモン達だけ描いてたんだ…だけど途中でね絵の中に何か足りないって思って…何が足りないのかと思ったら…君が足りなかったんだ。君が言ってたから…『ポケモン達の写真も絵もない』て。だからポケモン達と君を描こうってね。それだけさ。」 「それじゃあの絵は…」 「君にあげるよ…その代わりといっては悪いんだけど…このスケッチブックもらえないか?」 「え?…だって、それ安物よ?」 「別に構わないさ。」 「まぁそんなものでいいんなら良いけど……。…それじゃ、私戻るね。また…」 その場だけでなく、心も温かくする笑顔でハルカはもときた道を帰っていった。 「ふう…もう一つ忘れてたよ。」 再び歩き始めたシュウたち。その言葉にロゼリアとアメモースが首をかしげる 「スケッチブックの中身。このまま返してたら流石の彼女でも気づくだろうからね…」 シュウはハルカからもらったスケッチブックを何枚かめくる。 そして、ある一ページで手が止まった…。 幸せそうに笑っている…ハルカ 鉛筆書きだが多分…今回描いた絵の中で一番の出来だろう。 「もう…はっきり言って僕の中には彼女しかいないから…笑ってもいいよ。『どうかしてる』『行き過ぎだ』とか。だけど…彼女の全部が僕の真白な心を色づけてくれるから…」 最初は色のないキャンバスみたいな心 だけど君がいるってことで 青くもなるし 赤くもなるし 黒くもなる そして虹色にもなる… 今はそれがすべて 僕の… 喜びだから ------------------------------------------------------------END--- 流たつーまさんへ25000キリバンリクエスト 2004.7 竹中歩 |