雪の女神の気まぐれは人を混乱させる。
だけど、その気まぐれは時に幸福をもたらす。
だから、『運が悪い』と言うことが
『不幸』ではない。
そして…
彼にはその雪の女神が味方していてくれたのです…。





雪降る街で〜女神の気まぐれ〜





「全く…この異常気象は一体何なんだ?」
 積もった雪の上をザクザクと言う音をたて、少年は町から少々離れた森林通りを歩いていた。
 少年の外見で一番最初に目をやるのは綺麗なライトグリーン系の髪と同系色の瞳。その容姿からは巷で少々うわさになるくらいの美形であることはすぐに分かる。少年の名前は『シュウ』。数々の街を歩き回りポケモンコンテストに出場するポケモンコーディネーターである。
 今は冬の気まぐれな異常気象、大寒波のためコンテスト会場から少し手前の街で足止めを食らっている。
「こんなところで足止めを食らうとは…あんまり付いてないな…。」
 先ほどまでかなりの量の雪が降っていたのだが、今は台風の目の中にいるようにぴたりと雪は止んでいる。その少しの時間を利用してシュウは日光浴をするために森林を歩いていた。しかし、その選択場所を誤った事に気づく為の時間はそんなにはかからなかった。

『ドサッ』

 先ほどから冷たい物質が多々頭の上に落ちてきている。それはどう考えても雪だった。
 森林通りと言うくらいなので大量の木が生えている。さっきまで雪が降っていたのでその木に雪が積もっているのは当たり前。それが日光を浴びると…案の定地面に落ちる。
「場所を変えよう…」
 シュウは森林通りの横に隣接していた公園へとルートを変える。雪が止んだため近所のども達だと思われる小さな少年少女が雪合戦や雪だるまを作って楽しむ声が耳に届く。
 本来はもう少し静かな場所で日光浴をしたっかのだが、雪が頭の上に落ちてくることに比べればあまり贅沢はいえない。森林通りから公園に入ったとき、更なる悪夢が訪れる。





「……」





 今度は頭の上では無く、頬に冷たさを感じた。しかも今回は少々の痛みを伴う冷たさ。
 今の状況から判断するに、子ども達のやっていた雪合戦の流れ弾に当たったのだと思われる。
「今日はどうしてこう言う事ばかり…。」
 自分の運の悪さにため息をつく。そのとき、自分の位置から50m離れた辺りから少女が駆け寄ってきた。きっと雪球をぶつけた張本人だろう。
「(良くあんな位置からここまで届いたな…)」
「ごめんなさい!!怪我とかありませんでした?!」
「いや…僕は大丈夫…?…やれやれ、今日はどこまでも運が悪いみたいだ。こんなところで君に会うとは思わなかったよ。ハルカ君。」
「はい?!…あ―――――!!」
 シュウの反応に対して『ハルカ』と言う少女は悲鳴に似た大声をあげる。
 このハルカと言う少女、今時珍しい熱血漢持ち。喜怒哀楽が激しく、可愛いポケモンには目が無いという、ポケモンコーディネーター志望の少女。コーディネーターというだけあってシュウとはコンテストのたびに顔をあわせている。
「私の雪球が当たった相手ってやっぱりシュウ…かも?」
「どう考えても僕しかいないだろう?やはり進歩が無いね。美しくないよ。」
「だぁー!!その台詞はもう聞き飽きたわよ!!」
 ハルカが両手で耳をふさぐ。ここまで嫌味を言えるほどの仲の二人。かなりの腐れ縁だ。
 シュウはどちらかと言えばハルカの行動を見て楽しんでいるように見えるが、ハルカはシュウをライバル視するような態度をとっている。
「この頃、数ヶ月の割合でシュウにあってる気がする。」
「そうだね…前回会ったのは3ヶ月ほど前だろう。よほど僕らは因縁があるようだ。」
「それじゃ、私はその度に美しくないって言われ続けてるかも…。」
「何なら、言った回数の平均値でも出そうか?」
「それは遠慮する。」
 首を高速に横に振るハルカ。
「それでハルカ君は雪合戦をあの一行とやっていたのかい?」
「んー…最初はそうだったんだけど、最初に寒さでマサトがダウンして、次に温かいもの作るってタケシが抜けたでしょ、それからしばらくはサトシと一対一でやってたんだけど、この寒さを心配して、サトシの知り合いに電話中。しょうがないから一人で今度のポケモンコンテストになんか出来ないかなって雪球作って考えてたの。」
「それで、どうして雪球を投げる方向に話が…。」
「いや、本当はねここまで投げる予定は無かったの!的を自分で決めてそこに雪球投げようと思ったらちょっと失敗してこっちの方向に…。」
 照れ笑いをしながら必死で弁解をするハルカにいつしかシュウは怒ることを忘れていた。
「…まぁ、わざとじゃないなら別にいいさ。けど、ぶつけた相手が僕でよかったね。普通の人なら怒ってるよ。その辺は感謝してもらえるかな。」
「うん、確かに感謝してる。本当にごめんね。」
 いつもなら突っかかってくるはずのハルカ。しかし、一応この子も悪いと思ったり嬉しいとも思ったら行動に出すようには出来ている。
「で?シュウは何してたの?」
「雪の女神が鈍感な太陽に腹を立てて怒っていたから…太陽は雪の女神の気持ちも知らずに顔を出してしまった。だから少し、その鈍感な太陽の行動に付き合っている…そんなところさ。」
「は?」
「ま、ハルカ君じゃ理解するのは無理だろうけどね。」
「何よそれ!」
 やはりシュウである。外見から少々見て取れるキザさが見事に表現されていた。それに付け加え嫌味も。





「ねぇ、雪合戦しない?」





 行き成りのハルカからのお誘い。 「それは…僕に言ってるのか?」
「シュウ以外に誰がいるのよ?」
 それはそうだ。今この公園内にいるハルカの知り合いはシュウのみ。
「あまり寒いのは遠慮願いたい……?」
「行くよ―――――!!」
 シュウが喋っている途中にもかかわらず、ハルカは10m近くの距離をとり雪球を投げてきた。
 この地方では雪が降ることが日常茶飯事なのだろう。雪合戦用のコートが用意されてり、フラッグや防御壁などが存在している。ハルカはその防御壁にすでに隠れていた。
 しょうがなくシュウのハルカの行動に付きあうこととなる。
「雪球が当たったらお終いのルールかい?」
「それでいいよ!!」
 雪合戦をしながら相手のチームのフラッグを取るのは主にチーム戦。
 シングルスは雪球が当たったほうがまけというシンプルなルール。シュウはそれを確認する。










 5分後…



「何でシュウ、投げてこないのよ!!」
「作戦と言う奴かな?」
 時間が経過しているのに雪球を投げているのはハルカのみ。シュウは防御壁から体を出すがハルカの雪球を華麗によけている。
「そんなの面白くないよ!!」
 確かに、そんな状況は面白いとはいえない。何か無視されているような気がする。
「(そろそろ、終わりにしよう。)」
 シュウは軽く一つの雪球を作ると堂々と防御壁から体を出す。
「(チャンス!!これなら当てられるかも!!)」
 ハルカはそう思い立つと手元にあったありったけの雪球を投げるがそのときには防御壁のところにシュウの姿は無かった。
「え?いない…?」
「ハルカ君。」
 後方で声がするので思わず振り向いてしまう。そして振り向いたのと同時にハルカの頭上に冷たさが走る。
「チェックメイト。」
 シュウはたった一つの雪球でこの勝負を終了させた。










「はい。コーヒーでいいのよね?」
「ありがとう。」
 結局試合負けたハルカは罰ゲームとしてコーヒーを奢ることとなる。
「行動早すぎ。」
「投げないから面白くないって言ったのはハルカ君だろう?」
「だからって、そこまで簡単に試合終わらせなくてもいいじゃない。」
「…理由があったからね…」
「理由?」
「…今のハルカ君じゃ分からないだろうけどね…。」
「何よそれ!!教えてよ!」
「今度のポケモンコンテストで僕に勝てたらね。それじゃ、僕は行くよ。」
「ちょっと…もう!!でも、今度のコンテスト、優勝するんだから!!」
 その言葉を耳で聞きつつシュウは再び白銀の世界を歩き始めた。










「ロゼリア、雪が止んで良かったね。」
 あれから数日がたった。足止めを食らっていたシュウだがあの後徐々に天気が回復ようやく旅の再開である。
「全く今回は雪で酷い目にあったよ。…だけど、気まぐれな雪の女神には感謝しなくちゃいけないね。彼女に会わせくれたから……?ロゼリア、もしかして、ポケモンボールから見えてたのかい?わかったよ、理由が聞きたいのだろ?あれはね、雪合戦を長引かせると彼女が風邪を引きかねないし、かといって本気で勝負するとなれば雪球の大半が彼女の顔に当たる。それが何となく我慢できなくて早めに試合を終了させてわけさ。なんにせよ、彼女にまた一歩近づけた気がするから今のところはそれで僕は満足だね…。」










雪の女神が太陽を隠す理由
それは皆に人気のある太陽を独り占めにしたいから。
太陽が好きだから…
皆に見せないようにした雪の女神の悪戯。
だけど、女神も自分が悪いと思うから
太陽を皆に見せてくれる。
好きな人に悪戯をしてしまう…本当は心の優しい女神。
それに気が付かないのは
いつも元気な太陽だけ。

『彼女』も『彼』にとっては
太陽的な存在かもしれません…










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新川へ誕生日祝い
2004.1 竹中 歩