普段は気づかなくて当然。
逆に気づいた方がどうかしてるわ。
だからね…少し驚いたのよ…
やっぱり男の子なんだって…。





 それは何でもない朝…一室の部屋で起こった悲劇…
「ぎゃぁーーーーーー!!」
「そんな大きな声あげないの!」
 ハルカは両耳を塞いで悲鳴の元、マサトにそれ以上の大きな声で怒る。
「だって、行き成り開けるんだもん!びっくりしたよ!」
「こっちの方が驚いたかも。でも、何でそれごときで悲鳴あげるのよ?」
「だって、着替え中だもん!」
 部屋の中ではマサトが着替え中。それを知っていたにも拘らずハルカは堂々と扉を開けた。
「別に平気でしょ?上半身だけじゃない。」
 着替え中といっても上のTシャツを脱いでいただけ。別にどうと言う問題ではない。
「そんなの海で何回も見てるし。」
「海は元々心構えがあるじゃない。ここはポケモンセンターだよ?行き成りドアを開けられたら驚くのが当然じゃないか!」
「もう、男の子が姉に上半身の裸を見られたぐらいで騒がないの!小さい頃は一緒にお風呂入ったでしょ?」
「それはそうだけど…お姉ちゃんは僕に見られたら悲鳴あげるじゃない!」
「それこそ当たり前かも。私女の子だもん。」
 やはり姉は強い。何を言って無駄らしい。
「う゛〜〜!もう分かったから部屋から出て行ってよ!」
「言われなくてもそうするかも。」
 部屋の片隅にあったタオルを取るとハルカは強気に笑って部屋を出て行った…。
「全く!お姉ちゃんにはデリカシーってものがないんだから!」
 難しい年頃と言うのは大変である…。





「まだ年齢が二桁にも達してないくせに。ませちゃって。」
 ポケモンセンター備え付けの洗面台。トイレと併合しているのではなく、洗面台と水道のみが20台並んでいる場所。そのうち一つの鏡の自分に向かい文句を言うハルカ。サトシとタケシは既に食堂へ向かった。早く自分も顔を洗って追いつかねば。
「姉に裸見られたくらいで驚かないで欲しいわ。」
「…美しくない独り言を誰が発してるのかと思えば…やっぱり君か。」
「……シュウ?!」
 ハルカは思わず持っていたバンダナを床に落とす。不適な笑みをこぼしてそれを拾うシュウ。
 緑色の髪に少しつり目気味の綺麗な目…紫色のジャケットこそ着ていないものの、黒のハイネック。そしてこの神経を逆なでする嫌味…間違いなくハルカの知っているシュウだ。
「えー…昨日泊まってた?」
「泊まっていたけど、君とは会わなかったはずだよ。ここに着いたのはかなり遅かったから…」
 会話をしながらシュウからバンダナを受け取る。
「なら知らなくて当然かも。2ヶ月ぶりくらい?」
「3ヶ月だよ…。その程度のことをも覚えていないのかい?」
「覚えてなくてもシュウが覚えてれば問題ないでしょ!!」
「人任せ…美しくないね。」
「キーーーーー!!」
 せっかく目覚めの良い朝だったのに、シュウの嫌味のせいで丸つぶれである。
「それに、さっきの姉弟喧嘩…廊下筒抜けだったよ。」
「マジで?」
「君が弟の着替え覗いたって言うことが真実なら。」
「覗いたなんて失礼ね!不慮の事故よ!」
「でも、謝ってるようには聞こえなかったけど?」
「何で弟に謝らなくちゃいけないのよ?」
「素直に謝れないのは君の悪い癖だよ。」
「それはお互い様かも!」
 よくもまぁ、一つの話でここまで喧嘩が出来るものだ。ここまで来ると止める気力や、困惑することなど通り過ぎ、呆れるしかない。
「だって、姉に着替え見られたくらいで悲鳴あげたのよ?」
「それを知って入ったのは君だろう?」
「…何処まで話し知ってるのよ?」
「95%は知ってるよ。なんせ、僕の隣の部屋だからね。」
「うわー…最悪かも…。」
「うるさい声で朝を台無しにされた僕の方が最悪だよ。」
 マサトが姉であるハルカに敵わないように、ハルカも口ではシュウに敵わない。まるで自然の定理を見ているよう。
 この2人、本当に素直ではないとつくづく思う。素直でないのはやはりシュウの方が上だが。
「それは悪うございましたね。もうこれ以上迷惑かけないように顔を洗ってさっさと行きます!」
 シュウの嫌味で怒りがほぼ沸点に近くなったハルカは目の前の水道をひねろうとする
「あ、それ!」
「え…?」
 シュウの叫びが洗面台の部屋に響いたとき、同時にものすごい音もなり…悲劇が訪れた…










『ピチョーン』
『ピチョーン』



 部屋に空しい水の落ちる音が響く。
「ご、ごめん…」
「君は人にどれだけ迷惑をかければ気が済むんだ…」
 一角だけやけに水浸しの床、下に向かって流れる落ちる鏡についた水滴…そして水に濡れたシュウ。
 その両手は必死で一つの水道を押さえていた。
「ここに書いてあるだろう。『勢いが酷いので使用禁止』と…何でこれを使ったんだ?」
「ごめん…見えなかったかも。」
「本当に君は注意力散漫だね。」
 既に怒っているのではなく、呆れている。とりあえず、ハルカも多少なりとも濡れているが、シュウほどは濡れていない。
「はぁ…これだから君は目を離せない。怪我はなかったかい?」
「私は平気。そんなに濡れてないし。シュウが体張って止めてくれたから…でもシュウの方は…」
「これを大惨事と呼ばずになんて君は呼ぶ?」
「悲劇…かな。」
「非常に的を得た例えだ。」
 シュウは上半身から上がかなりの割合で水浸し。着替えなくてはいけないだろう。
「ごめんなさい…でも…こうやって見るとシュウってやっぱり華奢だね。」
「この事態に君は何を考えてるんだ。」
「あ、気悪くした?だってね、サトシと少ししか身長変わらないでしょ?なのにサトシよりは体細いなって…」
「男としてあまり褒められた言葉じゃない」
 水に濡れたせいで服が体に張り付き、綺麗な体のラインを出している。これこそ俗に言う『水も滴るいい男』と言うもの。
「とりあえず、私ここの片づけするから、着替えてきなよ。その格好じゃ気持ち悪いでしょ?」
「言われなくてもそうするさ。」
「本当にごめんね…」
 濡れた髪を持参したタオルで拭きながらシュウは自室へと戻っていった。
「さて、雑巾かりなきゃ。」
 早速張るかも片付けに取り掛かる。










10分後…
「片付け終わったけどシュウがいない…」
 着替えだけならそんなに時間はかからないだろう。なのにシュウはこの洗面台の部屋どころか食堂にすら顔を出していないと言う。まさか何かあったのだろうか?
 ハルカは先ほどの謝罪も兼ね、シュウの部屋へと様子を見に行くことにした。
「…シュウ?いる?私だけど…」
 コンコンと部屋のドアを叩くと
「いるよ。どうぞ。」
 ドア越しのシュウの声だ。声だけ聞くととても何かあった様子はない。少しドアを開けてみる。
「おじゃましまー……!!」
「今の状況…分かる?」
「な、なななな!!なんで?!」
 シュウはいつもの黒いハイネックの長袖は着ておらず、上半身裸の上にいつもの紫のジャケットを羽織っているだけ。
「着替えは?!」
「運悪く洗濯中。これしか残ってなかったんだよ。」
「だからって、露出度高いわよそれ!!」
 確かに…海でもプールなら未だしも、普段着だとすれば露出度が高い服装と言えよう。
「そこまで慌てなくても…」
「慌てるわよ!!」
「さっき、弟には平気とか言ってたのに。」
「け、血縁者は別かも!!」
「サトシ君たちと海に行ったことだってあるはずだけど?」
「だから、それは別よ!!わ、私サトシから服借りてくる!!」
 すごい勢いで扉を閉めて、ハルカは部屋を飛び出す。
「相変わらず純粋だね…彼女は。」










「お、驚いたかも……」
まだ心臓がドキドキしている。
思いもよらなかった。
体は華奢だけどやっぱり男の子なんだって。
あとで謝らなくちゃ……










部屋に戻ったハルカはこのあと再び着替え中のマサトと遭遇し、
今度はハルカの方が悲鳴をあげたと言う…









タイトル『メロメロボディー』
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作者より…
もう何も突っ込まんで下さい。
これが精一杯だったんです。
某お祭りに提出した物です。お題が決まっており、
私の担当したお題がこれだったんですが、
何を書いて言いかわからず、結局出来たネタがこれ。
ハルカの水着姿でも見せてドキッとするシュウでもと
思ったんですが、何故かこっちの方向に…
メロメロじゃないですしね…。
でも、色っぽいと思うんですが…駄目ですか?
2005.4 竹中歩